ユニクロ絶好調の秘密と日本の繊維産業

開催日 2001年6月8日
スピーカー 柳井 正 (株式会社ファーストリテイリング)
コメンテーター 月泉 博 (株式会社シーズ)

議事録

柳井正氏略歴
早稲田大学政治経済学部経済学科を1971年3月に卒業後、同年5月に株式会社ジャスコに入社し、翌年2月に退社。
1972年8月に小郡商事株式会社(現 株式会社ファーストリテイリング)に入社し、翌月取締役に就任する。1973年8月、同社の専務取締役に就任。1984年9月、代表取締役社長に就任、現在に至る。

月泉博氏略歴
株式会社シーズ 代表取締役社長。著書に『ユニクロ&しまむら完全解剖』(商業界刊)、最新刊に『流通激震!これからの勝ち組み戦略』(日本実業出版社刊)など。

我々の会社について少しお話します。ユニクロという店名で郊外のロードサイドや都市圏などに517店舗構えています。今年は4000億円の売上を予定しています。ユニクロ1号店は1984年にオープンしました。そして1991年チェーン展開を開始いたしました。私は当初からチェーン化、1000店舗規模の展開を考えていました。出店のモットーは、投資効率に見合うかどうかにつきます。つまり、拡大再生産ができるかどうかにかかっています。できれば最初からアメリカのLimitedやGAPなど、その国独自のはっきりとした存在感のある店を作ろうと思いました。第一号店は広島の裏通りに作りました。その後、岡山、下関の郊外に開店しました。その当時はDCブランドの最盛期でしたが、オープンした店には年代が高い客、ファミリー客が多く訪れました。

カジュアルはもともとノンエージな服装で、男女の区別もないことに気づきました。それまではメンズの若者向けの服を作っていました。それからノンエージ、男女の区別ない服を作ろうと思うようになりました。

1985年にプラザ合意があったのですが、仕入れ値は下がりませんでした。それで、物の値段の相場を知ろうと思い、香港に行きました。たまたま入った工場でポロシャツを見たらとても完成度が高いことに驚き、すぐにそこと取引をはじめました。そのときに、カジュアルは製造業と小売業の境、または国境がない商売だということを実感しました。

その当時、Limitedの社長がマスコミに登場していました。Limitedは最初、600枚程度のセーターのオーダーをとっている会社でしたが、短期間に300万枚の注文を受けられるようになったと聞いて、これだ!と思いました。

それまでも物の売り買いは好きでしたが、経営のことはまったく知りませんでした。ある公認会計士の本を読んでいて、その本の裏表紙に書いてあった著者の連絡先に連絡しました。その当時のユニクロは、経常利益も4000万円程度で、株式公開できるようなレベルでありませんでした。その会計士は、社長がいなくてもまわる企業に、そしてすべてを公開できる企業にするように忠告してくれました。それから決意して3年半で株式公開できたのです。3年で100店舗まで増やそうと計画をたてました。1994年に広島証券取引所に、そして今では東京証券取引市場に上場しています。

カジュアルというと、若い人のちゃらちゃらした服というイメージがありましたのでそれを打破したいと思っていました。流行の服というよりも、日常、快適に着られる服がカジュアルなのです。当時は安くてノンブランドの悪い製品と、高くて品質のよいブランド物の二つしかなかったのです。安くてよい商品を作ろうと思うと無駄をすべて排除しないと無理です。これまで着る人の立場で製造してきたということを自負しています。

カジュアルは非常にニッチな市場と思われていましたが、実は6兆円規模の市場です。個性は服でなく、人間にあると思います。むしろ服に個性があると着こなしが難しいと思います。完成した服装を作る「部品」としての服を作りたいと思っていました。海外の会社には、年率2倍3倍で何兆円という売上を達成している会社があります。日本でもやればできると思いました。このような勢いで成長するには、高収益が一番なのです。そうでないと会社は潰れてしまいます。

さて、良い会社とは何でしょうか?私はよい心構え、姿勢をもった会社だと思います。これは世界共通だと思います。一般に日本の経営、アメリカの経営といわれますが、よい会社は世界中どこでも同じだと思います。私は原理原則に沿った会社経営をしたいと思います。会社理念ですが、私は経営者独自の考えは信用しません。誰にでも通じる普遍的なものがないと会社はうまくいかないと思います。

ユニクロには過去3回、ターニングポイントがありました。まず、1回目は84年に広島にカジュアルショップを開設したときです。2回目は91年にカジュアルチェーン展開を始めたときです。そして3回目は98年に原宿店をオープンし、フリースキャンペーンが成功したときで、「カジュアルダイレクト」の時代のはじまりだと認識しています。「カジュアルダイレクト」とは、顧客の要望をダイレクトに聞き、企画・生産・物流・販売までのすべてのビジネス活動を見直し、最適のビジネスモデルにすべてを組み立てなおすことです。買う人のニーズに応えていかに大量生産するかが鍵となります。

ユニクロブームについてお話します。我々がやってきたことが変わったというより、買う人の認識が変わったからブームになったと認識しています。ブランドビルディングをやろうとしたとき伝えようと思ったことは、「あらゆる人が着られる新しいカジュアルブランド」ということです。そこが認知されれば売れると思いました。今ユニクロがブレークしているのは、ユニクロはこのような店であるということが理解されているからだと思います。ユニクロをカジュアルの国民ブランドにしたいと思います。

「カジュアル産業」についてお話します。今までの産業分類では、我々は繊維という、主力部門でない部門に分類されます。しかし、我々は「カジュアル産業」である、と言いたいです。カジュアル産業はハイテク産業と非常に似ていると思っています。

ユニクロでは、社員とのパートナーシップなど、ハイテクのベンチャービジネスと似た文化があります。会社では私がほとんど最年長の部類です。30代、20代がメインですが、40代前半の人もがんばっています。新しくて効率的な企業が日本でも世界でも生き残れる時代だと思います。

現在、ほとんどの日本企業は元気がありません。しかし市場に需要や可能性がある限り、成長できると思います。将来に対して夢を持ち続けること、最初の精神を失わないことが大切です。山口県という、ローカルな場所に会社をおいていますが、世界の中の1企業と思ってやっています。そう思わなければ特に日本では生き残れません。

日本は残念なことに、お金だけもっている老人の社会です。若い人も坊ちゃん、嬢ちゃんばかりです。何よりも最悪なのは、行政が非効率だということです。このままでは将来はどうでもいいような国になりそうだと思います。また、現在の情勢を悲観的に考えている経営者が多数います。経営者は悲観的に考えても何も始まらないのです。自分たちの会社の強い点を考える必要があります。不景気が叫ばれていますが、本当か疑ってみる必要があります。繊維や小売の分野は制度疲労しているのではないかと思います。世界中を探せば、売上が2倍3倍に伸びている企業が確かにあります。どうすればそうなれるのか考えればいいのです。日本ほどインフラ、人、金、交通が整っている国はありません。このようなことを考えて企業経営すべきだと思います。

服だけが特別な商品と考えている人がいますが、これはまったく違うと思います。ファッション=神様と思っている人がいますがこれも違うと思います。小売は再配分しか考えない発想からでて、付加価値をつけなければ何も始まりません。まず自分の企業が他の企業とどう違うのか、属する産業はどう違うのか考えるべきです。

世界と日本の現状ですが、非効率な企業経営と行政が一番問題になります。日本の経済は先進国で一番最悪なのではないでしょうか。日本的雇用慣行のおかげで現在、表面的には4%程度の失業率ですが、本当は10%前後だと思います。談合、年功序列、集団主義、などはすべて古いのです。好き、嫌いにかかわらず日本は資本主義国として生き延びなければなりません。これまで日本は真の資本主義国というより、社会主義国のようでした。社会主義では衰退あるのみです。資本主義というのは根本的に利益をあげられない企業は生き残れないシステムなのです。古いタイプの産業も競争の時代なのです。供給過剰の時代であり、1強100弱というのが通常の世の中になるでしょう。

社員にいつも言っていますが、これまで日本は年収1000万円のサラリーマンの社会でした。しかしこれからは、年収100万円と1億円の社会です。付加価値を生み出す人間は1億円を稼ぎ、ただ働く人は100万円しか得られないのです。「能あるものは知恵をだせ、能ないものは汗をだせ」ではだめなのです。会社としても個人でも知恵がなければ生き残れない時代になります。ただ単なる単純作業をしている人は途上国の労働者と同じ給料しかもらえなくなるでしょう。付加価値を生み出す人は高収入を得られるでしょう。

自動車会社で言えば、日本資本がトヨタとホンダだけになるとは誰も想像していなかったでしょう。今はGMSや百貨店などが大展開する時代です。今の状況を喩えて言えば、これまでは高校野球をしてきたが、好き嫌いにかかわらずメジャーリーグで活躍できなければ生き残れない、という時代です。メジャーリーグに行こうと思うような人材が欲しいし、そうなって欲しい。それを達成しようと思ったら、付加価値を生み、自営業者のように自分で自分の仕事を回せる人材が欲しい。

特に店長に関してはそういうことを要求しています。独立自尊の商人が日本を変えると思います。商売はお客様の評価がすべてです。このプライスなら買うという客がいて、はじめて付加価値が生まれます。客が喜んではじめて売上、収益があがります。できたらこれまでと同様に成長し、最終目標としては世界一のカジュアル企業になりたいと考えています。

月泉氏によるコメント:これほど明快な経営哲学を持った人は他にいません。94年にはじめて柳井社長にお会いしました。そのころ、ユニクロは100店舗ほど展開する会社でした。雑誌のインタビューに伺ったのですが、取材にならなかったのを覚えています。というのも、逆に社長がいろんな質問をこちらにするからです。私は青山商事に関する本を書きましたので、これを読んでいただいたようで、矢継ぎ早に質問ばかり頂戴しました。柳井社長は勉強熱心で、ベンチャースピリットがあり、新しいタイプの経営者という、新鮮な印象を受けました。

久々に昨年取材で訪れました。フリースが爆発的に売れた後でしたが、全く変わっていませんでした。テンションが高く、良い時なのに逆に危機感をもっていらっしゃり、彼の執念、エネルギーが健在な限りまだまだこの会社はのびると思います。

ユニクロはアパレルなかでSPA本格第1号です。この成果による成功が大きいと思います。ハイバリュー製造は、あくまでも小売業としての方法論だと思います。しかし何よりも、革新的マネジメントが成功の第一の理由だと思います。柳井社長は理論的で実行力をもっていらっしゃり、日本の経営者として稀なタイプだと思います。経営哲学を実現するポイントは3点あると思います。まず自己革新力です。次に、特にSPAで製造販売という前提はリスクが高いですから、リスクマネジメントが大切です。そして第3に実行力です。

この会社ほど過去のやり方を否定できる会社は他にありません。いとも簡単に過去の成長のパターンを180度変え、企業のパラダイムを完全に変え、新しいビジネスモデルの方向に進んでいっています。カジュアルショップに変え、チェーン化し、原宿に出店するなど、各節目でリメイクしています。自己革新力の高さには目をみはります。

リスクマネジメントに関してですが、客観的に観るとリスクを積極的にとり、相乗効果を生んで爆発的な成長をおさめていると思います。98年秋冬にはフリース200万枚を完売し、99年秋冬には850万枚が大ヒットしました。そこで2000年はどうされますか、と伺ったら1200万枚売る、とおっしゃっていました。あるアイテムが大ヒットした翌年は商品を絞り込むのがこれまで業界の常識でした。さらに上回る、超強気マーケッティングを実行されています。結局、2000年秋冬には実際は2000万枚以上売れました。また、広告宣伝費に180億円程度お使いになっています。アパレル小売企業が100億円以上の広告費用を使うのは非常に稀です。テレビ、ポスターなどによるブランドビルディングが功を奏していると思います。

郊外ロードサイド企業を脱し、出店立地の多様化がはかられています。今では駅の構内にまで出店されています。これまでのビジネス構造とまったく異なっています。短期間でどんどんかえていらっしゃいます。3つのリスクを企業が実行し、このうちひとつでもこけてしまうと経営上「やばいこと」になりますが、ユニクロは全部うまく実行し、相乗効果をあげていらっしゃいます。

ユニクロの特徴の一つに超高速経営が挙げられます。過去何年かのうちに役員をほとんど総入れ替えしました。97年にファミクロ、スポクロを半年で一挙に撤退しました。柳井社長の日本に対する評価の中でもありましたが、従来の価値観が通用しなくなっています。現在、最高のステージが整い、ユニクロの追い風になっています。GMSや百貨店がとってかわられる時代です。デフレの経済で、ターゲットが変わりつつある端境期なのです。政治から経済からあらゆる分野で変革期を迎えています。ユニクロはまさに時代のスター企業だと思います。

質疑応答

質問者A:

通商白書を担当しました。ベンチャー企業というと、金、人のネックなどありますが、どの点に一番苦労され、またどのように打破されてきたのでしょうか?

柳井:

お金に一番困りました。ある日突然急成長したいといっても銀行は理解してくれません。バブル崩壊後で、これまで貸したお金を返済して欲しいと言われました。今はベンチャー支援があるので困ることはないと思います。また、景気のいいときには、零細企業にはいい人材がきません。会社の方針が厳しく、10人採用しても8-9人が退職してしまうなど、人の面でも苦労しました。

質問者B:

経営判断で一番悩んだのはどのようなことですか?

柳井:

いつも悩んでいるのでわかりませんが、やはり中央集権から分権というのにかえなければと思ったときです。チェーンは標準化、一律の店舗運営をするのがそれまでの常識でしたが、店長の顔が見えなくなると、経営と乖離してしまいます。マニュアルがあれば書いてあることしか実行しなくなります。180度の方針転換でした。分権化しないと店舗数が多い場合、生き延びることは難しいと思います。

質問者C:

食料品分野など事業の拡大、多様化がいわれていますが、この分野の問題点、またどうしてチャンスなのか、そして将来のビジョンは何かお聞かせください?

柳井:

食料品への進出ばかり一人歩きしているようで困ります。食料品は夢であってまだ一切決まっていない状況です。衣食住と言いますが、生活に密着した分野に進出したいと思っています。日本ではどこでも売っている品物が同じです。人件費、地代が高いのでほとんど選択肢がありません。しかも市場から毎日生鮮品を入れているから価格が日々かわってしまいます。資源がない国であるからこそ、それを有効に生かすべきだと思います。日本人に適したものを海外で作り、直接販売すれば、売れるのではないかと思いました。

質問者D:

日本の経営が変わらなければならない、ということに全く同感です。具体的にどうすればいいとお考えでしょうか?セーフガードをやめるというのはもちろんのことだと思います。

柳井:

追い詰められないと変われないというのは人間も企業も同じです。テストがないと勉強しないのと同じなのです。企業にとって追い詰められるというのは倒産を意味します。潰れるべき企業はつぶしますよ、という姿勢がないと変わらないと思います。悪い経営者はクビにしますということです。個人で働いている人もそんな企業に勤めていると失業します、ということです。日本では落ちぶれてもまさか浮浪者になることはないという考え方です。でもアメリカではいきつくこところまでいきつくという危機感があるように思います。

質問者E:

ユニクロは最強のSPA(製造小売)を構築していますが、その強さの秘密に、仏のトップブランドも委託する中国最高の工場との提携があります。普通では入り込めない企業と提携されるまでのご苦労をお教えください。第二に、セーフガードは反対とのご意見ですが、その前提に日本の繊維産業は複雑な流通機構になっています。消費者には損でしょうし、他方で、付加価値の10%もない製造業者は、必ずしも得しません。付加価値の大半は流通ですが商社は輸入でも儲けられます。セーフガードで、誰が得するとお考えですか。

柳井:

我々は工場から買い上げるというよりも、一緒にモノを作ろうとしています。結果としていい工場とつきあっていますが、そこの経営者と話をして、いい商品を作ろうとしているか、経営的にやる気があるのかで判断します。また現場の最高責任者である工場長と話して工場選定します。そうしても7割、8割は失敗に終わります。何度も失敗すればだんだんうまくなります。我々は毎シーズン同じ工場で一緒にモノを作るという感覚であり、バイヤーの感覚ではありません。

流通機構が変わらなければだめだと思います。今の状況では誰も得していません。皆がすれすれの状況なのです。一番付加価値を生み出すように企業を作りかえるべきだと思います。自分たちの産業構造、企業構造を変えないと、収益はあがらないと思います。

質問者F:

経済企画庁にいましたときに地域経済レポートで御社を紹介しました。本社が地方圏にあってめざましい成長をとげた会社として取り上げました。所在地は地方だが世界規模の企業として紹介したのです。なぜ山口に本社にあり続けるのか教えて下さい。次にご創業についてですが、ファーストリテーリングは一般の人は新しい企業と思われているが、53年創業でいらっしゃいますね。

柳井:

やる気があればどこでも市場開拓できます。本社の所在地はあまり意味がないと思います。山口県におけるメリット、デメリットは特に感じていません。しかしながら近頃、かなりの部門を東京に移しました。良い人材をとろうとしたら地方ではマイナスなのは確かなようです。働いている人は東京志向です。特に家族がある人は、子供の教育、妻の余暇などの理由で反対されるケースが多くあります。世界的な人材を採用するには山口では限界かと思いました。

たしかに業暦は古く、取引銀行も我々の変化に驚きました。以前は紳士服を販売していました。服の中では一番新しいカジュアルでやっていきたいと思っていました。しかしながら、84年が本当の創業だと思っています。別会社以上に変わってきたので、過去の影響はほとんどありません。

質問者G:

分権化についてですが、どのような部分が分権化できるのでしょうか?日本の市場の意味、世界市場の意味はどのようにお考えでしょうか?

柳井:

本部で全部決めることはできません。本部で考え、店舗で実施する、といっても客の来る頻度や売っている商品も毎日違います。社会情勢や地域性も違うので、店長が判断して自分で考えて実行するようにしました。標準マニュアルを作って指導していましたが、店長が何も考えなくなってしまいました。考えなくなると実行できなくなります。各部署で現場の人が自分で考えて実行するスタイルにしない限りだめだと思いました。日本人は受身なので、言われていることをそのまますることになってしまいがちです。それだと状況が違うと、命令した側との意図とも反する結果になってしまう危険があります。言われたことをよく考えて自分で実行しなければいけません。また言われた言葉にこだわっていると、大間違いが起る可能性があります。

日本、特に関東は世界でも最上の市場だと思います。と同時に非常に危険だと思います。主な通りにある店で昔からある店はほとんどありません。世界的に、ロンドン、ニューヨーク、パリを歩けば、世界中のブランドが集まっています。小売業のグローバル化が始まったところだと思います。世界統一市場で勝ち残る企業がその分野をコントロールするようになると思います。

質問者H:

アパレル業界では、工場のラインを乗っ取られたり、ファッションのラインが変わったりということがよく起きますが、そのような場合はどうするおつもりなのでしょうか?

柳井:

ライバル社がきてラインを奪うということですが、かなりリスクが多いと思います。というのも、年間何百万点つくるというコミットを何年も続けることができるのかという問題があります。安定しているのによそに変えようとすることは考えにくいです。工場も儲かっているのです。工場と取引する条件としては、我々とその工場とが運命共同体になれるようなところを選んでいます。ファッションのラインについてですが、服は昔からあんまり変わっていないと思います。色、素材が変わっても、シャツ、セーター、ジーンズは毎年売れます。ファッションがかわったからといって工場をかえることは今後もありません。

質問者I:

昔、倒産した日本長期信用銀行に勤めておりました。金融面で苦労したとおっしゃっいましたが、どうやって銀行を説得されたのですか?銀行の問題を指摘していただきたいです。

柳井:

奇遇ですね。実は我々は長銀に助けてもらいました。日本では銀行系列が決まっていますよね。もともとある銀行と3年契約していましたが、ある日突然支店長が来て、この辺で成長はもういいのではないか、と言い出しました。バブル崩壊後、資金引き上げの時期だったのです。これ以上お金をだせないということだったようです。他の銀行に行くようにと言われました。真に受けて、他の銀行を4-5行回りました。しかしそれは、その主力銀行を通じて融資をお願いしろ、という意味だったのです。そんな中で長銀の支店長と担当者が理解を示してくれて、融資を申し出てくれたおかげで、他の銀行も貸してくれることになったのです。現在の問題は、銀行の問題というよりも、融資先の問題だと思います。不良債権をどんどんつくっていっているので、そこを断ち切らないとだめだと思います。融資するところと融資しないところを峻別していくべきです。主力銀行うんぬんというのもおかしいと思います。銀行が人を取引先に送っても経営がよくなることはないと思います。

質問者J:

ヨーロッパ市場での戦略をおききしたいと思います。

柳井:

ロンドンで成功できれば他の都市にも進出したいと思います。フランスはファッションでは先進国ですが、ビジネスの面では開放政策が足りないと思います。フランスは大国で、特にパリは世界中のショーケースなのでできれば進出したいと思います。ロンドンで最低3年間で50店舗出店し、うまくいくか見極めないとわからないと思っています。ここでうまくいけば他でもうまくいくと思います。

質問者K:

私は日本でもっとも非効率な分野である行政に身を置いています。所得格差の問題についておっしゃったことに賛成です。国内で単純作業している人はどうすればよいのでしょうか。御社にもいわゆる単純作業に従事されている方もいると思いますが、その方々は他の会社の単純労働者の方よりも高賃金で働いていらっしゃるのでしょうか。

柳井:

日本だけの特例は許されないと思います。資本主義の世の中で、日本だけ特例をしいていると全員が沈没してしまいます。わが社はいわゆるローテク企業です。単純作業でも知恵をださないとできません。そこを誤解している人が多いようです。時間給くらいの仕事しかしていない人に高い給料を払っていたのではないかと思います。現在ユニクロでは、1店舗につき40人程度使っています。店長ともう一人以外はほとんどパート、バイト、契約社員でやっています。バイトがパートになり、パートが契約社員になることを期待しています。自分の付加価値を出せる人は付加価値分をもらえるようにしています。大学卒も採用していますが、バイト出身の人も採っています。現場での付加価値を生み出せる人が少なくなっています。人事システムを変え、付加価値を生み出す人に高い給料を払うようにするべきだと思います。

質問者L:

スポクロ、ファミクロからの早期撤退についてですが、どうしてそのような早期撤退にふみきれたのでしょうか?個々の店舗における顧客対応やクレームにはどうされているのでしょうか?ユニクロでの返品対応は大変スピーディだった記憶があります。

柳井:

基本的に儲からないことはしないということに尽きます。スポーツウェア、ファミリー向けの洋服と切り離して個別に始めるより、ひとつの店を膨らますほうがいいと思いました。これまでさまざまな失敗があります。唯一の成功がユニクロです。潰れずに撤退しないことを考えるよりも、新規でやること考えるべきです。顧客対応についてですが、日本は会社方針がはっきりしていないと思います。返品はどういう基準で受け付けるという基準もはっきりしておらず、個人や店によって違うので、結果としてサービスが悪い印象なのだと思います。

質問者M:

質問ではなくコメントさせていただきます。理念の軸がしっかりされていることに感銘を受けました。理念がしっかりしているからこそ、変革にすぐ移れるのだと思いました。そして社会貢献を考えていらっしゃると思いました。GAPやMarks&Spencerと言われましたが、安くて良い商品を提供することは社会貢献だと思います。行政は倒産がないということが大きなネックになっていると思います。これが行政の非効率性の理由なのでしょう。どうすれば行政が追い込まれるのか。それは情報公開に尽きます。銀行に関する考えに関しても同感です。銀行は横並びばかり考えており、倒産を意識していないようです。これに対しては会計監査で追い込むしかないでしょう。

質問者N:

現在、急成長された段階で資金調達はどうされているのか?銀行と、直接金融の割合は?また株主構成(外国人持株比率)を教えて下さい。

柳井:

銀行に行くのが大嫌いなので、上場してよかったことは銀行に行かずに済んでいることです。銀行借り入れはほとんどありません。現在、財務的には非常にいい状況にあります。外国人持ち株比率は22%です。特に外国の機関投資家にわが社の株式を持って欲しいと思っています。というのも長期で保有してくれるからです。格付け機関でトリプルAをもらうことを目指しています。IRについてですが、IR室があり、毎日対応しています。外国の投資家が週に10件程度来訪します。日本の企業は株主に対する責任が少なく、身内でやって外部の目を気にしないことが一番よくないと思います。誰から見ても文句つけようのない経営にしたいと思っています。

質問者O:

日本の非効率な市場で戦ってこられたということですが、御社と同じような特徴をもったGAPなどとの競合はどうされるお考えですか?日本の小売に対する提言があれば教えて下さい。

柳井:

それぞれの市場におけるポイントをつかむことが重要です。英国ならそこの市場のポイントは何かを理解することです。GAP、Limitedとの差別化ですが、彼らはアメリカンライフスタイルを打ち出しています。これと比較して日本では洋服の文化がありません。社会のクラスがないと表現できないのです。しかし日本には工業製品を作る技術、完成された単品をつくる技術はあるので、こういうタイプのブランドになるしかないと思います。

質問者P:

大学も追い込まれています。中小企業の社長が大学院にいらっしゃいますが、経営のためにビジネススクールは役に立つと思われますか?競争相手に関して分析されると思いますが、良品計画(MUJI)などやその他で注目されている企業はありますでしょうか?

柳井:

結果を言いますが、ビジネススクールは役に立つと思います。勉強と実践は別物です。私もセミナーなどで勉強するのが好きでした。しかし出席者を見ると、勉強で終わる人ばかりだと気づき、出席するのをやめました。実践するために勉強するのが大事なのです。学者には勉強することがいいことでしょうが、商売人にとっては実践しなければ無駄になるのです。当社にはMBA取得者が多く勤めています。若いのによく知っているな、と驚くことがあります。実践と理論の両立が大切だと思います。基本的なことを教える大学は必要だと思います。MBA的なものも、もっと増えていけばいいと思います。自分で商売できるようなMBA取得者が増えないとだめだと思います。注目する業界は小売業ではありません。日本の企業では優秀だと思うのはやはりトヨタ自動車くらいです。

質問者Q:

給料の格差はどの程度ですか?スーパーのチェーン店がいきなり失敗し始めた理由は何だと思われますか?

柳井:

店長の給料は400万円から2000万円程度の幅です。目標として、年間報酬を倍にしましょう、と言っています。チェーン企業ですが、店長は単なる手段になってしまい、本部の机上の空論を何も考えず実行して毎年ばかになってしまっていると思います。手段というよりも目的が大事だと思います。過去のことを文字通り覚えても原理原則的でしかないのです。制度疲労しているのにそれを口にすることはタブー視されます。掛け声だけでは経営はできません。自分で考え、解決策を出さないとと良くならないと思います。

月泉:

これまでチェーンストア理論が金科玉条とされてきました。柳井社長は別の戦略をもっていらっしゃいます。ロードサイドから新しい分野にでていきました。商圏、流通、チェーンなど、とても勇気がいることですが、それぞれの分野で、消費者ニーズに合わせて自らの信じるところを突き進むのが一番求められていると思います。

田中:

柳井社長は外国人のような方ですね。社長のような方が社会を変えていると思い、勇気付けられました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。