多様化する女性労働者と少子化について

開催日 2002年3月6日
スピーカー 藤井 龍子 (内閣府情報公開審査会委員(元労働省女性局長))

議事録

はじめに

自分は研究者ではありませんが、30年間労働省で公務員として仕事をし、ちょうど小渕内閣、森内閣で少子化対策をいわれていたときに女性局長をしておりました。そこで、このBBLの機会に、働く女性と少子化について若干誤解をされているのではないかと思うこともありますので、そのあたりのお話をしたいと思っています。
なお、私はすでに旧労働省を離れておりますので、本日のお話は厚生労働省の公式見解とは異なった個人的見解ということで、ご容赦ください。

働く女性の現状を見る

-女性労働力人口の、年齢・配偶者関係別推移

女性のうち、ある年齢で実際にどれだけの人が働いているかというのが労働力人口のカーブといわれるもので、年齢ごとに出されています。日本の場合は「M字型カーブ」を描いているといわれます。25-29歳、35-39歳の年齢層で労働力が落ち込み、40歳以降はまた増加しているという形です。平成3年と平成13年を比べてみますと、20-40歳代ではほとんど変わっていませんが、凹んでいる25歳から40歳までの間がそれぞれ少しずつ上がっている、すなわち働く女性が増えているということがお分かりいただけると思います。ただ、この10年でわずか5-6%程度の増加です。

配偶関係別の労働力を見てみます。有配偶の25-49歳の労働力率がほとんど上がっていない、むしろ下がっているという年齢層もあることがわかります。つまり、結婚した女性が働くようになったために労働力率が上がったわけでは必ずしもなく、未婚者が増えたために全体の労働力率を引き上げているというのが正しい見方だと思います。

諸外国との比較ではどうでしょうか。1997年の男女と、その約20年前の女性の労働力率を見てみると、まず米国では労働力率が各年齢層で上がっています。しかも結婚したら下がる傾向を示していたものが下がらなくなっている。次にスウェーデンですが、これも約20年の間に25歳以降では労働力率が上がり、ノルウェーでも同様にいずれの年齢層でも高まっています。ノルウェー、スウェーデンでは20年前はM字型に近かったのが、この20年で山型、台形になっているようです。ドイツは1978年に25歳以降は低くなりっぱなしだったのが、20年後に山型になっています。フランスも20年前はストンと下がって、馬の背型だったのが約20年経つと山型になっている。諸外国を見ると20数年前は馬の背、あるいはM字型だったのが、この間、国連が提唱した「国際婦人年」や「差別撤廃条約」、日本では「雇用機会均等法」などが整備され、結婚出産後も普通に継続して働くことが諸外国の女性の間では普通になってきたといえます。

男性と女性の平均の労働力率を見るとスウェーデン、ノルウェーはほとんど差が無い、ところがドイツ、フランスについてはかなり差があります。さらに、日本の場合は男女に相当の開きがあるということがわかります。

-高卒はM字型で、大卒はキリン型

学歴別に女性の働き方を見ていきたいと思います。平成1(1989)年と平成11(1999)年のデータを比較してみましょう。大卒の方の労働力率は22-24歳の93.4%からどんどん下がり、30-34歳で62.4%と約30ポイントダウン、その後40歳代になってもあまり上がらない。それに比べて高卒は下がった後、40歳以降に再び働く傾向があって、71-72%までのぼっています。40歳代では大卒で働いている人よりも高卒で働いている人のほうの割合が高いということがいえます。したがって高卒はM字型で大卒はキリン型-つまり若い頃はほとんどの方が働いているのに結婚出産で退職して40歳を過ぎて子育てが終わっても再就職されるほうが少ない。

諸外国に比べて日本は高学歴女性の労働力率が、少なくとも今までは低い。毎年、新規に学卒で就職する人の学歴構成は、昭和50(1975)年は高卒が64%、大卒が8.5%。その後、どんどん短大卒・大卒の割合が高まり、平成13(2001)年には四大卒の女性が新規就職戦線ではメインになってきました。高卒を抜いたのが平成13年、短大卒を上回ったのが平成11年頃。ところが四大卒は就職率が高いが再就職率が低いこと、今後もそれが維持されると考えると、教育を投資コストと考えた場合、国としては教育投資の効率が悪いといわざるを得ないわけです。これは国民経済にとって多大なるマイナスではないでしょうか。

-総合職女性は、本当にすぐ辞めるのか?

そこで四大卒の女性が働く形態として最も具体的なイメージである総合職を見てみます。男女雇用機会均等法(1986年)の施行に伴いまして、金融機関や大手企業を中心に導入された新たな人事管理制度(コース別雇用管理)で、それまでは男性が幹部要員、女性が補助職だったのが、雇用機会均等法でそれが認められなくなりました。それで総合職を幹部要員、一般職を補助職として採用するようになります。総合職にどれだけ女性が配置されているのかを735社のコース別雇用管理制度をとっている企業に調査したところ、40.5万人のうち女性は1.4万人、したがってわずか3.5%という状況です。

「総合職女性はすぐ辞める」と一般的にいわれますが、本当にそうでしょうか。採用年ごとに残存率、つまり継続就業率を見ると、昭和60(1985)年以前のものとそれ以降平成11年までのものを含めて、全体で60.3%が継続して総合職として働いています。昭和60年以前、すなわち均等法以前に採用された意識の高い方は58%、いわゆる均等元年にあたる昭和61(1986)年に採用された方は54.6%、平成2、3(1989,90)年は44%に落ち込んでいますが、非常に大雑把にいうと半分は総合職として頑張っているという状況です。10年経っても5割残っているというのは四大卒の男性の残存率と比べても、私は決して低いとは思いません。

ただし、総合職というのは幹部要員として採用したわけですので、当然管理職の女性比率も高まらなくてはいけないわけですが、残念ながら今のところ、係長クラスで若干増えていますが、部長課長クラスは横ばいです。これは日本の昇進制度が長期雇用を前提としており、均等法施行からまだあまり年月が経っていないことを考えるとやむを得ない部分もあるのではないかとも思います。大企業等の話を聞くと、均等法元年に入社した女性総合職の中から、そろそろ課長相当職の人が出てきつつあるそうです。将来的には女性管理職比率も高まることを期待しています。

-専門職急増に見る、働く目的の変化

他方、女性の弁護士、公認会計士、医師等の専門職、資格職が非常に急激に増えております。大企業の女性管理職はあまり増えていないのに専門職が急激に増えている、その理由はなぜか。東京都の助成財団が都内の大学生・短大生にアンケートした結果を見ると、仕事のイメージは「自己実現を達成するため」という回答が33.8%で一番高く、次いで「知識・見聞を広げるため」26.9%、「生活費を得るため」20.6%と続きます。また10年後の自分の働き方を答えてもらうと、「専門職として仕事を継続」という比率が32.6%と非常に高い。次に、「管理職を目指して仕事を継続」9.5%、「事務職として仕事を継続」14.6%、「フリーで仕事を継続」5.3%、「自分で仕事を起こしている」3.0%という順になっています。自己実現を達成するために仕事をする、ということになると専門職を目指す方が多くなるということではないでしょうか。回答結果を見て受ける印象は、答えがバラエティに富んでいるということで、男性に同様の質問をしたら「管理職を目指して仕事を継続」が多数になるのではないかと思います。

「女性が仕事を持つことについて」という調査では、平成12(2000)年2月時点で「子どもができたら職業を辞め、大きくなったら再び職業を持つ方がよい」(37.6%)という再就職型のパターンが、平成4年、7年に比べて減ってはいますが、相変わらず他の選択肢に比べると多いという結果が出ています。特に、20、30歳代が、平均より高くこの項目にしるしをつけていることがわかります。2番目は33.1%の「子どもができても、ずっと職業を続ける方がよい」という継続型。平均値では「再就職型」と「継続就業型」が徐々に接近していると申し上げていいのですが、女性の20歳代、30歳代の欄をご覧いただくとあまり接近していない。これを見る限り、当分、日本の労働力率曲線はM字型が続くのかもしれません。

-非正社員として働く女性が増加

具体的にはどのような就業形態を女性が選択しているか。平成6(1994)年と平成11(1999)年の5年間の変化を見てみましょう。平成6年は全体で61.4%が正社員として働いていたのが、平成11年にはその比率が53%になって、代わりに非正社員比率が高くなっています。その非正社員47%のうち約40%がパートで、それ以外が契約社員や臨時的雇用者です。特に産業別に見ると卸業・小売業、飲食業にパートが多いことが分かります。

それでは女性が非正社員として働いていることをどう評価すべきか。諸外国の状況と比較すると、諸外国も半分の女性はパートです。パートタイム労働者の定義が各国によって違うということはあるんですが、ここでは1週間、ないしは1カ月の労働時間が通常より短いものを指しています。日本の場合は35時間未満を労働協定ではパートタイム労働者といっています。これを勘案しつつ比べると北欧では女性労働者の47%がパートです。オーストラリア42.3%、ニュージーランド35.7%。他のヨーロッパ諸国の中でフランス26.3%、ドイツ32.0%です。今話題のワークシェアリングで有名なオランダは63.0%、イギリス43.8%となっております。したがって、パートすなわち短時間勤務というのは、どの国でも女性が仕事と家庭を両立させるために選択しやすい働き方であるといえます。

では、日本との違いはどこにあるか。出産時にパートという形態で働き続けられる女性が諸外国には多いためなのではないか。それが山型の労働力カーブに反映されているのではないか。またフルタイマーとパートタイマーの賃金格差が日本に比べると小さい、あるいはほとんど同じところもあります。これは雇用環境の違い、法的整備の違い等の問題もあるかと思います。

少子化の真の原因は何か

女性が働くようになって経済力がつき、結婚しなくなった、未婚率が高くなった、四大卒が増えたことで晩婚化・晩産化が進んだ、といったような説明が少子化現象について今まではされてきました。未婚率が高いので結婚さえさせれば子どもが生まれる、したがって結婚奨励策をと、それこそよく官邸の方などがおっしゃっておられますが「夫婦完結出生児数」は変わらないとしていた。でも私の実感から昔は3人くらい子どもを生んでいたのが今は1~2人になっているようで、結婚さえしたら子どもを生むというのが統計で出ているのはおかしいな、と思っていました。統計を見ると完全出生児数は1948-52年生まれの方を基準にした統計しかとれていないので2.14人という数字が出ていますが、52年というのはいわゆる団塊の世代です。今の30歳代はそんなことはないということがわかりまして、したがって結婚さえすれば子どもができる、結婚奨励策をというのは間違っていたと、少なくとも未婚率の高さが出生率の低さの主原因とされていたのは正しくなかったということです。

毎年出産する女性のうち、どれだけが働きどれだけが主婦か、ということをさまざまなデータから推計して出してみました。平成7年度で118万人、今でも110万人台だと思いますが、これだけの人が出産していまして、そのうち働いている人は25.8万人、約2割強です。残りは専業主婦といっていいと思うのですが、92.2万人。要するに出産している女性の8割が主婦なので、働きながらの出産だけを考えてしまうと、残り2-3割の人を対象にした対策になってしまうのではないでしょうか。

末子年齢別に母親の就業状態を見てみますと、子どものいる世帯総数を100とした場合、下の子が0-3歳の時に3割程度の母親が働いている、逆に7割以上の方が働かない状態で子供を生んで育てているということです。4-6歳になると48.5%まで非常に増えていくのがお分かりいただけると思います。

諸外国では結婚しないまま子どもを生む女性が増えています。未婚女性の出産割合が全体に占める割合ですが、フランスでは1985年に20%だったのが、最近見た新聞記事によると40%に上昇しておりますし、イギリスでも19%から38.3%へと上がっているようです。まだ日本ではここまでデータにとれていないのではないかという気がします。晩婚化が少子化につながっている、という指摘について四大卒の方の結婚年齢と最終学歴別の完結出生児数はどうかを見てみました。それによると、中卒、高卒、短大卒、大学卒でほとんど差がありません。学歴別の女性のライフサイクルモデルの比較というデータも作ってみましたが、これも高卒、大卒で差がないという調査結果が出ています。

子育て支援についての意識調査ですが、出生児数と理想子ども数との開きの要因として最も多い答えとして出ているのは「一般的に子どもを育てるのにお金がかかるから」ということで、これが37.0%。「子どもの教育にはお金がかかるから」という答えも33.8%にのぼっています。ですから子育てには時間的、心理的、肉体的負担のほか、経済的負担がかかる、つまり経済的負担が大きいので子どもを生まないという夫婦がいるということも、認めなければいけないのではないかと思います。

少子化解決には、男女の雇用均等が必要

最後に「少子化に関連する諸外国の取組み」について、若干資料が古いんですがご説明申し上げます。フランス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデン、イギリス、アメリカ、日本が調査対象になっています。
スウェーデンなど北欧は雇用の均等度、ファミリーフレンドリー度も進んでいます。フランスは意外にファミリーフレンドリーに力を入れていて出生奨励策などもとっております。オランダはフランスよりもフレンドリー度が低く、独伊はご承知のとおり男性が外で働き女性は家にいる、という考え方の強いところですので均等度は低いです。ただ、ドイツは一生懸命育児奨励策を進めていますのでファミリーフレンドリー度は高い。かたやファミリーフレンドリーな政策はあまりやらないけれども、均等度は高い、というのが米英ではないかという感じです。日本は均等はまだ進んでいないし、ファミリーフレンドリーは若干といったところです。もちろん、宗教的、文化的といったさまざまな背景がありますので一概にはいえませんが、特にアメリカ、イギリスは自己責任を基本に据えています。特殊出生率はデンマーク1.75、スウェーデン1.52、オランダ1.53、フランス1.75、ドイツ1.32でイタリア1.22、アメリカ2.03、イギリス1.70、といった感じになります。したがって、誤解を恐れずに申し上げれば、少子化だからと子育て策を拡充しようとしていますが、それだけでは不十分で、均等度も進めなくてはならないということを最後に申し上げたいと思います。

質疑応答

Q:

1.中小企業の女性の均等度をどう考えるか。大企業の雇用環境ばかりが議論される傾向にあるが、事業者数に占める中小企業の割合は8割以上です。自己実現を図りたい、という女性にとって有力な職場になりうるのではないでしょうか。

2.女性の労働力市場参入への環境整備の必要性が挙げられていますが、他方、物事にはメリット、デメリットの両面があります。つまり、女性が外で過ごす時間が長くなると教育、家庭、環境、地域といった観点から影響があるのではないでしょうか。

A:

1.中小企業の総合職女性の構成比を見ると、その割合は高まっているといえます。中小企業は千差万別だと思いますが、もともと中小企業は女性にとって働きやすかった。その理由は、中小企業の場合、均等度が高かったからです。ただ、ファミリーフレンドリー度はあまり高くなかった。企業は規模が小さくなるにしたがって、均等度はそれほど高くないけれどもファミリーフレンドリー度は高くなる、という傾向にあります。子育てや介護について非常に配慮の行き届いている企業が中小企業に多い。女性政策の流れでは中小企業は働きやすい職場です。中小企業政策の中での配慮、制度整備が必要で、さらに均等度を高めることが今後の課題でしょう。均等度を測る最も端的な尺度は管理職への登用度です。経営者の意識が影響する、あるいは上司の意識にも関係しますが、優秀な女性を活用したければ、均等度とファミリーフレンドリー度をバランスよく高めていくための環境というのが必要です。

2.出産している人の8割は働いていない状態で、そういう方々が専業主婦として子育てをしているということになるわけですが、たとえば児童虐待や母親同士の確執などが生まれているのも事実ですね。マクロ的に見ていくと、家庭や家族というのは歴史的にさまざまな変化をしている。家族の機能は老人の介護、育児、やすらぎであるかと思うのですが、今の社会において、この3つの機能を家族に期待できるか。事実として(べき論ではなく)まず、介護は難しい。以前は家庭内で介護することができたんですが、それは時代の流れの中で破綻してしまっている。次に、育児機能というのを家族だけに100%期待するというのは、はたして今の状況で正しい考え方なのか。介護は外生化したので育児もそういう考え方をしていかざるを得ないのではないか。家族の育児機能を外部化・社会化していく、ということを本気で考える時代になってきた。もちろんデメリットもあるとは思いますが、育児を家庭の中に閉じこめておくデメリットのほうが大きくなっている。そうなると、家族のもっとも大きな機能は「やすらぎ」である、という流れになってきているのではないでしょうか。

Q:

出生率を高めるために均等率を上げる、という因果関係がわからないのですが。

A:

古典的な男女の役割分担意識が非常に強いために出産を手控えているといわれている、という点が1つ。もう1つは、日本は相変わらず再就職型が多い。しかし、年齢制限がある。早く就職しないといいところに就職できない、という状況でした。
最も、再就職自体の労働市場が柔軟になってきた。そういう労働市場であれば、ゆっくり子供を生んで、子育てをして、働きたい時に働きに出る、というパターンになりうる可能性もあります。

スウェーデンでの例を挙げますと、就業率が落ち込んだ後、回復した理由は休職中の失業保険を切り下げたことも影響しているかもしれませんが、経済が停滞して失業率が高まってしまったこと、特に女性の失業率が高まり、ゆっくり子供を生んでいる場合じゃない、という心理にさせたことが原因であるといわれています。雇用は大きなファクターです。就職したい時にちゃんと収入を得られる職業に就けるか、というのが子どもを生む時に重要です。

Q:

労働力率のカーブを改善するためにはどうすればいいか。

A:

経済の見通しが出生率に相当、関係をしているのではないでしょうか。スウェーデンは一定期間、短時間雇用制度で子育てと仕事を両立させながら働く、ということが一般的になりました。短時間雇用制度が上手に導入されたことがプラス要因です。正職員としての立場のまま短時間労働が認められる、というところがポイントで、日本でもこの短時間雇用制度が導入されないかと考えています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。