RIETI 国際ワークショップ

『東アジア企業生産性』プロジェクト 国際ワークショップ (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2012年2月29日(水) 10:00~18:00
  • 会場:独立行政法人 経済産業研究所 国際セミナー室(東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1119/1121)
  • 主催:独立行政法人 経済産業研究所(RIETI)
  • 言語:英語(通訳無)

日本・韓国・中国を主な対象として、企業・工場レベルのデータを利用した生産性や国際化などを研究している、「東アジア企業生産性研究会」(プロジェクトリーダー:伊藤恵子FF)は、2012年2月29日、Mid-Term Workshop on East Asian Firm Productivity を開催した。

議事概要

本研究会では、主に、日本、韓国、中国の企業・事業所レベルのミクロ・データを用いて、東アジア各国における企業のダイナミクスの実態、生産性、国際化などを分析することを目的としている。2011年4月より各メンバーが研究を進めてきたが、これまでの成果を発表するとともに、研究内容のさらなる向上に向けて、中間ワークショップを開催した。我々と同様な問題意識のもとで、韓国と中国のミクロ・データを利用した実証研究を活発に行っている海外の研究者も招聘し、互いの研究成果を報告し合い、活発な意見交換を行うことができた。

ワークショップの参加者

主な参加者は、本研究会に参加している研究者と、韓国・中国のミクロ・データ分析を専門とする海外の研究者である。韓国からは、韓国の工業統計調査の個票分析における先駆的研究者ともいえる、Chin Hee Hahn准教授(韓国:キョンウォン大学)とSiwook Lee 助教授(韓国:ミョンジ大学)が参加した。また、中国の大規模な企業統計を利用した研究の専門家である、Yifan Zhang助教授(香港:嶺南大学)とZhihong Yu講師(英国:ノッティンガム大学)が参加した。他にRIETIの研究者やRIETIプロジェクトに関わる研究者、また外部シンクタンクの研究者などもオブザーバーとして参加した。

ワークショップの目的

今回のワークショップは、本研究会のこれまでの成果を報告する、中間報告会として位置づけられる。本研究会では、主に、日本の政府統計や民間の調査会社などが提供する企業統計等を用いて、日本企業に関するミクロ・データ分析を進めるとともに、韓国と中国のミクロ・データも利用して韓国・中国に関する研究も進めてきた。中間的な成果を報告し合い、また韓国・中国の先端的な研究者とも意見交換を行うことによって、研究内容のさらなる向上を目指すことが目的である。

また、東アジア企業を対象として同様な研究を行っている研究者間のネットワークづくりに資することも、もう1つの目的である。たとえば、欧州では、各国のミクロ・データ分析を行う研究者間の交流が非常に活発に行われている。今回のワークショップの場を利用して、東アジアにおける緊密な研究ネットワークの構築や、国際共同研究・比較研究の可能性についても非公式に意見交換することも目的としている。

概要

本ワークショップでは、午前に1つ、午後に2つのセッションを設定し、合計8本の論文について、報告が行われた。

午前セッションは、まず、藤田昌久所長による開会の辞、伊藤恵子FF(専修大学准教授)の開会挨拶から始まった。続いて、戸堂康之FF(東京大学教授)が、中国における民営化の効果として、民営化後に輸出を開始し企業パフォーマンスが向上するのかどうかを分析した研究結果を報告した(乾友彦・内閣府大臣官房統計委員会担当室長と袁媛・早稲田大学高等研究所准教授との共同研究)。民営化によって、企業が輸出を開始する確率が高まることを見出し、この効果は短期的にも長期的にも確認された。しかし、民営化による生産性向上効果によって、輸出が開始されるのかについては、生産性向上の量的インパクトはあまり大きくないようであった。戸堂報告に対し、コメンテータのYifan Zhang助教授(嶺南大学)から、変数の定義や分析手法に関して詳細なコメントが寄せられた。また、中国の改革(=民営化)と開放(=国際化)という2つの重大な政策課題を結び付けた研究として、意義深い分析であるとの評価を受けた。

次に、午前の第2報告として、Zhihong Yu講師(ノッティンガム大学)が、中国の企業データと貿易統計を接続したデータを用いて、中国の加工貿易の実態と加工貿易に携わる企業のパフォーマンスについて詳細な報告があった。中国の加工貿易は主に外資系企業によって担われていることや、加工貿易のみを行っている企業はパフォーマンスが有意に低いことなど、企業の所有形態と貿易形態、そしてパフォーマンスとの関係について多くの興味深い分析結果が提示された(Zheng Wang氏との共同研究)。コメンテータの伊藤恵子FFからは、政策的インプリケーションをどう考えるかについてのコメントや、加工貿易専門から普通貿易も担う企業へと成長する過程の分析など、今後の拡張についてコメントがあった。

午前セッションの最後には、Yifan Zhang助教授が、輸出開始後の中国企業のパフォーマンスについて報告した。中国企業は、輸出開始後にはより労働集約的になっており、安い労働コストを武器にした輸出が中心であるという、興味深い結果を提示した(Yue Ma氏、Heiwai Tang氏との共同研究)。Zhang報告に対し、乾友彦室長からは、生産性の計測方法から結果の解釈、政策インプリケーションまでの多岐に至るコメントが寄せられた。上記のYu報告と合わせて、中国を含む途上国の貿易政策や貿易を通じた経済成長政策を評価する上で、非常に興味深く、かつ意義深い研究であった。

午後の第1セッションでは、まず、Chin Hee Hahn 准教授が輸出開始後の韓国企業のパフォーマンスについて、主に、生産品目の新規追加や生産停止といった変化に着目した分析結果を報告した。輸出開始の1、2年前から新品目を導入し、古い品目の生産を停止していることが見いだされ、輸出に向けた準備が行われている可能性を示唆した。また、輸出開始後の生産性向上も見られることから、輸出によって創造的破壊のメカニズムが促進され、その結果として生産性向上がもたらされるのではないかと推測される結果であった。Hahn報告に対し、宮川大介副主任研究員(日本政策投資銀行)からは主に輸出開始後の結果の解釈に関して詳細なコメントがあり、分析手法に関する提案などが寄せられた。輸出による学習効果については、そのチャネルについてまだ十分に解明されているとはいえず、この研究分野における重要な実証的証拠として評価された。

次に、Chad Steinberg氏(IMF エコノミスト)から、低賃金国からの輸入が日本の製造業工場の退出や雇用成長に与えた影響について報告された(Anna Maria Mayda氏、中根誠人・IMFエコノミスト、山田浩之氏との共同研究)。低賃金国からの輸出により、国内工場の退出確率が高まったこと、そして、雇用を減少させる効果があることが見いだされた。特に、資本集約的な工場ほど、低賃金国からの輸入によって雇用を減らす傾向がみられた。Zhihong Yu講師からは、主に、比較優位の観点からの説明とオフショアリング(海外への生産委託)の観点からの説明について、コメントがあった。

午後の第2セッションでは、Siwook Lee助教授が、輸出の集約度(生産に占める輸出の割合)と輸出開始後の生産性やマークアップとの関係について報告した(Yong-Seok Choi氏との共同研究)。これらの関係は非線形であることが見いだされ、輸出割合が低い範囲においては、輸出割合と輸出開始後の生産性やマークアップとの間に正の関係が見られるが、輸出割合が中程度から上の範囲においては、逆に負の関係が見られた。コメンテータの戸堂康之FFからは、分析手法や解釈についての詳細な質問、コメントが寄せられた。フロアからも、分析手法について詳細なコメントがあった。新しい手法を用いた興味深い結果が提示されたが、手法の問題点や結果の解釈について活発な意見が出された。

次に、宮川大介副主任研究員が、企業の輸出開始における銀行からの情報提供の役割について報告した(乾友彦室長、伊藤恵子FF、庄司啓史氏との共同研究)。輸出を行っている企業と取引している銀行は、より多くの海外市場情報を蓄積しており、これら銀行と取引している企業は、銀行からの情報提供を受けて輸出開始確率が高まるとの結果を見出した。Siwook Lee助教授からは、銀行情報変数の選択や内生性の問題、結果の解釈、さらに今後の拡張についてコメントがあった。

最後に、金榮愨講師(専修大学)・伊藤恵子FFから、日韓企業の生産性分布や研究開発集約度の分布、研究開発の決定要因に関する報告が行われた(権赫旭FF・日本大学准教授との共同研究)。生産性の水準でみると、まだ日本企業の方が全般的に高い傾向があるが、研究開発を活発に行っている韓国企業が多いという結果であった。Chin Hee Hahn 准教授からは、生産性計測や分析手法、また、分析の目的と結果の解釈について詳細なコメントがあった。

続いて、乾友彦室長による閉会の辞をもって、ワークショップは終了した。

ワークショップの成果

以上のように、日・中・韓の企業・工場データを用いた、生産性や国際化に関する論文が報告され、各研究について詳細なコメントが多く寄せられた。海外から招聘した研究者からも非常に水準の高い研究が報告され、各国データの特徴や性質に関してのみならず、新しい分析手法についても、学ぶことが多かった。今回は、類似のテーマについての論文が複数あり、特に、国際化を通じた各国企業のダイナミックな成長について、多くの知見が得られた。また、本研究会参加メンバーと招聘研究者との間で、さまざまな問題意識を共有することができ、今後の国際比較研究に発展させるきっかけを得ることができたことも、重要な成果といえる。

本研究会は平成24年度も継続されるが、今回のワークショップを通じて、各メンバーの新年度の研究の方向性がより明確になったことも成果として挙げられる。