OECD-RIETI特別セッション

アジアにおけるグリーン成長 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2015年5月15日(金)10:00~12:00
  • 会場:ウェスティンホテル東京B1「楓」
    (東京都 目黒区三田1丁目4-1 恵比寿ガーデンプレイス内)

アジアにとって、環境保全と経済成長の実現を同時に目指すグリーン成長戦略が不可欠となっている。RIETIはOECDと共催で、それぞれの研究をもとに、アジアのグリーン成長に向けた政策や制度のあり方を議論する特別セッションを開催した。まず、OECDの玉木林太郎事務次長が基調講演を行い、再生可能エネルギー(再エネ)分野への投資環境を整え、エネルギーへの課税を強化することを提言するとともに、全省庁が横断的に温暖化対策の行動を起こすよう求めた。RIETIからは、馬奈木俊介ファカルティフェローがアジアの環境政策について、続く大橋弘プログラムディレクター・ファカルティフェローは日本の再エネ導入の将来予測について論じた。後半のディスカッションでは、日本のグリーン成長の方向性や産業界と協働したグリーン化の取り組みについて議論を深めた。

議事概要

開会挨拶

中島 厚志 (RIETI理事長)

アジア経済は急速な発展を続け、世界経済の成長をリードしている。しかし、都市公害や温室効果ガス増加の問題などが広がりを見せており、いかに自然の資源や環境を維持しつつ経済成長するか、すなわちグリーン成長を図っていくかが大きな課題となっている。世界では温暖化が深刻になると見込まれる一方、人口増加が続いており、グリーン成長の実現は待ったなしである。このセッションが参加者全員の知見を広げると確信している。

基調講演「低炭素経済への移行のための政策課題」

玉木 林太郎 (OECD事務次長)

1. アジアで気候変動の議論を

アジアは、環境部門への配慮がまだまだ弱く、気候変動に対する脆弱性の大きい地域である。特に、東南アジアはいかなるシミュレーションにおいても、気候変動の影響が最もネガティブに現れる。経済統合を目指すASEANが議論の主流としているのは、貿易自由化や投資促進である。しかし、この地域で環境に対する関心を高めることは、われわれにとって非常に重要な任務である。

2015年12月、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)がパリで開かれる。COP21では温室効果ガスの排出削減目標が長期間で設定されているので、東京ではゆっくり事態を見てから議論しても遅くはないという機運が強いと思う。しかし、今の段階から真剣にアクションを考え、着手することが大事である。なぜなら、エネルギー対策の取り組みが成果を出すまでには非常に時間がかかり、温室効果ガスの排出をすぐに減らすことはできないからである。

産業革命以来、地球の気温は上昇していて、今までのような経済発展が続くと2100年には3~6度上がる。これを2度以内にとどめるには、温室効果ガスの排出量を2100年までにゼロにする必要がある。しかし、温室効果ガスはいったん排出されるとたまってしまうので、目標年の近くで急に削減するのは困難である。

温室効果ガスの排出削減を進める上で、社会インフラは非常に大きく影響する。たとえば、いったん発電所を造ると40~50年は機能するので、今から2050年までにもっと排出量の少ない発電所に切り替えようとしても間に合わない。都市計画にしても、道路網を中心とした広い範囲の都市を造る方向性を急に切り替えようとしても、簡単にはいかない。この分野の政策アクションは実効感が出るまで時間がかかり、後戻りできない。したがって、環境省だけでなく全役所が温暖化防止の意識を持って行動してほしい。

2. 政策提言

OECDでは、再エネや省エネに向けて明確なエネルギー政策やインフラ計画を立て、それに対して安心して投資できる環境の構築を目指している。しかし、今も化石燃料が世界のエネルギー需要の8割を占め、化石燃料への投資が少しずつ増えており、再エネへの投資はなかなか増えない。

再エネ分野への投資は長期投資になるが、世の中は全体的に長期投資を抑制する方向にある。年金基金や保険会社のような機関投資家の資金も、政府の規制があってなかなかこの分野に回らない。日本でいえば金融庁が、これからこういう分野に資金がなるべく回るように、規制を考えていく必要がある。

また、温室効果ガスの排出削減に向けて、エネルギーに対する課税の効果は大きい。排出源として一番大きいのは自動車だが、日本はガソリン課税も自動車の取得保有課税も世界的にみて非常に低い。このような現状を認識し、排出抑制的な政策を取る必要がある。

再エネの1つである太陽光発電や風力発電は、国産の設備を一定程度使うよう規制しているため、コスト高になっている。海外の安価な設備がもっとたくさん入り、大規模投資が行われる仕組みを作る必要がある。また、日本は海外に生産拠点を移している企業が多いので、生産ベースよりも消費ベースの方が温室効果ガスの排出量が多いことも考慮すべきである。温暖化防止と絡めてコンパクトなまちづくりを進めることも大切だ。温暖化対策は早過ぎることはない。アクションをあらゆる政策やビジネスに織り込んでいってほしい。

講演

「アジアにおけるグリーン成長」

馬奈木 俊介 (RIETIファカルティフェロー/九州大学大学院工学研究院都市システム工学講座教授)

1. 新国富指標

私は5カ月ほど前、国連環境計画(UNEP)の報告書作成を行った。UNEPでは、環境問題への対策を踏まえた上で長期的な経済成長をどう担保するかという議論がなされている。私たちは近年のデータ分析の蓄積を踏まえ、140カ国の資本について過去20年間を分析している。人工資本(Produced capital)と自然資本(Natural capital)、人的資本(Human capital)を定量的に計測し、実際の経済成長だけでなく、今後のグリーン成長を含めてどれだけ担保できるかを示した。その結果、アジアでは人工資本は他の地域と同様に伸びているが、自然資本は多くの国でマイナスとなり、全要素生産性(TFP:時間の資本)としてはマイナスになっていることが分かった。自然資源を生かし切れていない一方で、人工資本が大きく増加しているのである。ただ、人的資本はプラスになっている。

環境を加味した効率性をうまく上げることで、自然資本が人工資本の価値より大きくなれば全体としてプラスになる。逆に、自然資本が減耗しても、それ以外の要素で相殺できればグリーンを含めた成長としてプラスになり得る。この両方がグリーン成長を達成する方法であり、Inclusive Wealth(新国富(=包括的富))という指標として経済価値に落とすことができる。

2. アジアの低炭素化政策

アジアにおける環境政策の導入は、非常に注目されている。また、東京を含めた多くの大都市が世界大都市気候先導グループ(C40)に属し、排出権(排出量)取引など多くの政策を国の設定以上に導入しており、周りがそれに追随しているのが現状だ。その中で、温暖化対策は各産業、各企業で同様の負担をすることが重要だが、対策費用に非常にばらつきがあることを認識しなければならない。

過去には、国ごとではなく、各国の産業分野ごとに、やりやすいところから多くの政策が導入されてきた。また、多くの環境関連規制は、環境面で非常に効果があった。現在、アジアの多くの国に対して検討されている化石燃料への補助金の削減は、化石燃料以外のエネルギーにシフトさせる効果が大きい。それは、コストを伴わずに利益を生むことにつながる。

炭素税として大きく成功しているのはスウェーデンのみで、多くの国は排出権取引制度を導入している。しかし、現状では法的拘束力がなく、排出量の上限(キャップ)が低いために効果は小さい。一方で、取引価格が継続的に高くなっている国では、技術進歩やエネルギー分野における革新(グリーンイノベーション)を促し、新しい投資につながっている。炭素の社会的価値が将来的に大きくなっていくことで、気温上昇を2~3度に抑えるという目標は達成できると思われる。

アジアの多くの国で新しい政策が導入され、グリーンイノベーションが増えている。多くの国でGDPに占めるエネルギーの割合は減っているが、成果が見えにくい炭素や生物多様性は悪化している。アジアにおける温室効果ガス削減のポテンシャルやビジネスチャンスは非常に大きい。国、都市、産業レベルでInclusive Wealthを増やせる状態に持っていくことが重要であり、各国の事情に合わせて課税や排出権取引、研究開発、補助金などの政策を複合的に取り入れたり、情報を共有したりすることが大事である。

「日本のグリーン成長とその将来予測」

大橋 弘 (RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー/東京大学大学院経済学研究科教授)

1. 東日本大震災の影響

2013年2月にまとめられた電力システム改革専門委員会の報告書は、東日本大震災以前の日本の電力システムを振り返り、再エネを推し進める必要性を論じている。日本はオイルショック後、エネルギー自給率を高めるため、原子力と再エネに力を入れてきた。ただ、原発は震災で稼働しなくなり、再エネの普及に時間がかかっているため、現状は火力が大幅に増えている。

そのため、電気料金は上がり続け、エネルギー自給率は急速に低下している。これまでのベースロード電源に代わる電源を育てなければならない。また、化石燃料への依存度が高くなったことで、二酸化炭素や温室効果ガスの排出量が増えている。これらの点から、再エネの普及促進が求められている。

2. 固定価格買取制度の導入

日本では震災後すぐ、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を導入した。これは、発電事業者に金銭的なインセンティブを与えることで、再エネの普及に非常に大きな効果があったといえる。太陽光発電の認定量をみると、価格が改定される直前の毎年3月に急激に増え、その上昇の度合いは制度の認知度が高まっていることを受けて年々大きくなっている。ただ、稼働に当たっては制度的な問題があるので、認定された発電事業者全てが稼働するわけではない。稼働率を上げるためには、規制の見直しが必要である。

日本の再エネの9割以上を占める太陽光発電は、分散型電源や非常用電源として重要であり、地産地消の電源として極めて有効である。ピークを抑制する効果もある。一方、システムの価格が高いのが欠点である。メリットとデメリットのバランスをどう考えていくかが重要な課題である。

3. 将来予測

再エネ導入に当たっては、頭の痛い問題がある。太陽光発電を導入すると、ピーク需要の抑制には確かに効果があるが、導入し過ぎると逆に負荷率を悪化させる。また、再エネの導入が進んでも、その出力に合わせて供給量を補う電力として火力発電は必要である。しかし、火力発電は最低出力で待機(mothballing)している間は売電できないので、採算性が非常に悪くなる。そこで、商業ベースに乗らなくなる火力発電をいかに国で支えるのかという問題が生じる。

日本は安定供給、経済効率性、環境適合と安全性の3E+Sで、基本的なエネルギー政策が作られている。先月末に公表された長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)の骨子では、エネルギー自給率を24%近くまで引き上げる、電力コストを少なくとも5%は下げる、CO₂の排出量を25%以上削減するという3つの柱を掲げている。これらを達成するためには、再エネの中でも安定的で自然変動しないものをもっと普及させること、高止まりしている太陽光や風力のシステムコストを大幅に下げることが必要である。

日本では、環境だけでなく経済成長も含めた観点でFITの法律が制定されている。産業振興の観点ではまだまだ研究が必要であり、グリーン成長や再エネの普及がどれだけ雇用創出や経済成長につながるのか、RIETIとしても今後、研究を深めていかなければならない。

ディスカッション

モデレータ:村上 由美子 (OECD東京センター所長)

村上:グリーン政策の実施に関して、とくに産業界との協働あるいはイノベーション促進の面で成功している事例はあるか。

玉木:カナダ西部のブリティッシュコロンビア州は、排ガス税導入に成功した。段階的に税率を上げていったことと、増収した分、法人税と所得税を減税するというタックスミックスが大きな成功要素となった。日本でも排ガス税と法人税のリンクはあり得る。

馬奈木:CO₂排出削減に関しては、都市の混雑緩和のために混雑税を導入して公共交通の利用を促進したシンガポールや、健康被害低減のために汚染対策を導入してCO₂排出量も削減させるプランを進めている中国の例がある。異なる効果を同時に達成する政策の実施も重要である。また、適応という観点では、洪水とヒ素の問題を抱えるバングラデシュで、この2つに強い農作物を栽培して生産量を維持し、持続可能性を高めている。

大橋:再エネを産業と捉えた場合、わが国ではFITが非常に強いインセンティブを与えた。再エネへの理解が深まり、ビジネスとして捉える企業も増えており、今は再エネをバランスよく普及させていく局面に入っている。

Q:アジアの途上国は、急成長する一方でまだまだ貧しく、安価な石炭火力発電に頼らざるを得ない現状である。日本としては低公害技術の開発を進めていく方向だが、OECDではどのように考えているか。

玉木:途上国の成長自体が、環境に十分配慮したバランスの取れたものである必要がある。現在のエネルギーギャップをどう埋めるかは、40~50年の期間を見据えた選択になる。石炭火力についてはまだ議論の途上にあり、OECDとしての意見はない。ただ、炭素の外部コストの価格づけは不可避であり、それを踏まえてエネルギーコストを考える必要がある。石炭火力の排出レベルはまだまだ高く、プライシングを勘案しても、経済的・長期的に投資を説明するのは難しい。

Q:日本はすでにエネルギー効率が高く、CO₂排出削減の余地は少ないのではないか。

玉木:まず、日本は地球環境を守るという国際的責務としてCO₂排出削減を考える必要がある。また、世界各国が社会・経済システムの大転換を図る中、日本だけが旧来のシステムを維持することで生じる長期的なコストは甚大である。政策対応では常に先手を打つべきだ。

馬奈木:日本の場合、さらにCO₂対策を進める上で必要な追加費用は、分野によって差がある。しかし、地域活性化や関連分野での雇用創出などの間接的効果が期待できるので、さらにグリーン化を進める価値は非常に大きい。

Q:アジアでは現在、インフラ形成が進んでいる。全体としては、増加する人工資本で他の資本をカバーできると考えるが、アジアのグリーン成長の観点からはどうか。また、中国の鉄鋼などが採用される可能性が高い点について、どう思うか。

馬奈木:過度に他の資本が減少するのでない限りは、グリーン成長として可能になる。シンガポールと他国を結ぶ新幹線プロジェクトが提案段階にある。長距離輸送の場合、人工資本は増加するが、自然資本に関しては環境被害が懸念される。しかし、現在の提案には、新インフラが地域に与える影響まで考慮したものはあまりない。技術や材料の質を踏まえた環境評価については、中国だからこうだとは一概にはいえず、その都度評価する必要がある。

Q:世界ではヤトロファなどの非食用油が燃料として利用されているが、日本では化石燃料以外の燃料があまり伸びていない。どうすれば非食用油が日本でバランスよく拡大していくか。

玉木:たとえば輸送のモジュールを転換するにしても、温暖化対策を講じなければならないといいながら、現状では自動車税などのエネルギー課税は全体として随分低く、一貫性がない。化石燃料からの転換を図るためには、政府が転換の大枠をさまざまな政策シグナルを通じて各経済主体に一貫した形で示すことが重要である。

Q:石炭利用に関して、コストの問題は補助金の政策効果でどの程度調整されるのか。また、グリーンイノベーションは、大企業集中型の展開と分散自立型の展開で戦略が異なってくると思うが、より具体的なビジョンを知りたい。さらに、グリーンイノベーション的な視点に基づいた、全国総合開発計画のような総合政策はあるのか。

馬奈木:グリーンイノベーションは、各関連省庁が主要な目標に掲げて政策を進めている。アジア各国では、以前は非再生可能エネルギーへの補助金を削減する議論すら難しかったが、実際に削減し始めており、当初の予定以上の進展がみられる。一方で、日本のバイオマスは非常に高コストで、輸送分野での展開が難しい。政策としては、価格メカニズムを用いた支援があり得る。

大橋:わが国では、再エネによる電気が地産地消を超えて、送電線でも供給する方向を志向したために、送電線のコストがかさむなどのデメリットが大きい。どの程度のコストを掛けてどれだけ普及させるのかは、大きな論点になると思う。国土交通省が策定する国土形成計画に、分散型電源や再エネを国土開発にどう生かすかという視点が導入されるべきだろう。

玉木:太陽光発電のコストは、ドイツがFITを導入して大量の投資が起こり、中国企業が生産を開始したことで競争が激化し、大きく低下した。ただ、技術革新の動きが速く、長期を見越した研究開発が大変難しい。ブレークスルーが起こって、あっという間にシステムが転換することもあり得る。