わが国税制の現状と課題-国民負担率の観点から

開催日 2004年11月4日
スピーカー 古谷 一之 (財務省主税局総務課長)/ 矢野康治 (財務省主計局企画官)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)

議事録

国民負担率の現状と課題

矢野氏:
まず、国民負担率に関して総合的な話をします。租税負担率、社会保障負担率、財政赤字対国民所得比の3つをプラスしたものが潜在的な国民負担率です。租税負担率は1989(平成元)年度、1990(平成2)年度あたりまでバブルで登っていき、その後は落ちています。社会保障負担率は、少子高齢化が進むに従って、景気循環と関係なくジワジワと膨らみ、今や全体の14~15%を占めています。財政赤字対国民所得比は、1975~85(昭和50~60)年頃はオイルショック後の対策があって、バブルのピークの1990(平成2)年度は財政赤字のない状態になりましたが、その後はまた赤字が膨らんでいます。

国民負担率の国際比較を、先進5カ国に高福祉高負担といわれるスウェーデンを加えてみてみます。日本の租税負担率プラス社会保障負担率は35.5%で、アメリカとほぼ同じくらいです。イギリス、ドイツは50%台、フランスは60%台で、スウェーデンは70%台です。日本は35.5%とアメリカ並みに国民負担率は低いわけですが、財政赤字の国民所得比が約10%ありますので、本来の国民負担率はこの約10%をプラスした45%にならなければいけないところ、この約10%の負担を先送りしているという構図になっています。

国民負担率をどこまで持っていくのか、あるいはどう抑えるのか。日本の45.1%という数字は、高齢化で膨らんでいくのは仕方ないにしても、1977(昭和52)年頃からずっと50%以下に抑えようという閣議決定がされてきたわけで、今年6月の骨太の方針においても、同じような閣議決定がされています。これに対して、「イギリス、ドイツ、フランスいずれの国も50%を超えているのに、なぜ日本だけが50%を超えてはいけないのか、50%にどんな意味があるのか」という議論があります。今のまま年金、医療、介護などの社会保障を続けていくと、高齢者の増加によって受給者が増え、シミュレーションでは50%を超えて56%位までいきます。しかし、「60%、70%になるわけではないし、超えてもしようがない、大幅に超えるのでなければよいではないか」という意見です。ただ、今35%という負担が56%までいくということはどういうことかというと、35分の56で国民負担が1.6倍になるということです。今皆さんが払っている税も保険料も全てが1.6倍になる計算です。別の言い方をしますと、この35.5%が56%になるということは、消費税に換算すると30%の引き上げ、つまり現在5%の消費税を35%にする計算になります。財務省としてはこの1.6倍、つまり消費税にして30%の引き上げについては、納税者ないし負担する者の視点から看過できないと考えており、やはり給付の見直しをしていく努力が必要だと思います。

日本の所得税と消費税は安い

日本の場合は、大きく分けて個人所得税と消費税の部分が、他の国に比べて国民所得比で非常に小さく、お安くなっています。唯一、アメリカの消費税が日本より小さくなっていて、それ以外はどの先進国の所得税も消費税も日本の倍かそれ以上です。

OECD約30カ国の中でみると、日本の実質負担率36.1%は、下から6番目。政府の大きさを示す47.1%は、下から3番目で非常に小さいといえます。日本はひと言でいうと国際的に小さな政府ということになります。また、日本は先進OECD加盟国の中で最も大きい借金大国でもあります。つまり、歳出も歳入も最も小さい部類でありながら借金が最も大きい。よく高福祉高負担、中福祉中負担といいますが、そういう言い方で言えば低福祉超低負担の国といえます。歳出は小さな政府、歳入もうんと小さな政府で、そのギャップが世界一大きい。つまり低福祉超低負担の国だということです。そうなれば超低負担を少なくとも低負担にもっていく必要があるのではないでしょうか。

国民負担率に関するこれまでの経緯についてお話しします。政府は、1982(昭和57)年の臨時行政調査会の答申以来、国民負担率は50%を超えないようにするといってきました。今年の骨太の方針においては、財政の健全化と経済活力をそこなわないようにという趣旨で、潜在的国民負担率を50%程度にすると確認しています。また、各経済団体も50%以下に抑制していくといっていますし、与党第1党のマニフェストにも同じことが書いてあります。

「OECD諸国における潜在的国民負担率と経済成長率の関係」という潜在的国民負担率と実質経済成長率の関係を表したデータを見てみます。これはよくいわれる国民負担率が大きいと活力をそぐという、ネガティブリレーションシップを示すデータです。これを見ると潜在的国民負担率が高くなると実質経済成長率が低くなるように見えます。内閣府の白書では、エクスキューズが入っていて、「国民負担率が高いと経済成長率が低いと読めるけれども、逆に経済成長率が小さくなると分母が小さくなるのでその分、負担率が上がるという見方もできる」という趣旨のことが書かれています。私は、そんな説明をする必要はないと思っています。なぜなら経済成長率が低くて国民所得が小さいと、分母が小さくなり国民負担率は大きくなるインパクトはありますが、税にしても保険料にしても所得が1%伸びたときには、負担は1%以上あがるので、分子はもっと小さくなるため、経済成長率から国民負担率は説明できず、国民負担率から経済成長率を読むのが正解だと思います。

以下の式は国民負担率の計算式です。

社会保障分野にご執心の方々は、国民負担率が50%を越えるのは仕方がない、他の国だって50%を越えている、日本は高齢化が進むのだから、50%を越えるのは当たり前だというご意見です。その時に分母を国民所得(NI)にして計算するのがいけない、OECDや他の国のデータを見ると分母はGDP(国内総生産)である。国民負担率というマクロ的なデータを出すときに、なぜ国民所得という数値を使うのか、という分母の不的確論が持ち出されます。分母の国民所得をブレークダウンすると、分母はGDPから減価償却費と間接税を引いて、補助金と海外からの純所得を足すのですが、分母を国民所得にする計算方法を批判する方々は、たとえば社会保障をまかなうために1兆円の増税を余儀なくされるときに直接税か間接税かのどちらかによって国民負担率の数字の出方が違うというわけです。間接税の消費税で1兆円を求めた場合、(3)の間接税ところが1兆円増え、それによって分母が小さくなるので負担率は大きくなる。間接税で求めたとたんに国民負担率が上がるのは、おかしいという意見です。しかし、消費税1兆円の負担を求めた場合、(2)の名目GDPも1兆円上がります。一方、直接税で1兆円求めた場合、(2)も(3)もその他の項も動かない、従って直接税で負担を求めても分母は動かない。これに対し、分母を名目GDPにすると、直接税負担を求めても分母は動きませんが間接税負担を求めると分母が動いてしまいます。つまり、分母を国民所得で求める方が、より中立的な指標になるといえます。

社会保障費の問題

次に社会保障の給付と負担の話に入ります。財政収支ギャップは、特に1990(平成2)年以降、増加の一途をたどっていますが、一番大きな歳出の増加要因は社会保障分野です。収支ギャップの最も少なかった1990年以降、今日に至るまで約15兆円歳出が膨らみ、主要経費別では社会保障分野がその3分2を占めます。1990年から約15兆円の歳出増について、経済成長率分を除いた歳出増への寄与度についてみると、社会保障分野の成長率を超える伸びの寄与度が130%ぐらいになります。つまり、経済成長率を超えて伸びている要因は、社会保障分野というわけです。これは、長寿を誇るべきわが国において悪いことではないのですが、今後は社会保障の給付がどう抑えられるかが、歳出面で一大テーマになります。

社会保障の給付と負担をシミュレーションしますと2004(平成16)年以降は、年金、医療、介護の金額が、78兆円から2025(平成37)年には152兆円と、2倍くらい伸びます。一方で、国民所得比(社会保障給付比対国民所得)も伸び、2004年の23.5%が2025年には29%と、約6%ほど膨らんでいます。

「社会保障と給付の見通し」(厚生労働省・平成16年5月推計)をみますと、社会保障には、年金、医療、介護とあり、2025年にはどうなるかが書いてあります。年金は一番下で12%前後で横ばい、医療は4%ポイント伸び、福祉その他のうち介護は1.5%から3.5%と2%ポイント伸びています。医療が4%、介護が2%で、この2つで6%ポイント伸びています。国民負担率は、50%を上回る56%になると予想していますが、この50%を超える6%分が、医療と介護の増幅に見合っている格好です。

「社会保障の負担等の見通し」で2004年度予算ベース21.5%が2025年度29.5%と、国民負担率が8%伸びていく見通しです。社会保障分野だけで国民負担率を50%にとどめようと思ったら、社会保障の給付を2割カットしなくてはなりません。しかし、年金については既にマクロ経済スライドという給付カットの仕組みを導入したので、年金以外のところでこれを達成するとなると4割近いカットをしなければいけないことになります。

税負担の問題

古谷氏:
国民負担率の話では、負担の水準をどうするのかという問題と、タックスミックス、つまり負担の組み合せをどうしていくか、租税負担なのか社会保障負担なのか、という2つがテーマになると思います。臨調行革路線で国民負担率を5割に抑えると決めたのが1982(昭和57)年です。その時の国民負担率が35%程度で、2004年度が35.5%です。この間に何が起きたかというと、租税負担率が下がり社会保障負担率が上がって、その間の財政需要の増加には結局国債を発行して対応してきたという結果です。臨調行革路線を維持するのであれば、財政事情に対してどう対処するのか、社会保障の将来像を給付を含めてどう描いていくかがポイントになります。その上でタックスミックス、つまりどういう形で負担を求めていくかが議論の対象になってくると思います。今日は、税についてのファクトをいくつかご紹介します。

一般会計における歳入歳出の推移をみると、歳出は社会保障が増えるとともに景気対策をやって一時は膨らみましたが、ここのところ小泉内閣の財政構造改革の下でトレンド線に戻っています。ところが、税収の方はバブルのはげ落ちとか大きな減税の結果、歳出の半分くらいしかまかなえない現状です。その分が、国債の大量発行につながっています。

一般会計税収の推移をみると、わが国の所得税、法人税、消費税、3つの主な税をみると、ピークは1990年で、60兆円の税収がありました。その頃の所得税が約26兆円。現在、13兆円台でほぼ半分になっています。法人税も1989(平成元)年あたりがピークで19兆円でしたが、今や消費税とトントンの9兆円台になっています。消費税が1989年に3%で導入され、1997年から税率が上がって10兆円くらいですが、非常に安定して推移しています。

バブルの頃からの名目GDPの動きと税収の推移をみると、デフレもあって名目GDPは下がり気味で横ばいですが、税収の方は大きく下がっています。この間の税収減の要因はGDPに表れないバブルの要素、株や土地のキャピタルゲインのはげ落ちと大きな減税です。この辺に関しては、私共で試算した「中期的な税収減とその主な要因について」という表があります。これを見ると、税収は1990年度決算の60兆円がピークで、バブルの影響がはげ落ちて税収面で小康状態となったのが1997(平成9)年度決算。この間に60兆円から54兆円まで6兆円ほど落ちています。この間に消費税の引き上げとかいろんな税制改正をやったのですが、ほぼ税収中立で税制改正が行われまして、この間の税収の落ち込みは、バブルに起因した一次的な増収の剥落で説明ができると思います。その後、2004年度予算が41兆7000億円で、12兆円ほどさらに税収が落ちています。この要因は税制改正による減税が約8兆円、経済要因による減収が約5兆円です。仮に1997年度並みに経済が回復した時にわが国の税収が戻るといっても、経済要因による減収が約5兆円ですので、41兆7000憶円に5兆円プラスしても40兆円台半ばというのが、わが国の現在の税制の税収を得る力だと思います。

次に、租税負担率を国際比較してみると、法人所得税は諸外国と比べてそんなに違いませんが、消費税と個人所得税の比率が非常に低いのが日本の特徴です。これからの税制改革論議は、この個人所得税と消費税を中心に、税収を回復していくか、消費税率をどう上げていくかが課題になってくると思います。私どもの作業の前提となっているスケジュールが「平成16年度与党税制改正大綱(平成15年12月17日)」に決められていますが、そこでは年金を中心とした社会保障改革、あるいは国と地方の三位一体改革との関連で、税制改革についての予定が書かれています。「平成17年度及び平成18年度において、わが国経済社会の動向を踏まえつつ、いわゆる恒久的減税(定率減税)の縮減、廃止とあわせ、三位一体改革の中で国・地方を通じた個人所得課税の抜本的見直しを行う」とあり、定率減税の縮減・廃止が、この秋のテーマになっています。また、「平成19年度を目途に年金、医療、介護等の社会保障給付全般に要する費用の見通し等を踏まえつつ、あらゆる世代が広く公平に負担をわかち合う観点から、消費税を含む抜本的税制改革を実現する」とあります。小泉総理は「自分の時には消費税は上げないが議論は多いに結構」と言っています。特段の政治的な方針変更がない限りは、この段どりで所得税、消費税中心に税制改革を進めることになります。

税負担の今後の課題

所得税・個人住民税の実効税率の国際比較をみてみます。実効税率とは、控除と税率を組み合わせた収入に対する税負担の割合です。日本はフランスより上にあり、アメリカ、イギリス、ドイツより下です。フランスの一般社会税等込みだと、フランスが日本より上になります。フランスでは、1991(平成3)年から社会保障財源として一般社会税が導入されました。社会保険料は、賃金税で勤労報酬が課税ベースになっていますが、フランスは社会保険料の雇用主負担が非常に高いこともあり、社会保険料の引き上げで社会保障を支えるのが難しくなり、年金収入や資産収入といった広い課税ベースを含む個人所得税を新たに比例税率で課し、それを社会保障財源にしているという特殊な事情があります。こうした比例税率の個人所得税をのせると、日本よりも上ということです。

「日本における所得課税・社会保険料の実効負担率」という、日本の所得税と社会保険料をコンバインした実効負担率を示したものがあります。1000万円の収入のところを見ると、所得税で9.5%、社会保険料で12%あわせて21.5%の負担になっています。所得税は、収入が増えるに従って段々比率が高くなり、累進的な構造になっています。これに対し社会保険料は段々収入に対する比率が下がっています。これは1000万円ぐらいで標準報酬が頭打ちとなり、賦課ベースに上限がもうけられているためです。さらに課税最低限がないこともあり、社会保険料は逆進的な負担構造だと言う人もいますが、社会保険は給付と負担が見合ってますので、社会保険料の負担が逆進的かどうかは、どう議論するかという問題があると思います。

日本全体で給与所得者がどれだけ税金を負担しているかみてみましょう。2004年度予算ベースで給与収入が約216兆円あります。この人達に控除を適用して、税率を掛けて税金を計算することになります。サラリーマンの場合は、給与所得控除を受けることができますが、これが61.7兆円あり、給与収入の約3割が給与所得控除でまず落ちます。控除後の給与所得が155兆円になり、それから基礎控除、配偶者控除、扶養控除等の控除を適用しますと、課税所得レベルでは95.5兆円になります。これに10%、20%、30%、37%という税率を超過累進で掛けて税額を計算します。日本の場合は最低税率の10%が適用される納税者が全体の納税者の8割で、税率が非常にフラットになっています。この95.5兆円に課税所得に応じた税率を適用した結果、出てくる算出税額は、11.7兆円になります。この算出税額11.7兆円に定率減税がきいたり、住宅ローン控除といった税額控除がきいた結果、最終的に収めてもらう納付税額は9.3兆円です。ですから216兆円の収入から9.3兆円を収めてもらっていることになります。収入に対する所得税割合は、約4%です。基礎控除で約16兆円、配偶者控除で約5.2兆円、扶養控除や特定扶養控除で12.3兆円、社会保険料控除25.3兆円となっていますが、社会保険料を拠出すると全額所得税から控除されるので25.3兆円のうち22兆円ぐらいが社会保険料控除で落ちます。従って今後、社会保障の支出が増えて社会保険料負担が大きくなりますと、社会保険料控除が大きくなり所得税の課税ベースが、ますます小さくなる構造にあるといえます。

個人所得税は、国の所得税と地方の個人住民税の2つの組み合せでできていて、個人の住民税が5%、10%、13%の3段階の税率、国の所得税が10%、20%、30%、37%の4段階の税率になっていて、最高あわせて50%というのが現状の税率構造です。いまは国税も地方税も累進税率構造を持っていますが、今進めている三位一体改革の税源移譲を行う場合に、住民税をフラット化しようという議論があります。住民税は、いわばコミュニティーチャージであるという発想から比例税率でよい。所得税のほうは国の所得再分配機能の発揮の一環として、累進構造を維持すべきである。住民税と所得税の役割の分担を明確にする方向で税源移譲をしようというわけです。仮に3兆円を地方に税源移譲する場合、個人住民税を10%でフラット化して、その分所得税の税率や控除で調整をするという考え方で作業が行われています。住民税を10%でフラット化しますと、低所得層は5%から10%に住民税が増税になり、高所得層が13%から10%に減税になります。この辺をどのように所得税サイドで調整をしていくかが、今後の課題になります。

今話題になっている個人所得課税の定率減税は、1999(平成11)年から小渕内閣の景気対策の一環として、個人所得課税の抜本的改革までの間の特例として実施されました。所得税については、さきほどの控除や税率を適用して算出した税額の20%を控除して、25万円を頭打ちにしています。個人住民税も同じように15%を控除して、4万円を頭打ちにしています。年収1500万円で最高の29万円、700万円で8.2万円、年収500万円で3.5万円が減税されます。定率減税の縮減廃止は、一般の人に増税になるという議論がありますが、定率減税は相対的には累進構造によって重い税を負担する中高所得者の負担がより軽減されている仕組みであるということを理解しておいていただきたいと思います。

次に、法人税は、基本税率のピークが43.3%。今は30%まで下がっています。企業収益が回復してきた中で財政当局としては、従来であれば法人企業に税負担増をお願いしたいところですが、今後の日本経済を考えると法人税頼みの財政改革はなかなか難しいという感じを持っています。やはり議論は所得税、消費税が中心にならざるを得ないと思います。

消費税は国民が買い物をするとき5%の税率でかかりますが、内訳は国の消費税が4%、地方の消費税が1%です。国の消費税4%のうち29.5%相当は、地方交付税として地方に渡りますので、実質的な消費税の取り分は国が56.4%、地方が43.6%です。さらにこの実質的な国の取り分も予算措置で基礎年金、老人医療、介護といった社会保障関係の経費にあてることが決まっています。2004年度予算では、消費税の実質的な国の取り分が6.7兆円ありますが、その対象となる基礎年金、老人医療、介護の歳出が11.0兆円ですので、この経費に4.3兆円足りません。このスキマは、1999(平成11)年以降、1.5兆円から4.3兆円に拡大をしています。消費税は基本的にはGDPの伸びで増えていくのに対し、社会保障は高齢化でそれ以上増えていくのでスキマが拡大しているわけです。社会保障や年金制度を議論するときに、社会保険料を消費税に代替することが言われますが、このスキマの動きを見ると単なる代替論ではなく、そもそも社会保障の伸びをどういう財源で支えていくのか、このスキマが増えていく部分の議論が必要ではないかと思っています。

質疑応答

Q:

消費税をはじめ国民負担をどうするかなど、現実に何が欠けていて危機感や改革への議論が、まだ盛り上がらないのか、ご指摘頂きたいと思います。

A:

日本の国民負担率は他の国に比べて35%と低く、イギリスその他、ヨーロッパ先進国が50%、60%台で北欧は70%台です。何で日本はこれだけ高齢化が進み、これからも進んでいくのに35%しかないのか。50%を超えてはいけないと一方でいっていますが、本当にそれでいいのか、消費税引き上げをはじめとして増税はいやだと言い続けることが、マスコミを通して国民にもてはやされている感があります。しかし、大局的にやっぱり足らない。プライマリーバランスを10年経ったら埋めるということをいっていて、本当にそれで国際マーケットが爆発しないですむかというと保障は何もありません。収支改善を先送りすればするほど債務残高がふくらむ、あるいは債務残高のGDP比がふくらむ、へたをすると金利も上がってプライマリーバランスのハードルは高くなってしまうかもしれません。先送りするということは、自分たちの子孫の首を締めるということを政府はもっと喧伝する必要があります。こんなにやばい国になっているんですよときちんと言わないから、悠長な話で終わってしまうのだと思います。

A:

これまで先送りできた状態が続いたのだと思います。人口も増え貯蓄率も上がっている中で国内で国債が消化でき、ここまでは何とかつないでこれたと思います。しかし、2006(平成18)年をピークに人口が減っていくわけで、貯蓄率も下がっている状況です。今後に関しては、国民の想像力の問題で、確かな判断をしてもらうために我々役所がきちんとファクトを伝える事が大切です。ある程度の選択肢を並べ、最後はリーダーシップの決断につないでいく作業をすることです。昔のように大事な情報は隠すのではなく、危ない情報ほど出していかなくてはならないと思っています。政治家を含め国民もこのままでは立ち行かないと感じ始めていると思いますので、コンシステントに着実に進めていく環境を、我々も意識して作っていかなくてはと思っています。

Q:

本年度の税収は41.7兆円とありますが、景気がよくなってきて法人税などの税収が増えているという議論がありますが、いかがでしょうか。

A:

1年前の予算と決算をみると2003(平成15)年度当初予算は41.8兆円という税収見込みでしたが、決算では43.3兆円ということで1.5兆円税収が増えました。そのおおむねが法人税で、おそらく今の企業収益の改善状況などを見ると、2004年度予算で見込んでいる41.7兆円より税収はいい姿になるだろうと期待しています。まだ、具体的にいくらになるかわかりませんが、仮に改善しても、先程も申し上げたように、せいぜい40兆円台半ばが上限というのが我々の考えです。

Q:

負担をいやがる国民が、たとえば災害のときにお金を出し、寄付が集まるという状況をどう理解したらよいのか。また、企業の再建問題では、会社をどう立て直すか、売上をどう伸ばすか、従業員のやる気をいかに高めるかなど、イニシアティブが問題となります。国と企業を同じように捉えるのはおかしいかもしれませんが、給付の話を含めて今までのやり方の延長線上でやっていくのかどうか、お答え頂ければと思います。

A:

寄付は自発的な支出です。デモクラシーを前提に財政運営をする以上、強制負担である租税負担で財政をまかなうことが基本です。税負担を寄付に代替できるという話ではないと思います。NPOを含め民間の公共セクターが広がり、その費用負担をどうしていくかという点では、今後、税制が寄付金控除などの見直しにより貢献できる部分はありますが、それはそれとしてこちらはこちらでやっていかなくてはならないと思っています。

Q:

三位一体改革で個人住民税と個人所得税の税源のスワップが検討されていますが、その延長線上で範囲を広げ、国と地方の税源の移譲が考えられないか、いかがでしょうか。

A:

今回の三位一体改革の枠組みのもとでは所得税から住民税に必要な額を移譲することになっています。この枠組みとは関係なく国税と地方税がどういう役割分担をするのが良いのかを考えると、住民税をコミュニティの中で厚くして、法人税や利子や配当、株の譲渡益とか足の早い金融資産性所得に対する個人所得税は国の税源とすることなど、十分に考えられます。現在の地方税は、国の付加税のような形ですので、国と地方の税源のあり方をどうするのかということはおおいに議論はしていいと思いますが、今の枠組みは、申し上げた通りです。

Q:

負担率と成長率とマイナスの相関関係で、潜在的負担率の低い国ほど成長率が高めに出ていますが、スイスの機関が発表している国際競争力ランキングでは、北欧やヨーロッパの負担率が60%、70%台と日本よりかなり高いのが定着しています。ここ数年、日本のランキングは落ちているので、位置づけについて考察が必要だと思いますが、必ずしも負担率と国際競争力ランキングは、経済活力と関係がないのではないかといいますが、いかがでしょうか。
それと個人所得税の問題で社会保険料控除で本年度22兆円ぐらい減収になるようですが、今後年金や医療改革で保険料が上がるとすれば、黙っていても課税ベースは縮小します。税率を上げたところで元になる課税所得が減っていけば、焼け石に水だと思います。社会保険料控除と所得税のあり方について、どうお考えですか。

A:

先ほど負担率と成長率の間に負の相関関係が見られると申し上げました。同時にそのグラフの弱点は時系列データでなくクロスセクションデータであると申し上げたとおりです。国情の違う国のデータをプロットした説明には限界があり、たとえばご指摘の北欧諸国などには後発生の利益もあるかもしれません。もう1つには、小さな政府か大きな政府かという議論があると思います。大きな政府にすると経済活力をそぐかというと、負担率はゼロから100まであるわけで、ゼロでは社会的セーフティネットもなく将来に不安が残るからよくないし、一方、負担率が大きすぎるともはや役人の時代ではない、余計なお世話で不効率ということになります。たぶんゼロと100の間のどこかに最適値があるのだと思いますが、政府を小さくして良かったと思うか、あるいは小さくしないといやだと思うか、各国が思考するしかありません。ただ、負担がいやなら社会保障給付、年金、医療、介護は切るしかありません。財務省が何でそれを言わなければならないかというと、子孫が結局つけをくらうからです。大事なのは負担率の大小というよりも、受益に見合った負担をきちんとすることです。
2つめは、今後の所得税をどうもっていくかという点で、まず、景気対策でやった定率減税だけは戻したいというのが出発点です。その先は、社会保障負担と所得税と消費税をどう位置づけるのか、消費税を中心にやっていくのか、所得税中心なのか。いずれにしても税制側から所得税を見ると控除や特例が多すぎて、なるべくすっきりした税制にしていかなければならないと思います。給与所得控除でサラリーマンの収入の3割を控除していますが、サラリーマンは不自由な存在なので、特例控除を認めようと昭和40年代から拡大しています。控除といっても給与所得の3割が非課税ということであり、公的年金も公的年金等控除があって、もらった年金の一部を非課税にしています。失業手当も非課税です。一方で基礎控除、配偶者控除、扶養控除、特定の収入についても後で所得税控除があるという仕組みになっています。この辺をわかりやすくして、できれば課税ベースをどの人にとっても変わりがないように広げ、税率の水準を考えていく。これからは一生サラリーマンという時代ではなくなり、旦那さんが働いて奥さんが専業主婦で子供は2人という標準世帯で考えられていた税制から、世の中のいろんな様相の人に対して基本的に同じ税制が適用できるような所得税に変えていく必要があると思います。それから社会保険料については、若い人の拠出には配慮して、高齢者が年金もらうときに課税する方向で決定しましたが、やや不徹底に終わっています。全部増税なのでいっぺんに言いにくく、消費税と組み合せながら徐々に直していくしかないと思っています。

Q:

経済同友会でも意見が出ていますが、情報開示と公務員の危機意識の問題です。情報開示の面で、毎年のPL収支の話はわかりましたが、企業経営でいうとストックの問題で、各省庁、債務超過があるようですが、国政、地方含めてヨーロッパには、国の財政危機を一挙に改善したところがあるようです。情報のストック面での開示をしていかないと、民間に危機意識が生じないのではないかと思います。もう1つは、無駄遣いは明らかにあると思うので、企業でいうと事業部門が自分で1つ1つ改善して盛り上がっていくもので、その点はいかがですか。

A:

ストックベースのバランスシートあるいはディスクロージャーという点では、確かに今日はフローの話ばかりでした。各省別のバランスシートあるいは、一般会計、特別会計をコンバインしたバランスシートなど、数年前から出し始めています。大雑把にいって、国の総資産は七百数十兆円、副債が九百数十兆円、差額が二百十数兆円という構造になっていて、企業でいえば大幅な債務超過、ほとんど破綻状態です。普通の企業ではありえないバランスシートです。何でこんなに安い金利で国債が消化できているかといえば、他の企業とは違って合法的に、国は増税をすれば移転収入を得ることができるため、バランスシートは赤字でも大丈夫ということです。ストックベースで見ても国家財政が傷んでいることは明らかです。それから各事業官庁、各所管官庁が自らしっかりチェックして改善していかなければならないという点は、ご指摘の通りです。自分で自分のチェックをする、それがなぜかできていない。省庁再編に伴って政策評価法などで、各省が自己評価をすることを法律で義務づけられたのですが、結局は手前味噌な評価をして終わっています。しかし、いずれ経理部門等も担当ないし統括する可能性のある企業や自治体とは決定的に異なり、国の行政府においてユーザー官庁すなわち要求官庁に毅然としたチェックを求めるには限界があります。チェックするのであれは、財務省や会計検査院といった第三者が血税の番人としてしっかりやらなければいけないと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。