ワークショップ

「グローバル金融システムと日本経済再生」委員会

イベント概要

議事要旨

4月16日、「グローバル金融システムと日本経済再生」委員会を開催した。各界で活躍されている委員の方にお集まりいただき、経済産業省および経済産業研究所の関係者との意見交換を行った。

開会挨拶-及川耕造経済産業研究所理事長

昨年9月のリーマンショック以来、金融危機は今やグローバルな金融システムを揺るがすまでになっており、日本経済においてはGDPのマイナス幅が先進国の中でも有数の規模になるのではないかといわれるほど、実体経済に強い影響を及ぼしている。

国際的な対策を講じるべくG20の国際フォーラムによって2回会議がなされ、日本政府内外さまざまな対応策を提示し、実施に移しつつある。

この危機は単に経済の変動の激しさのみならず、さまざまな面においてこれまでとは異なる世界経済に対する課題が生まれ、その施策が必要となり、ひいては国際経済、あるいは国際金融の枠組み自体に大きな影響を及ぼしてくるのではないか。

ロシアや中国は新たな基軸通貨の必要性に言及しており、国際機関の改組がG20等で指摘されている。

経済産業研究所では数年前から、アメリカとアジアの貿易関係、あるいは経常収支における不均衡はサステイナブルではないと認識した上で、一朝有事のときにどうあるべきか、またそれにどう準備すべきかを研究してきた。

とりわけIT時代の今日において、この不均衡が破綻した場合には、直ちに実体経済に大きく影響し、混乱が生じるであろうと懸念してきた。

他方、アジア、特に東アジアにおける域内貿易シェアは、今やEU並みの相互依存関係になっている。そういう中で関連国間におけるドル急落の際の為替レートの激変に対しては、共通のバスケット通貨制度等の導入により、域内間の変動は最小限にとどめたらどうかという考え方のもとに提言をし、研究を続けている。

2000年から今年の2月までのindicatorで“Nominal AMU”とあるが、AMU はAsian Monetary Unitすなわち加盟13国の為替レートを加重平均して作った仮想通貨単位である。各国通貨別に見ると、2005年以降急激に乖離が広がり、昨年のリーマンショック以降はさらに激変が生じている。この新たな事態に対応してさらなる研究が必要であろう。

また経済産業省においても、FTA、EPAをはじめとする域内経済の連携強化策や、「東アジア共同体」の可能性についても取り組み、新たな国際戦略の必要性が実感されているのではないか。今後の研究、施策の立案についてぜひ率直な意見をお願いしたい。

議事概要

阿部茂行委員

日本経済はアジア抜きには成り立たず、アジアと日本は協調していかざるをえない。グローバル金融システムの崩壊に伴ってアメリカ経済が落ち込み、アジアが大きな影響を受けるに至った。アメリカを主な輸出相手国とする経済構造を、アジアに作ってきた日本にも責任がある。直接投資+輸出を軸に、外需に依存する経済構造をともに作ってきたこと自体問題点を含んでいる。

その意味から、今後は、アジアの内需を拡大しなければいけない。重要な国は中国であり、日本である。中国も内需拡大路線への転換を図っているが、必ずしもうまくいっていない。アジアの内需拡大、経済構造の変革は長期的な問題であり、相当な工夫が今後必要となってくる。

日本はEPAをアジア各国と結んでおり、アジアの日本への期待は大きい。EPAはともすれば外需依存構造をより一層推し進めることにつながりかねないが、当面の問題としては、貿易投資以外の、人材交流等に突破口を切り開くことが期待されている。日本に看護士等人材を送り込むのはプライオリティの高い事業で、これを成功させないと、外国に対して相変わらず日本は閉鎖的という印象を与える。アジアとの共生を考えると、約束を守ってアジアと協調してやっていかなければならない。

池上徹彦委員

今回の金融危機は、ITによる「情報の超拡散現象」により起きてしまった。したがって、過去には例がないので対応の仕方も違うはずだというのがポイントであろう。

「情報の超拡散現象」により情報のもつ個別の特性が瞬時に均一化したため、異常であることをつげる「警報ベル」が動作しなかった。サブプライムローンから端を発したといわれるが、瑕疵のあるものがグローバル化した金融市場に瞬時に流れて拡散すると、専門家ですら温度差を検出できず、危険警報がでなかったことが最初の金融危機の原因の1つと考えている。

これからは情報の即時共有化を前提とした危機管理を行わないと、同じことが起きる可能性がある。

その後に起きた今回の経済危機は、これまでなら100年かけてゆっくり解決すべき多くの課題が「情報の超拡散現象」により1年の内に出てきてしまったところにある。さまざまな社会の潜在的なひずみが突然でてきたので、その対応策は慎重でなければならない。たとえば、ビッグスリーの問題は金融危機以前の問題であり、ここで本来つぶれる会社を安易に生かしても出来た車が売れないとなれば、問題の先送りになってしまう。国費による会社再生・延命という国ができる事柄と、その後の市場つくりという国の苦手な事柄の違いの見極めが大切である。

地球環境でも同様な話があり、炭酸ガスが徐々に増加して温暖化が進むというモデルはむしろ楽天的な見方である。もし太陽活動や宇宙線の異常、あるいは隕石の衝突が起これば気象はあっと言う間に激変する。これを“Sudden Climate Change”と呼んで米国の科学者は検討しているが、今回の金融危機はいわば“Sudden Economy Change”にあたり、これまで人類は経験していなかった。 したがって、その現状を十分認識しておかないと、今後も同じミスをおかし自滅することになろう。たとえば「金融工学、市場原理は誤り」説は偏った認識であり、今回の危機の悪人が特定できないところに問題の原因があるとの認識が必要であろう。

対策として、伝統的な公共投資によるグリーンプロジェクト等のインフラ市場つくりは有効であり、新企業振興支援、ICT(情報通信技術)の活用による医療分野等での既存の問題解決もそれなりの効果は期待できよう。しかし、市民の購買意欲の向上、つまり景気浮揚や、国民の閉塞感打破は、国は極めて不得意である。企業延命策の後の市場つくりも国は担保できない。国ができることとできないことの見極めを承知の上で、対策を打つべきであろう。この点でいえば、直接給付金は市民の需要喚起の特効薬にはなろう。

国の対策として、安易な規制強化に走ることは慎重であるべきで、むしろ危機発生時に適切に動作する「警報ベル」と延焼拡大を防止するための「防火林」つくりが、今後の経済活動の活性化には有効であろう。

岩下正委員

日本の金融なり金融業の現状、これからの展望という議論は、リーマンショック以降消えてしまった感があるが、日本の金融業はまだ伸びなければいけない部分が多い。

リスクアセスメント、リスクテーク能力がまだ低く、画一的で、現場の視点が無視されている。日本の金融機関は顧客ではなくて、本部や監督当局に顔と関心が向いている。この方向を変えなければいけない。

グローバル金融システムの中の日本という点では、日本は中国と並んで世界最大の債権者であり、資金の出し手の立場、運用者としての強みを十分発揮しなければいけない。

内需のキーとなる産業は、住宅ではないか。住だけは先進国中最低レベルだが、大変な内需の潜在力があるのではないか。これに対してさらに取り組むべきではないか。

M&Aにも関連するが、経営者の育成の仕方、抜擢の仕方、リクルートの仕方が相変わらず日本独特の構造になっていないだろうか。入社して、社内で積み上げて偉くなって、最後は社長、会長になる。これをスピード感を持って変革し、経営者のマーケットが真の意味でも日本にできなくてはいけないのではないか。

北川高嗣委員

グローバル化の中で一貫してこれからも持続していくであろうエッセンスとして、情報技術は大きな役割を果たしている。

フラット化では、先進国マーケットの人数が劇的に増えていることに対して、情報通信技術が大きな影響を与えている。それで世界がある種の均質化を引き起こしているが、実はその中にも格差が存在する。その格差をいかにうまく使ってグローバルな循環系を作っていくかが、大きなテーマだが。その中で金融のシステムの再編が行われようとしている。

グローバルネットワークによるフラット化で先進マーケットの人が増え、価値ある情報を挙げている中では、グローバルとドメスティックではエクイティの調達の仕方、いかに資金を調達するかが違う。新興市場は今やガタガタだが、以前の回っていた時点では、グローバルに行っている人と国内で行っている人では1:20というスケールの違いがある。

日本の情報通信マーケットで、これと同じ構造のことが起きている。キープレーヤーはBRICs、インド、中国は今メインプレーヤーだ。グローバルの中で、国際競争力を持ちながらいかに回していくか。それが基幹となって、ITインフラを作り、フラット化を促し、資金調達の仕組みを回していく。それが日本は回ってない。

日本はガラパゴス化している。本当のグローバル化をIT分野でやらないと、その影響力は大きい。アジアの中でうまくマーケットと政策体制を汎アジア体制で作っていくのが、これからの日本のテーマであり、大チャンスである。まず、日本のIT企業のあり方を洗い直し、フラット化をきちっと進めていくのが重要だ。

長谷川閑史委員

国家の存在感や力の源泉は、経済力、軍事力、それらを背景にした政治力、外交力、プラス文化力であり、それらはすべてその国が持つ人材に支えられている。

日本の歴史においては、明治の中頃から昭和20年の終戦までの間は軍事力を一時発揮したが、それ以外には実績がない。やはり日本は経済力で国家の存在感を維持・発展していかなければいけないのではないか。

では、少子高齢化の中で日本の経済力を維持・強化し発展をさせていくには、何をしなければいけないか。まず、日本は経済の立ち位置をどうするか。やはり東アジアにおけるリーディングの地位を作り、経済圏を作っていくことを中国やインドとともにやっていかざるをえない。

また、日本が培ってきた得意な分野、生産性と効率性を徹底的に追求していく。人口が減少する社会の中で経済の繁栄を維持した国は1国もない。日本は国家システムや行政のあり方、すべての面において追求していく必要がある。

産業の分野でも、本当の競争相手は海外にいるのに目が向いていないし、出て行っていけないという致命的な欠陥がある。やはり経済産業省はそこのところでリーダーシップを執ってやらないといけない。

成長マーケットに出て行って、そこのパイを取ってこなければ日本の繁栄はない。BRICsをはじめとする国々に行って、日本の技術と製品力でパイを取ってくる。

移民を計画的に受け入れる。スキルドワーカーとかインテリジェントワーカーを分けて、先進国が移民問題で経験したことから学んで、移民も選別をしてやる。

以上のことを優先順位をつけてやるのではなく、バランスよくやることによって初めて、日本の経済成長はある程度維持できるかもしれない。

藤井清孝委員

日本の産業が持っている問題としては、過当競争、企業の事業フォーカスが弱いこと、イノベーション力の弱さがある。この3つの構造的な問題の結果として、人材の配分がいびつになり、優秀な人が必要なところに流れるシステムになっていない。

この問題は80年代、実はアメリカにもあったが、大きな会社は特化し始めた。それとサイズは小さいけれどシリコンバレー型の特化した会社という、二極分化が起こった。

これはなぜ起こったか。資本市場は今のような過剰な資本市場ではなく、M&Aが機能していた時期だった。大きな会社でフォーカスが弱いところは、株価が落ち収益性が落ちて乗っ取られるという力が働いたからだ。

ところが日本は、資本市場のプレッシャーではなく、現物市場がプレッシャーをかけないと、企業の統合は起こらない。資本市場イコール株価、株価イコール先行指標だから、必ず日本の統合は遅れる。先行指標ではなく、実物指標でしかやらないからだ。

今の経済危機は、日本の産業構造を実際に興す上で非常にいい話である。現物市場が棄損している今、過当競争をなくして新しい産業を起こし、イノベーションを作って人材をもう1回配分するチャンスをもらっているのだ。

藤森義明委員

リーマンショックのあとにアメリカで大きな問題となったのが、リクイディティ(資金流動性)がなくなってしまうことだった。アメリカの会社では、リクイディティの対応としてやはり内部留保を貯めておかなくてはいけない。この時期に何が起きるか。政府が企業に対してお金を出してくるので、政府のコントロールが大きくなって、まず国を直さなくてはいけないということで保護主義になってくる。

企業は、国から借りた金はすぐ返す、あるいは政府の金は絶対に受けないという体制を保ちながら、コントロールを受けない範囲でグローバル化に励む。と同時に、保護主義に対しては絶対反対する。

今、金を貯めているので、1年半から2年後にその金がまたドンと出てくる。貯めた金が出てくれば、また世界で大きな競争をすることになる。そのとき日本として、日本の企業として、そこまで用意ができているのか。

経営危機が起きると、本当にこれでよかったのかと疑問が投げかけられて、その研究に励むのはいいが、考えすぎてどうしようかと言っているうちに、大きな逆の波が押し寄せてくる。やはり現時点で考えることよりも、政府としてのリーダーシップをもっと執って、早く決めることは決めてやっていくべきではないか。日本の政府としてやっているような12兆円を超す経済刺激策はアメリカも中国も当然やっているが、将来日本が強くなるための布石をむしろ考えるべきではないか。

国際競争力を考えると、国内で消耗して外国に出て行く力がなくなってしまうのではなく、コンソリデーションを今やっておくべきではないか。

12兆円の刺激策の向け先は、技術革新に相当お金を使い、新しい波が起きてきたときに、技術で勝負ができる体制を作ることがいいのではないか。アメリカの企業として、何が怖いかを考えると、日本に大きなリーダーシップが出てくると結構強くて怖いのではないか。