サブプライム金融危機に関する所内ワークショップ

  • 開催案内・議事概要

開催案内

経済産業研究所では、昨今のサブプライム問題を契機とする金融危機についての理解を深めるために、下記の要領で、所内ワークショップを開催いたします。今回の危機をどのように理解したらよいのか、G20金融サミットを踏まえ早急に講じるべき対策は何か、中長期的な日本及びアジアの経済社会の将来像をどのように描くべきか、などについて議論させていただきます。

イベント概要

  • 日時:平成20年11月18日(火)午前10時~12時
  • 場所:経済産業省別館11F RIETIセミナー室(経済産業省別館11F 1119号室)
  • 議事次第:冒頭、藤田昌久所長 および小林慶一郎上席研究員 から20分程度プレゼンテーションをした後に、ラウンドテーブル方式でディスカッション。

議事概要

米国のサブプライム問題に端を発した今回の金融危機を受け、RIETIは2008年11月18日、所内フェローと有識者を迎え、危機への対応策および今後の展望を考える緊急ワークショップを開催した。

最初に、藤田所長より、昨年10月より顕在化したアメリカ発のサブプライム金融危機は、ニューヨークの投資銀行の破綻や、株価の世界的な暴落、また、実体経済への影響として各国での経済成長率の低下が見られ、1930年代の世界大恐慌以来の大きな危機であるとの見解が示された。

小林上席研究員より、今回のサブプライム金融危機への対応策として、金融の短期・長期な側面、実体経済の短期・長期な側面という4つの観点から、以下のような政策提言が行われた(配付資料1 [PDF:130KB])。

  1. 金融の短期的な危機対策として、IMFの緊急融資の必要性とその原資の拡充の必要性、グローバルな広がりのある不良資産処理のための国際枠組みの必要性、および国内対策として金融政策のあり方などが論点である。
  2. 金融の長期的な対策・改革として、伝統的な金融機関だけでない国際的な金融業務を行っている主体の健全性を確保する規制の導入、Macroprudential policyの確立、また格付け機関への規制導入などの金融監督規制の再構築の必要性がある。また、国際的な金融監督協調枠組みの構築や、経済理論の再構築も含めた金融政策ルールの再検討の必要性、さらに、安定した基軸通貨システムを構想することが重要である。
  3. 実体経済の短期的な危機対策として、今後起こると考えられるアメリカ経済の縮小による外需減少に備えて、アジアなどの新興諸国は、内需拡大のために財政出動を行う必要があると考えられる。
  4. 実体経済の長期的な改革として、長期的にもアジアや日本は内需拡大を行う必要があり、そのための、環境関係の技術開発への財政投入や、教育投資・研究教育機関への投資の拡充の必要性がある。また、とくに日本は、社会保障制度の改革による不安払拭による高齢者層の消費拡大や、医療・介護の産業化によって内需と雇用の拡大を行うことが効果的ではないかと考えられる。

ワークショップ風景

刈屋武昭教授より、サブプライム金融危機が生じた背景を踏まえて、金融システムのインセンティヴ・コントロール、格付け制度のあり方、金融商品・証券化商品のあり方などの有効なグローバル金融市場の制度設計の重要性が指摘された。特に、GSEを現状の形態で存続させないよう、米国に強く求めるべきであるとの指摘がされた(配付資料2 [PDF:940KB])。また金融工学がサブプライム金融危機の原因であるという論調もあるが、金融工学自体は学術的な成果であり、その使用法に問題があったのではないかとの意見があった。

小宮隆太郎教授から、(1)多少のバブルは不可避であることを前提に政策を考えるべきであり、前回の日本のバブルをはじめ、1970年代~90年代にいくつかの国で発生した過去のバブルをもっと研究する必要がある、(2)金融機関について安全な機関(銀行)とリスクをとる機関(証券等)を分離し、リスク負担は顧客の判断に委ねるべき、(3)政府関与の拡大には慎重であるべきだ、(4)日本は大国ではなく、いまやミドル・パワーの国であることを前提に議論するべきである、(5)ドルは実質実効ベースでもっとも安定した通貨であり、国際通貨としてドルがナンバーワンであることは当分変わらない、などの指摘があった。

フロアから、以下のような提案がなされた。第一に、バブルの発生のメカニズム、および発生後の影響について分析を行っていくことの必要性が論じられた。第二に、マーケット・メカニズム、グローバリゼーションが進んでいく中で、これらに対して制度的にどのように補完が可能であるのか、特に規制のあり方(規制の対象・範囲、主体)について議論が行われた。また、金融市場・実物市場ともに商品や取引、そして経済主体の質の向上をどのように行っていくかが重要であることが指摘された。