第14回RIETIハイライトセミナー

日本経済の道筋-円城寺賞/日経・経済図書文化賞 受賞者が語る日本の労働市場と直接投資(議事概要)

イベント概要

    • 日時:2016年3月25日(金)14:00-16:00(受付開始13:30)
    • 会場:RIETI国際セミナー室(東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)

議事概要

昨年11月、経済産業研究所(RIETI)の川口大司ファカルティフェローが「円城寺次郎記念賞」を、清田耕造リサーチアソシエイトが「日経・経済図書文化賞」を受賞した。本セミナーでは両氏が日本経済発展の道筋について持論を展開し、引き続きディスカッションを行った。川口氏は労働市場制度の観点から、正社員雇用の固定費を減少させる制度改革の必要性を主張するとともに、女性や高齢者の活躍推進を不可避な課題として挙げ、効果が見られるところに重点的に配分すべきと述べた。清田氏は対外直接投資を促進することで日本への利益還流を拡大する効果を生むとともに、対内直接投資の拡大に向けた取り組みは、日本企業の国内投資拡大にもつながると指摘した。

理事長挨拶

中島 厚志 (RIETI理事長)

ハイライトセミナーは、タイムリーな経済課題について、RIETIの研究成果も含めた幅広い分野を横断的に俯瞰する趣旨で始めたものである。研究に参加していただいている先生方を中心に講演していただき、ディスカッションする形で行っている。

本日の登壇者である川口大司ファカルティフェローは昨年11月、気鋭の若手・中堅エコノミストに3年に1度贈られる「円城寺次郎記念賞」を受賞した。同じく登壇者の清田耕造リサーチアソシエイトも昨年11月、経済および経営会計分野の学問知識の向上に貢献するとともに一般普及・応用に寄与した図書に贈られる「日経・経済図書文化賞」を、著書『拡大する直接投資と日本企業』で受賞した。

本日は、それぞれの専門である日本の労働市場、直接投資についてお話しいただく。その後、各専門の視点から幅広く、日本経済の抱える課題・処方箋についてディスカッションし、最後に会場からの質問もお受けしたい。

講演1「日本経済の道筋:労働市場の視点から」

川口 大司 (RIETIファカルティフェロー / 一橋大学大学院経済学研究科教授)

高齢化の影響

現在、日本の抱える大きな問題の1つは、高齢化である。30年前は高齢者が比較的少なく、若い人が多い人口構成だったが、現在は65歳前後の団塊世代と40〜45歳の団塊ジュニアが多くなっている。2050年には、団塊ジュニアが80歳くらいになり、最も多い年齢層になる。電車の座席の半分ほどがシルバーシートになる時代が訪れるかもしれない。

高齢化や人口減少が生活に与える影響については、明確な結論が得られているわけではない。国内総生産(GDP)は下がるけれども、今まで投資した資本が増えるため1人当たりGDPは増えるという考え方もあるので、1人当たりの所得は増えるかもしれない。一方で、人口が少なくなり過ぎると、技術進歩の速度が落ちることも懸念される。結論は単純ではないが、人口減少がそのままわれわれの生活水準の低下につながるということではない。

懸念される財政危機

問題は社会保障である。年金制度は、若い人が払い、高齢者が受け取るという賦課方式になっており、現役の人が年金を積み立てて引退したときにもらう形ではない。したがって、年金を払い込む若い人が減り、受給する高齢者が増えれば、財政的には厳しくなる。

従属人口指数(65歳以上人口の15〜64歳人口に対する比率)は、2000年には25%だったが、2050年には74%になる。つまり、現役世代4人で3人の高齢者を支える人口構成になるわけで、このままの仕組みで年金財政が回るとは誰も思っていない。どこかの時点で年金支給額が大幅に引き下げられたり、年金支給開始年齢が引き上げられたりするだろう。それが今の日本経済が直面している不確実性だというマクロ経済学者もいる。

年金財政の問題もある。Imrohoroglu, Kitao and Yamada論文では、今の仕組みを所与のものとして、人口構成が変わったときに政府債務がどう変化していくかをシミュレーションしている。年金財政は基本的には独立して行われているが、不足が出ると国の財政から補填することになっている。政府は赤字国債を発行して穴を埋めなければならず、年金の仕組みを今のまま維持していくと政府債務のGDP比率は2050年に375%に拡大すると予想している。この数字は刻々と変化しており、国債が全く売れなくなることも考えられるので、この水準を維持できるのかという問題もある。

フローベースで見ても、日本政府の税収が40〜50兆円であるのに対し、財政支出は90兆円(債務返済に20兆円、社会保障費に30兆円)で、借金がどんどん増えていくことになる。そこで、この論文では解決策として、消費税の増税、年金支給開始年齢の引き上げ、女性就業率・正社員比率を男性並みに引き上げることを同時に進めていくべきだと提案している。

女性の就業形態

労働経済学の視点から見ると、25〜54歳の女性の就業率は、日本は約7割と経済協力開発機構(OECD)の中では高くないが、極端に低いわけでもない。ただ、日本の女性の労働供給カーブは、20代後半は高いが30代前半で一度落ちてまた上がるM字形になっていて、子育てが終わって労働市場に戻ってくるときに非正社員になる人が多いという問題がある。

厚生労働省の賃金構造基本調査によると、賃金も男性の7割ほどにとどまっている。ボーナスを加味すると男女差はもっと広がるだろう。賃金格差があるのは、女性で非正社員の比率が高いからである。

同じく厚生労働省の非正規雇用の現状のデータを見ると、男性も若い人で非正社員の比率が上がっているが、女性は30代後半以上で非常に高く、約5割に達する。正社員・非正社員という分け方自体があまり意味を持たなくなっているのではないかとの意見もあるが、正社員・非正社員の差は厳然としてある。働き方の実質的な問題は、低賃金や、賃金が加齢とともに上がっていかないところ、職業能力の訓練機会が限定されるところにある。

高齢者の就業形態

日本の高齢者の就業率は世界的に大変高く、60代後半でも40%に上る。また、現役世代の賃金に対する年金支給額の割合を示す所得代替率は、日本は世界的に見て低い水準にとどまっている。60代後半で年金を受け取り始めても、それだけでは豊かな生活を送ることが難しいため、就業率が高いと考えられる。

よって、就業率の面で高齢者が問題を抱えているようには見えない。あえて問題があるとすれば、65歳以上の就業者の7割を非正社員が占めている点である。しかし、これも体力の低下や健康状態の悪化に伴う段階的な引退への過程で短時間労働になっている可能性もあるので、必ずしも悪いことではないかもしれない。

むしろ問題となるのは、定年退職制度である。定年前労働者の賃金は必ずしもその生産性に見合っていない。高齢になっても高い生産性を発揮すれば定年退職する必要はないのだが、にもかかわらず定年退職制度が存在しているのは、賃金を後から支払う形の賃金体系を取ることで、労働者のやる気を引き出しているためと考えられる。

定年退職制度は全ての企業が持っているわけではない。1000人以上の企業はほぼ持っているが、30〜99人の企業は10%が持っていないし、宿泊業や飲食サービス業は20%近くが持っていない。そういう企業は生産性と賃金を常に合わせる形で賃金を支払い、高齢者に無理に辞めてもらわなくてもいいような雇用管理をしていると考えられる。

したがって、基本的に成果給を入れて自動的な賃金上昇を抑えたり、成果を挙げて昇給の対象になった人だけ賃金を上げたりする人事改革によって、賃金カーブをなるべく平坦化する企業が増えている。政府統計でも賃金カーブはだんだん平坦化しており、この傾向は今後もさらに進んでいくであろう。それを通じて、高齢者も正社員として雇用を継続してもらえるような環境を整えていくことが必要になる。

進行する労働市場の二重化

日本では、現役世代に労働力をフルに発揮してもらい、高齢化社会を支えていく必要がある。しかし、現在は労働市場が二重化している。非正社員の増加は女性や高齢者の雇用を考える上でも重要なことだが、非正社員から正社員への転換は容易ではない。また、将来の雇用不安もある。職場での訓練参加が限られ、賃金上昇も限定的である。税・社会保障の担い手としての能力不安もある。あるいは、社会保障に入る資格が与えられていないという問題もある。このようにさまざまな意味で労働市場が分断されていることが、日本が現在抱えている問題である。全員参加型の労働市場を目指す上では、この点を改善していかなければならない。

正社員と非正社員のギャップを埋める政策として同一労働・同一賃金などが論じられているが、そもそも日本型雇用慣行における正社員の雇用管理とは、戦前期に萌芽が見られ、高度成長期に強固なものとなった仕組みである。この日本型雇用管理に服さない労働者が非正社員だと考えるとわかりやすい。正社員の夫を妻が支え、場合によっては非正社員としても働くという仕組みは、男女性別役割分業に基づいて男性正社員の長時間労働や全国転勤を支えるものとして合理性が高かったが、経済環境の変化の中でその重要性は徐々に低下していった。

そして、低成長下で長期的な雇用保障が難しくなると、固定費として機能する正社員は絞り込まれ、正社員の長時間労働が常態化した。雇用が安定して賃金も上がっていくという古き良き時代への回帰は望むべくもなく、そのような状態では女性が子育てしながら正社員として働くことは難しい。したがって、今後、女性の就業促進が不可避であることを考えれば、今までの正社員モデルを拡大していくことは不可能であり、大切なのは正社員雇用の固定費を減少させる制度改革である。

これからどうすべきか

女性や高齢者の活躍推進はイデオロギーの問題を越えて、日本社会がぜひ取り組むべき課題である。税に関しては、配偶者控除や社会保険の第三号被保険者制度が縮小され、女性の働き方に対して中立的な方向で改革されていくであろう。

また、保育所整備については、Asai, Kanbayashi and Yamaguchi論文が、子どもを持つ女性の就業促進効果にはつながらないことを論証した。ただし、待機児童が多くいる都市部で保育所を整備していけば、就業促進効果を持つこともあり得るだろう。

Fukai論文では、潜在的に女性の労働力参加率が高い地域で保育所を整備すると出生率が上がることが論証されている。近年、合計特殊出生率が回復している要因の一つは、都市部での保育所整備であるという。今後、資源制約がある中で女性が働きながら子育てできる環境を整えていくには、効果があるところに重点的に配分していく政策が必要と考える。

講演2「日本経済の道筋:日本の直接投資」

清田 耕造 (RIETIリサーチアソシエイト / 慶應義塾大学産業研究所教授)

直接投資とは

直接投資とは、ある国の企業が現地法人を設立・拡大したり、既存の外国企業の株式の一定割合以上を取得したりして、その経営に参加するために行う国際資本移動を指す。企業の合併や買収(M&A)も含まれる。一方、われわれが外国企業に対して、経営目的ではなく、資産運用目的で投資する場合は、直接投資に含まれない。

日本企業が海外進出のために行う直接投資は、過去最大の規模に達している。財務省によると、2014年末で143兆円と、前年より20%増加し、10年前の3.7倍に上っている。

直接投資の重要性

そもそも対外直接投資(日本企業の海外投資)が重要とされるのは、海外進出に成功した企業が大きな利益を獲得しているからである。理論的には、日本企業の直接投資が進んでも、海外で得た利益が日本に還流すれば、日本全体としてプラスになる。経済産業省の『通商白書2015年版』によると、日本企業の海外子会社の経常利益は1年間で7兆6000億円に上る。日本国内の企業の経常利益は24兆1000億円であり、海外子会社の経常利益はその32%に相当している。

また、企業が海外子会社に蓄積している内部留保残高は28兆7000億円に達すると推計されている。再投資に回される分も含まれているので、これが全て日本に戻ってくるわけではないが、その規模は注目に値する。配当源泉税率(海外子会社が得た利益を親会社に配当する際に課される税率)が下がることにより、配当が日本に戻りやすくなることが最近の研究で明らかになっている。今後、租税条約の改正が進めば、日本への利益還流が拡大する可能性がある。

経済産業省の海外事業活動基本調査によると、製造業における海外生産比率は1995年から2013年までずっと上昇し続けている。その一方で、国内の事業所数(常用労働者4人以上)と従業者数は減少しており、あたかも企業の海外進出によって日本国内の事業所が削減され、海外での雇用増加によって国内の雇用が削減されているように見える。

企業の海外進出と雇用

しかし、実際に企業の海外進出に伴い雇用が失われているのかというと、これまでの研究では日本全体としてその傾向は確認されていない。もちろん、地域によって濃淡はあり、ある地方では事業所が閉鎖され、東京など別の場所で活動がより活発になることはある。また、海外に進出している企業の中には雇用を削減している企業もあるが、海外に進出していない企業の中にも雇用を削減している企業がある。両方を比べると、海外に進出している企業の方がたくさん雇用を削減しているかというと、そうはなっていない。

一橋大学の神林龍教授と私の研究によれば、国内の労働者と代替しているのは、海外の労働者ではなく、国内の資本(設備増強や機械化の進展)である。たとえば、トヨタの自動車工場の写真を見ると、ロボットばかりで、労働者が見当たらない。

また、海外進出と同時に企業内で事業再編を行うことで、生産部門から他部門への雇用の再配置が進んでいること、さらに海外展開の拡大に伴い輸出が拡大していることも、企業が国内の雇用を維持する一因となっている。

直接投資の問題点

雇用へのマイナスの影響が小さいとしても、直接投資に全く問題がないわけではない。事業所の統廃合が進むことで、地方の雇用が失われているかもしれない。ただ、これを厳密に検証するには政府の複数の統計を接続して考量する必要があり、今後の研究を待たなければならない。

また、学習院大学の乾友彦教授と慶應義塾大学の松浦寿幸准教授らは、直接投資に伴い、生産性の高い工場が閉鎖されており、それが日本の製造業全体の生産性を引き下げる一因になっていると指摘している。たとえば、閉鎖された工場がA社の中で最も生産性が低くても、国内全体では2番目に生産性が高い場合もある。A社にとっては最良の選択でも、国全体で見た場合には最良の選択ではないことがあるという点に注意が必要である。

TPPと直接投資

環太平洋経済連携協定(TPP)によって日本企業の直接投資が今後どうなるのかは、はっきりとは分からない。TPPには直接投資を促進する効果と抑制する効果が混在しているからである。TPP参加国の外資規制が撤廃されることで確かに投資はしやすくなるが、関税も撤廃されるため、わざわざ海外へ進出しなくても日本から輸出すればよいということで、直接投資が縮小することも考えられる。

ただし、TPPが締結されても、本当に有効に活用されるかどうかは注意が必要である。日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所の早川和伸氏らの研究によると、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の貿易に関わる企業の中で、実際に自由貿易協定(FTA)を利用している企業は3分の1にも満たないことが明らかになっている。その理由としては、原産地証明などの手続きが負担になっていることが指摘されている。

TPPが締結されたとしても実際に活用されなければ意味がない。活用されなければ、本来は日本国内にとどまっていたであろう投資も海外に向かってしまう可能性があるので、制度設計が必要である。

対内直接投資の現状

対内直接投資(外国企業の対日投資)は、他の先進諸国と比べると水準は極めて低い。日本経済新聞によると、対内直接投資のGDP比率はアメリカが23.2%、ドイツが20.0%であるのに対し、日本はわずか3.9%で、韓国(11.8%)や中国(10.1%)にも及ばない。日本の経済規模からすればもっと海外企業が入ってきていいはずだが、そうはなっていない。

対内直接投資の阻害要因は明らかになっていない。為替レートや労働コストは対日直接投資の低さを説明する要因にはなっていないことが明らかにされている。つまり、為替レートが円安に振れてもその勢いで直接投資が入ってくるわけではない。言葉が違うから入ってきていないのではないかという指摘もある。たとえば、経産省の外資系企業動向調査によると、確かに英語でのコミュニケーションができないことが外資系企業の日本でのビジネスの障害になっている。日本人の英語の能力の向上は、対日直接投資を拡大していく上で必要だが、それだけでは対日直接投資の小ささを十分に説明できないことも、これまでの研究で明らかにされている。

他に考えられる要因として、税負担の重さがある。国際銀行によると、ビジネスのしやすさを国際比較した場合、日本の総合順位は34位だが、税負担の項目の順位は121位と際だって低い。ただ、厳密にデータを分析するには複雑な租税条約をひも解かなければならないので、あくまでも数字を見た上での判断だが、税負担が重しになっていることが分かる。

また、日本の税負担の項目に注目すると、2011年は2010年と比べて、納税にかかる時間は改善しているのに、税負担のランキングは112位から120位へと低下している。総合順位も2009年の15位から、2015年は34位に下がっている。これは、日本と比べて他国の投資環境が大きく改善していることを示唆している。

対内直接投資を拡大するために

2015年12月、日本経済新聞に法人実効税率が現在の32.11%から2016年度は29.97%に引き下げられるという与党方針が報じられた。このことは投資環境を改善する意味では高く評価できるが、他の国も投資環境を改善していることを踏まえると、日本の過去と比較して改善したとしても、世界全体の中で不十分なものであれば、大きな効果は期待できない。

対日直接投資を拡大する上では、日本の税負担に関するランキングが一貫して低い点は無視できない。したがって、税率を引き下げるだけでなく、納税のための書類・手続きの簡素化・短期化も一考に値すると考えられる。

また、政府は海外企業の新規参入を目標に掲げているが、既存の外資系企業が日本に根付くかどうか、事業を拡大できるかどうかも重要な視点である。これに関連して、たとえば地方自治体が企業を誘致する場合、日本企業だけでなく、日本に進出している外資系企業や外国企業に目を向けることも検討の余地があると考える。そのためには、地方自治体のリソースには制限があると思うので、JETROとの連携が有効かもしれない。もちろん、中長期的には、日本人の英語能力を高めていくことも必要である。

外国企業にしても、日本企業にしても、投資環境の良いところに投資する。したがって、外国企業が来やすい環境を整備することは、究極的には日本企業も投資しやすい環境を整えることに通じる部分がある。言い換えれば、対日直接投資の拡大に向けた取り組みは、日本企業の国内投資にもつながる可能性あるということである。

パネルディスカッション

中島: 日本はなぜ女性の活躍が遅れているのか。

川口: まず女性の活躍が進んでいない実態が統計の見た目よりも深刻である可能性を指摘したい。女性の就業率はかなり上がっているし、賃金も上がっているのだが、どんなタイプの女性が働くようになったのかという点に注目する必要がある。たとえば、とても賃金が高いタイプの女性が、それまでは働いていなかったけれども、最近働くようになったとする。仮に男女の平均賃金が変わらないとすると、もともと賃金の高いタイプの女性が労働市場に参加したので、働いている女性の平均賃金は上がる。

しかし、働いている女性の構成の変化を制御した上で、男女間の賃金格差を調べた研究によれば、女性の相対的な賃金はそれほど上がっていないことが分かっている。つまり、見た目ほど女性の活躍推進が進んでいない可能性があるということである。

女性の活躍が進まない理由は男性が家事を手伝わないからだという話になりがちだが、政府の社会生活基本調査によると、男性は女性に比べて長い余暇時間をエンジョイしているわけではなく、労働市場で働いている時間が長いのである。子育てに男性も参加すべきという意見はその通りだが、それを許さない長時間労働という現状があるのである。

労働時間が長くなるのは、固定費化した正社員の賃金を回収するために、少ない人数で仕事を回さなければならないからである。したがって、正社員の賃金という固定費を下げていかないと、短時間労働は実現しない。

保育所の問題は非常に重要だと思うが、今の長時間労働を前提にどこまで整備できるか、どういう形で整備するのが望ましいかを考える必要がある。高所得者には自分のお金で保育してもらうという選択肢も当然あるべきだ。そして、全国に満遍なく政策を行きわたらせるのは難しいので、政策効果の高い地域に重点的に投資することも必要である。正社員の働き方を変え、保育所の整備の在り方を考えないと、女性の活躍推進は実現できない。

中島: どうすればもっと実効性のある両立支援策になるか。

川口: Asai, Kanbayashi and Yamaguchi論文では、保育所の整備が女性の就業促進につながらなかった理由にまで踏み込んで分析している。昔は3世代同居で、祖父母が孫の面倒を見ることで母親が子育てと就業を両立しているパターンが結構あった。しかし、保育所が整備されるにつれて核家族が増えて3世代同居が減り、全体としては保育所を整備しても必ずしも女性の就業は促進されなかったというのである。ただ、3世代同居の減少は底を打っているので、今後保育所を整備すれば就業促進につながるかもしれないとも述べているので、保育所整備は女性の就業促進策として必ずしも悪くないかもしれない。

正社員の働き方の改革としてはたとえば時短勤務で、夕方には保育所に子どもを迎えに行くという形であれば両立できるだろうが、正社員を絞り込んで人員に余裕がない民間企業では、こうした働き方は厳しい。やはり正社員の固定費がネックになっていると思う。

固定費ですぐに思い付くのは解雇規制である。もっとも雇用を守るのは社員と会社の長期的信頼関係を大事にすることで社員のやる気を引き出すという経営戦略の面もある。しかし、女性を雇わないと会社が回らないような状況が今後起こってくるので、どのように働いてもらい、経営を回していくのかというところまで踏み込んで考えることが重要だろう。

中島: 非正社員から正社員に振り替える手はあるか。

川口: 非正社員は、労働時間が短かったり、有期で働いていたり、間接雇用であったりするが、必ずしもそれらの働き方自体が問題なのではなく、正社員という一種の雇用管理の分類があり、それが職の安定性や将来のキャリアの展望などと密接に結び付いていることが問題であろう。短時間労働だとしても、キャリアの展望が得られるような働き方ができればいいと思う。そのためには正社員の在り方を考え直す必要がある。

高齢者に注目すると、日本では定年退職後は給料を下げる。本人の能力はほとんど変わらないが、あえて仕事を変えるという人事管理をしている企業が多い。しかも、その職務配置は必ずしも最適なものではない。40代半ばごろから自然な賃金増はなくなるけれども、定年退職はなく、そのまま能力をフルに生かして働き続けられるのが望ましい。

それは年齢とともに上がっていく賃金カーブを抑制しないと難しいだろう。正社員と非正社員のギャップを考えると、正社員が得ている便益をある程度諦めなければならない部分が出てくる。それをどこまでみんなが納得して受け入れるかを考えながら、人事制度を設計していく必要がある。人事制度を設計する場合には今後、日本の人口構成が変わっていくことを常に頭の片隅に置いておかなければならない。今までうまくいってきたのだから、それを続けるというのは近視眼的である。

中島: 日本企業の海外子会社は大きな収益を上げている。配当源泉税率の引き下げ以外にそれを還流させる手はあるか。

清田: マクロ経済では経常収支が国際的なお金の動きを捉える指標とされており、その中で貿易収支は赤字に向かっている。貿易収支は物やサービスの輸出入の関係を捉えたものだが、経常収支には貿易収支以外に投資収益も含まれている。経常収支全体を均衡させる上で投資収益はかなり重要な役割を果たしているので、投資収益を日本に持ってくることが重要である。日本に利益を戻すには、投資の需要が国内で増えることが大事であろう。しかし、どう増やすかは難しい課題である。

中島: 少子高齢化で完全成熟化し、縮小し始めている国内市場よりも、成長する海外市場へ直接投資した方が高い利益を見込めるという状態では、国内企業が空洞化し、生産性の高い工場が海外移転するリスクが高まってしまう。海外に出てしまった工場を再び国内に戻すことも大事だと思う。

清田: 生産性が低いと参入障壁を乗り越えられないので、生産性の高い企業が海外進出するのは自然なことであり、それは止められないだろう。むしろ、国内に残っている企業の生産性を高めていくことの方が重要になる。ただ、海外の成長市場を取りにいくための投資は、新興国の経済発展に伴って増えていくことはあるが、諸外国の経済が発展して所得や賃金の水準が上がれば、生産や研究開発など人件費の面でメリットがあると考えて行われていた投資は、抑制される可能性が出てくる。

中島: TPPをきっかけに対内外の直接投資がさらに活発化し、日本にとってプラスになることはないか。見込めるという状態では、国内企業が空洞化し、生産性の高い工場が海外移転するリスクが高まってしまう。海外に出てしまった工場を再び国内に戻すことも大事だと思う。

清田: TPP加盟国で外資の規制が撤廃されれば、投資が活発になると思う。また、関税撤廃によって貿易が活発化することもあり得る。ただ、対内直接投資がTPPによって増えるわけでもないと思う。日本は製造業の関税率は十分低く、外国企業の参入規制もOECDの中では低い。もし効果があるとすれば、農業関係の貿易と、一部の投資だろう。

中島: 日本でも労働市場の規制緩和が議論されているが、どのような方向性が考えられるか。

川口: 日本の解雇規制はOECDの中でそれほど厳しくないが、実際にはかなりギャップがあると言う人もいる。それは不確実性があるからだ。日本では、解雇が不当と認められた場合、裁判所は原職復帰命令を出して労働者を救済する。しかし、実際に元の職場に戻るのは難しく、金銭解決になるわけだが、その額を事前に予測するのが極めて難しいのである。一部のヨーロッパ諸国では、勤続年数と給料で補償金額が決まる算式がある。日本でもそうした算式ができるといい。

中島: 日本経済の活性化に向けた大胆なグローバル化策はあるのか。

清田: とても難しいと思う。たとえば、世界貿易機関(WTO)が年内にもう一度動き出し、協定を締結すれば大胆なグローバル化になると思うが、日本だけでは無理である。一方、日本が比較優位を持つ可能性があるのは、人的資本の蓄積である。その一つとして、多くの国民が英語を話せるようになれば大胆なグローバル化になると思うので、時間をかけて取り組んでいくべき課題である。

中島: 国内の零細企業も含めて、日本型雇用慣行は今後どうすべきか。

川口: 日本の人口構成でこのままの形で続けるのは難しいが、人口構成さえうまくマッチすればうまくいくかもしれない。日本企業が進出先の発展途上国で日本型雇用慣行を続けることで、現地の労働者のスキルや生産性を上げる効果もあり得ると思う。日本型雇用慣行は日本国内では優位性を失ってしまったかもしれないが、1つのビジネスモデルとして他の国で生きる可能性は十分あると思う。一方、直接投資を受ける日本企業の立場からすると、海外資本が日本に入ってくることで今まで考えたこともなかったような経営技術を得られる可能性が十分あり、日本型雇用慣行を変えていくヒントをもらえると思う。

清田: 国内の零細企業を一律に保護することは難しい。むしろ、生産性や効率性が高くて本当は大きくなりたいのに、小さいままでいることの方が問題である。そのためには、生産性や効率性の高い企業に資源を回して大きくできるような資源の再配分を促す施策が必要である。同時に、雇用の流動化を図る施策も考えるべきである。

中島: アベノミクス第二弾で必要とされる大きな戦略は何か。

清田: 成長戦略の中で対日直接投資がうたわれているが、それを地方へ広げていくことが大切である。総合特区を設定して企業誘致を図る際も、外国企業を視野に入れて考えるべきである。また、規制緩和に対する見解の相違が官民間にあるので、対話を深めていく必要がある。

川口: 不当解雇の解決手段として金銭解決制度を導入することである。それを通じて正社員の固定費を削減し、全員参加型の労働市場を目指す。また、日本人労働者の職業能力は世界でトップだが、有効に使われていない。能力をさらに高めて有効に使う政策も必要であると考える。

Q&A

Q: 高齢者にも優秀な人材が眠っているのではないか。今後、就労する高齢者に雇用保険が適用されるが、厚生年金や社会保険についても国のシステムを適用してほしい。

川口: 65歳を過ぎても元気で、技能も高いし、やる気にあふれている人はいる。そういう人たちが働けるように、定年退職という大きな壁を打破すべきである。また、働いていても約束された年金は支給されるよう、働き方に対して中立な制度にすべきである。しかし、長期的には年金支給開始年齢は引き上げられていくと思うので、元気な人は働くようになるだろう。それは自然に起こるわけではないので、働きたい人が就労を継続できるような形へ移行するのを助ける政策が必要だと思う。