中国・台湾関係-異なる認識と考え方

開催日 2002年2月12日
スピーカー Ramon H. Myers (Senior Fellow, Hoover Institution)
開催言語 英語

議事録

「分裂した中国」とは何か

「分裂した中国」についてお話したいと思います。日本、台湾、そして米国では、「台湾問題」という表現が一般的ですが、より正確には「分裂した中国」問題と呼ぶべきだと思います。これは、中国と台湾が互いの関係について持っている、異なる認識の問題です。

まず、「分裂した中国」とは何かということですが、中国では、エリート層から一般の人々まで、台湾は中国の一部であり、中国は中華人民共和国とその憲法のもとに統治されていると考えています。台湾の事情はもっと複雑で、2つの異なる考え方があります。1つは2年前に政権を去った国民党が支持する考え方で、台湾は中国の一部であるが、台湾を統治するのは中華人民共和国ではなく、中華民国であるというものです。この考えを支持する人々は、最終的には台湾は1国2制度のもと中国に統合されるべきだとします。これに対し、最近台頭してきたもう1つの考え方は、台湾民族主義とも呼ぶべきものです。これは、台湾はもともと独立主権国家で、1940年代の後半のわずかな期間だけ中国の統治下に置かれたというものです。この考え方を反映し、中国ではなく台湾に自己のアイデンティティを求める人が増えています。彼らの考えによれば、台湾は中国と特別な関係を築くべきだが、その関係はあくまでもその他の諸外国との間に構築するような外交関係の延長線上にあると考えます。陳水扁・現政権が支持する考え方でもあります。

以上のような異なる認識が存在することで、おのずと緊張や摩擦が生じます。その緊張を解きほぐすためには、その原因である異なる認識を注意深く考察しなければなりません。中国は、5年、10年先、脅威になるのでしょうか、それとも、アジア太平洋地域にとって友好的なパートナーとなるのでしょうか? 中国は、異なる考え方の存在を許容するのでしょうか? それとも混乱がおこり、この地域、ひいては世界に新たな不確実性をもたらすことになるのでしょうか? 私が「分裂した中国」問題が重要だと思うのは、以上のような問題を提示しているからなのです。

陳水扁政権下の台湾の状況

まず、台湾の状況についてお話しましょう。約2年前発足した陳水扁・現政権にはいくつかの特徴があります。第一に、陳政権は中国との話し合いについてはたいへん積極的であるものの、それはあくまでも「1つの中国」という原則に立たないことが前提であるということ。第二の特徴は徹底した中国的要素の排除です。つまり、道路の名前からパスポートのスタンプにいたるまで、中国に関連する表示やシンボルをことごとく取り除くということです。第三の特徴は、教科書の内容変更です。新しい教科書を注意深く読むと、中国についての言及がきわめて少なく、日本の植民地政策が台湾に恩恵をもたらしたという記述があることにお気づきになると思います。陳政権は、中国についての言及を極力さけます。旧政権下では、大学の研究所などで、中国の統合政策や公共政策について研究が活発でしたが、現政権は台湾の歴史・政策についての研究を推進しています。陳政権は、ある意味でギャンブル的な戦略をとっているとみることができます。そしてこの戦略の水面下で、静かに台湾民族主義を推し進めているのです。

陳水扁の民主進歩党内には、中国が進めている改革について懐疑的な見方があります。もちろん9月の党大会以降、党改革が進むと見る向きもいますが、大方はもっと悲観的で、WTO加盟による失業問題悪化など、中国には大きな問題が待ち構えており、改革にはまだまだ時間がかかると見ています。

陳水扁総統および民主進歩党内の一部強硬派に見られるこのような中国改革懐疑論は、対中国関係がどんなに悪化しても、いざとなれば米国が台湾の民主主義を守るべく、助けてくれるだろうという信念に依拠するものです。

さて、政権外にいる政党の動きはどうでしょうか。国民党と親民党は、選挙で共同戦線を張るというところまでには至っておらず、ここ2、3年は、大きな政治勢力になることはないと思われます。ただ、これは両党間の人間関係などに起因するもので、主義主張は似通っています。中国を無視することはできず、故に、「1つの中国」原則にもとづいた交渉も受け入れていかなければいけない、という考えを共有しているのです。

中国政府から見た台湾

中国政府の考えはきわめて明確で、台湾をその母国たる中国に戻すことは、最重要課題と位置付けられています。米中間で1972年、1979年、1982年に3つのコミュニケが調印されましたが、そのいずれにおいても台湾が中国の一部であることを米中両国が認めるとの記述があります。これは対米のみならず、全世界に向けて中国がやっていることです。中国と何らかの関係を持ちたい国は、必ずこの「1つの中国」原則、つまり台湾は中国の領土で、統治するのは中華人民共和国であることを認めなければならないのです。

ここ2年ほどのあいだに、興味深い展開がありました。中国は台湾に対して「新・1つの中国」原則を持ち出してきたのです。対全世界に対してはあいかわらず旧来の原則を維持していますが、台湾に対してのみ、中国はより柔軟な姿勢をとりはじめています。今、中国には2つの「1つの中国」原則が存在するのです。

中国政府の姿勢はこうです。台湾は中国と「1つの中国」原則に基づいて話し合うべきだという主張は維持しつつも、「1つの中国」が意味するところは、中国と台湾は対等のパートナーであり、いかなる問題についても対等のパートナーとして話し合うことができる、というものです。皮肉なことに、この中国の姿勢は1992年当時の国民党の考え方と同じなのです。しかし、陳総統ひきいる現政権は中国のこの柔軟姿勢を拒否、中・台間の正式交渉は開かれていません。

中国政府のもう1つの対台湾政策の特徴は、台湾との経済統合の積極的な推進です。過去数年間、とくに台湾経済の悪化を背景に、多数の台湾企業が中国に進出し、直接投資をすすめ、台湾から中国への人材の流入も活発に行われています。

中国政府はまた、民主進歩党のリベラルな党員を招聘し、さまざまなかたちで台湾との交流をすすめたいという姿勢を明確にしています。ただし、陳水扁や台湾政府の代表を招聘するかというと、そういうわけではありません。彼らが、「1つの中国」原則を受け入れないかぎり、それはありえないと思います。

今後の中台関係で予測される3つのシナリオ

これから2、3年先の中台関係を展望すると、3つのシナリオが考えられます。まず、民主進歩党政権が続くシナリオですが、この場合、中国と台湾の交渉再開の可能性はほぼないと考えられます。もし、野党が権力を高めることができたら、交渉再考の余地が生まれると思われます。第三のシナリオは、何らかのかたちで台湾の現政権と野党の間に妥協が図られる、たとえば、民主進歩党がより中国に対してオープンになるようなケースが考えられます。

米国政府は、おそらく中国・台湾両方との関係を良好に保つ努力をすると思われます。中国とは3つのコミュニケに基づいた関係を維持し、台湾とはインフォーマルな関係を保つべく、武器輸出を続けることになります。不明確で矛盾した外交政策ですが、この戦略はいまのところうまくいっているし、米国政府は今後もこの戦略を維持すると思います。

米国は中国との関係をなんとか良好に保ってきましたが、その一方、米中双方で相互不信がつのっています。そして、その根底にある「分裂した中国」という問題は、この状況は今後改善し安定に向かう可能性もありますが、新たな争いの火種となる可能性として存在するのです。

質疑応答

Q:

台湾は、中国との直接のコミュニケーション、貿易、人的交流を禁止していますが、中国・台湾のWTO加盟によって中台経済・貿易関係はどのような影響を受けるのでしょうか?

A:

中国がこの件を問題にするとは思えません。中国はすでに多くの人材・資金をひきつけているので、あえて問題にする必要性が見当たりません。逆に、この件を問題とすることで、陳政権に恩恵を与えてしまうことになりかねません。台湾はこれまで十分辛抱強くやってきた、なぜ、中国と「特別な外交関係」を築くことができないのかと対外的にアピールし、対内的には、台湾は中国に対して立ち向かうことができるということをアピールする機会を与えてしまうのです。

Q:

台湾の経済界は台湾の政治においてどのような役割を果たしているのでしょうか?

A:

台湾の経済界は、中国へ進出する上で自分たちが有する利点を認識しているし、中国の改革が進むことでビジネス環境はさらによくなると考えています。中国でビジネスができるならやろう、というのが彼らの一般的な姿勢です。ただ、台湾人の心理というのは複雑で、彼らは国家としての台湾に自己のアイデンティティを求め、民主進歩党を支持しています。手のひらにケーキをのせ、なおかつ食べたい、という矛盾した願望を持っているのです。したがって、なるべく政治には関らずビジネスに専念する現状維持派が経済界の大勢を占めています。

Q:

中台間の緊張が高まるというのはどういうことでしょうか? 台湾は中国共産党の改革をどうみているのでしょうか?

A:

陳政権があと数年とどまれば、台湾は米国から武器を買いつづけ、このことは対岸における軍備増強を促します。現状では様子見している中国も、台湾の対中姿勢が改善することを永遠には待ってはいられず、その姿勢を硬化させる可能性があるということです。
もう1つの質問についてですが、台湾の識者の見方は分かれていると思います。党内改革が進むだろうという楽観的な見方の人もいれば、そうでない人もいます。

Q:

いずれにしても共産党単独支配は存続するということでしょうか。

A:

そのとおりです。台湾で国民党がそうであったように、中国共産党も権力を分かちたいとは思っていません。中国における改革派が求めているのも、あくまでも党内の汚職をなくし、党を改革することなのです。

Q:

なぜ中国は台湾との統合に固執するのでしょうか?

A:

まず、愛国心です。長いあいだ失っていた領土をとりもどしたいという強い願望です。そして国境を強固なものにしたいということ。この2つが大きな理由だと思います。もちろん、台湾統合に経済的な利点も見出しています。

Q:

米国政府内では中国・台湾の動きをどう分析しているのでしょうか?

A:

米国政府内で何が起こっているか推測するのは至難の業ですが、私は、9月11日のテロ事件以前の段階で政策転換があったと思います。中国は脅威であり、米国はこの地域における軍備を増強しなければならない、というものです。米国はより厳しい態度で中国に臨むだろう、と思われました。これに対し中国は、冷静を保ち、懸念はしているが、反応しませんでした。9月のテロ事件をきっかけに、この状況が変化し、米国は中国を含め、対全世界に対し友好的な態度に出ました。今月のブッシュ大統領の訪中でさらに米中間の友好は高まると予想します。ただ、その一方でつい先ごろ、ブッシュ大統領が派遣した政府高官は、台北でとても台湾に好意的な講演をしました。台湾とは友好関係を保ちつつ、中国との関係改善にもまじめに取り組んでいる、というのが現状のようです。中国は、ブッシュ大統領の言動を不快に思いながらも、米国と良好な関係を保ちたがっています。米中両方とも2国関係を良好に保つべく腐心していますが、中国のほうがより多くの労をとっているように思います。

Q:

李登輝前総統の新党結成をどう見ていますか?

A:

李前総統は、大変な親日家で、国民党のリーダーとして台湾総統の地位に登りつめました。でも心の奥底では、彼は台湾民族主義者で、今は陳水扁総統ときわめて近い関係にあります。昨年夏、彼が新党を結成することで国民党をさらに分割し、本来の意味での野党をなくそうとしたのだと思います。李前総統は、陳水扁の民主進歩党が政権与党としての地盤を固める手助けをしているのです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。