経済産業講演会

グローバル経済と企業経営 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2012年2月15日(水) 13:30 - 16:00
  • 会場:博多都ホテル 3階 孔雀の間(福岡県福岡市博多区博多駅東2-1-1)
  • 主催:九州経済産業局、独立行政法人経済産業研究所、九州経済国際化推進機構

議事概要

講演Ⅰ

テーマ:「経済成長の鍵~グローバル化と産業集積~」

講師:戸堂 康之 (RIETIファカルティフェロー / 東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻教授)

長期的な経済成長の源泉は「技術」の進歩、言い換えれば「知恵の創造」にある。そのためには、多様な人が集まって考えることが大切であり、「産業集積(地域内のつながり)」や「グローバル化(海外とのつながり)」が経済成長にとって重要となる。

グローバル化

  • 日本企業が行う輸出や海外直接投資、海外での研究開発等により、日本企業の生産性は上昇するし、海外企業が行う対日研究開発投資によっても日本企業の生産性は上昇する。このように、グローバル化は経済成長を促進する。
  • 一方で、グローバル化により国内の雇用が悪化するとの意見もあるが、必ずしもそうではない。データをみても、グローバル化した企業は競争力を付けることによって、長期的には雇用を増やしている。また、実際に海外に進出した企業事例をみても、海外での技術指導・品質管理などの業務が増加したことにより、国内雇用を増やした事例も多くある。
  • グローバル化について注意すべきは、高度人材へ需要がシフトする点であり、大卒の国内雇用は増えるが、高卒の国内雇用は減る傾向にある。このため、グローバル化と併せて人材の高度化を進めていかなければ、日本はグローバル化によるメリットを享受できなくなる恐れがある。
  • 製造部門を海外に出しても、研究開発やデザイン、経営管理、マーケティング等の部分が国内に残れば利益は国内に残るのであり、こうした頭脳部分を担う高度人材が重要。
  • 日本では、生産性が高いのにグローバル化していない、いわゆる「臥龍企業」がどの地域や産業分野にも多数存在しており、その割合も諸外国に比べて非常に高く、日本企業はそのポテンシャルをまだまだ活かしきれていない。
  • 一つの企業がグローバル化することにより、外国の情報や知識が国内に流入することを通じて他の企業にも波及するメリットがある。こうした企業のグローバル化には、政策による支援が必要となる。マクロ面では経済連携協定(EPA)や対日直接投資誘致等であり、ミクロ面では情報支援、金融支援等がある。特に、EPAの効果は輸出の拡大だけにあるのではなく、技術伝播の促進による技術進歩・経済成長への効果を考慮すれば、EPAの効果はもっと大きいことに留意すべき。
  • 臥龍企業がグローバル化した事例は製造業だけでなく、農業者がグローバル化した事例も存在する。また、グローバル化すべきなのは大手の製造業だけでなく、これから起業するベンチャー企業やサービス業、コンテンツ、医療等々の分野における企業もグローバル化すべき。

産業集積

  • 産業集積も企業の生産性を向上させる効果がある。例えば、特定の地域に部品企業が集まると、知識・情報の伝達(3人寄れば文殊の知恵)で集積が進んでいく。
  • しかし、産業集積が興っても、常に変化し続けなければ衰退してしまうことに留意すべき。例えば、ボストンは昔から海運・漁業が盛んであったが、その後製造業が集積するとともに更に人口は増加したものの、1950年代頃から製造業が衰退するにつれ人口が減少。1990年以降はIT・バイオ産業の集積により人口減少に歯止めがかかり、増加に転じている。
  • 日本は、地方における産業集積が足りない。その理由の一つには公共投資に頼り過ぎてきた点にあると考える。また、日本は先進諸国と比べて起業家精神に乏しく、主要OECD諸国の中でも最低水準となっていることも要因の一つ。
  • 日本各地に産業集積を創っていくためには政策が必要であり、特区や規制緩和あるいは道州制といった政策面からの支援が重要。特区による高度な産業集積の事例として中国中関村科学技術園があるが、ここの特徴は単に補助金や税制優遇のみでなく、「つながり」重視の政策が展開されてきた点にある。例えば、外資企業と地場企業や大学等による共同研究を奨励したり、外資企業からのスピンオフや海外で活躍している中国人高度人材の帰国を奨励したりしている。こうした「つながり」による知恵の創造が、産業集積を図るために非常に大切になる。
  • 日本の各地に、地方の特色を生かした産業集積を創っていくべきであり、その際に非市場的な副作用(公害等)や情報の非対称性による市場の歪み(金融、医療分野等)により市場が適切に機能しない場合は政策の介入が必要となる。ただ、気を付けなければならないのは、政策が保護主義的になるのではなく、日本人にはまだまだ底力があるのだから、日本人が自信を持って世界に飛躍し、地方を元気にしていく取り組みを後押しすることが政策の役割ではないかと考える。

九州へのメッセージ

  • 自動車産業における九州の労働生産性は、中部や東北地域と比べて高い。また、直接輸出の比率も高く、九州は直接的にグローバル経済とつながっている。
  • 更に、九州はアジアにも近いが、今後は東アジアだけでなく南アジアや中央アジア、さらにはアフリカまで広げて世界とのつながりを深めてもらいたい。そうした国々は、成長率が非常に高くなっている。今後、九州らしい世界とつながった産業集積で飛躍的な成長を実現していただきたい。

講演Ⅱ

テーマ:「グローバルニッチトップ企業の経営戦略~九州編」

講師:難波 正憲 (立命館アジア太平洋大学名誉教授)

グローバルニッチトップ企業の重要性

  • グローバルニッチトップ(GNT)企業とは、特定の商品や技術において、世界市場で継続的にトップグループのポジションを占める企業を指しており、良質な雇用機会の提供や国内における既存技術・基盤的技術の継承・発展の担い手である。
  • また、臥龍企業を真のGNT企業へと次々に脱皮させることが、地域経済ひいては日本経済全体の活性化のために重要である。こうした問題認識のもと、九州地域のGNT企業についてヒアリング調査・経営分析を実施。

GNT企業への発展プロセス

  • 今回の調査で、創業後、GNT製品の開発までに要した年数をみると、平均で29年と比較的早い段階で開発している。GNT企業になっていくルートとして、理論的には、①ローカル市場で汎用品を生産していた企業が独自商品を開発しグローバル市場へ出ていくケース、②汎用品をグローバル市場に出した後で独自商品を展開するケース、③ローカル市場で独自製品を生産した後、グローバル市場に進出するケース、④最初からグローバル市場で独自商品を販売する、の4つのケースがある。今回調査では、ケース①とケース③が見られた。
  • 商品に着目すると、最初は汎用品を生産し、その後で特殊品の生産を経てニッチ商品を手がけるケースが一般的だが、中には特殊品の製造からスタートしている企業もあり、自社が汎用品製造に留まるのか、ニッチ商品まで狙うのかといった経営者の意思決定が、それぞれの段階で行われている。
  • イノベーションのタイプで分けると①A型:早い段階からオンリーワン商品を開発(ラディカルイノベーション)、②B型:顧客のニーズを継続的に取り入れ、独自のソリューションを提供するといった2つのタイプがある。
  • B型の発展プロセスに着目すると、まず第1段階では国内市場で錬磨された高品質製品をトップ顧客に提案し、これが海外で評判となり海外から直接受注が入る。第2段階では顧客の潜在ニーズを嗅ぎ出し、そのニーズを商品化。また、顧客ニーズに徹底して応えるため新技術を外部から導入。この活動を反復することで特定顧客のトップ供給者としての地位を勝ち取り、他の世界トップクラス企業に提供することでGNT企業となる。第3段階になると顧客にとって必要不可欠のパートナーとして認知され、顧客との「擦り合わせ」で次世代製品を創出していくこととなる。この段階に至ると、競合他社がなかなか参入できない状況を作り出すことが可能となる。
  • GNT企業になると、顧客との間に非常に固い絆を作り、競合他社が及ばないニーズ収集の仕組みを作りあげることにより競争優位が一層強まるという良性循環が維持され、GNT企業としての地位が強化される。
  • 技術力と売り上げに着目してみると、技術力が向上しGNT企業レベルになっても国内に留まっている段階では売り上げは頭打ちとなっていたが、海外展開することによって売り上げが2倍~3倍になった企業もあった。

GNT企業の事例

  • こうしたGNT企業事例の一つが本多機工(株)である。同社は、ステンレスで日本初のケミカルポンプを開発した会社であり、その技術力を活かしてラテックスポンプを開発。さらに、顧客の多様なニーズから「逃げない」開発に取り組み、1品料理を積み上げていくことで、特定分野での世界標準を作り上げている。
  • こうしたGNT企業相互の連携もみられ、異なる機能を有する日本企業と連携し世界市場に展開しているケースや、同じ製品分野であるものの品揃えが異なる複数の海外GNT企業と連携しているケースもある。
  • いずれのGNT企業にも共通していることは、経営者が自社の外部要因(市場、顧客、競合、技術、情報)や内部要因(人材、組織、資金、技術、情報等)を踏まえつつ構想を描き、日々の意思決定を行いながら「少量・高価格」の経営戦略を展開している点にある。

講演Ⅲ

テーマ:「海外展開のためのリスクマネジメント」

講師:沖田 剛一 (独立行政法人日本貿易保険大阪支店長)

リスクマネジメントと貿易保険

  • 日本企業の海外輸出等に伴うリスクを軽減する制度として、貿易保険制度は1950年に発足。海外進出に伴うリスクとしては為替リスクや災害・事故リスクなど様々なリスクが存在するが、その中で貿易保険がカバーしているのは「カントリーリスク(外貨送金規制、戦争等)」及び「信用リスク(取引先倒産、売掛債権回収不能)」である。
  • 海外進出を行うにあたっては「リスクマネジメント」が重要であり、これを怠った場合には例えば、バイヤーの経営悪化や輸出先国での戦争・内乱等により代金決済が行われなくなり、全額が自社の損失となってしまう恐れがある。
  • リスクマネジメントは、「リスク・コントロール(損失発生の予防・回避・軽減)」と「リスク・ファイナンシング(損失補填の手当)」に大別される。輸出の際のリスクコントロールを考えてみると、先ずは、「ロス・プリベンション(財務内容が健全な相手先の選択等)」によりリスクを軽減した上で、「ロス・コントロール(L/Cの取得、契約への遅延利息条項等の挿入等)」で、さらにリスクを予防・回避・軽減する。そして、こうしたリスクコントロールを行っても削減できず、残されてしまうリスクに対して、リスクファイナンシングを行う訳であり、貿易保険制度の活用はまさに「リスクファイナンシング」のひとつである。
  • 貿易保険を活用いただくと、バイヤーの信用状況の格付け(相手国のカントリーリスクも含め)を当方にて行って、保険の引受基準に合致した先、すなわち、ある程度安心できる先に対して輸出契約に基づく輸出をしていただく。それでも万一、バイヤーの経営悪化や戦争等によって代金が支払われなかった場合に、保険金をお支払いするというのが貿易保険制度である。

貿易保険の活用状況

  • 実際に、長年取引してきたバイヤーが破産したことにより数億円の損失が発生し、貿易保険で保険金を支払った事例がある。また、多くの日本の中堅・中小企業の皆様の輸出先であるアジア地域についても、信用事故事例が散見される状況になっている。
  • 貿易保険の信用危険事故は、2007年度までは少なかったが、2008年度のリーマンショック以降、非常に増加しており、直近では500億円台にのぼっている。また、事故発生地域としては、貿易保険を利用いただいているお客様の中ではアジア地域が多い。
  • 非常事故の事例としては、相手国が公的対外債務の一時支払い停止(モラトリアム)したことにより代金回収が不能になったケースなどがある。
  • また、放射能汚染による風評被害への対応も行っており、例えば、実際には放射能に汚染されていない日本品に対する不当な扱いにより、仕向国に輸出ができない場合も保険カバーの対象としている。

中小企業向けの貿易保険

  • 貿易保険の種類はニーズに合わせて色々あるが、特に中小企業の方々にお使いいただき易いのは「中小企業輸出代金保険」。簡単な手続きでお申し込みいただける上に、中小企業基本法に基づく中小企業に該当される場合は、バイヤーの信用調査を3件まで当方の費用負担で実施できるようになっている。
  • また、工場等の海外進出に際して、戦争や外貨送金規制等により、海外に設置された現地法人等からの配当金の送金が不能となった場合等に保険金を支払う「海外投資保険」といった制度もある。