RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    Charles FINE (Chrysler Leaders for Manufacturing Professor, MIT)

    「アメリカ経済の健全性と自動車業界の現状、業界構造について」

    ビッグ3を見るとGMが大変革を遂げている。GMは、30年前と比べて垂直分業等を大幅に推し進めたことで生産性も大きく上がっている。年金などの財務上の問題もあるが全体的に見て健全であるといえる。一方フォードは財務的問題に加えて本業も危ない。ボルボやジャガーに金を使いすぎており、工場への投資をあまり行っていなかったためである。そして、ダイムラークライスラーの合併はミスだったとしか言いようがない。合併後の戦略・管理もうまくいっていない。クライスラーは90年代には健全だったが、移行期に何も進歩がなかったのが致命的である。ダイムラーがクライスラーを切り捨てる可能性も否定は出来ない。そして過去にAMCとクライスラーが合併したようにフォードとクライスラーが合併することになるやもしれない。
    前述のようにビッグ3の中で最も健全なGMは生き残るだろう。フォードは現状では生き残りが厳しいかもしれない。だが、アメリカの破産法は強力なので、フォード自身はそれを望まないであろうが破産できれば健全に生まれ変われるかもしれない。また、フォードが生き残るためには分裂の上外注という形態も考えられる。下請け製造業が強力になって世界的に展開されるかもしれない。いずれにせよ、アメリカ市場におけるビッグ3のシェアは日本、欧米メーカーに押されて下がりつつあるのは事実である。
    アメリカにおける「空洞化と分裂」については楽観的な見方をしている。1980年代にはアメリカ家電業界は苦戦していたが、90年代に入ってかなり持ち直しているといえる。アップルもHPも自前でプロダクトを生産しておらず、全て東南アジアなどでアウトソーシングしているが、これこそは「空洞化と分裂」の結果であるといえるのではないだろうか。
    失業問題や、外国からの競争圧力の激化に伴って保護主義の声も強まっているが、アメリカの強みは柔軟性にあると考える。弱くなった部分を切り捨てて新しいイノベーションに資源を集中投入していく事で新たな勝ちパターンを創造していくのである。このためアメリカは常にイノベーティブでなければならないのである。これは日本企業にとって脅威である。アメリカはこれまでと同じ方法で勝てないと見たら違う方法に持ち込むことが出来るのである。確かに家電と自動車では産業構造、製品アーキテクチャなどが大きく異なる。しかしバリューチェーンの変化により構造が変化する可能性は否定できない。
    最後に、大型車や燃費の悪い自動車の問題について。アメリカの消費者が大きな自動車を好み、燃費に無頓着であることも事実だが、政策レベルではより確かな秩序が必要だと考える。たとえばSUVに対してネガティブインセンティブを付けるなどすべきだろう。だが、アメリカの現政権はこれまでも政策的ミスを数多く犯してきており、現政権下での改善は望めないと思われる。

    文責:東 秀忠