RIETIセミナー

東アジアの発展経験をODAにどう生かすか?:日韓ODA協力の可能性 (議事概要)

イベント概要

議事概要

開会挨拶

及川 耕造 (RIETI理事長)

被援助国・援助供与国として多岐にわたる共通点を持つ日本と韓国がODA協調の可能性を探ることは自然なことだ。その上で、どの分野に両政府が支援を行うべきか、またどのような制度設計が必要かという議論が期待される。

基調講演

The Japan ODA Model:"The history of investment promotion"

前田 充浩 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省貿易経済協力局経済協力研究官)

日本のODAの現状と展望について3つの視点から見ることができる。第1は、よく知られているように、現在の日本のODAが円借款と経済セクターが中心なっていること、第2に日本の政治化の排除は、歴史的にさまざまな国際的援助レジームの影響を受けてきたこと、第3に日本のODAは、資金規模・債務持続可能性・援助配分の3点に問題があることだ。

日本の将来のODAのあり方として、ODAの定義にとらわれず開発ファイナンス全体で考えることが不可欠であり、とりわけ公的機関と民間企業が連携するというPPPと、更には一般市民とも協調していくという新たな方向性が考えられる。

研究成果報告セッション

報告1:"Does Korea Follow Japan in Foreign Aid? Relationships between Aid and Foreign Investment"

Hongshik LEE (高麗大学経済学部助教授)

韓国で急速に拡大しつつある援助が、過去の日本の援助の趨勢と同様の道を歩んでいるかについて、マクロとミクロの両方の視点から比較した。

まずマクロレベルでは、韓国と日本のODAは、支援のタイプや支援先、支援先の所得水準、そして援助に重点を置くセクターが類似していることが分かった。

またミクロレベルの比較として、韓国の対外援助が日本と同様に対外直接投資(以下「FDI」)を誘発しているかという実証分析を行っている。その結果、韓国や日本の援助額と、両国のFDIフローとの間に、正の相関関係があることが分かった。これは、両国の援助がFDIに先兵効果をもたらすことを示唆するものである。

以上の分析結果に基づき、韓国の援助体系は日本の1980年当時のそれと類似していると結論づけることができる。

コメント

春日 秀文 (関西大学経済学部教授)

日本と韓国の援助の類似性を指摘した点は、重要な示唆を含んでいる。その上で、企業データを用いた分析を行うことによる頑健性の検証、そして輸出と直接投資の関係性にも踏み込んだ分析、さらに、為替レートなどの効果も考慮する必要がある。

報告2:"Is Foreign Aid a Vanguard of FDI? A Gravity-Equation Approach"

戸堂 康之 (RIETIファカルティフェロー/東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授)

ODAがFDIを誘引する効果(先兵効果/バンガード効果)があるかについて、実証分析を行った。援助国・被援助国のペアごとの援助総額とFDI総額を集計し、開発援助がFDIに及ぼす効果を「インフラ効果」、「レントシーキング効果」、「バンガード効果」の3つに分けて分析した。「インフラ効果」とは開発途上国の経済的・社会的インフラを向上させることによる正の効果、「レントシーキング効果」は非生産的なレントシーキング活動を活発化させることによる負の効果、「バンガード効果」はある国の援助がその国からの直接投資を誘引するという正の効果を意味する。結果として、一般的にODAはFDIに対して上記3つのどの効果も見られなかったが、日本からのODAにのみ日本からのFDIを誘発する効果がある事が発見された。この理由として、日本の援助は官民の距離が近く、情報交換や人的交流が活発に行われているため、被援助国のインフラや法制度、雇用状況などに関する情報が官から民に伝達され、日本企業にとって投資しやすい状況になっていること、技能試験制度のような技術協力を積極的に行っているため、日本企業が持つ技術知識が現地に移転される結果となり、日本企業にとって投資しやすい環境を作っていることなどが考えられる。

コメント

Bokyeong PARK (韓国対外経済政策研究院国際マクロ経済・金融部長)

既存研究と異なり、二国間の援助額とFDIフローのデータを用いていること、緻密な計量経済学的分析の結果、日本のODAが日本からのFDIにバンガード効果をもたらすという結果を得たことは、独創的であり高く評価されうる。また、ODAとFDIの逆因果関係の可能性(FDIを誘発させるチャネルとしてのODA)、官から民への情報伝達効果や、投資リスク削減効果などについてより詳細に模索することで、ODAとFDIの関係性をより厳密に論ずることができるようになるのではないか。

フロアより

為替レート変動による効果の吟味や、地域ごとに分割した上での議論が、政策論的により意味のあるものになるのではないか。

総括報告:"Official Development Assistance: Views from Japan and East Asia"

澤田 康幸 (RIETIファカルティフェロー/東京大学大学院経済学研究科准教授)

政府開発援助が、ミレニアム開発目標(MDGs)に掲げられているような貧困削減を達成するには、3つの必要条件が存在する。第1は援助配分の適正化の問題であり、第2は、援助が経済成長を促進するものではなければならないということであり、第3は「援助氾濫」の問題を回避するためには、援助が取引費用を最小化する様式で流れるべきだということである。この第1点目と第2点目の必要条件に関して、Lees氏の研究報告や戸堂氏の研究報告は非常に重要な意味合いを持つ。

また、今後はポストMDGを見据えたルールメイキングや、前田氏が指摘したPPPなど新たな援助モダリティ、さらにはBOPビジネスとODAとの補完性について考えて行くべきであり、その中で日本と韓国はどのように連携すべきかを議論することが不可欠だ。具体的には、どのようなセクター・モダリティで連携すべきかといった視点が重要になる。

パネルディスカッション

(春日)

分野別援助データを用いてドナー評価を行ったところ、日本は被援助国の必要度に応じた国別援助配分ができている分野が欧米ドナーと比較して少ないという結果となった。他方、日本は援助額が大きく、食糧・保健・通信など重要分野においては援助配分が効率的であることから、全体として日本の援助配分が欧米ドナーに劣っていないことも強調できる。

また、日本と韓国は、MDGs以降の新たな数値目標、およびODA全体のルールの構築という文脈で積極的に協力すべきである。その上で、数値目標をいかに適切に決めるかが特に大事であると共に、アカデミックな立場からの見解・評価も必要不可欠である。

(Lee)

ODAの新興ドナー国である韓国には、韓国自身が経験した経済発展を他国に伝播することが可能であるという強みがあり、この点で比較的優位を持っていると考えられる。加えて経済セクターに焦点を置き、インフラ投資と政策提言を組み合わせた援助体系の構築が、韓国のODAにおける重要な戦略である。

また、日韓協力については、日韓の経済発展の経験の共有、ODAの専門家の育成、援助国の資本蓄積支援等の援助の「中身」を実践的に議論していく上で重要だ。また、環境に配慮した経済成長である「グリーングロース」のためのODAや北朝鮮への支援についても、日韓協力が必要である。

(前田)

日韓協力のあり方について、3点指摘したい。第1にOECDにおける既存の援助レジームの中で、日韓両国が互いの国の援助案件を相互に支援・サポートすることであり、第2に、日韓が中心になって「新たな開発ファイナンス」のモダリティを構築して、新たなルールを作ること、そして第3に「新しい金融ファイナンス制度」の確立のために、日韓が協力することである。さらに、日韓はこうした分野以外にも多くの分野で協力できると考えており、その際は、そもそも世界の貧困削減、途上国の経済発展のため日韓両国に何ができるのか、という基礎を考えることから始めるべきである。

(Park)

韓国政府は現在、借款と贈与の統一化や、ひも付き援助の削減、援助の優先分野の模索、そしてPPPのような新たな援助のモダリティの導入に関心があり、こうした新しい韓国ODAの構築について活発に議論されている。

韓国にとってODAに関する日韓協力の利点としては、日本の過去のODAドナーとしての経験を韓国がシェアできること、アジア地域での特有のODAモデルが構築できること、借款タイプの援助の効果に関する議論が深まることが期待できる。またサブ・サハラアフリカの援助に関しても日韓の協力は不可欠である。

(戸堂)

日韓が協力することで、韓国の援助がFDIをひきつけるような拡張的先兵効果が期待できる。またこのように、先兵効果を効率的に高めるために、日韓の援助諸機関は、積極的に相互の情報をシェアしていくことが肝要である。