第11回RIETIハイライトセミナー

新春セミナー:新たな経済、産業の方向を問う (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2015年1月30日(金)16:00-18:00
  • 会場:RIETI国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)

アメリカのシェール革命や中国経済の減速などから、2000年以降、世界経済の主役はアメリカに戻ろうとしている。IT技術の発達やグローバル化などに伴い、世界的に産業構造に変化の兆しが見られる中、日本においてもアベノミクスの真価が問われており、国内外の経済は新たな転換点を迎えている。本セミナーでは、新たな経済・産業の方向性について、2名の講師を招き、議論を行った。大橋 弘RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェローからは、産業構造の変質と社会システムの再設計の必要性について、小林 慶一郎RIETIファカルテイフェローからは、株主を主体としたエクイティ・ガバナンスの仕組み作りについて、それぞれ講演を頂いた後、ディスカッションを行った。

議事概要

講演1 産業構造に関する論点

大橋 弘 (RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 東京大学大学院経済学研究科教授)

1. 問題意識

産業構造に関する問題意識の背景として、これまでわが国が強みとしていた競争性のコアの部分がだんだん移り変わっていくのではないかということがある。従来は、各企業が自らのプラットフォームで製品を売っていた。それがデジタル化により、各企業のプラットフォームに国際的な標準化の横串が刺されるような事態になっている。同じビジネスモデルを持つ企業間の競争から、異なるビジネスモデルの企業が登場することで、プロセス・イノベーションを行う主体とプロダクト・イノベーションを行う主体が乖離していく。そのような姿になったとき、わが国の産業構造はどうなっていくのか、産業政策や競争政策は万全を期しているのかというのが問題意識である。

わが国の産業構造は、労働集約型であるサービス産業へと徐々に推移してきた。その転換の背景には、技術革新に伴う生産性向上で産業が置き換わっていく供給側の要因、市場規模が大きいところに産業全体が引き寄せられていく需要側の要因があるが、3つ目の要素として、社会システムの変革が重要である。

2. 起業

そうした中で、産業構造を変える大きな力となるのは、起業である。起業をどう促していくのかということがポイントとなる。インターネットの普及などによるデジタル化の進展により、ビジネスを実験するコストが低下したことで、起業の社会的素地が整ってきているのではないかと思う。

最近の経済学の研究では、ベンチャーキャピタル(VC)の存在が重要ではないかという論点がある。VCは事業撤退の見極めが思い切ってできることが利点であり、官民ファンドとの連携のあり方を考えるのも今後の重要な課題である。また、起業の際のコストは低下しているとはいえ、法的な手続き上のコストはまだあり、規制改革や特区などを使って引き下げていくことは政府の重要な役割である。

3. プロセス・イノベーションの加速

最近、第3次産業革命という話がいろいろ出ているが、消費者へのメリットは計り知れないものがあると評価できる。ただし、わが国の産業構造の将来を考えた場合、必ずしも楽観視できる材料ばかりではない。

まず挙げられるのは、産業革命によってプロセス・イノベーションが加速することである。わが国の製造業は「匠の技」を競争力の源泉の1つとしているが、そうした技が定量化されてしまうと、再現性が高まることになる。アメリカのIndustrial InternetやドイツのIndustrie 4.0などがその例である。立地を考慮する要件として労働の比重が低下するため、海外に行った工場が国内に戻るきっかけになるかもしれないが、技術的に他国が追いつくことが容易になるため、いかに技術力を磨いていくのかが大きな課題となる。匠の技を知財として守り、収益を上げていくという知財戦略の視点がさらに重要になるだろう。また、非貿易財だったサービス業の世界でも、インターネットの登場でグローバル化の影響が出始めている。

4. 競争のあり方の変質

こうしたデジタルの世界では、消費者が良いと思う財・サービスを提供する者が「勝者」であるという牧歌的な構図は、少しずつ変わらざるを得ないのではないか。つまり、デジタルなプラットフォームという競争の土俵を作った者が「勝者」となる世界である。

Androidのようなデジタルなプラットフォームの登場とグローバル化の進展が相まって、半導体などでは設計と製造が分離する「ファウンドリ化」が進んでいる。その中でプラットフォームをアウトソースした会社は、差別化の手段を失うことになる。基本的にはプラットフォームに乗って生産しながら、プラットフォーム自体を変えることはできないというような競争のあり様が出てくるのである。他方で、設計と製造一体型で付加価値を高める産業もある。

いずれにしても、そのプラットフォームは市場メカニズムで自生的に確立されるとは限らず、規制緩和に加えて、社会システムの再設計、再規制が伴って初めて「稼ぐ」源泉につながる。勝つために競争の土台をどう作るかという構想力が重要になってくる。

5. 今後の産業政策・競争政策への一考察

デジタルではいろいろな分野の融合が重要になり、そこから付加価値が生まれるため、連携・結合のメリットが増える。従来、企業間の結合や提携は規制されており、そうした合併規制のあり方も考え直していくという方向性もあると思う。

また、これまでは消費者メリットに重点を置いた政策だったが、起業のイノベーションや雇用促進、経済成長という観点で考えたとき、消費者メリットの観点と整合性を持たないケースが増えてくる。海外から異なるビジネスモデルが横展開で入ってくる時代になったとき、そうしたビジネスモデルとの競争をどう考えるのかという視点を、わが国は残念ながら持ち合わせていない。国内に「イノベーションの芽」を残すということが、経済の中長期的な成長に欠かせない。市場の概念についても、これまでの「財・サービス市場」に加えてもう少し広く捉え、「イノベーション市場」を考えていく必要がある。

講演2 新しい日本型経済システムとは何か バンク・ガバナンスからエクイティ・ガバナンスへ

小林 慶一郎 (RIETIファカルティフェロー / 慶應義塾大学経済学部教授)

1. 経済成長と生産性

成長戦略の大きな課題は、生産性をいかに上げるかである。生産性の向上は、人・物・金といった経営資源の最適配置によってもたらされる。最適配置は企業に対するガバナンスによって行われ、内部組織の統制に加えて、外部からの規律付けが重要だが、現状ではうまく働いていない。

資本生産性(ROE)を世界各国と比較しても、日本は一番低く、世界平均の半分である。投資家が求めるリターンの7%ラインを下回っている企業が7割もあるのはおかしな状況である。山の頂点が3%のところにある日本のROE分布を、13%くらいのところに頂点があるグローバルな平均値に近づけていく必要がある。

ROEを幾つかの要素に分解し、日本、アメリカ、ヨーロッパを比べると、財務的なテクニックで動かせる回転率やレバレッジにはあまり差がないが、本業が稼ぐ力を表すマージンは、日本がアメリカ、ヨーロッパの半分と著しく低い。ROEは企業の効率性や生産性をかなりよく反映した指標であり、この数字を上げることは生産性をどう上げるかということに直結している。

2. バンク・ガバナンスとエクイティ・ガバナンス

ROEが低いのは、バブルの崩壊前までうまくいっていた日本型のガバナンスの構造が崩れ、新しい日本型の構造に移れていないことが原因だと考えられる。バブル崩壊前までは企業は資金不足であり、金利が高い時代だったため、銀行からのガバナンスがうまく働いていた。しかし、崩壊後は企業が資金余剰となり、マーケットの金利も低くなったため、銀行からガバナンスを効かせることが難しくなった。低金利の時代では、あまりにも利幅が薄すぎて、貸出先の企業の経営状態を調査して適切なアドバイスをすることができない。要するに、企業に対してガバナンスを効かせるような貸出業務ができないと、あまりにもうけが少なすぎて、コストをかけていられないということである。

こういう時代には株主が銀行に代わってガバナンスの主体となるべきだが、そうなっていない。今の日本の資産運用業界を見ると、銀行や証券会社に比べて資産運用業の地位が低い。そうすると、インデックスの相対評価だけで人事評価がされることになり、とりあえず市場のポートフォリオをハイスピードで組み替えるという投資構造になってしまう。それでは、投資先の企業の経営を親身に考え、企業の長期的な成長を促すような投資行動をとることはできず、投資哲学の継承も希薄化してしまう。

それに比べて、欧米の資産運用業は、業界の地位も高く、投資先の企業により積極的なエンゲージメントをしようとする投資行動を行っている。

この違いは、ある種の複数均衡のような構造が資産運用業界に存在し、日本は歴史的な経緯で悪い均衡に落ち込んでいるためではないかと思う。日本の多くの資産運用業者が受動的な投資戦略をとっているため、なかなか抜け出せない構造があるのではないか。であれば、産業政策や経済政策として政府がいろいろなお膳立てをする必要がある。

3. インベストメントチェーン全体の改革を

そこで、銀行のガバナンスが効かないという前提で考えると、株式投資のインベストメントチェーンに関わるプレーヤー全てについて、何らかの改革をしていく必要があると思う。インベストメントチェーンには、株式投資をされる企業と、企業の株を保有している資産運用業(アセットマネジャー)、そのアセットマネージャーに資金を委託している「金主(アセットホルダー)」と呼ばれる最終投資家があり、このチェーンの順番に投資され、最終的に株式投資の輪がつながる。日本の場合、資産運用業に非常に問題があり、その資産運用業に対してお金を預けているアセットホルダー、最終投資家にも株主としていろいろな問題がある。

投資を受ける側の企業組織については経済産業省によっていろいろな改革がなされてきたが、現実の企業行動はこの20年変わっていない。インベストメントチェーン全体を見渡すと、企業の中だけをいじっても効果が十分に得られない、むしろ企業に投資している資産運用業、最終的にはアセットホルダーの行動を変えなければいけないことが分かる。そのためには、資産運用業の意識変容を促すとともに、独立系の運用会社の新規参入を促進する手立てが必要となる。

4. リード株主制度の構想

私たちは、銀行の時代のメーンバンクに相当する役割をエクイティの投資家が企業に対して果たしていく制度を「リード株主制度」と呼んでいる。つまり、メーンバンクのエクイティ版を作ろうということである。そのような投資行動ができるよう、会社法や金融商品取引法の仕組みを作ることも1つの策ではないだろうか。

プレゼンテーション 世界経済の潮流変化

中島 厚志 (RIETI理事長)

2000年以降、BRICsをはじめとする新興国が世界経済牽引の主役だった時代が10年余り続いた。しかし、風向きは急激に変わり、その主役はアメリカに戻ってきている。一方、原油・資源安によって資源新興国の元気がなくなっている。新興国に元気がなくなり、世界経済の成長は減速するが、アメリカをはじめとする先進国に力が戻ってきているという意味では、かつての世界経済の姿に戻ったともいえる。

世界的に、原油は緩やかに需要が増えつつも価格は下がっており、シェール革命が進展しているアメリカで生産量が圧倒的に増えたことに起因している。エネルギー資源は新興国にあるという図式が崩れて、シェール革命主導での原油安が続こう。また、多くのエネルギー源がアメリカにあるという図式に変わったことや、イノベーションが目覚ましい形で進んでいることで、アメリカ経済の存在感は今後とも高まっていこう。

世界の名目GDPとマネーサプライの関係をみると、表裏一体的だったが、徐々にマネーの量がGDPより大きく増えて、リーマンショック後はマネーが優位となって世界のマーケットに影響を与える度合いが高まっている。一方、日本の場合は、マネーサプライは伸びているが、名目GDPは横ばいであり、双方の関係が希薄化している。そして、増えたマネーは9割以上が国債、日銀の預け金、対外債権の形で海外に出ている。緩やかなインフレになれば名目GDPは増えてGDPとマネーとの関係は元に戻るが、逆にお金を出しても、経済とマネーの関係が希薄化していれば、インフレになりにくい。あらゆる手段で経済とマネーとの関係を取り戻すことが必要だ。

ディスカッション

モデレータ:中島 厚志 (RIETI理事長)

世界経済の潮流変化

中島: 今後、世界経済はアメリカを中心とした革新力のある先進国がリードしていくと思うか。

大橋: 原油安により、エネルギーシステムを再考する良いきっかけが生まれている。当面はアメリカに人材が集まるだろうし、かなりの部分をアメリカが引っ張ることになるのではないか。

小林: 中国や新興国での投資機会が減ってくるとなると、アメリカの投資市場にお金が流れ、リーマンショックの原因の1つといわれたグローバル・インバランスの構造を再び作ることになる。本来目指すべき方向は、途上国でガバナンスの仕組みをよりしっかりさせ、投資機会を中国などの新興国に作り、欧米の投資家が中国の企業に安心して投資できるような制度設計をすることである。

イノベーションについて

中島: 今起きていることは、ファイナンスやマネーではなく、イノベーションによる産業革命のようなところがあるとみてよいのか。

大橋: 過去の産業革命において、資金の動きは当然重要な要素であったが、同時に何らかの技術のビッグバンがあったといわれている。では、今のインターネットはどうなのかという議論になると思う。そういう意味では、原油価格やバブルというのは1つの引き金にはなるかもしれないが、全てを説明するわけでもないと思う。ただ、製造業の観点で言うと、極めて重要なグローバルシフトが起きている。

中島: 過去の産業革命では長期にわたって世界経済が成長するブームを起こしている。今起きている動き、大きなイノベーションには、1990年から始まったIT革命が断続的とはいえ広がっているとすれば、今長期にわたる世界経済成長の可能性や芽生えが、産業構造などの点から見られるか。

大橋: 電気が普及するまでにも20~30年かかった。したがって、需給の要因は非常に重要だと思うが、社会がイノベーションを受け入れる素地として、社会システムの変容が必要となる。今、いろいろなところに従来のシステムの歪みが出てきているのではないかと感じている。

中島: ガバナンスの考え方もそうだと思うが、社会システムの変革が新たな成長につながっていくのだろうか。

小林: ITのような基幹技術が本当に社会を変えるまでに、恐らく50年くらいかかるだろう。そして、ITやそれに関係する第3次産業革命の技術進歩が社会全体を変えていくためには、もう少し時間が必要である。そうなれば、投資機会が爆発的に増え、今、バブル的な不動産などに流れているお金が新しいテクノロジーによる投資案件に流れていくのではないか。

世界・日本経済の展望

中島: 世界経済を大きな構造で見ると、今後をどう展望するか、あるいは今どう変わりつつあるのか。

大橋: 数年前にダニ・ロドリックの、「世界経済の政治的トリレンマ」の考えをベースとして、グローバリゼーションと民主主義と国家主権は両立しないという議論が話題になった。その観点で言うと、グローバル化の中で国家の利益を増進するためには民主主義にある程度の「枠」をはめる必要があり、それがまさに社会システムの再設計・再規制だと思う。こうした点を意識していかないと、このトリレンマに巻き込まれてしまう。

中島: 今後もマネーの増大が続いていくと、エクイティ・ガバナンスは具体的にもっと機能するのか。1つの社会インフラになるとすると、どのようなデザインができるのか。

小林: エクイティ・ガバナンスは、必ずしもアメリカ型になる必要はなく、日本型のメーンバンク的なものでもいいかもしれない。それをエクイティ・ガバナンスの分野で作る。

中島: 日本経済は、アベノミクスに入ってから変わってきている。現状のアベノミクスと日本経済をどうみているか。

大橋: 手をつけられるものから手をつけるという意味で、とても機動的にやっていると思う。とりわけ第三の矢は極めて難しい問題だと思うが、規制緩和でできるものからできるだけ企業の活力を伸ばしていくという方向性も良いと思う。ただし、規制緩和だけでいいのかということは私自身やや疑問に感じるところがあり、もう少し大きな絵柄でゼロから考えていくような姿勢もあっていいと思う。まさに農業はそういう方向でやっていると思うが、そうした取り組みをもう少し広がりをもってやっていくと、日本経済の進むべき新しい方向性も見えてくるように思うし、結果的にも日本の財政に貢献する改革に繋がると思う。

小林: 2015年は日本だけ見れば、景気のいい数字がたくさん出てくるのではないかと予想される。そうすると、規制改革や財政再建、社会保障費の削減といった問題に対してまた手がつかなくならないかという懸念がある。2016年も良いかもしれないが、そうすると2017年に消費税を10%に上げようと言っている頃に悪くなってきて、これは増税できないという話になり、もう一回先送りという議論にならないか心配してしまう。財政再建の道筋が今年6月ごろまでに決まるはずだが、そこに注目しなければならない。

中島: そうなるとなおさら、時間が限られている中でアベノミクスの成果を上げなければならないが、この限られた時間でもっと企業を株主価値重視に持って行くということか。

小林: やはり株主価値、あるいは株主から企業の生産性を上げるような仕組みを作る。システム全体を変えるという意味では、当然、資本市場の改革だけでは駄目で、労働市場もそれに合わせた形に変えなければいけない。

中島: これから日本経済の課題、あるいはそれを改善する、日本の産業の競争力を今後とも維持・強化させるためには、どういう方策、どういう方向を考えればいいだろうか。

大橋: 技術力というのは当面は重要な側面だと思う。それを知的財産としてきちんと保護したうえで、収益を上げるビジネスモデルを作らなければならない。ここは一定程度の政策的な関与が必要な領域であり、中小企業向けの「知財特区」をつくるくらいの意識した政策運営をしていかなくてはならない。

Q&A

Q: コーポレートガバナンスの議論は、暴走する経営者に対していかに会社財産を守っていくかというところから始まった。日本のメーンバンクによるガバナンスも、好況のときはあまり効いておらず、不況期に入って、不採算部門の精算やリストラ的な立て直しの時期でないと効かなかった。そういう意味では、前向きに効かせるというのは現実的ではないのではないか。むしろ、日本の経営陣の思考パターンを変え、どうやってもうけるようにしていくかが一番重要なのではないかと思う。

もうかるビジネスモデルを創出するには、社会システムを変えていくことが重要だというのは一般論としては分かるが、たとえば電力システムを見ても、全体としてどのようなイノベーションなり成長なりが起こるのか、よく分からない。具体的な事例を教えてほしい。

大橋: 再生エネルギーを入れることはいいことだと思うが、地産池消を超えて入れ始めたために、話が狂ってきている。来年度から始まる広域連系の話は、従来の震災前の電力システムを推し進めていくことであり、スマートコミュニティとは、送電線が要らない世界をつくるということである。仮に後者の方向に舵を切るのであれば、従来の安定供給の定義が変わることになる。スマートコミュニティとは電力の「品質」に応じて対価を支払う世界であり、電力の品質が均一化されていた社会とは大きく異なる。電力品質に対する大きな市場が創出されるのとは裏腹に、電力品質に意を払う必要がなかったこれまでの社会システムの転換を受け入れなければならないことになる。

小林: 金融のガバナンスの面から言えば、今必要なのは、企業経営によりリスクテイクをさせるようなガバナンスを効かせることである。これは銀行ではできなくて、欧米などではエンゲージメント型の機関投資家が、リスクテイクを求める株主として行動している。日本でも、よりリスクを取るような企業経営を求める投資家行動が出てもいいのではないか。

Q: リード株主構想に関連して会社法改正の必要なポイントは何か。

小林: 端的に言うと、会社法改正はエンゲージメントをやりやすくする制度づくりにつながる。今は各株主がバラバラに企業に対していろいろな要求をしている状況なので、株主間で取りまとめ役を作り、その株主が他の株主を代表して企業と交渉する制度を作るべきではないかというのが、リード株主制度の構想である。これは、株主平等原則に若干抵触する可能性があるので、会社法の改正や緩和が必要になってくるだろう。

Q: 技術流出が非常に深刻な問題になっている。日本の今後の知財戦略として必要なもの、あるいは現状で欠けているものは何か。

大橋: 会社の経営層が、知財は技術屋に任せるという姿勢を脱し、知財も含めた総合的な経営の姿を考えていかなくてはならない。そのためには、経営者が自らの持つ知財に対する理解を深め、それをどう戦略的に使っていくのか技術屋を交えて考える必要がある。知財を経営戦略の中に取り込んでいく企業がもっと出てきてもいいのではないかと思う。