RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    大聖 泰弘 (早稲田大学教授)

    「日本における燃料電池自動車の開発の現状と課題」

    現在、経済産業省資源エネルギー庁の燃料電池実用化戦略研究会に参加しているが、アメリカと日本の代替エネルギー政策の方向性は非常に似通っている。しかしながら水素時代はいつ到来するか、という問題に関しては日米で石油自給率が大きく異なることを考慮に入れなければならない。日本は石油消費の99.7%を輸入に依存しているのである。
    東京の大気汚染は非常に深刻であり、窒素酸化物と浮遊粒子状物質の濃度などの環境基準が達成されていない。環境行政上の責任として2010年までの基準達成が求められているが、燃料電池は基準達成の手段たり得ない。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの改良がその手段となり、すでに技術的解決策も出揃っている。後はこれを実用化し、普及させるだけという状態である。
    日本では石油需要の4割が自動車向けとなっている。このため自動車からのCO2 排出低減が強く求められており、国土交通省、経済産業省、環境省が協力して低公害車の開発、普及を推進するアクションプランが策定されている。ここで示されている次世代低公害車には燃料電池車、スーパークリーンディーゼル、次世代ハイブリッド車があり、これらを並行して開発していくことが行政の目標となっていて、燃料電池関係では2003年度で約300億円の研究開発助成予算を投入している。電気自動車の普及は限定的なものに留まる可能性が高い。一方で普及が見込まれるのが天然ガス車や、燃料電池車を含むハイブリッド車である。これら低公害車の特性として、効率、環境負荷の小ささ、CO2 排出量の小ささ、エネルギーソースの多様性、そして象徴的役割等が期待されている。
    燃料電池は効率が高いと一般に考えられているが、実際には低負荷の時に最も高い効率を示し、負荷が大きくなるとむしろディーゼルエンジンの方が効率が良くなってしまう。加えて化学反応なので環境の変化に非常に弱い。ハイブリッド車の発想というのはエンジンを最も効率の良い状態で動かし続けることにあり、改良の余地は大きいと考えられる。
    燃料電池についてはエネルギー源として圧縮水素が最も現実的である。水素の生成手法としては化石燃料の改質が当面は最も現実的であり、この時に3割程度のロスが発生してしまう。このため、エネルギー効率を考える場合は自動車のみならず、原料を含めた全体、つまり「油田からタンク」、「タンクからタイヤ」を合わせて把握する必要がある。トヨタの最新の発表によれば最新のハイブリッド車の全体効率は高く、燃料電池車と大差ないと推定される。
    燃料電池車普及の最大のネックは価格である。現在1台1億円から2億円しているものを今後20年で100分の1にまでコストダウンする必要があるが、量産効果を考慮に入れたとしても白金などの希少資源を多用していることが問題となってくる。また、インフラ整備や既存自動車との共存、水素の供給源における非化石燃料比率の拡大など解決すべき問題も多い。今後20~30年を水素時代への移行期と捉え、産・学・官が連携して各種の問題に対峙していくことが重要である。