METI-RIETI 国際セミナー

アンチダンピング措置等を巡る最新の世界動向:ブラジルと日本の現状等を概観しつつ (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2015年11月4日(水)14:00-17:00
  • 会場:RIETI国際セミナー室(東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)

アンチダンピング措置とは、他国が不当に安い価格で製品を輸出し国内産業に損害を与えた場合、輸入国政府がこのような輸出に対抗するために関税を課すことであり、世界貿易機関(WTO)の協定上認められた措置である。近年は特定地域の設備過剰が他地域の生産に悪影響を及ぼす事例が増え、アンチダンピング調査の件数が世界的に増えるとともに、現行ルールの適正な実施が懸念されている。本セミナーでは、直近5年間でアンチダンピングの発動件数が世界2位のブラジルやWTOからパネリストを招き、アンチダンピングをはじめとする貿易救済措置の世界的動向について知見を深めるとともに、日本の制度改善の取り組みなど課題について議論した。

議事概要

開会挨拶

髙田 修三 (経済産業省貿易経済協力局貿易管理部長)

今年はWTO設立20周年である。公正な貿易推進にWTOが果たす役割にあらためて敬意を表したい。本日の議論の中心は、不公正な貿易取引に対抗するためのアンチダンピング(AD)措置についてである。

日本は従来、AD措置の活用に消極的で、そのことが日本のビジネス立地条件を不利にしていたかもしれない。また、新興国で近年、景気減速と設備過剰が進み、世界的にダンピング輸出に対する懸念が高まっている。このような中、日本企業からも近年、AD措置を求める動きが出ている。政府としてもそれに応え、グローバルスタンダードで制度を活用するための環境を整備していきたい。

国内ルールの見直しも進めている。本年は、団体申請に関わる要件撤廃などについて、経済産業省から財務省に制度改正要望を出している。また、申請に関わる手続きを白地から見直し、大幅簡素化するとともに、申請書記載事項のイメージを持っていただくため、先月、モデル申請書を経済産業省のウェブに掲載した。また、AD措置の仮決定を積極的に実施することで、課税までの期間が4カ月程度短縮され、速やかな取引環境の是正が図られてきている。今後もさらなる改善に努めていきたい。

講演

「アンチダンピング:どのようなもので、誰が使っているのか」

Jesse G. KREIER (世界貿易機関(WTO)参事官・ルール部法務官)

アンチダンピングの法的基礎は1994年の関税及び貿易に関する一般協定(GATT)第6条にあり、ダンピング輸入による産品が確立された産業に実質的な損害を与え、もしくは与えるおそれがある場合、アンチダンピング措置を課すことができるとしている。同様に、補助金交付や補助金を受けた輸入による損害に対する相殺関税賦課も認められている。また、セーフガード措置により、各国は国内産業に重大な損害を与える、または与えるおそれがある輸入産品に、当該輸入産品の公正さの如何を問わず暫定的に課税することができる。

1. アンチダンピング措置の実施

世界貿易機関(WTO)加盟国は1994年のGATTの要件およびWTOのアンチダンピング協定を遵守しなければならない。遵守を確実なものにするため、WTOはアンチダンピング措置を監視し、また加盟国は、アンチダンピング委員会を通じて、他の加盟国のアンチダンピング措置について疑義を唱えることができる。ダンピングは個々の輸出事業者の価格設定に関するものであるから、ある事業者はダンピングをしているかもしれないが、他の事業者はしていない可能性もある。簡単な例としては、自国より外国で安い価格設定をしている輸出事業者、または生産コストよりも低い価格設定が挙げられる。

各国は、WTO協定に基づき、ダンピングが国内産業に損害を与えているかどうか決定する。各国は中立の事実調査機関を設け、当該機関はアンチダンピング措置の必要性を十分説明しなければならない。決定には異議を申し立てることが可能で、規則違反は貿易報復につながる場合がある。国内産業はアンチダンピング調査の開始を要請し、十分な証拠を提供し、調査機関に全面的に協力しなければならない。

2. アンチダンピング措置の世界的動向

アンチダンピング措置、補助金相殺関税措置、セーフガード措置という3つの貿易救済措置のうち、圧倒的に多く利用されているのはアンチダンピング措置である。実際、主要貿易国のほぼ全てがアンチダンピング措置を利用している。アンチダンピング措置は2000年、2001年に急増したが、最近また増加している。WTO協定発効後の最初の5年間は、EU、米国、南アフリカがアンチダンピング措置の利用で上位を占めていた。その後インドが最大の利用国となっており、途上国による利用が増えてきている。調査対象国のトップは中国(最大の輸出国)で、以下韓国、米国が続く。日本に対するアンチダンピング措置は過去10年間、大幅に減少し、一方、日本がアンチダンピング措置を課すことはほとんどない。

WTO加盟国には全てアンチダンピング措置の利用が認められているが、被害を被った産業は損害の証拠を提供し、そうした措置が正当化されるか否かを決定するため、当局に協力しなければならない。

「ブラジルの貿易救済措置制度の最近の動向」

Marco César Saraiva DA FONSECA (ブラジル開発商工貿易省貿易救済部ディレクター)

1. ブラジルの貿易救済措置

貿易救済措置は1987年に導入されたが、このブラジルの最初の規制はヨーロッパの影響を受けたものであった。しかし、ブラジルでは関税が高かったため、アスンシオン条約(メルコスール設立)以前は、アンチダンピング条項の必要性はそれほどなかった。WTO設立後、貿易救済措置、すなわちアンチダンピング、セーフガード、相殺関税措置を扱う貿易救済部(DECOM)が設立された。DECOMは開発商工貿易省の一部局である。

DECOMはダンピングや相殺措置の対象となる補助金、輸入の増加、国内産業の受ける損害、およびそれぞれの間の因果関係の存在について決定し、貿易救済措置に関する技術グループに報告を提出する。技術グループは貿易評議会(CAMEX)に措置の正当性について勧告を提出し、閣僚評議会 (Ministers Council) で決定する。財務省の経済監視事務局が公共の利益の評価を担当しており、評価結果を同様にCAMEXに提出する。

2. ブラジルにおける最近の規制上の変更

アンチダンピング制度や手続きの変更は2008年の金融危機が契機となった。金融危機では輸入の増加に拍車がかかり、それが国内の生産者に影響を与えた。2010年に新たに選出された大統領は、ブラジル市場の保護を約束した。その国内産業と対外貿易政策では措置の加速を指示しており、アンチダンピング調査期間は10カ月に短縮され、120日以内に仮決定するとした。

新アンチダンピング規制は2013年に導入された。同規制にはWTOの紛争解決機関(DSB)の決定およびWTOプラス規定が盛り込まれている。ダンピング輸入の定義が定められ、非ダンピング輸入、およびダンピング価格差が僅少なダンピング品の数量は、損害の決定に用いる対象産品の輸入から明確に除外された。ゼロイングは禁止され、英語の通知が作成されている。ブラジルでは新法が可決され、現在、英語、フランス語、スペイン語、またはポルトガル語での書類の提出が可能である。ドーハ・ラウンドの「実施に関する課題と懸念」決定に従い、最終決定が否定的だった場合、同じ産品に関する再調査は、1年以内は開始できない。また、一定の条件の下でレッサー・デューティー・ルールの適用が義務付けられた。

3. ブラジルにおけるアンチダンピングの動向

貿易救済調査の95%がアンチダンピングに関するものである。全体的な申請は2011年に急増した。DECOMに提出された全申請のうち、歴史的に見ると57%について調査が開始され、残りは却下または取り下げられ、1%は分析中となっている。調査開始件数は2012年、2013年に急増し、その後減少している。調査されたうち55%は課税が確定し、2%は課税と価格約束の両措置、2%は価格約束のみ、37%については措置が課せられず、4%は調査中である。

「日本における貿易救済措置:アンチ・ダンピング措置を中心として」

太田 知子 (経済産業省貿易経済協力局貿易管理部特殊関税等調査室長)

1. AD措置をめぐる状況

1995年のWTO発足以降、WTO加盟国におけるアンチダンピング調査開始案件数の推移を見ると、経済危機が起こったときに調査が増える傾向がある。日本の経済連携協定(EPA)パートナーが2010~2014年の5年間に調査した件数をみると、大きな国では年間2桁以上の調査を行っているが、日本の調査件数は2件である。また、実際に措置が取られた件数で見ると、過去20年で日本がAD措置の被発動国となった案件は134件あるが、自ら発動した件数は7件にすぎない。

対象となるセクターは素材産業が非常に多い。この20年で、全世界で3058件が発動されたが、そのうち約3割が鉄鋼関係、約3割が化学品、残りは紙や化学繊維などで、装置産業への偏りがみられる。日本は鉄鋼も化学品もアンチダンピング措置の対象となっているが、活用したのはWTO発足以降、ポリエステル短繊維など5品目、10カ国にとどまっている。

2. 制度改善の取り組み

調査を開始するには、国内の産業界から課税を求める申請書が提出されなければならない。日本でAD措置があまり使われない背景には、制度をよく知らない、あるいは申請書の書き方が分からないなどの問題があった。そのため、私たちはグローバルスタンダードで制度を運用し、ADが日本産業界にとって選択肢の1つになることを目指した。

具体的な取り組みとして、申請環境を整備するために、モデル申請書の作成、申請の準備段階と調査開始段階での重複作業の排除、申請の手引き改訂とガイダンスの充実、残存している制限的規制の改正要望などを行っている。

また、調査プロセスを分かりやすくするために、透明性の向上と手続きの適正化を進めている。仮決定を積極実施することで調査結果を早い段階で公表したり、質問状のウェブでの公開、営業上の秘密順守基準の明確化、仮決定や重要事実の開示日程の予告、再反論の機会拡充などを行っている。

WTO協定は国際貿易のルールであり、世界の自由貿易体制を支えている。日本は今までルールを守ることに注力してきたが、これからはWTO協定を活用し、ルールに基づく公正な市場環境の実現を考えるべきである。

パネルディスカッション

コメント1

川瀬 剛志 (RIETIファカルティフェロー/上智大学法学部教授)

日本は戦前のソーシャルダンピング論、そして1950年代半ばGATT加入時のワンダラーブラウス事件等、轢死的にダンピング輸出を行っていると非難されてきた。日本が高度な工業化を遂げた1970年代では、全世界のAD調査件数の3分の1が対日案件だった。こうした背景から、当時の日本は、ADを含めた貿易救済措置に対する規律を強化する立場を取ることになった。

しかし、1990年代には日本に対するAD調査が減少し、中国の成長によって日本の対中貿易赤字が常態化すると、少しずつ発動国としてマインドが芽生えるようになる。1993年、わが国で初めてのAD課税がフェロシリコマンガンに対して行われたことは非常に象徴的である。また、2001年のネギ、シイタケ、畳表に対する暫定的セーフガード発動は、転換点となった。

目下、日本はWTO協定に加えて自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などによる貿易投資の自由化を推し進めている。1カ月ほど前には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も大筋合意に至った。これにより、わが国の国内産業は今まで以上に海外生産者のダンピングの影響を受けやすくなったといえる。すなわち、市場開放によってADの発動が必要になる時代が日本にも来るということである。

コメント2

藤井 康次郎 (西村あさひ法律事務所弁護士)

TPPの大筋合意を受け、今後は貿易救済措置がセーフティネットの役割を持つと理解する。また、地方経済活性化の点からも、中小企業や農業セクターに救済措置を活用する道を用意しておく必要がある。ただ、わが国の貿易救済制度は、WTOのAD協定に比し、申請適格や支持要件の点でしゃくし定規に制限的なものとなっている。

当局は、ダンピングで不利益を被るステークホルダーに配慮することも重要だが、個々の調査の在り方や公益の要件を検討することも含め、柔軟な形で各種ステークホルダーの利害を調整すべきである。

とりわけ、団体としてAD申請をするニーズは大きい。まず、人的資源を共有でき、データ整理などの作業が容易になるからである。また、数社で申請する際は、価格などのセンシティブな情報を取りまとめる者がいないと、独占禁止法上の問題が生じかねない。また、海外の輸出者に個社の名前で対抗するのは気が引けるという社もある。

AD措置の濫用の危険は常につきまとうが、不当なAD措置についてはWTO協定やパネル、上級委員会で蓄積されたルールを元にWTO紛争解決手続を通じて是正していくのが筋であり、自国のAD手続を必要以上に慎重にする意義は小さい。貿易救済措置を活用していくには、当局の人員増強や専門家の育成を図る必要があるし、国内産業側、輸入者側双方を代理する弁護士やエコノミストの育成に努めるべきである。

コメント3

宮崎 寛 (新日鐵住金株式会社通商総括部長)

世界の粗鋼生産は2000年頃まで年間8億t程度であったところ、2014年には年間17億t弱となった。生産増の殆どは中国によるものであり、中国の2014年の生産量は8億t強と世界の半分を占めた。現在、全世界に年間約6億tの過剰能力があるといわれている。中国は生産増に合わせて輸出量も増加させ、足元では日本の生産量並みの年間約1億tを輸出している。このような中、世界における鉄鋼関連の貿易救済措置は直近の3年で倍増し、110件のAD措置、16件のセーフガード措置が発動中または調査中である。

日本製の鉄鋼製品に関する貿易救済措置は、発動中と調査中を合わせてAD措置が21件、セーフガード措置が16件である。日本の鉄鋼各社は、個別の調査対応と並行して、日本鉄鋼連盟と連携し、相手国が措置を発動しないよう働きかける活動、発動中の措置を早期に撤廃させる活動、新規の通商摩擦を未然に防止するための活動を行っている。

一方、鉄鋼輸入に関しては、日本鉄鋼連盟でモニタリングの強化を行っている。現在、韓国、台湾、中国からの鉄鋼輸入が増加傾向にあり、AD提訴を実施する可能性もあることから、日本政府によるAD調査の申請手続きの簡略化は大変ありがたく、前向きに検討したい。

ディスカッション

AD措置の活用に向けて

太田:私は、TPPが妥結したから今後AD措置が日本で増えるとはあまり思っていない。それにもかかわらず、私達が制度改善を進めているのは、特に装置産業で設備過剰が起こったときにダンピングが起きやすいからであり、競争法の国際ルールがない現状では、ダンピングへの対応が課題になるからである。AD制度の透明性と適正手続きが確保されることで、日本も自信を持ってAD措置を使うことができる。

Fonseca:TPPのような貿易協定ができれば、輸入が増えることが想定されるが、その中でAD措置を課すのは難しい。ダンピングによって国内産業に損害があったという因果関係を示すのが難しいからである。

Kreier:AD措置を課すには、特定の客観的な事実が存在することを立証しなければならない。また、実際に重大な損害や国内産業への影響があったことを正当化しなければならない。そのためには国内生産者同士が協力し、情報共有することが大きな鍵となる。

太田:経済産業省としては、これまで制度変更を目で見える形で示すことができたかという点で反省するところがある。それで今回、モデル申請書をウェブサイトにアップした。

藤井:弁護士としても、今までAD手続にかかる費用の予測が難しかったために産業界や会社に説明がしにくい時代もあったが、当局側の努力でさまざまなことが定型化し、透明性が高まってきているので、費用の予測がしやすくなった。また、申請手続きにはいろいろな作業が発生するが、企業サイドと弁護士サイドの役割分担をうまく進めれば、費用を抑えつつ、弁護士の助言を得ることは可能である。なお、手続きの透明性確保と適正化を図れば、ADを申請する側とADで不利益を被る側の主張と反論のやりとりが今まで以上に充実すると思われるが、そうした場面でうまく弁護士を活用すればよいのではないか。

人材育成について

Fonseca:ブラジルでは、貿易救済部門(DECOM)の外国貿易分析官として働くにはまず公務員にならなければならない。2013年以降、採用した人材のほとんどが法律家とエコノミストであり、迅速で質の高い調査ができるようになった。しかし、それは公費負担によって支えられていることを忘れてはならない。

川瀬:役所の人材育成も大切だが、企業側が適切な知見を持ち、役所と話ができる人材を育てることも大事である。欧米企業は渉外担当がロビーイングをして、政府にいろいろな要望を出すが、日本企業はなかなか人材が育っていない。

宮崎:当社の場合、海外の事業体が日本を離れたところで多国間の通商問題に巻き込まれることも多く、われわれの方でサポートする必要があるため、「通商総括部」という部門を作った。また、団体での申請をしやすいのは大変ありがたいことであり、日本鉄鋼連盟にもADを打たれる側を扱う国際貿易委員会と、打つ側を扱う公正貿易委員会がある。鉄鋼業界は民間としては人材育成が比較的進んでいると思う。

質疑応答

Q1:企業は、申請書提出の時点でどの程度のデータを用意する必要があるのか。

Fonseca:ブラジルの場合、国内産業からの申請があったときには、申請前の段階で財務面の情報を企業に求めているので、必要な情報は全てそろっていることになる。輸出業者側も通常は質問状に回答してくるので、そこで得た事実を見て判断する。

申請書はひな型のようなものがあり、空欄を埋めていく形になる。国内産業にとって調査開始前の情報提供は負担になるが、いったん調査を開始すると決定した場合、追加の情報を提出する必要はない。現地調査のときだけ情報の提出を求めることになる。

藤井:ADを申請するときは当然、ダンピングの事実を示せるかどうか、損害の指標、データをきちんと出せるかが非常に重要である。しかし、新興国からの輸入に対する対応では、新興国のマーケットでの販売価格やコストは、公表情報ベースでは手に入りにくい。そうすると、現地のコンサルタントを使うケースも想定される。

Kreier:まず国内市場、国内産業の2種類のデータを集める必要があるが、大切なのは、生産者と業界団体が十分に協力することである。メーカーの一部しか申請しないのなら、国内市場で損害があったことを立証するのは難しい。ダンピングの事実についての情報はもっと複雑で、国や業種の性格によっても異なる。たとえば金属業界や鉄鋼業界のように、潤沢で細かな情報があって、価格も公になっているものは、調査開始の基準を超えられるかもしれない。

しかし、ベストの情報は輸出国における取引の実勢価格である。ただ、コモディティだと、表示価格と実勢価格の間で乖離がよくある。値付け情報があまりに少ないので、コスト計算の方法を示したり、自社コストを示したり、材料費が国によって違うことを裏付け情報として出したりするが、それで十分と見なされる場合もある。

エビデンスの閾値を超えるために輸出業者は情報を提出しなければならないが、もちろん強要はできない。調査が始まっても積極的に出してこない場合は、申請書にある根拠が不明確な情報も利用することになるかもしれない。したがって、十分性の閾値をまず超えたところで調査を開始するが、調査をいったん開始したら、あとは輸出側がどの程度情報を提供してくるかにかかってくる。

Q2:同じ輸入業者から買っても、売値が違う場合、それは最安値で決まってしまうものなのか。もう1つは、海外生産を積極的に進めている当社の海外工場から見ると、日本から素材を送ると、海外工場は輸入業者になる。この場合、海外の素材業界に対してダメージを与えたことにはならないと思うのだが、それでも問題になるのか。

太田:日本の場合、基本的に1年間に行われた全ての取引について、平均した価格を求める。その平均した輸出価格と、同じ製品の1年間の国内販売価格の平均を比べて、ダンピングの判断が行われる。

2つ目の問題はまず、日本から輸出されている価格がダンピング価格かどうかである。また、親会社が国内で売る価格よりも安く子会社に売っていたとして、それが相手国の国内産業に損害を与えているかどうかも、もう1つの要素となる。ダンピングがあるだけでは課税は行われず、ダンピング輸出によって国内産業の損害が出ていることを立証することになる。

藤井:御社の海外拠点に売りたいという現地の素材メーカーが潜在的に多く存在する場合、内部消費だから、グループ間だからという理由だけではアンチダンピングの対象から外されることはない。

宮崎:日系の家電メーカー、自動車メーカーなどの海外進出に伴って、もともと日本国内で販売していた鉄鋼製品を海外に輸出するケースが多く存在する。輸出された鉄鋼製品が現地鉄鋼メーカーの製造可能な汎用品である場合、アンチダンピング提訴の恐れが出てくる。その際、現地需要家の皆さんにハイグレードの鉄鋼製品が必要であり、輸入を継続したいと証言頂き、アンチダンピング措置の対象から除外になるケースもあった。一方、除外が認められず、日系需要家が海外での一部の生産を諦め、日本国内で鉄鋼製品を調達し、少し川下の家電部品にした上で輸出するケースもあった。海外進出する際には、素材調達のリスクをある程度負うことになる。

Q3:われわれ鉄鋼分野がアンチダンピングを打ったときの国内のお客さまの声や、アンチダンピングを打った相手国の報復はどうか。

Fonseca:ブラジルの鉄鋼業界は1980~1990年代、常にADの標的になっていたが、今は訴えている側である。企業がアンチダンピングの対象側と申請側の両方になることもあるが、それで評判が落ちることにはならない。企業が保護を必要とする場合、消費者との間で摩擦が生じるかもしれないが、それは払わなくてはならない代償である。

太田:ルールに基づく紛争解決、自由貿易体制を考えるとき、力の支配ではなく、法の支配が大事である。中国などいろいろな国がWTOのメンバーになったことは、ルールに基づく国際貿易が広がってきたということだ。日本は経験が少ないので、相手が嫌な思いをすることを心配すると思うが、調査・手続きはきちんとした証拠に基づいた準司法的手続手続きだと思って進めていくことが大事だと思う。