平成25年度ダイバーシティ経営企業100選表彰式・なでしこ銘柄 発表会 シンポジウム

経済産業研究所(RIETI)「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」研究会 成果発表 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2014年3月3日(月)13:00-16:30 (受付開始 12:30)
  • 会場:イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1)
  • 議事概要

    人材戦略としての「ダイバーシティ推進」の必要性が高まるなか、女性、外国人、高齢者、障がい者などを含め、多様な人材を活用して、イノベーションを生み出している企業を、「ダイバーシティ経営企業100選」として経済産業省が表彰し、「女性活躍推進」に優れた上場企業を平成25年度「なでしこ銘柄」として経済産業省・東京証券取引所が共同で発表するシンポジウムが開催された(主催:経済産業省・共催:RIETI/東京証券取引所)。このプログラムの一部として、RIETIは、ダイバーシティ経営やワークライフバランスの取り組みが企業にもたらす経営効果に関する実証研究の分析結果報告を中心に成果発表会を行った。

    モデレータ:

    中島 厚志 (RIETI理事長)

    樋口ファカルティフェローよりRIETI研究プロジェクトでの成果について発表いただいた後、佐藤委員長より事例を通じて見えてきたダイバーシティ経営を進める上での成功のポイントについて説明いただき、最後にTOTOの木瀬会長よりダイバーシティ経営の意義や推進上での課題についてご紹介いただく。

    「女性活躍推進の経済効果」

    樋口 美雄 (RIETIファカルティフェロー / 慶應義塾大学商学部教授)

    1. 研究の目的と背景

    RIETI「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクトでは、ダイバーシティ経営が日本企業の経営や成長、さらには国全体の成長にどうつながるのかを分析することを目的に、2年間にわたって研究を進めてきた。(ワークライフバランス=以下WLB)

    今後、日本では少子高齢化により労働力が大きく減少するが、女性の労働力参加率が男性並みになればGDPの低下を阻止できる。女性の社会進出に伴ってさらに少子化が進展するのではないかとの懸念もあるが、各国の合計特殊出生率と女性労働力率の関係を見ると、かつての仕事か子どもかの二者択一の状況から、仕事と子育て・家庭を両立できる社会になりつつあることがわかる。

    背景には、両立支援環境の整備がある。このおかげで仕事と子育て・家庭の両立、人材の活用が進展している。しかし、単に多くの女性が働きに出れば出生率が上がるというわけではない。女性の社会進出と、子育てと仕事の両立が可能な働き方や人材活用の発展と拡充が相まって初めて出生率が好転するのである。これはまさに工夫の1つといえよう。

    2. 女性活用は企業にとってコストか? 投資か?

    正社員女性比率、管理職女性比率が高い企業、特に正社員女性が激減する30代で女性を活用している企業では総資産利益率(ROA)が高い傾向がみられる。さまざまな要因をコントロールした分析結果によれば、正社員女性比率の1%上昇はROAを0.044%引き上げている。WLBとの関係でいうと、フレックスタイムや短時間勤務制度を持つ企業、WLBを推進する専任部署がある企業もROAが高いが、両者においては正社員女性比率の有意性が落ちる。つまり、単に正社員女性比率が高いだけでなく、WLBの推進が伴って初めてROAを高めるということが確認される。

    女性が活用されている企業には、職場の労働時間が短い、雇用の流動性が高い、賃金カーブが緩く賃金分散が大きい、WLBが充実しているという特徴がある。逆に、男性も労働時間が長く、画一的な働き方をしている企業では30~40代の女性正社員が少ない。これらが女性活用の阻害要因になっており、是正すれば女性活用が進みやすいといえる。

    図:30歳代の正社員女性比率と利益率の関係
    図:30歳代の正社員女性比率と利益率の関係

    WLBを導入した企業と未導入企業の全要素生産性(TFP)を比較すると、導入後1~2年では未導入企業と差がないが、4~5年経つと大きな差が生まれてくる。

    3. まとめと政策提言

    女性を増やすだけでは、パフォーマンス向上にはつながらない。働き方、活用の仕方の変革を伴って初めて効果が表れる。具体的には、働き方のフレキシビリティ(柔軟性)の拡大、男女格差(賃金、労働時間、処遇など)の縮小、上司の意識の改革が、重要な影響を及ぼすという分析結果が出ている。WLBは、当面は確かに「コスト」だが、3~5年後には企業業績を向上させる「投資」となると受け止めるべきであろう。さらに、非財務情報の開示は、海外投資家の株式所有比率の向上を通じて経営の規律付けにつながることが期待できる。女性活用と同時にポジティブ・アクションの推進ができてこそ、企業の収益につながっていく。

    企業における女性活用を具体的に進めるには、自社における取組の現状や実績を把握し、阻害要因を取り除くべく数値目標を設定して、それに向けてWLBを促進していくことが求められる。制度の整備と、経営者、管理職、社員の意識改革を進めることも重要だ。

    しかし、当初は「コスト」になるため、企業はなかなか取り組もうとしない。そこで、有価証券報告書の開示項目に、役員・管理職などの女性割合や、今後の女性登用促進に向けた具体的方針を追加し、取り組みを宣言するようにしてはどうか。女性活躍企業に対する優遇措置を政府が取ることも必要だろう。そして、企業の積極的な取り組みを推進し、企業も研修などを通じ、経営者との交流の機会を拡大し、候補人材を育成する仕組みをつくっていくことも一法ではないか。こうした企業の積極的自発性を促す取り組みについての政策提言を考えているところである。

    「ダイバーシティ経営企業100選から見る『ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方について』」

    佐藤 博樹 (東京大学大学院情報学環教授 (ダイバーシティ経営企業100選運営委員会委員長))

    1. ダイバーシティ経営とは何か、なぜ必要なのか

    ダイバーシティ経営とは、多様な人材が活躍できる働き方、職場風土の下で人材を適材適所に配置することで「経営成果」につなげることを目指すものである。「適材」と考える範囲を見直し、日本人だけでなく外国人も、男性だけでなく女性も、育児休業復帰後の短時間勤務の人も含めた中から、必要な能力を持った人を選ぶことが基本になる。

    それを可能にするためには、従来の男性以外は働きにくいような職場を変え、多様な人材が活躍できる働き方にしていく必要がある。その結果として、今までと違った商品開発などができるようになる。

    2. なぜトップのコミットメントが大事か

    多様な人材が活躍できる組織や職場風土をつくるには、時間がかかる。そのため、ダイバーシティ経営を進めるには、トップのコミットメントが重要である。トップがコミットして持続的に取り組まなければ、成果は出てこない。

    3. 経営理念の重要性

    多様な価値観を持った人材からなる組織は、ばらばらになってしまう危険性もはらむ。そこでダイバーシティ経営では、他方で組織の統一に配慮を要する。組織を統一するには、個々の人材の価値判断の軸となる経営理念をきちんと持ち、それを社員に浸透させることが大切である。

    「ワークライフバランス経営の取り組みと成果」

    木瀬 照雄 (TOTO株式会社代表取締役 会長 兼 取締役会議長)

    1. TOTOの女性社員活躍推進―「きらめき活動」

    TOTOの製品は、生活に密着したものばかりである。そのため、性別に関係なく、すべての社員が生活者視点で自らの生活を語り、商品やサービスに活かしていくことが求められる。そこで、2005年から本格的に女性社員の活躍推進に取り組み、2010年度からは障がい者雇用、高齢者雇用、派遣・契約社員の登用も進めている。

    社員の声を反映した両立支援制度を用意し、特に子育てに関しては法定以上に手厚くしている。「短時間勤務制度」「育児フレックス制度」「時間有給休暇制度」などの制度をうまく利用し、働き続けてほしいと思っている。

    こうした取り組みの中で女性社員の活躍の場が広がり、派遣社員の提案から女性の気持ちが分かる新たな洗面スペースの開発につながるという事例が出たことを契機に、全社的に商品企画・開発に女性が携わるようになった。

    2. 女性管理職の育成

    現在は2017年に女性の管理職比率を10%にするという目標を推進中で、「女性管理職候補者研修」「女性ステップアップ研修」「女性セールスと上司のコミュニケーション研修」という、女性のみを対象とした3つの階層別研修を育成メニューとして用意している。また、採用に際しては販売部門は男女同数採用を続けている。

    「良き品質を作る前に、良き人を作るのが理想」の精神を継承し、TOTOはこれからも良き人をつくっていく。

    中島: 日本の潜在力は、まだまだ十分に活用されていない。その1つが人的資源である。本日の受賞企業や現在のTOTOの成果に多くの企業がならうことで、ダイバーシティが進むことを期待している。