日本企業の事業再編とプライベートエクイティ・ファンドの活用

開催日 2002年11月6日
スピーカー 野宮 博 ((株)リップルウッド・ジャパン 代表取締役)

議事録

リップルウッドとは

Ripplewood Holdings L.L.C.は、1995年米国ニューヨークにて設立されたプライベート・エクイティ・ファンドの運営会社です。CEOのTimothy Collins は、自動車部品の会社に入り、製造業からスタートをきりました。その後、カナダを本拠地とする投資会社Onex社の米国代表として実績を上げ、独立してリップルウッドを設立しました。米国でのファンドは、第1号が5億ドル、第2号が10億ドル規模でした。投資分野は産業機械、自動車小売、自動車部品、食品、化学品、教育出版、テクノロジー等に重点を置いています。ここでのテクノロジーとは、ベンチャーキャピタルのような技術投資ではなく、機器、サービス等への投資を意味しています。第1号ファンドは投資を完了したため、2002年よりは第2号ファンドよりの本格的な投資を開始しています。設立以来インダストリアル・パートナーシップ(Industrial Partnership)手法を用いて事業を行っており、高い投資利回りを達成しています。インダストリアル・パートナーシップについては後ほど詳しくお話いたします。

リップルウッドは、1997年から2年間にわたり日本における大企業の子会社・事業部門、中堅企業等を投資対象とするファンドの設立をさまざまな角度から検討致しました。そして、1999年末には日本に於けるプライベート・エクイティ投資の将来について確信を得ました。この結果、2000年3月にRHJ Industrial Partners Fundを設立し、同時にRipplewood Japan Inc.((株)リップルウッド・ジャパン)を投資のアドバイザーとして設立しました。現在、日本には、2つのファンドがあります。1つは、旧長期信用銀行を買収する為に設立したNew LTCB Partners Fundです。このファンドの投資家は、主として欧米の金融機関です。もう1つは事前には投資先が決まっていない形態で、ファンドの規模は約1200億円、個別投資においては借入金を活用することから、投資可能総額は3000~5000億円以上です。出資者の割合は、日本国内が4割弱、海外が6割強で、日本では三菱商事、日興証券、東京海上を含む、大手機関投資家6社の参加を得ています。欧米からの主要投資家はシティグループ、ドイツ銀行、GEキャピタル、メリルリンチ、英国シェル社年金基金等となっています。

リップルウッドの日本での投資は、基本的には米国のファンドと同じ戦略を用いています。但し日本におけるビジネスの環境・諸要因を加味し、日本のマーケットに最もふさわしい戦略を構築しています。その為、米国リップルウッド社のプロフェッショナル・スタッフに加え、日本で事業経験豊富なシニア・マネージメントおよび投資のプロフェッショナル・スタッフを揃えております。投資対象の業界としては、基本的には米国と同様の考え方です。即ち、2、3社で独占されているような業界を除き、業界の規模が大きく、企業数が多くて構造変化が生じようとしていて、戦略如何では競争力ある企業を作ることができるだろうという業界が投資対象となります。対象業界、事業の例としては、(1)国内外での戦略的事業統合(M&A)により成長が可能な事業、(2)業界として変革期にあり、構造変化が起きているなどの新たな経営資源が必要な分野、(3)更なる需要が見込める潜在市場(系列外での顧客・海外市場の開拓等)が存在する事業分野、(4)グローバリゼーションに直面していて世界規模での生産・調達・マーケティングが必要な事業、(5)圧倒的な競合相手が存在せず、業界再編が見込まれる分野、(6)ビジネスモデルの再構築により発展が期待できる事業などです。

ここで、日本での投資実績を少しご説明いたします。2000年から2002年の間に、4つのプラットフォーム、5件の買収を行いました。最初の買収は、皆さんもご存じのように、旧長期信用銀行(現新生銀行)です。その後、2001年日産からナイルス部品の株式を買収しました。同じく、2001年日本コロンビアを買収。日本コロンビア内部にある音楽ソフト部門の「コロンビア」と「デンオン」というハードウエアの部門を分離し、後者はデノンというブランドで別会社にしました。そして、2002年4月、日本マランツと統合し、D&Mホールディングスとして上場しました。その他、日本になかった滞在型のリゾート構築に向け、ホテルという分野に注目していたことから、シーガイア ホテルリゾートの買収に踏み切りました。日本には滞在型リゾートホテルのコンセプトがないため、このようなホテル運営をしたことがある人材がいませんでした。

リップルウッドの投資の考え方

リップルウッドの投資の考え方は、大きく分けると3つになります。1つ目は、先ほども設立以来「インダストリアル・パートナーシップ手法」を用いて事業を行っていることに触れましたが、リップルウッドでは、それぞれの業界でのビジネスの経営経験の豊富な人材と協力関係を樹立しています。そして、これをインダストリアル・パートナー(IP)と称します。特に、投資後の事業経営、事業の価値増大に、IPの経験・知見を活用し、手法としては戦略的投資家に近く、通常のファイナンシャル・バイヤーとは一線を画しています。つまり、アドバイザーや社員ではなく、パートナーということです。2つ目は、「非ポートフォリオ的アプローチ」ということで、これは、「○勝×敗」といったポートフォリオ的考え方は一切取らず、「すべての投資案件」を成功させるということを大前提に投資を行っているということです。投資対象の選択は極めて慎重に、忍耐強く折衝を行い、投資後、予定されたリターンが速やかに達成できないような場合にも、じっくりと時間をかけてその事業での成功を目指しています。実績が伴わないと意味がないため、各ファンド、運営者の実績が大事です。3つ目は、「友好的な投資・買収」です。これは、既存の経営陣の力を最大限に活かすこと、既存の経営陣がリップルウッドの投資対象企業の株式持ち分を保有し、事業の成功に対するインセンティブを所持する事を奨励しています。従って、敵対的な投資・買収は行いません。

IPは、リップルウッドの社員ではなく、特定の企業からは独立しており、リップルウッドと共同で投資事業を行う正式の協力契約を締結します。またIPはコンサルタントでもなく、リップルウッドが投資する事業の経営陣に加わり、自らの資金で共同投資を行います。インダストリアル・パートナーからの貢献は、(1)特定の事業を実際に成功させた経営者ならではの知識・経験を活かし、投資対象の発掘を行い、分析、評価に参加する、(2)投資・買収後の事業戦略の策定を主導し、企業価値の増大を図る、(3)投資後、経営陣として事業経営に参画し、自らの経験、人脈を最大限活用する、(4)欧米市場での経験から、経営に新しいまたはグローバルなビジョン・発想を持ち込む、(5)国内外を通じ、その事業分野での魅力的な追加買収対象を発掘・評価できるといったことです。

日本企業の事業再編とプライベート・エクイティ・ファンド

4年以上前のアンケートになりますが、1998年4月に行われた日本経済新聞「社長100人アンケート」では、「事業を絞り込み、会社の価値を明確に示せる専業型企業が強みを発揮する」72%、「不採算部門は撤退・売却を含めて考える」65%、「利益確保にはある程度の雇用の犠牲はやむをえない」67%、「経営指標として最も重視するものはROE」41%の結果でした。つまり、日本的経営との決別の必然性そのものは、以前よりみなさんの中で認識されていたという事です。

先進国と比べてどのあたりに位置するのかを調べた国際競争力ランキングでは、47カ国中(1)起業家精神47位、(2)会社の創業47位、(3)株主価値45位、(4)株主の権利と責任44位、(5)金融技術の普及度44位という、まずい結果になっています。

何故、日本企業は不振なのでしょうか? いい経営をされている企業もありますが、私なりに整理をして述べさせていただきます。日本は、生産オペレーションの効率向上では世界をリードしてきました。しかし、環境変化への対応を含めた、すばやい、柔軟な企業戦略の策定、実行では遅れをとってきました。なによりも、マーケットシェア重視、事業を放棄せず市場にとどまることが優先課題ではなかったかと思います。事業分野を拡大しすぎ、すべての分野を十分に育成、強化できなくなりました。その結果、過剰設備、供給過剰、価格下落の悪循環を招き、これに伴って、肥大化した借入金は、事業のキャッシュフローでは返済できない規模に達しています。借入金と収益の比率が30倍以上になっている企業もあります。事業という観点からするとこれでは成り立たないのですが、それでも事業撤収の意思決定がなかなかできず、参入各社の傷は深まり、結果として不良債権の顕在化を招いてきました。

一方で、日本には、優れた技術、製品、生産現場、労使関係を築き上げた企業が多く、存在意義がしっかりしている企業が多くあります。これはリップルウッドが何故日本に注目したかという第1点目です。製品が悪いのは大変な問題であり、私達には手が出せません。また、生産現場、労使が悪いのも手がでません。しかし、適切な戦略策定、戦略を実行する経営陣の欠如により本来持っている潜在成長力を十分に発揮できないケースが多々あり、親会社の方針変更等により成長の為の資源配分が十分に得られないケースもあります。魅力ある市場にありながら、ビジネスモデルが旧弊でチャンスを取り込めない企業もあります。これらは、人的被害でもありますので、事業は適正なサポートを行うことで再生、強化され、本来備えている潜在力を発揮、競争力のある企業に育つ可能性があると判断したのです。

たとえば、スターウッドグループの傘下には、ウエスティンホテル、シェラトンホテル、ダブリューなどさまざまなブランドのホテルがあり、多様なマーケットセグメントを対象に世界中に展開しています。それとは反対に、日本のホテルマーケットでのプレーヤーはマーケットセグメントがあいまいで、シングルプロダクト(ブランド)での展開が主流です。しかし、ホテルチェーンの一軒一軒のホテルの質がどの場所でも同じかというとそんなことはありません。そのホテルに行くまで、どんなホテルに支払いをするのか良くが分からない状態です。日本のホテル経営企業は、ホテルが副業ではないが、専業でもないところが大半です。欧米でも昔はそうでした。しかし、ビジネスモデルが変わり、そのような形態ではビジネスとしてやれなくなってきました。ホテルでいえば、東京だけ見ても、日本人によるオキュパンシーが高く、マーケットはあるのに、適正なプロダクトが少ないということがいえます。従って最近では外資系の大手ホテルチェーンの稼働率が相対的に高くなっています。これはなにか日系のビジネスモデルが違うのではないか、変える必要があるのではと思いました。言うほど簡単ではありませんが、ホテルのマーケット全体はそれほど伸びなくても、ビジネスモデルを変えることで伸びていける企業があるのではないかと考えています。

事業再編を促進する要因には、大きく分けて「事業経営上の要因・圧力」と「制度改正」の2つがあります。事業経営上の要因・圧力は、(1)経済の低成長と限られた資源の中での事業分野の選択と集中の必然性、(2)事業活動、顧客ニーズのグローバル化に対応した経営、(3)銀行の統合、不良債権処理に伴う過大債務の解消圧力、信用力に応じた金利への引き上げ圧力、(4)機関投資家による、株式投資の収益性見直し、持合の解消圧力、(5)売上重視から利益、キャッシュフロー重視の経営への転換です。こういったところが、ある意味、追い風となる圧力を与えているのです。一方、制度改正による要因は、(1)連結財務諸表制度の強化、(2)時価会計の導入、(3)年金制度の見直し、(4)持株会社の解禁、(5)株式交換制度の導入、(6)会社分割法制の導入、(7)連結納税制度の導入、(8)ストックオプション制度の導入、(9)民事再生法制定です。

次に、日本企業事業再編の促進を阻害する制約要素について見てみます。まず、意思決定の遅さ、典型的な"Me too"志向ということで、前例はあるか? 社内の意見は? 同業他社の動向は? といったことが、クリアされないと、次に進まず滞ります。時間は、貴重な資源です。いくら話しを進めても、意思決定ができない状態に陥ると難しいのです。その他、(1)思い切った事業再編を行う上でのCEOのインセンティブ欠如、(2)ステークホルダーからの圧力欠如、(3)敵対的TOBの危惧がない世界での甘え、(4)企業集団は大きいほうが良いという発想、(5)分離会社との資本関係を断ち切り、コア事業にフォーカスするという決意の欠如、(6)どんな事業をスピンオフすることが株主利益の最大化に寄与するかという視点の欠如、(7)税務上、制度上の制約も十分には解決していないこと、(8)プロフェッショナルサービスの不足といったことが挙げられます。特に、(8)のプロフェッショナルサービスの不足は、今までの経験から、大変深刻な問題だと感じています。日本企業の事業再編の代替案として行われていることに、(1)日本国内での同業者間での提携、統合、合併、(2)外資との戦略的提携、売却、(3)プライベート・エクイティ・ファンドを活用した事業再編があります。(1)については、家電、鉄鋼、商社、金融等の業界で既に始まっています。以前は、設備投資の過剰ということでしたが、これらをすることで、グローバル競争に強い事業になるのでしょうか? (2)もかなり進んでいます。そして、事業再編のひとつの解決策ではあると思います。しかし、非常に大きな企業の傘下にはいることにより、大手の戦略に左右されてくるので、欲しい事業だけ残して他から撤退するなど、個々の企業のアイデンティティはなくなってきます。これは1つの再編への生き方ですが、現在、大手企業が一晩で消えたりしている中、大手が安定しているわけではありません。そして、私が提案するのは、プライベート・エクイティの活用です。どこかに吸収されるのではなく、その企業が中心となって、再編を行っていく、プラットフォームになる。事業がどこまで大きくなるのかが最重要なのです。

ここで、プライベート・エクイティ・ファンドを活用した事業再編をするケースをいくつか挙げてみます。(1)ノンコア事業の分離を検討している親会社の場合、(2)グローバル企業への飛躍を考えたいが経営資源が自力では十分でない独立企業にとってのパートナー、(3)大企業傘下での事業継続より独立を考える子会社、事業部門の経営陣の場合、(4)後継者問題に悩むオーナー会社の場合、(5)公営企業の民営化の場合。(5)は、プライベート・エクイティ・ファンドが最も力を発揮し得るケースです。

それでは、プライベート・エクイティ・ファンド側からみたチャレンジとはどのようなものなのでしょうか。(1)外資への売却に対するアレルギー、(2)フィナンシャルバイヤーに対するアレルギー、(3)案件の発掘、(4)売り手の動機付け、(5)既存の銀行との調整、(6)競合、(7)資金調達(借入金)、(8)新たな経営陣の確保の8つが挙げられます。

最初の、外資への売却に対するアレルギーですが、日本企業が海外で買収したときにもあるように、日本だけにではなくてどこにでもあります。(2)のフィナンシャルバイヤーに対するアレルギーは、今までなかったものなので、なんだかよく分からない、なかったものに対しておきるアレルギーです。(3)の案件の発掘は、アメリカですと座っていても話がきます。しかし、日本では大半はこちらから出向かないといけません。日本では私達が売り手とかオーナーのところに出かけていって話し合いをします。オークションのようなものではないので、話し合いの時間がゆっくりとれる反面、アメリカの買収の3倍くらい時間がかかるのが難点です。(5)については、100%買い取って、新たなレバレッジで資金を調達しない限り、既存の銀行関係がそのままついてくるケースも多く、銀行との調整が必要になってきます。この辺はアメリカでは想定していなかったチャレンジです。(8)についてひしひしと感じるのは、最近では非常に多くの有能な方々がチャレンジできる機会があれば、やってみたいとインタビューにこられることです。10年前から比べると随分増えました。中小企業はずっといい人材の確保が難しく、大手にいい人材を取られている状態が続いていました。それでもここまで競争に打ち勝ってきたのです。現在は、人材をリシャッフルするいい時期ではないでしょうか。それによって、かなりのところの経営状態がよくなるのではないかと思います。

コーポレートカルチャーの革新の中で、重要なのは、Post Acquisition Management & Value Enhancementです。どう付加価値をつけて、経営していくか、全員がオーナーの一員であるという意識をもてるストラクチャーが必要になります。株主変更に伴う環境変化、株主、経営者、従業員の利害の一体化、人材の流動化と経営陣の強化、入れ替えの可能性といった状況の中で、以下の要素が大変重要な役割を担ってきます。 (1)柔軟な戦略的発想、(2)利益重視の経営姿勢、(3)競争力あるコスト構造の構築、(4)キャッシュフロー重視、(5)既成概念にとらわれない成長戦略発想。

質疑応答

Q:

いわゆる「ターンアラウンド」といわれるビジネスと、プライベート・エクイティ・ファンドの違いは何でしょうか。

A:

ターンアラウンドかどうかは企業の段階の違いであって、潜在的な成長力があるのかどうかが判断基準になります。もちろん、健康な企業の方が望ましいですが、会社更生法が適用された企業からスタートする場合もあります。私たちとしては、フォーカスしている業界や事業であれば健全な企業も破綻した企業も、前向きに考えることにしています。

Q:

産業再生機構ができることになりましたが、プライベート・エクイティ・ファンドやバイアウト・ファンドがもっと活発に活動できる状況にあれば、ハコモノであるそのような機構を作る必要は無かったのでしょうか。作るとして、どのような活用の仕方が望ましいと思われますか。

A:

米国でプライベート・エクイティが活発になってきたのは80年代初めのこと。70年代はコングロマリットがもてはやされたため異業種が入りまじって、マネジメントできなくなりました。そこで、コアとノンコア事業に分けてノンコアを引き受けたのが当時のプライベート・エクイティ・ファンドです。当時、税制が変わって公的年金資金がそのような分野に投資できるようになって資金環流のメカニズムができてきたんですね。日本で事業に資金が回らないのは、一方で1,200兆円といわれる個人資産がありながら、資本市場からお金が入らず、銀行も融資をしない、第3のルートも無い。事業が成長しようにも、設備投資や研究開発に資金が回ってこない。米国で起こったことは、プライベート・エクイティをひとつの媒介にして膨大な年金資金が事業に環流するメカニズムができてきた、ということです。日本でもお金のフローを作っていくことが大切です。
事業の再生にはファンドがたくさんあればいいということはありますが、そのファンドに資金がついてこなければなりません。本質的にファンドとは息の長い仕事であって、年々の配当を期待しないような資金が入ってこなければなりません。世界的な傾向としては、年金です。また、企業のやり直しの目処がつくまで(我々は)通常2-3年かけますが、(再生機構が)100件、200件といった件数をどれだけの人数でやるのでしょうか。企業を再生させるエキスパートにモチベーションやインセンティブがないと、簡単にできる仕事ではありません。それをサラリーマンという体制で本当にできるのか、ということを強く感じました。

Q:

竹中PTで企業再生が課題になる中、良いビジネスを良い価格で買うチャンスであるとお考えでしょうか。

A:

売り手の意思決定が非常に大きな障害となっていて、良い悪いは別にして強いプレッシャーがかからないと意思決定が進まない。その意味で、大手企業を含めて意思決定が加速される面はあると思います。しかし、良い企業を安く買うことについては、私はあり得ないと思っています。安く買えるのは悪い企業です。他に買う人がいないから安く買えるのであって、掘り出し物といった買い物はありません。
会社がつぶれた方がいいのか、という話については、妙な形でサポートを受けて、過剰供給・過剰設備のマーケットで、本来「座席」が無いにもかかわらず多数の企業がいる、という状況だと健全な経営をしている企業まで圧迫を受けます。一見、日本では利益をシェアしている、雇用を確保してきた、というように見えますが、日本だけの閉鎖された市場で考えるのならそうでしょうが、国際競争力は弱くなってしまいます。日本の国力や経済力は低下してしまい、強い企業が育ちません。そこまで視野に入れて考えるべきではないでしょうか。

Q:

米国の年金などでalternative investmentの幅が広がったという話がありましたが、そのような動きは広まるでしょうか。

A:

今までのように5%の利回りという案件はないでしょうし、日本の投資家には、プライベート・エクイティには流動性が無いのでリスクが大きい、上場企業であればいつでも売却して手じまいできる、という考え方が強いのですが、アメリカの株式市場を見ると、IT関連株の時価総額は相当膨らみました。アメリカで株にインデックスで投資していたとしたら、相当IT関連のポートフォリオが大きかったということになります。一方、LBO/MBOが進んで成熟産業で上場企業から未上場化が進むと、上場株にいくら投資しても未上場化してしまった株は対象に入ってこない。従って、産業全体にまんべんなく投資しているかというとそうではないでしょう。
上場株や流動性のあるところにだけ投資をしていることと産業にまんべんなく投資をしていることとが本当に同じことなのかというと、必ずしもそうではないことが、IT関連株の時価総額が膨らんだということからもいえるわけで、リスクを分散するには未上場株をどうやって取り込むか、alternativeをどうやって取り込むか、真剣に考えなければなりません。プライベート・エクイティはごく一部の企業年金が、投資を始めたという段階だと思います。

Q:

投資リターンを得るまでの期間をどのくらいで考えていますか。また、リターンの得方は上場なのですか。案件毎に違うのならその説明もお願いしたい。

A:

今のファンドの期間は10年で契約上は2年延長できることになっているので、初年度に投資すれば最長12年になります。経営戦略を変えることまで考えていますから、最低でも2-3年はかかる。そこからリターンが出てくるまで2-3年、従って成果が出るまで5-6年。これはファンドに限らず、事業会社でも5年経てばいろいろ変わるので、5年がひとつのサイクルではないかと思います。
リターンは上場もあれば、合併という方法もあります。また、日本で上場する場合もあれば、事業がグローバルになれば日本以外の上場もあり得る。さらに、何が何でも上場を考えているわけでもなく、無理はしません。上場もプロセスのひとつで、さらなる企業の成長可能性があると思えば手放すことはせず、その後もコントロールを持っているケースもあります。株式交換を使って企業を買収して大きくなるという方法もとれます。かなり、ケースバイケースです。

Q:

税務上の制約について具体的に教えて欲しい。

A:

ひしひしと感じているのは不良債権処理の部分で、債務の切り捨てや延長のところです。損金処理をどうするか、ということは常に銀行と話をしています。連結納税の問題もあります。それからストックオプション。たとえば、株を渡すと投資実現される前に課税されてしまうことがあるわけです。普通は資金が入ってこないうちに税金を払いたくない。適正なモチベーションとインセンティブでもっと力を発揮できるはずで、そうするとファイナンシャルとノンファイナンシャルでモチベーションをどうやって上げていくのかというのは大きな課題です。

Q:

投資銀行のプリシンパル・インベストメントという業務とプライベート・エクイティに経営参加するという業務の違いは?

A:

投資銀行のプリシンパル・インベストメントも基本的には差がありません。差があるのは、投資方針や投資対象です。ただ、投資銀行の中でプリシンパル・インベストメントをやると他の業務とのコンフリクトが潜在的に出てくるのでそれをどうするのかが問題です。実際の事例では、完璧なチャイニーズ・ウォールを決めて、ボードメンバー以外は人も完全に分けてしまっています。このように非常に厳密な運営をすると、限りなく独立したプライベート・エクイティに近い業務になります。投資銀行の場合、資産を使う業務と使わない業務のバランスが常に問題になります。儲かっているからといってそればかりやろうという話もありませんし、人的資源についても、内的資源でやっている場合と外から集めてくる場合もあるでしょう。投資銀行にとってプリシンパル・インベストメントはやってもいいけれど、やらなくてもいい。他方、プライベート・エクイティにとってはそれが本業なので、これをやります、と宣言してやっている。むしろその差が大きいのではないでしょうか。

Q:

レバレッジ・ファイナンス参入にあたって、今後3年の日本のプライベート・エクイティのマーケット、買収のマーケットは更に大きくなると見ていらっしゃるのですか。

A:

非常に難しい質問ですが、マーケットサイズが把握しにくい状況で、案件発掘はこちらから出向いて相手を説得する、ということが最も多いのでプロアクティブなビジネスをするプレーヤーがどれだけ増えてくるかです。潜在需要はあっても、その掘り起こしができていないので黙って待っていても話は来ない。運営されているファンドの中には、忙しくて仕方がないと言っているところと、案件が全然無いと言っているところがあります。潜在需要は、エクイティ部分だけでなく、デッドの部分も同じです。プレーヤーがどれだけ増えるか、つまり潜在需要をどれだけ掘り起こせるか、ということにかかってくると思います。

Q:

日本でのファンドや外資系に対する消極姿勢についてはどう思いますか。また、銀行が自分でファンドを立ち上げて、銀行の案件をそちらに回すことで資産をバランスシートから落とすという動きがありますが、マーケットに適正なプライシング能力があるのでしょうか。

A:

外資(らしきもの)に対するアレルギーは常にあるし、避けがたいと思っています。そもそも外資、内資という区別は何なのか曖昧です。自分たちの考え方を丁寧に説明するしかないと思っています。
銀行のファンドについては、プレーヤーが増えた方がいいと思っています。日本経済の中で重要な役割を担っていくという認識が高まるほど仕事はしやすくなります。過当競争になるかというと、潜在需要はたくさんあって、大手銀行をとってもその対象になる案件がいくつあるかわかりませんが、50や100ではないでしょう。とすると、大きなファンドを作ったところでそれでも対応できないくらいで、潜在需要の奥行きは相当、深いと思います。ただ、銀行に関していうと、どういう人がどういう資格でやるのかなど、構造上の問題はずいぶんあると思うし、コンフリクトやチャイニーズ・ウォールなど解決しなければならない課題は多数あります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。