破綻銀行処理の日米比較

開催日 2002年1月28日
スピーカー 高月 昭年 (明海大学 教授)
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議事録

はじめに

今後、金融機関の破綻が続くと思われますが、当然ながら金融サービスの受け手である企業サイドへの影響が予想されます。したがって、金融機関が破綻した時、どのように処理され、どのような影響が周りに出てくるのかを今日はここでお話させていただこうと思います。

日米銀行構造の違いと金融機関破綻のインパクト

はじめに頭に入れておいていただきたいのは、銀行の構造が日本と米国で全く異なるということです。一見、銀行がつぶれるのは日米双方同じように見えますが、日本と米国では資金循環、つまりお金の流れの中での銀行の占める割合が全く異なります。2000年12月の統計では、日本の金融機関が持っている国内預金は500兆円弱、これはほぼGDPに匹敵しているのに対し、2001年9月の米国における統計では、4.4兆ドルで、これはGDPの半分以下です。

次に、銀行の構成においては、日本は総じて資産や預金の量などが大きい銀行が少数しかないのに対し、米国の場合、銀行の数が非常に多く、加えて全体のパイが日本と比べて相対的に小さいので1行あたりの規模がとても小さいのが特徴です。2001年9月の段階で、米国には8,149行の銀行があります。これは淘汰された後の数字であり、大恐慌以前は3万行ほどありました。現在1銀行平均の国内預金残高は約4億4千万ドル(約530億円)になります。その他に、貯蓄機関が、現在1,533機関あり、1機関平均約5億8万ドル(610億円)の預金残高を持っています。平均すると、1機関、1銀行あたり600億円程度しか持っていないことになります。霞ヶ関界隈の大手銀行の1支店が平均約2000億円を持っていますので、米国で1つの銀行が破綻することは郊外にある日本の都市銀行の平均的1支店が破綻するのと同じようなインパクトを世の中全般に与えます。もう1つの大きな特徴は、非常に寡占が進んでいることです。2000年の統計では、総銀行数8,356の内、総資産順位で上位10大銀行が銀行全体の総資産の37.8%を、11位から100位までにランクされる銀行が、全体の34.4%を占めています。上位の100銀行で全体の70%を占めていることになりますので、これ以下の銀行がいかに小さいかということは、容易に想像ができると思います。ちなみに、破綻した銀行は大手ではありません。

一方、日本の場合は、一番小さい業態である信用組合でさえも639億円を持ち、しかもこれは付保預金という預金保険のバックアップのある預金のため、いわゆる外貨預金や譲渡性預金はここに含まれていません。これは、米国の預金の定義よりもさらに狭い定義で捉えられているにも関わらず、その金額は米国の平均を凌いでいます。

次に、銀行が破綻した時、銀行に預けてある預金の何割までが預金保険で保障されるのか、という問題です。日本の場合は、1000万円までの小口預金は100%カバーされますが、1000万円を超えると、預金者の負担になります。米国では、2000年12月現在、銀行預金は69.5%、貯蓄機関(個人の資金を集めて主に住宅ローンや消費者ローンを主に行っている機関)は91.5%保護されます。銀行と貯蓄機関でずいぶん格差があるように見えますが、実際そうではありません。米国では寡占構造が発達している上、資産を独占している上位の数行が、たとえばシティ・バンク(Citi Group)やチェース銀行(J.P.Morgan Chase)が積極的に海外業務を展開し、海外預金をマーケットから取り入れていますが、海外預金は保険の対象にならないので、それを除くと90%は預金保険で保障される計算になります。日本の場合は、これと比較するデータがありません。預金保険機構の年報を見ますと、2001年3月末における総預金に対する被付保預金は83.9%と発表されていますが、ここでの「被付保預金」とは、預金保険の対象になる預金の全てを指し、銀行が持っている預金の種類によって最初から保険の対象にならないものは除外されています。金融機関保険、外貨預金、オプショナル預金、譲渡性預金などがそれにあたります。それ以外の普通預金、当座預金、定期預金などが対象となりますが、全額ではなく合計で1000万円までです。米国で言うところの被付保預金(insured deposits)とはこの1000万円以下という範囲内で捉えられている一方、日本の預金保険機構が言っている被付保預金は1000万円かどうかというのは関係なく、預金保険の対象となるもの全てを指しています。よって、米国の被付保預金と比較する場合、日本のデータがないことになります。日銀などの情報から推測すると、おそらく日本は米国の半分もいかないだろうと言われています。も1つの違いは保険でカバーされない預金(uninsured deposits)の処理です。米国も日本と同様に一般債権と同じ扱いをし、財産を処分してそこから配当を受けることになりますが、日本の場合はその時の配当順位が一般債権者と全く同じです。一方、米国では、預金者の場合、一般の債権者よりも順位が高くなっています。第1位は、清算処分のために必要であった経費、二番目が預金者、三番目が一般債権者、四番目が別の債権者、そして最後に、もし残れば株主への配当となります。このように米国では、預金者には預金は90%は返還され、残りも、配当順位が高いため、戻ってくる可能性が高いのです。それに加えて、日本ではあまり知られていないことですが、実質的には、FDIC(預金保険機構)が全額保護を実施しています。

FDICにおける全額保護について

米国での銀行破綻は基本的には、小規模ですが、時に、大きな銀行も破綻することがあります。歴史に残る有名なものとして、コンティネンタル・イリノイ銀行(Continental Illinois Bank and Trust Company, Chicago)があげられます。イリノイ州は、支店の設置に非常に厳しい州で、基本的に銀行は支店をもってはいけないことになっています。それにも関わらず、全米6位に位置するほどの大手銀行にのし上がった理由は、マーケットから資金を集めていたからです。このマーケットに悪い噂が流れ、大口の預金者が引いてしまったために、1984年5月に急速に資金繰りが悪化していきます。ちなみに、最初に引いたのが日本興業銀行だといわれています。そこで、さまざまな救済を試みましたが、資金流出はとまらず、最終的にFDICが全預金・全債権の保護を表明し、大金を注入しました。問題発生する直前の'83年末の総資産は406億ドル、これは'84年当時のGDPの1%でした。この比率を日本に当てはめると5兆円程度で群馬銀行や足利銀行などの比較的大手の地銀のレベルです。それがこれだけの大騒ぎとなりました。

2つ目の例として、'88年のテキサスの銀行が挙げられます。石油が産出するテキサスでは大量の井戸を掘りすぎた上、石油ショック後の80年代に、石油化学の価格が下がり、石油プロジェクト失敗の原因となりました。銀行も、これと併せて連鎖倒産してしまったわけです。最初に破綻を迎えたのが、ファースト・リパブリック・バンク・コーポレーション(First Republic Bank Corporation)です。これは銀行というより銀行持ち株会社ですが、州内に41の銀行を持っていました。テキサスもイリノイと同じように、支店を作るのが非常に難しい州であり、基本的に市内にしか支店を作れず、持ち株会社を作って、実質的な支店をあちこちに作っていました。総資産はその当時で、325億ドルです。これは、'88年のGDPの約0.63%で、日本の比率に直せば、3兆円程度であり、ごく普通の地銀レベルです。この時もFDICが緊急融資をし、預金・債権の全額保護を表明したと同時に、ブリッジバンクのNCNB テキサス・ナショナルバンク(Texas National Bank)の買収も行われています。NCNBはその後バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)と合併し、現在はバンク・オブ・アメリカとなっています。同じく、テキサスで'89年、エムコープ(MCorp)が破綻し、'89年には、テキサス・アメリカン・バンクシェアーズ(Texas American Bancshares)が倒産しました。両銀行とも他の銀行に譲渡されています。このように、個人に対して米国は非常に手厚い保護を行っています。

'90年代になると、ニューイングランド地方の銀行が深刻な状態になります。原因は、この地域には軍事関連の工場が多く、冷戦後、国防予算削減に伴い、軍事関連の工業が縮小されたことです。'91年1月6日にバンク・オブ・ニューイングランド(Bank of New England)という大手の銀行が倒産しました。日本のイメージでは、下位地銀になります。これも最終的にはFleet/Norstar Financial Groupが買収しました。

なぜ米国では銀行破綻処理がスムーズにいくのでしょうか。

第一に、支店を作る事を厳しく規制されているからです。'94年に法改正され、現在は他州にも支店を作ってもいいことになっていますが、それ以前は、連邦の許可、さらに州の中での規則で縛られ、銀行は、地理的に展開しにくいという不満を抱えていました。他銀行にすると、銀行の破綻は、銀行救済という大義名分のもとで低価格で破綻銀行を買収でき、プラスこれらの規制を潜り抜けることができるという利点があり、いい買い物であるといえます。第二に、経済構造が全く異なる点です。日本の場合は、喩えていうと金太郎飴のように不況というと日本全国どこに行っても不況です。しかし、米国の場合、地域巡回型です。米国全土が不況だということは1930年代の大恐慌以外ありません。銀行破綻は、80年代にカリフォルニアで始まり、テキサス、ニューイングランドと移っていきます。カリフォルニアは農業地域で、日本でいう食管統制のようなものをレーガンが廃止したため、米国の農業は国際的な価格競争力を失い、オーストラリアやアルゼンチンに負け始めます。その結果、農業に投資していた銀行もその波及を受け、破綻していきます。それが一巡すると今度は石油問題が発生し、これが落ち着くと冷戦の終結を迎え、軍需産業に影響が出てきます。このように米国が不況なのではなく、米国のどこが不況なのかが問題なのです。日本の場合は、銀行の破綻は規模が大きく、周りへの影響も大きい上、支店への制約がなかったので、どの銀行も破綻銀行を買いたがらないという処理しづらい構造になっています。

米国における破綻銀行処理の仕方

モニタリング(検査体制)が非常にしっかりしています。70年代にコンピュータが登場し、これを応用して、データを分析する近代的な検査体制を築き出したのが70年代の後半です。これは要注意銀行を容易に発見し、それまでのように、すべての銀行に立ち入り検査をする必要がなくなり、その銀行だけを集中的に検査することが可能になりました。オフサイト・エグザミネーション(Off-site examination、データ分析による検査体制)を重視する方向に70年代後半からシフトしていきます。しかし、情報を改ざんするとこのオフサイト・エグザミネーションでは見つけることができず、またこの実施方法は調査対象のグループを作っておき、その全体の動きと異なる動きをしている銀行を探すという方法ですので、もし全体が異常な動きをしているとチェックをすることができません。このオフサイト・エグザミネーションに偏りすぎたことが、80年代における不良債権や銀行破綻の原因の一部ではないかと考えられるようになりました。80年代の半ばから、再びオンサイト・エグザミネーション(on-site examination、立ち入り検査)のほうに重点がおかれるようになり、これと合わせてオフサイト・エグザミネーションを実施し補強する形に検査体制は定着しました。原則年1回立ち入り検査とデータチェックで不良銀行を見つけると、問題銀行(problem bank)として常時監視しています。この結果、平均3~4カ月前に破綻を予測することが可能になり、この時点から銀行の閉鎖に向けて動き出し、この問題銀行への事前通告、データ収集、そして買い手を探していきます。この過程において、当然ながら機密遵守を確約とした契約を交わすなどのノウハウが出来上がっています。米国では処理方法が決まってから閉鎖し、日本は銀行が破綻してからどのように処理するかを考えるという違いです。

日米の破綻銀行処分の方法

米国には3つの方法で破綻銀行を処理します。第一に、つぶさず、生かしておく方法です。いわゆるオープン・バンク・アシスタンス(open bank assistance)という方法で、資金を投入し、できるだけ再建させようとします。第二は、P&A(Purchase and Assumption)方式です。これは、破綻銀行が閉鎖された時に買収や引き受けなどで付保預金を健全な銀行に救済してもらう方法です。第三は、ペイオフです。

米国の場合は、大半はP&A方式を採っています。日本の場合もこのP&A方式を見習おうとしていますが、これを付保範囲内だけの収入に当てはめています。たとえば、ある銀行が破綻銀行を引き継ぐ場合、もし3000万円預金しているならば、1000万円は健全な銀行が引き継ぎ、残りの2000万円は引き継がれず別途一般債権者として回収することになります。考え方は米国も同じですが、米国の場合はP&Aを行う時には、基本的に全額を保護するのが条件です。大手が破綻した場合は、オープン・バンク・アシスタンスで救済し、それ以外の場合はP&Aで全額保護します。米国における全額保護の基盤は預金保険法という法律にあり、これが全額保護を可能にしています。ところが、日本の場合は全額保護はできません。P&Aで健全な金融機関が預金を引き継ぐということは借金も引き継ぐことですので、日本ではペイオフ内でしか、返済されません。預金保険法による全額保護の仕組みは、第一に、前に述べた通り、米国の場合は90%近く必然的に保証され、FDICではその残りを払えばよいので、高い金額を保証しなくてもいいということになります。このように米国では極めて限られた例外を除いて、預金は全額保護されていました。一般債権部分に関しては、FDICのロスを節減するために、プラスアルファで資金を払ってもよいという規定があります。しかし、この制度はその後批判を受け、1991年にできたFDICIA(Federal Deposit Insurance Corporation Improvement Act of 1991)のLeast cost method rules(最小の原価法規則)により縛りが入り、P&A方式で預金を全額保障することができなくなりました。しかし、その頃には、すでに不良債権問題が終息を迎えており、ほとんど影響は見られませんでした。日本の場合、不良債権問題が深刻化し先が見えない時に自己資本比率を上げ、早期是正措置をやり、ペイオフをやりと少しタイミングが悪いように思われます。

アメリカ方式の破綻処理の条件

このような措置には3つの条件が必要になります。

  1. モニタリングがしっかりしていること。
  2. 銀行を閉鎖する処分が当局にできること。
    日本は、法令違反や法令違反処分として銀行免許を取り上げることはできますが、法令違反はないが不良債権はたくさんあるという時に、銀行をダイレクトにシャットダウンすることができません。
  3. モニタリング機構に対する信頼性があること。
    検査当局が銀行に閉鎖を通告した時、銀行が納得するかどうか、という問題です。言い換えると、検査当局が、いかに銀行のデータを把握し、分析し、それを銀行に対して、どれだけ説得できる能力を持っているかということになります。

日本では、どの点をとってもまだできていないと思います。

S&L危機について

米国では80年代にS&L危機が2度起こっています。第1次は70年代、カーター政権の時代に短期金利が異常に上昇したために起こりました。S&Lは基本的に個人の貯蓄性預金を集めて、住宅ローンを貸し出すものでした。当時は固定金利で貸すのが中心でしたので、固定長期金利で貸しておいて短期金利が上がれば当然逆鞘になります。この時に問題を解決せず先送りにしてしまいました。第2次は、80年代後半に起こりました。テキサス周辺を中心に地域経済にあわせて不調となり、レバレッジド・バイアウト(Leverage buy-out, LBO)やジャンクボンドがどんどん買われ、不正融資が発生し、犯罪に近いことが起きてしまったために発生しました。結局S&Lに対する預金保険制度と監督を併せ持つFSLIC(Federal Savings and Loan Insurance Corporation)が、保険金を支払いましたが、その額があまりに莫大だったため、最終的に預金保険制度そのものが破綻する結果となりました。この時、FSLICの監督能力が問われ、FSLICは廃止され暫定的な機関としてRTC(Resolution Trust Corporation)ができ、FSLICが持っていた預金保険機構の一部を引き継ぎ、かつ破綻した金融機関を処分する機能を与えられました。

FDICとRTCの処理方法の違い

RTCは、まずコンサベーター(conservator)として乗り込み、次のステップでレシーバー(receiver)として動きます。レシーバーとは日本にはないものですが、レシーバーシップ(Receivership)という準法的な倒産法制を持つ機関のことです。receiverは通常、裁判所が任命し、金融機関の場合は当局が任命します。ここが債務者の資産全てを押さえ込み、清算処分し、配当していきます。この方法は基本的には倒産法制ですが、裁判所の関与が小さく、レシーバーがイニシアティブを取っていきます。一方、コンサベーターは破綻しているけれど、もしかすると立ち直ることができるかもしれない銀行、つまり業務は何らかの形でまだ残っているものを引き継ぐ役割を果たします。FDICも同じ処理はできますが、銀行に対してコンサベーターの役割は担っていません。根本的なRTCとFDICの違いはモニタリングの違いになります。モニタリングがしっかりしていれば、事前の段階で銀行の状態がわかりますので、コンサベーターはいりません。他方で、日本の破綻処理は、金融整理管財人の役割を非常に重視しています。金融整理管財人が銀行に入るということは、そこで銀行の業務がストップすることになりますが、国が銀行の経営権を取るわけではないので、銀行の経営を続けながらその中で処理をしています。現在日本で考えられている発想は、S&L危機時の米国の行った処理と全く同じです。モニタリングなどが成熟していない日本で、同じことをすると、企業金融や預金者が崩れ、非常にお粗末な処理ではないかと危惧します。現実として、不良債権問題は万策尽きたという気がしています。

東京一極集中を止め、地方に特色を

私の考えとしては、経済構造を変え、東京一極集中を止め、もっと地方に特色がでるようにしなければならないと考えています。貸し渋り問題に関しては、銀行の信用創造が低下している証拠ですので、これを改善していかなければなりません。健全な貸し出しに対しては、第三者機関がそれを買い取ることが必要です。また、新しい銀行を作ればいいのではないかとも思っています。日本は米国と比べて、なかなか新しい銀行ができません。この原因は、最低資本金が高すぎるからです。現在は20億円ということになっていますが、銀行の資本金というものはリスクアセットに対して何%あるかが基準であるべきであって、具体的な金額が問題なのではありません。ちなみに米国の場合は、平均約3000万円ほどで銀行はできています。日本も1億円か2億円ぐらいで銀行が作れるようになればいいのではないかと思います。そうすれば、たとえば地域を中心として銀行を作ることも可能になると思います。銀行というのは本来余っているお金を足りないところに回すのが仕事ですので、必ずしも日本全国で回す必要はなく、地域で回すのもいいだろうと思います。問題点としては貸し出す企業がその地域だけになりますので、その地域がおかしくなれば銀行もおかしくなるという危険性があり、資産のポートフォリオが分散されないということになりますが、それぞれの地域の債権を集めて都市に振り向けるという手段もありますし、いくらでも解決策はあるのではないかと考えます。

質疑応答

Q:

1930年代、米国銀行法の改正に100%の準預金制度導入が検討されました。現在においてはナローバンク的な考えだと思いますが、仮に、現在の20%の枠をはずし、100%を上限にするという法改正だけを行って制度を徹底すると、新しい金融の姿や道が開けるように思いますが、どう思われますか。

A:

これは、まさにナローバンクの考えであると思います。日本の問題点は、100%の準備預金の定義が定まっていないことです。ナローバンクは、決済を保護するのを目的としていますので、決済性預金だけを保護しています。それ以外は分離してしまおうという考えです。つまり、決済は保護し、それ以外のものはリスクワークとして処理しても構わないというものです。ここで落ちている議論は、では誰が銀行業務のコストを払うのかという問題です。銀行が破綻した時に決済以外にかかるコストが払えないのではないかと思われます。次に、自治体の預金については、地方自治法の施行令で、私的金融機関には担保を提供できない規定があります。米国の場合は、その逆でパブリックな預金は担保を提供しなければなりません。これから先、日本でも地方体が銀行に対して担保を要求していく可能性が高いと思います。その時、担保として最も考えられるのは国債です。銀行が常に一定量の国債を持つことになり、これは銀行の自由な投資活動を妨げ、また国債の暴落のリスクもありますので銀行にとっては将来極めて大きな負担になる可能性があります。これは一見、銀行を守っているようで銀行にリスクを押しつけることになると考えています。よって、100%準預金制度やナローバンクはいいアイデアではないと思います。

Q:

1.日本の預金保険機構や金融整理管財人には破綻金融機関の資産を凍結する権限がないことが問題であるとおっしゃっていますが、具体的に問題点を挙げてください。
2.政府が企業の過剰債務問題と不良債権を一体化した処理を目指したために、政府を硬直化させたといわれますが、では過剰債務処理と不良債権処理は分けて考えるべきなのですか。
3.不良債権処理における金融政策のミスは、具体的に何であるかを説明してください。

A:

1.資産の凍結について、金融機関が破綻すると自然の摂理として預金者は慌てて預金を解除します。しかし破綻している現実では、一旦お金の流出をとめ、その時点での銀行の資産を計算しなければなりません。しかし、この基準が銀預金保険法に明確に書かれていません。さらに内閣総理大臣から派遣される金融整理管財人は行政の執行人の1人ですが、このような人がどれだけの権限を持っているかもわかっていません。言い換えると、政策判断としての預金支払いの禁止は法的に許されるのか、許されないのかがはっきりしていないのです。行政の処分として、預金の払い出しをとめなければなりませんが、それには法律に明確な根拠が必要です。ここがあいまいになっています。今のシステムは、金融整理管財人には米国のレシーバーが持つような権限を持っていませんので、このような権利を持つべきではないかと思います。
2.過剰債務問題と一体処理に関して、不良債権処理を銀行側に要求しても、銀行側の言い分は、過剰債務は企業側にあるのだから、銀行だけの問題ではないと主張しています。そこで、柳沢金融庁長官は両方をセットで処理することを前提にしました。この前提条件が不良債権処理を動かせなくなった原因です。私は不良債権だけを迅速に処理するべきだと思います。その理由としては、まず常に債務者とセットであると処理が進まず、手続きが硬直化してしまいます。第二に、不良債権の処理は景気の問題ではないと思います。もし、景気がよくなるとすれば、それは不良債権を抱えるゼネコンが整理されるからではなく、新産業が勃興してくるからです。すると、不良債権で残存し、その上、景気がよくなると当然金利が上がりますので、国債の価格が下がり、銀行はダブルパンチをこうむることになります。不良債権が片付けば、信用創造機能もまた活発になり、これが景気の回復につながるというのが自然なシナリオであると思います。銀行が不良債権の処理を重心的に行った結果、あちこちで銀行がつぶれていいのか、といわれますが、これは別の問題として処理すべきではないでしょうか。今日の日本で通用するとは思いませんが、たとえば、米国では、大恐慌最中の33年に独禁法の適用停止を行い企業の活性化をはかりました。このように不良債権問題を集中的に処理し、その結果金融機関が破綻した場合はまた別の処理をしなければならならないと思います。
3.金融政策について、現在、日銀は大量の資金投入を行っているので、資金のだぶつきが発生しています。マーケットで資金を受け取るほうにとっては支店で集める預金よりコストが安くなってきており、短期金融市場にゆがみが生じています。表面金利だけで見ると、マーケットからの資金調達が圧倒的にコストがかかるのですが、支店にかかるコストと人件費をプラスすると、ほぼ同額になります。しかし、銀行にとっては、支店で資金を調達したほう安全です。これは、マーケットは何かあると資金が引くのが早いホットマネーだからです。ノーマルな状態では、銀行はできるだけ支店で小口預金をしっかり押さえて財務基盤を固め、マージナルな部分をマーケットで調整します。ところが、今はマーケットで調達するほうがはるかに金利が安くなっている状態ですので、支店で資金を集める理由がありません。現在は信用創造問題だけに目が向いていますが、資金循環そのものにも及んでくるのではないかと思います。

Q:

1.破綻金融機関の処理が日米で大きく異なるとおっしゃっていましたが、日本の場合でも米国の銀行閉鎖のモデルケースと同じことをやっていると思います。どの国においても、金融機関破綻時には、情報開示が重要ですが、日本と米国のどこに違いがあって、また、情報公開後、アメリカではどのようにシステマチックに動くのでしょうか。
2.日本の場合は、金融機関にとっての負債側というのは一般預金やデリバティブ商品などマーケット関連が多いので、基本的にはマーケットは閉めません。このような中では、システムとしては、金融当局が権限を持っていたほうがいいのではないでしょうか。

A:

1.日本の業務停止とは、基本的には債務超過しているから業務停止しなさいという意味と、その機関に債務超過を改善する手段を講じなさい、もしそれができないのであれば、次のステップとして免許を取り消しますよ、という両方の意味があると思います。業務停止とは基本的に問題を改善するのための期間であるのに関わらず、業務停止をする一方、P&A方式に移行するのは矛盾しています。完全にクローズするのが閉鎖であり、これが日本ではできないのではないのかということです。情報管理に関しては、米国では、80年代半ばまでは、情報は具体的なデータを渡さず、売買交渉を行いました。80年代後半からは破綻銀行の細かいデータも渡して、相手銀行と交渉をやるようになってきました。しかしこの時は、当然、事前に秘守義務の契約を交わす形で行われています。
2.ご指摘の通りです。米国では閉鎖命令は、実際には金曜日の業務が終わった後にかけ、週末でP&Aに移行し、月曜日の朝からは新しい支店として動き始めるので現実問題として混乱は起こりません。パニックを止めることによってパニックになるか、パニックを起こさずに止めることができるかは、この土日の処理に掛かっていますので、アメリカの銀行破綻処理のモデルケースの1つに入ると思います。

Q:

1.米国の場合は、州によって経済規模がかなり違うとおっしゃられたのですが、そもそも金融機関の規模とGDPの関係を比較するのはおかしいのではないのでしょうか。
2.なぜ、モニタリング機能が日本では発達しないのでしょうか。
もし、制度的な問題とすれば、原因はどこにあるのでしょうか。
3.情報公開の時期についてですが、結局のところこの議論は最後にうまくいくかいかないかということだと思いますが、アメリカの場合、情報の透明性が問題にされることはないのでしょうか。

A:

1.州のGDPを見ればいいのではないか、という点は、その通りです。
2.現在、最大の問題点はマンパワーが圧倒的に足りないということです。次に、日本では、銀行の決算データをどこまでデータベースに確保できているのかということです。米国の場合は、かなり昔からできているので、データ解析システムができています。日本の場合は、それがまだできていないのではないかと思います。アメリカの場合は、データの収集を着手した時期が古いので、その分だけデータが豊富であるというメリットがあります。
3.米国では、銀行破綻は秘密裏で行われます。よって、世間に知られた時にはすでに結論は出ていますので、それ以外の部分はある意味不透明といえます。しかし、銀行破綻は秘密裏でせざるを得ませんし、変なことが行われるリスクもあります。そこで米国ではデータを5年間保存して、後で議会などがチェックする事後チェックを行っています。

Q:

1.バブル後の長期不況によって不良債権化したものはある程度景気の回復を待たないと処理しきれないのではないでしょうか。
2.現状のどのような点を変えれば、2004年までに、不良債権は処理されるのでしょうか。

A:

1.不況型の債務者を健全化するためには景気回復が必要であるのは当然ですが、2点問題点があります。1つ目は、景気が悪く売上が伸びない部分は銀行の不良債権と切り離して考えなければなりません。2つ目は、理由が何であれ債務負担が膨らんできており、これが銀行の不良債権の単位になっているから両方ワンセットにして処理する方向になりがちですが、するとすぐに債権放棄に話が直結してしまいます。そこで初めから、切り離したほうがいいのではないかと考えます。銀行が資金を貸さないことで起こる過剰債務部分については、銀行が資金を提供し、それを買い上げるようなシステムを作るべきだと思います。
2.モニタリングの問題ですが、基本的に人数が足りないことは言うまでもありません。では、増員した場合、誰がそのコストを払うのかという問題が残ります。米国の場合は、身分は公務員ですが、一種の独立採算システムを取り、このコストを金融機関が負担しています。日本もこれを導入すべきだと思いますが、現在の預金保険料の負担さえ大変な状況で、さらに銀行から検査料を取ることは無理があると思います。ある程度銀行に負担をかけながら、一方でインセンティヴを与えて、最終的に銀行の負担を軽くするシステムを作ることが必要だと思います。
次に、不良債権処理に関してですが、現在銀行のリスク管理債権といわれているものは30兆円あるといわれています。もっとあるのではないかと詮索する前にすでに金融庁は30兆円の不良債権を認めているのですから、まずこれを処理すべきだと思います。そうすると、耐えられる金融機関と耐えられない機関が出てきます。耐えられない機関はいたしかたないのではないかと思います。しかし、ここで注意点は、銀行が自己資本比率(8%)を割り込むような処理をしないことが基本ですが、この8%の壁を破らないと、いつまでたってもこの30兆円はなくならないと思います。

Q:

この不良債権を短期間で処理する場合、何が一番ネックになるのでしょうか。

A:

銀行が自己資本比率を割り込むような処理をしないことです。しかし、現状は、割り込むところまで行かないとこの不良債権は処理できません。問題は、どうやってこれを割り込ませるかなので、この時には強権的なスキームが必要だと思います。私の考えとしては、政府が、中長期的なビジョンを示して、ある一定の自己資本比率の低下を実践すべきであると見ています。

Q:

法的資本注入を行えばいいということですか。

A:

私自身は、法的資本注入は行って構わないと考えています。しかし、ただ行うのではなく、行う相手を選ぶべきであると思います。

Q:

ペイオフ解禁やむなしとした場合、その是非と評価を教えてください。

A:

ペイオフが解禁になりますが、一方で小泉総理大臣は金融恐慌を起こさないと強く発言していますので、結局はペイオフはケース・バイ・ケースになるだろうと思われます。ケース対応にするぐらいであれば、いっそのことペイオフを伸ばすのが懸命だと思いますが、きちんとした処理スケジュールと処理手段を明確にした上で行うのが最善であると考えています。もしそのような明確な指針がないのなら、思い切ってペイオフをしたほうがよいと考えます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。