ドン・キホーテ/デフレを嘲笑う"非連続型業態"の成長&革新方程式とは?

開催日 2003年4月23日
スピーカー 安田 隆夫 ((株)ドン・キホーテ代表取締役社長)/ 月泉 博 ((株)シーズ代表取締役)
モデレータ 安藤 晴彦 (RIETIコンサルティングフェロー/内閣府企画官(経済財政運営総括))

議事録

ドン・キホーテとは?

ドン・キホーテの特徴には、深夜営業、独自の陳列方法、現場への徹底的な権限委譲の3つがあります。チェーンストア理論に基づかないで大きくなった企業で、流通業の既存の「常識」にとらわれない、いわば「反則ワザの集大成」のような店です。

まず、深夜営業ですが、既にコンビニエンス・ストアでは8兆円を超える市場がありました。しかし、コンビニエンス・ストアとドン・キホーテとは同じ深夜営業でも、全く違います。コンビニエンス・ストアは、「開いててよかった」というキャッチフレーズのように、「緊急性の消費」に合わせた商品を扱っています。ドン・キホーテの商品はそうではありません。ブランド品、電気製品、アパレルが山のように陳列され、それが深夜にどんどん売れています。これは「業界常識」では考えられないことでした。最も売れる時間帯は夜中の10時~0時半で、昼間営業は「夜のついで」という感じです。

ナイト・マーケットには、2つの消費行動があります。1つは、コンビニエンス・ストアに象徴されるように、「必要な物が、必要な時に、必要なだけ、直ちに買える」というものです。もう1つは、お祭りの夜店を歩くような、「時間消費型」の消費行動です。まったく正反対のものが同居しているのがナイト・マーケットです。

次が、「買い場」の楽しさです。ドン・キホーテは典型的な「時間消費型」の店ですから、仮に、「理論」に忠実に、見やすく、買いやすい、取りやすい店になったら、2・3度行けば終わりで、30坪程度のコンビニエンス・ストアに比べ店舗が大きいので、坪効率も悪くなり、事業として成り立ちません。それで、敢えて「常識はずれ」の、見にくく、買いにくく、取りにくい、熱帯雨林のジャングルのような「圧縮陳列」の店を創りました。都会で「探検」できる訳で、レジャーの延長線上の受け皿として、これほど面白い店はないのです。ホームページに寄せられた御意見では、「カラオケは飽きた、居酒屋も疲れる、でもドン・キホーテに行くと同じお金で、同じ時間楽しめて、しかも安い商品が手に入る。今、ドンキにハマッてます」と。要は、ドンキは、カラオケ、居酒屋の延長線上であって、そこに型どおり、理論どおりの小綺麗な「チェーンストア」は入ってきません。あくまでお客様は、時間を消費する受け皿として見ているのです。夜は、日常の束縛から最も解放された、しかも親しい人達と過ごす楽しい時間です。ドン・キホーテに行くと、常に新しい発見があります。扱っている4万種類の商品は、常に変化し、カテゴリーは多種で、何でもありです。ルイ・ヴィトンとトイレットペーパーが一緒に買える店は世界中で他にないでしょう。そういう店だからこそ、男女ともに楽しく過ごせます。

時間消費型の流通業は、かつての商店街がそうでした。多種多様な店舗が軒先を並べ、凌ぎを削って、まさに時間消費の受け皿として機能していました。しかし、高度成長期以降、チェーンストア全盛の中で、すっかり廃れてしまいました。しかし、日本人のDNAの中に、そういうものへの郷愁が性質としてあったのではないか、そこにドン・キホーテが登場して人気を集めたのではないかな、と思います。

第3に、徹底した権限委譲です。これは先に挙げた2つと密接に関係しています。時間消費型の深夜営業には、常に「意外性ある店創り」が不可欠になります。お客様のニーズにスピーディにかつ、柔軟に対応するためには、現場に全権力が集中していることが不可欠です。仕入れから販売まで、一切を任せます。店は、実際には、商品カテゴリーを7つに分けた小さな商店街になっていて、社員は各担当コーナーの「商店主」に任命されます。新入社員も含めて、一定の予算を任せ、商品をどんな値段で売っても、どこから仕入れてもOKです。売るのが苦痛な人はいても、仕入れが嫌いな人はいません。自分の感性で、人の金で仕入れられます。これは、チェーンストアとは全反対です。御存知のように、チェーンストアでは、全権限が本部に集中しています。現場は、(自らは考えずに)金太郎飴のように、全く同じことをし、効率を究極まで高めます。私はチェーンストアを否定しません。人類が創った画期的な1つのシステムです。しかし、私が創業したときには、イトーヨーカドーを始めチェーンストアがたくさんあり、「到底勝てない。それなら徹底的に正反対をやってみよう」と思った訳です。

では、全部任せて、「どうやってコントロールするの?」「多種多様な商品管理は?」という疑問もでてくると思います。しかし、1店舗4万種類の商品がありますから、(ポートフォリオになっていて)実は、リスクも分散されます。だいたい1店舗の在庫は4億円ですから、1アイテム1万円の計算になり、仮に、売れ残っても4万分の1のダメージで済みます。(経験のない新入社員に任せたら)「彼らは何をやるか分からない。気が付いた時は大変なことになっていて、手遅れでは」という心配ももっともです。でも、(デザイン・)ルールを事前に設定して、徹底して(各モジュールに)権限委譲し、結果だけチェックするようにすると、実は、「仕事」が「ゲーム」に切り替わり、(競争の中で)彼らのモチベーションは飛躍的に上昇します。ゲームとなれば、辛かったはずの仕事が楽しくて仕方がなくなります。

「仕事」を「ゲーム」に切り替えるポイントが4つあります。(1)現場に対して大幅な自由裁量を認めます。プロセス・コントロールを放棄します。(2)最小限のルールを設けます。サッカーで手を使ったり、ボクシングで足を使ったりしないように、シンプルな「反則」を決めます。(3)そして、シンプルで明確な勝敗判定をします。(4)それから、タイムリミットを設けます。ゲームには1回毎に終了時間が必要です。当社では、定期昇給やボーナスはありません。約80%の社員は半年年俸制で、半年の結果で見直し、新たに本人と話し合って、次の半年の課題を設定させます。結果のチェックは、データに基づいて割と直ぐできるのですが、課題設定の方が難しい。上司と部下がかなり「気合い」を入れて、各個人の目標設定について話し合います。かなり突っ込んだ話合いをします。

ドン・キホーテは創業13年目になります。売上は1154億円(2002年6月期)です。売上は約150倍に伸びています。正統派チェーンストアとは、まったく違う手法を取りながら、規模を拡大してきました。しかし、スケール・メリットの時代はもう終わったと思います。むしろ、現代は、スケール・デメリットをなるべく防ぎ、1人1人の社員の活性化を図ることが重要です。当社は、その中で規模拡大もスムーズにいくということを実証するよう努めてきたつもりです。ドン・キホーテは「専門店」の集合体ですから、規模が大きくなってもやっていることは変わりません。それがまた良かったのでしょう。

「今」につながる原体験

私は「理論」ありきで、経営したことはありません。経営指南書も読みません。その時々で、何となくこちらの方が良いのではないかと直感で思って、そちらに行ったら上手くいった。そういうことです。経営者の本能的なある種の感触と、それをなんとか実現しようという、いわば「経営者の腑」が、結果を創り、それに後付で理屈を付けてみたら、1つの「ビジネス・モデル」になったということでしょう。

私がこの業界に入ったのは、29歳の時です。経営者になりたいと思っていましたが、バックボーンも技術も手に職も無いし、ディスカウントショップならできるのではと甘い考えで20坪の店で始めました。しかし、1カ月で客は来なくなりました。そう甘くはありませんでした。「泥棒市場」という店名でしたが、泥棒どころか閑古鳥が鳴いていました。店員にも辞めてもらい、全て1人でやりました。1人だと流石に忙しくて、陳列は夜中にやっていました。そうしたら、夜中にお客さんが来て、結構買ってくれたのです。セブンイレブンがまだ11時までだった頃、12時まで営業していました。夜にものが売れるという「原体験」をしたのです。

大量仕入れはできないので、安く仕入れるにはどうするかというと、ハンパ品、サンプル品を貰ってきました。向こうは中途半端な数では売りにくい、こちらはそのくらいの数がちょうど良いということで、お互いの利害が一致しました。一山いくらで買ってきて、原価がほとんどないから儲かります。ただ、当たって、売れ筋になったとしも補充はできません。ところが、これが、「あそこに行くと何か面白い新しい物がある。でも、次に行ってももうない」ということで、口コミでお客を呼びました。安く仕入れられる時に、大量に仕入れたので、在庫を置く場所もなく、店内に山のように陳列したら、かえって客が面白がってゆっくり見ていきます。今のドン・キホーテの特徴は、みんなこの時の経験に基づいているのです。

その後問屋を始め、7~8年やりました。でも、お金儲けというより、自己実現のために事業をやっていたので、今までの経験を活かした新しい事業をやってみたくなり、14年前に、ドン・キホーテ1号店を始めました。500m2弱の大きな店で、駐車場も完備し、自信満々だったのですが、全然売れませんでした。問屋を続けていたので、店は人に任せましたが、「圧縮陳列」だと言い聞かせても、その頃は他に現実のモデルもないし、私がいくら教えてみても、神髄は分かってもらえませんでした。自分の「原体験」を店員たちと共有できなかったのです。最後には、「教える」ことを止めて、店員に全部任せることにしました。私も誰に教わった訳ではなく、のっぴきならない状況の中で掴み取ったのだから、疑似体験をしてもらおうと思ったのです。そうしたら、上手くいきました。現場への権限委譲は、この時が始まりです。私は仕入れに関してはプロでしたから、素人に仕入れを任すのはとても勇気がいりました。それを敢えてやったところに、成功がありました。

今後の抱負

ドン・キホーテは、ナンバーワン企業ではなくて、オンリーワン企業です。同業他社なし、業態あって業界なしです。コンビニエンス・ストアの年商は8兆円、そのうちナイト・マーケットを仮に4兆円とすれば、40兆円はいけるのではないか、と思います。つまり、我々は小さな(価値の)山頂ではなく、エベレストの1合目にいるようなものだと思います。今はとにかく「顧客第一主義」。謙虚な気持を忘れないように、と思っています。「顧客第一主義」とは、自社の都合よりも、お客様を優先する、お客様の心のひだを掴み、心の変化に対応することを心がけていきたいです。

(月泉氏)
ドン・キホーテの特徴を3点指摘します。

(1) 流通の「常識」を全否定して成功した。
今まで成功していたチェーンストア・システムは、全店舗を画一的にして、合理性を徹底追求したものでした。しかし、ドン・キホーテは、各店バラバラで、同じ品物の売価さえ違います。マニュアルもなしで、標準化を否定しています。ドンキの特徴の1つ「CVD+A」というコンセプトは、CV(コンビニエンス)、D(ディスカウント)、A(アミューズメント)という意味ですが、それが結合したこんな業態は世界中どこを探してもありません。この数年で東証一部に上場し、1500億円企業に成長しました。
これは何故でしょうか。日本の流通業界は、たいてい欧米をモデルにしていますが、欧米人と日本人は違います。欧米では、広々とした店で、他人に邪魔されずに買い物をするのが心地良いようですが、そういう欧米の店に視察に行ってみると「こんな閑散とした店で買い物したくない」という感想を持ちました。反対に、日本のデパートでワゴンセールに人が群がる状況や、アメ横での年末の買い物風景などは、欧米人にはまったく理解不能でしょう。それなのに、何の改良も加えずに、アメリカの型をそのまま輸入したのが、日本の流通商業の歴史であり、それが今や不況に喘いでいます。
他方で、ドン・キホーテは、日本人の奥深いところにある買い物に対する「ワクワク感」を刺激しているようです。

(2) 非連続性。
ドンキは、突然変異の業態です。日本は流通革命の第三期と言われています。流通の短縮化が進んでいます。日本には昔ながらの独特の中間流通形態があり、「流通効率化」が盛んに主張されてきましたが、ドン・キホーテはその動きとは無縁のところから生まれました。むしろ日本独自の流通形態があるからこそ成り立っています。最近、流行の製造直販(SPA)という形態もアメリカから輸入され、ユニクロや無印良品など一部サクセス企業を生みましたが、アメリカのように中間流通がなくなることはありませんでした。逆に、アメリカではドン・キホーテは成立しません。ドン・キホーテはスポット仕入れなど、独自手法を開発しました。日本独自のものを、前近代的だと排除せずに、逆に、大いに活用しようとする発想があります。

(3) 超成熟消費社会への対応。
日本は世界一、モノが溢れています。世界の最先端商品に加え、日本古来の物が渾然一体となって、欧米とはまったく違う商品構造になっています。
これからは生産の時代ではなく「流通の時代」です。モノを置いておけば売れる単純な時代ではありません。お客が欲しがるモノを生産者に作らせるなど、流通が主役になる時代です。さらに、モノ離れが進んでくると、流通そのものに独創的な「付加価値創造」(バリュー・クリエーション)が不可欠です。コンビニエンス・ストアも、お客のニーズから生まれたのではなく、(逆に、周囲の反対に逆らって創った人がいて、)実際にできてみて、(お客は)その便利さを初めて知ったのです。そして、コンビニエンス・ストアは単品管理という情報システムによって、流通だけでなく生産まで革新しました。ドン・キホーテも、これから新たな生産と消費を創造していくと思います。

質疑応答

Q:

オンリーワン企業で、ライバルがいない状態をどう思いますか。また、ネットオークションはライバルとなるでしょうか。

A:

ライバルがいないというのは、デメリットだと思います。ですので、社内で競争するシステムを創っています。
ネットオークションについては、直接影響はありません。多種多様な商品、意外性、時間の超越では共通していますが、手に取って見られることと、またネットでは4万点の品物を見るのは時間的に無理という違いがあります。

Q:

「全て」現場に任せるということですが、仕入情報などは共有していますか。また、社長は実際お客さんに接する機会は少ないと思うのですが、お客さんのニーズを知るのに何か工夫がありますか。

安田:

うちのような雑然とした店では、むしろ「ディジタル」の情報システム整備は必要不可欠です。POSも早くから入れていますし、情報解析も昔からかなりやっています。「ディジタルによる情報共有化」を前提に、権限委譲しています。
また、顧客第一主義の実現のためには、現場に全権限を与え続けることが大事だと思います。お客の心に一番近いのは現場です。時代の変化に伴って、変わっていく部分と、絶対変わってはいけない部分があると思いますが、変わってはいけないのが顧客第一主義ですね。

安藤:

権限移譲をして、最終結果を判断する時に、ITを活用して低コストで公平性・透明性を確保したり、また「一括仕入」れではなく「一括商談」ということで発注量やプライシングなども各現場、各社員の判断に委ねたり、色々工夫しておいでです。若いお客が望むモノを理解できるのは若い社員です。現場には若い人が多く、お客さんも若く、買い手いと売り手が両方楽しめる工夫もあります。

月泉:

売り手が、消費者と同じ目線にならないと駄目ですね。権限移譲されているので、販売と仕入れが同じ人というのが良いと思います。

Q:

「ドン・キホーテ」というネーミングにした理由を教えて下さい。もう1つ、店の立地については何かポリシーがありますか。

A:

ネーミングに関しては、私はへそ曲がりでして、「出る杭は打たれる」と言いますが、最初から曲がった杭ならもう打たれても大丈夫だろうと、もう後には引かないという気持を持ち続けるために、何か勇ましい名前が良いと思って名付けました。
立地に関しては、唯一と言っていいほど権限移譲していない数少ない項目の1つです。商圏の人口、物件前の交通量などのデータを考慮した1次審査ののち、最終決定は、私が、全て実際に見に行って、インスピレーションで判断しています。

Q:

一括仕入れにはメリットがあると思うのですが、それは一切しないのですか。また、輸入品の仕入れはしていますか。さらに、「スモール・ドン・キホーテ」や「ビッグ・ドン・キホーテ」という店の狙いはどこにあるのでしょうか。

A:

確かに、一括仕入れした方がコストの安い物があります。そういうモノに関しては、一括仕入れに近いようなことをしています。しかし、通常は、本部が一括して商談をし、仕入れの約束をした後で、その一定の枠中で、各現場の各担当者が何個、いくらで仕入れるかは自由です。今は変化の激しい時代ですから、仕入れの柔軟性は非常に重要です。中国等を含めた輸入商品については、ある程度、中国から直接輸入していますが、大きな部分は占めていません。これも仕入れに柔軟性を保ちたいからです。
「スモール・ドン・キホーテ」は「ピカソ」と言いまして、コンビニエンス・ストアに対抗するために創りました。ナイト・マーケットで、更に新しい業態創造にチャレンジしたいと思っていますが、試行錯誤中です。一方「ビッグ・ドン・キホーテ」はドン・キホーテが大きくなった訳ではなく、同一施設の中に「時間消費型」の他業態を入れるということです。具体的には、軽食やネイルアート、マッサージサロン、変わったところでは占いなどです。今、各地の駅前の一等地が空洞化していますが、それを活性化するには1社では無理です。うちの集客力を最大に活かし、有機的結合によって1+1が3以上になることを目指しています。

◎参考文献
『流通革命への破天荒な挑戦!』(安田隆夫著、広美)
『完全解明ドン・キホーテの革命商法 超元気企業のやんちゃ宣言』(月泉 博著、商業界)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。