国際ワークショップ

援助と経済発展 (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2008年9月19日 (金)
  • 会場:経済産業研究所 (経済産業省別館11階) 1121会議室
  • 主催:独立行政法人 経済産業研究所 (RIETI)

議事概要

開発援助の世界は、プロジェクトから財政支援へ、融資からグラントへ、バイからマルチへと大きな転換点を迎えている。国連などでは援助に対する量的拡大が求められる一方、それに対する批判も根強い。また、2008年10月1日には国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)円借款部門との統合で新JICAが誕生し、日本の開発援助政策にも改革の機運が高まっている。RIETIでは、「開発援助の先端研究」プロジェクトの一環として、2008年9月19日に国際ワークショップ「援助と経済発展」を開催した。本ワークショップでは、プロジェクトの研究成果を発表するとともに、中国から開発経済学・応用ミクロ計量経済学の世界的に著名な学者2名を招き、経済発展における政府と市場・民間経済主体の関係全般について活発な議論を行った。

セッション1 中国における家計と企業

藤田昌久RIETI所長 の開会挨拶に続き、第1セッションでは、中国における家計と企業に関するミクロ実証研究についての2つの講演と討論が行われた。李宏彬教授(清華大学)は、"Altruism, Favoritism, and Guilt in the Allocation of Family Resources: Sophie's Choice in Mao's Mass Send Down Movement"と題した報告を行い、文革時代の農村への下放において、親が直面した意思決定に注目し、双子のデータを用いながら世帯内資源配分の問題を論じた。同報告によれば、所得稼得能力の低い子が下放される傾向がある一方、親は子を下放することに罪の意識を感じ世帯内の資源配分を通じてそれを補填しようとしていることが明らかにされた。討論者であった戸堂康之ファカルティフェロー (東京大学)は、経済学においては新しい概念である「罪」の概念をもちい、優れたデータを利用することで興味深い研究結果を得ており、コミットメント問題の視点から援助政策の文脈においても重要な示唆を持つと、高く評価した。

第2に、周黎安副教授(北京大学)は、中関村と呼ばれる、北京のハイテク産業集積地の企業参入について、"Do Multinationals' R&D Activities Stimulate Indigenous Entrepreneurship? Evidence from China's "Silicon Valley" と題する報告を行った。同報告は、中関村全体をカバーする貴重なミクロデータを用いた計量分析に基づいたものであり、ハイテク企業の集積について、多国籍企業の研究開発が国内企業の参入や研究開発にプラスの影響を与えていることを見出している。討論者の澤田康幸ファカルティフェロー (東京大学)は、産業間外部性、つまりある産業の研究開発が別の産業の参入に与える効果を考察する上で示唆に富む研究であることを指摘した。

セッション2 産業の発展

ランチセミナーとして、澤田FFによるRIETI-CAP(ベトナム農業政策研究センター)の災害に関する共同調査結果の紹介が行われた後、午後のセッションでは、産業の発展についての2つの報告が行われた。まず、第1報告は澤田FFによる"On the Role of Policy Interventions in Structural Change and Economic Development: The Case of Japan's Postwar"と題する報告である。同報告では、2部門動学一般均衡モデルを戦後日本の長期マクロ統計にカリブレートした上で、さまざまな政策効果を評価するためのシミュレーションを行っている。結果によれば、農業部門の価格支持政策や投資補助政策、あるいは非農業部門の投資補助政策が大きな効果を持っていないと見られる一方、農業部門から非農業部門への労働移動が日本の高度成長の重要な要因であったことを見出している。同報告に対し、討論者の園部哲史教授(政策研究大学院大学・国際開発高等教育機構)は、閉鎖経済モデルを用いることによる動学体系の動きが結果に影響している可能性を指摘しており、開放経済モデルへの拡張の是非が課題として浮き彫りにされた。

第2の報告は、戸堂FFによる論文"Impacts of Aid-Funded Technical Assistance Programs: Firm-Level Evidence from the Indonesian Foundry Industry"である。同論文では、独自に収集した企業レベルデータにマッチングと差の差の手法を応用し、インドネシア鋳造産業に対する日本の技術援助プログラムの効果を計測している。計測結果は、技術援助プログラムが受け入れ企業の技術レベルを有意に向上させたことを示している。討論者の和田義郎教授(政策研究大学院大学)からは、標準的な費用便益分析や、外部性の計測を併用することによって、さらに精緻な政策評価が可能となるのではないか、というコメントが出された。

セッション3 援助配分

最後のセッションでは、ドナーの援助配分に関する2つの報告がなされた。まず、澤田FFからは"Is Aid Allocation Consistent with Global Poverty Reduction? "と題して、ドナーの贈与配分とミレニアム開発目標に掲げられている貧困削減目標との整合性についての実証研究結果が報告された。同報告では、カナダ、フランス、日本、オランダ、イギリスの援助配分が貧困削減と整合性を持つ一方、戦略的な要因もかなり見られること、国際機関については貧困削減と資金配分が整合的であること、さらに主要ドナーの援助配分パターンが2000年以降、より貧困削減に近づきつつあることが示された。討論者のウィレム・ソーベック上席研究員 からは、各ドナーの配分行動について個別の経年変化に注目することの重要性や、ドナーの戦略的行動についての分析の拡張についての有益なコメントがあった。

最後の報告は、春日秀文教授(関西大学)による、Aid Allocation across Sectors: Does Aid Fit Well with Recipients' Development Priorities?の報告である。同報告では、OECD・DACが公表している詳細な援助データであるCRSデータを用い、援助受入国間ではなく、援助受入国のセクター間での援助配分効率性についての検証を行っている。同報告は、セクター間の援助配分には大きな非効率性が残されていることを示している。討論者の木島陽子准教授(筑波大学)からは、効率性検証の評価基準になる理論的な枠組みをより明確にすべきなどのコメントが出された。

開発援助政策への示唆

これらの報告を通じて、開発政策を設計する際に考慮すべきいくつかのポイントが明らかになった。第一には、世界全体として、援助配分をより効率化すべき余地がかなり残されていること、第2は、戦後日本の経験から見ると産業政策の集計的インパクトは必ずしも大きくはない可能性があるが、国際的な技術移転や、ハイテク産業・産業集積が存在する環境においては、特定の援助政策・産業政策が有効に作用する可能性があること、第3は、長期的に誤った政策を政府が行ったとしても、世帯がそのような政策に対して効率性を高めるような行動をとっており、民間主体の反応を無視して政策設計は出来ないこと、である。エビデンスに基づいた丹念な研究から、これらの諸点についての示唆が得られたことが、本ワークショップの成果である。