政策シンポジウム他

アメリカ公共図書館のビジネス支援

イベント概要

  • 日時:2003年7月11日(金)13:00-18:00
  • 会場:国際連合大学ウ・タント国際会議場
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    起業家のためのリサーチ・ライブラリー:
    ニューヨーク公共図書館科学産業ビジネスライブラリー

    クリスティン・マクドーナ (ニューヨーク公共図書館 科学産業ビジネス図書館 館長)

    本日ここにお招きいただき、米国における事業の立ち上げと成長に公共図書館がいかに重要な役割を果たしているかという多大な関心を集めている話題についてお話できることを光栄に存じます。

    経済産業研究所のスタッフの方々を通し、シンポジウムご参加の皆様からあらかじめいただいたご質問を拝見いたしました。ご質問の内容とシンポジウムでコーディネーターを勤められる菅谷明子氏のご見識を参考に、本日の講演を準備しました。ご質問に応えきれない点については、パネル・ディスカッションの中で補足したいと思います。それでは、科学産業ビジネスライブラリーがニューヨーク市で事業展開する上で欠かせない存在になるまでの経緯についてお話ししたいと思いますが、皆様のご参考になることがあれば幸いです。

    SIBLという略称で知られるニューヨーク公立図書館科学産業ライブラリーは、一般に開放された科学・ビジネス専門の情報センターとして米国最大規模を誇り、私はその館長を務めていることを大変幸運に思っています。SIBLでは、入館について規制や垣根を一切設けず、館内の蔵書や資料、サービスも無料で利用することができます。世界有数の研究機関に数えられるニューヨーク公共図書館の一部であることから、その開放性と利便性に対し多くの来館者、とりわけ海外で図書館運営に携わっている方々から驚きの声が寄せられています。「いったいどんなふうにやっているのか」という質問をよく受けます。その疑問にお答えすることが私の本日の目的です。

    これから開業しようとしている企業家予備軍やベテランの事業家、また、経済的に恵まれない地域の出身者や最近移民してきたばかりの人々など、さまざまなバックグラウンドを持つ企業家が科学産業ビジネスライブラリーを利用しています。世界有数のリサーチ・ライブラリーがこのように多種多様の利用者にとって欠かすことのできない存在となるまでに、私たちがどのような措置を講じてきたか、なるべく具体的かつ明確にお話したいと思います。
    たとえば以下のようなことを行いました。

    • 調査を促すような魅力的な施設作り
    • 技術および電子媒体による情報資源の広範な活用
    • 柔軟な人員配置モデルの採用
    • 顧客中心主義のサービスの提供
    • 広範な日々の研修の実施
    • 公教育プログラム
    • パートナーシップ
    • 常時対応可能で意欲的なスタッフ

    ニューヨーク公共図書館は、民営の非営利組織として設立され、理事会によって運営されています。市や州政府の付属機関ではなく、公共目的のための独立民営組織です。図書館の運営費用は、慈善家、団体、企業など民間からの寄付金によってその大部分が賄われますが、市、州、連邦各政府からの補助金も受けており、主に85の支所の運営費用に充当されています。図書館は運営管理上、ブランチ・ライブラリーとリサーチ・ライブラリーという2つの職務遂行部門と、これらの部門をサポートするセントラル・アドミニストレーション(中央管理部門)に分かれています。ニューヨーク公共図書館の館長兼最高経営責任者であるポール・ルクエール博士がすべてのプログラム運営を統括しています。

    現在、ニューヨーク公共図書館の年間運営予算は2億9000万ドル(348億円)で、スタッフは3500名です。来館者数は年間約1500万人ですが、これに加えてウェブ上のバーチュアル・ライブラリーのユーザーが450万人ほどいます。

    ブランチ・ライブラリー制度のもと、マンハッタン、ブロンクス、スタテン・アイランドの3地区合わせて85の地域図書館を運営しています。ブランチ・ライブラリーは、各地域の利用者のニーズに応えることを目的とし、蔵書を自宅やオフィスに持ち帰って利用できる貸し出しサービスや地域情報の提供、教育プログラムや研修、娯楽関連のサービスも実施しています。貸し出し可能な資料集の提供も行っているSIBLは、このブランチ・ライブラリー制度と直接関連しており、両制度が相互に有益であることもわかってきました。

    たとえば、SIBLから北へ6ブロック行ったところにあるミッド・マンハッタン・ブランチには、ジョブ・インフォメーション・センターがあり、来館者は掲示されている雇用情報をチェックするだけでなく、キャリア開発、履歴書の書き方、面接スキルに関する資料の入手やセミナーの受講ができるようになっています。明らかにSIBLとの相乗効果があると言えます。

    ニューヨーク公共図書館のリサーチ・ライブラリー制度は、リサーチ・ライブラリー部長であり、SIBL構想を最初に考案し実現の立役者となったウィリアム・ウォーカー氏によって統括されています。ウォーカー氏はこれまで9回、図書館を視察するため日本を訪れていますので、SIBL計画についてウォーカー氏から直接話を聞いた方がこの中にもいらっしゃるかもしれません。全部で4つのリサーチ・ライブラリーがありますが、いずれも場所はマンハッタンです。

    • ヒューマニティーズ・アンド・ソーシャル・サイエンス・ライブラリー(人文社会科学図書館):蔵書を守護するかのように沈思黙考するライオン像のある5番街42丁目の象徴的な建物
    • ショーンバーグ・センター・フォー・リサーチ・イン・ブラック・カルチャー:ハーレム地区に立地する黒人文化研究センター
    • ニューヨーク・パブリック・ライブラリー・フォー・パフォーミング・アーツ:リンカーン・センターにある舞台映像芸術専門図書館
    • SIBL:ミッドタウン地区、エンパイア・ステート・ビルの近くにある科学産業ビジネス図書館

    SIBLは設立からわずか7年ですが、ニューヨーク公共図書館が有する卓越した技術・ビジネス関連の蔵書や資料をどういうかたちで提供すれば公共の利益に最も資することができるのか、ほぼ四半世紀にわたる内部議論を経て実現したプロジェクトです。ニューヨーク公共図書館にとってSIBLの創設は、1911年にマンハッタン・ミッドタウン地区の5番街42丁目にカレール&ヘイスティングスの設計によるあの象徴的な建物が竣工して以来最大の建設プロジェクトなのです。SIBLの構想も負けず劣らず「壮大」で、科学技術と経済・公共関連という2つのリサーチ部門を統合し、ミッド・マンハッタン・ブランチ・ライブラリーに所蔵される貸出用の文献・資料、さらには専門職員をも取り込もうというものでした。こうしてハイテク施設に統合集積された資料は、ニューヨーク市の地域経済活性化の起爆剤となるだろうと期待されました。

    開設から7年経った今日、SIBLは学術調査の場として、また、企業家活動の拠点としての役割を果たしています。退職した企業経営幹部のボランティア組織SCORE(Service Corps of Retired Executives)から派遣される経験豊富な事業経営者が週30時間、開業や事業展開に関する基本的ノウハウについて起業家からの相談に応じています。週3日、さまざまな専門分野で活躍する実務家を講師に招いてアフター・ワーク・ワークショップを夜間に開催していますが、その結果、SIBLのコンファレンス・センターはビジネスとビジネスをつなぐネットワークを求める人々の集いの場となりました。毎日、何百人もの利用者が専門文献や特許の検索、メーリング・リストの作成、競争相手の把握、仕事探しなど、さまざまな目的のためにSIBLの高性能データベースを使っています。

    SIBLがこのように広範かつ多様な利用者層の支持を得られるようになった大きな理由は以下のとおりです。

    施設のデザイン

    グワズメイ・シーゲル・アンド・アソシエイツという輝かしい業績を誇る建築事務所の設計によって、以下のような館内環境が実現しました。

    • 視覚的な美しさと機能美を備えた施設
    • サイトライン(視線)を遮ることなくきれいに確保することで広々とした空間を生み出し、書物の探索や調査を促すとともに、館内監視やサービス提供の円滑化が図られた
    • 窓をふんだんに設けるとともに、館内の書棚とカウンターの高さを3種類に統一することで健康的な透明感を演出
    • 館内いたるところで、さまざまな調査領域や情報フォーマットに取り組む利用者同士の出会いを創出

    貸出用の蔵書・資料

    SIBLから6ブロック北にある主要貸出図書館、ミッド・マンハッタン・ブランチに所蔵される科学・ビジネス関連の文献と統合された2つのリサーチ部門が有する科学・ビジネス関連の調査資料を一体化しようという決断は、SIBLの新規利用者を獲得する上で重要な要素となりました。SIBLの地上階、ロビーに入ってすぐのところにあるカルマン・リーディング・ルーム・アンド・サーキュレーティング・ライブラリー(閲覧・貸出文庫)は、専門的な調査資料に取り掛かる上で、魅力的で身近なゲートウェイとなっています。150種類以上もの一般向け科学・ビジネス関連の定期刊行物が閲覧可能で、こうした刊行物を閲覧することで、必ずしもその分野に明るくない初心者でもリサーチ・ライブラリーの閉架式書架に所蔵されているより詳細な文献を読みこなすための準備ができます。カルマン・リーディング・ルームでは、常時、施設の向上がはかられていますが、たとえば、以下のようなサービスが提供されています。

    • 利用者からの電話による所蔵問い合わせへの対応
    • 科学技術関連ビデオを同テーマの文献と組み合わせたファイルで提供
    • その場で科学関連のオーディオ・ビデオ資料を視聴できる最先端機器を導入
    • 日刊紙の自由閲覧サービス
    • ワン・ストップ・データベースとインターネットによる30分予約サービス

    柔軟な職員配置モデル

    SIBLのリサーチ・レベルのサービスの中心となっているのは、ハロルド・マグロウ・インフォメーション・サービスと呼ばれるレファレンス・カウンターです。

    • カウンターのデザインが半円形になっており、一列に並んだ複数の利用者に同時に対応可能
    • 司書がゼネラリストとして、科学技術、ビジネス、法律行政の各分野に関する質問に対応
    • 予約または即時にその場で対応できる専門員を配置
    • 情報案内役として専門職補佐員や学生技術者が対応

    電子情報センターでは、専門的な訓練を受けた学生がワークステーションをモニターし、機械的・技術的な質問に応じています。また、データベースの選び方や検索方法について質問のある利用者を見かけたときは、司書に知らせます。

    日常的なオリエンテーションや案内業務については20名あまりの幹部ボランティアが引き受け、本職の司書は、より質の高いサービスの提供に専念できるようになっています。ボランティアは、来訪者の出迎えや適切なサービス・カウンターへの案内のみならず、予約端末やセルフチェック・ステーションの使い方のデモンストレーション、文献の配布、館内ツアーの案内も行います。中には、舞台裏で、蔵書に関する単発のプロジェクトに取り組む人もいます。

    顧客中心主義のサービス

    SIBLがまだ計画段階だったとき、リサーチ・ライブラリーやブランチ・ライブラリーから再配置された図書館スタッフは、顧客サービスについて詳細にわたる訓練を受けました。過去7年間、SIBLは顧客の利便性向上をめざし、さまざまなサービスを開発してきたのです。

    • ピリオディカルズ・オン・コール  - エコノミスト誌など最も需要の高い50種類の定期刊行物について比較的最近発行されたものの保管場所を書架からデリバリー・カウンターに移し、回収を迅速化。
    • コール・アヘッド・サービス  - 閉架式書架に保管されているリサーチ資料の取り置きを電話、ファックス、Eメールで予約受付。
    • レファレンス・バイ・アポイントメント  - リサーチを始める上で、適切な検索方法を見つけ出せるよう、レファレンス司書による30分間の相談サービスを提供。
    • Eメール・レファレンス  - スタッフの専門知識に加え、早い段階から共同デジタル・レファレンス・プロジェクト(現在はクエスチョン・ポイントと呼ばれている)に参加し、このプロジェクトに参加する世界中の図書館の専門職員および専門書・資料へのアクセスを実現。

    一般利用向け技術の広範な提供

    ロハティン・エレクトロニック・インフォメーション・センター(EIC)は、SIBLの鼓動ともいうべき存在で、以下のサービスを提供しています。

    • 150種類の電子データベース:1万3000種類以上のユニークな電子ジャーナルのインデックス、抄録、全文を収録
    • Eブック:SIBL所蔵のビジネス・ハンドブックやコンピュータ・マニュアルなど
    • インターネット・アクセス

    設立から5年経った頃、「常連」のインターネット利用者が毎日4、5時間もの長時間にわたりロハティンEICに居座っていることがわかってきました。午後の早い時間にやってきた企業家や会社員、研究者、学生は、SIBLの予約データベースを利用するのに2、3時間も待たされるという状況でした。昼前に来た研究者でさえその日のうちに使用できるワークステーションがないということもありました。間もなく、SIBLのEICはインターネット・カフェと化し、まじめな研究者がすばやく簡単にビジネスや科学に関する資料を入手できるような場所ではないという噂が広まりました。技術は、私たちが提供する高度でユニークなデータベースに新しい利用者を惹きつける仕掛けにはなっていなかったのです。

    ニューヨーク公共図書館のリサーチ部門としての任務を再生させるため、SIBLの管理者たちは1年前、以下のような断固たる措置を講じました。

    • ワークステーションにアクセスするのにID入力が必要となるよう、アクセス・ポリシーを変更
    • プロキシ・サーバーの技術ソリューションを利用して、コミュニケーション機能へのアクセスを遮断
    • EICを再構成し、インターネット用ワークステーションの台数を減らすとともに、Eメールの交換やチャットのためのインターネット予約可能時間を1日1時間に制限。
    • データベース用ワークステーションの台数を増やし、予約・使用要件を緩和することで、SIBLの科学・ビジネス関連のデータベース拡充の促進
    • プロモーションの拡充:世界各国の大都市圏の科学技術系学部在籍の教授や学生、さらに、ニューヨーク・アカデミー・オブ・サイエンス、各種専門技術協会団体、中小企業支援団体など、さまざまな提携機関から提供された名簿に記載されたアドレスに宛てて、SIBLの電子情報資源についての新たな分類案内とリストをメール送信。

    SIBLでは現在、データベース用ワークステーションの予約制を廃止し、研究者がすぐに好きなだけ利用できるようになっています。こうしたオンライン資源への需要は引き続き増加していますが、SIBLとしては喜んでその需要に応えていきたいと考えています。9.11事件で多くの人々がオフィスを失いましたが、SIBLは、これを受けてラップトップ・ドッキング・エリアの接続ステーションの数を3倍に増やし、現在ではより多くの新規利用者がほとんど全く時間の制限を受けることなくSIBLのネットワーク化された情報資源にアクセスできるようになっています。

    こうした電子データベースはさまざまな目的に利用されていますが、先週だけでも以下のように驚くほど多様な利用事例が見られます。

    • ニューヨークで手作り工芸品を販売している小企業経営者が「STAT-USA」と「エマージング・マーケッツ」を使って東南アジアのサプライヤーを探し出し、母国で遅い時間に起こった事柄を母国語のニュースでチェック。
    • ファッション・デザイナーが「CASSIS」という米国特許庁のデータベースを使って新しく作った商標がまだ使用されていないことを確認。
    • 大学生が「ジェネラル・サイエンス・アブストラクツ」と「ケンブリッジ・サイエンティフィック・アブストラクツ」を使って、有望な科学プロジェクトの一環として、アルミニウムの再利用プロセスについて調査。
    • 中規模PR会社の事務スタッフが「レファレンスUSA」を使って大都市圏の3地域に所在する小規模会社のラベルつきメーリング・リストを作成。
    • 独立系投資アナリストが「ブルームバーグ」や「ダウ・ジョーンズ・インタラクティブ」やペインウェバー・ビジネス・インフォメーション・ウォール上の「ロイター・プラス」を使ってクライアントのポートフォリオについて10年間の推移を完成。
    • 求職者がさまざまなウェブサイトに掲載されている求人情報をオンライン検索し、「マージェント・オンライン」や「ジェネラル・ビジネス・ファイル」を使ってジョブ・インタビューのための情報収集。
    • 弁護士の助けを借りずに法律手続きを進める本人訴訟当事者が「ネクシス・データベース」を使って、元雇用主が所在する国の法律・制度の状況を調査。
    • 「やさしい」フィットネス・センターを開業しようとしている企業家が「スポーツ・ビジネス・リサーチ・ネットワーク」を使って、高齢者というニッチ・マーケットをターゲットにした類似施設について調査報告書を作成。
    • SIBLが主催する「企業とビジネスコンタクト:ディレクトリーで企業と人を探す」を3度受講した2人の退職者が「ゲイルズ・レディ・レファレンス・シェルフ」を使って、地元のコミュニティ・センターの竣工式に招待するスピーカー候補として30人のライターの連絡先を調査。
    • ジューイッシュ・フィランソロピーズ(ユダヤ系慈善団体)による病院振興活動のためのプロスペクト・リサーチャー(基金調達に関する調査担当者)が「ミリオン・ダラー・ディクショナリー」を使ってフォーチュン500企業のCEOのうちブランダイス大学出身者を特定。
    • 大学院生が「ディサテーション・アブストラクツ」を使い、アジア市場の崩壊について頭に浮かんでいる構想が「研究されすぎた」課題でないか確認。
    • 若く進取的な発明家が「トーマス・レジスター・オブ・アメリカン・マニュファクチャラーズ(米国製造業ディレクトリー)」を使って、自らデザインした製品の大量生産を請け負う東海岸の工場を特定し、その製品を購入してくれそうな顧客候補を探すという2つの目的を達成。

    オフサイト・ユーザー向けサービス

    SIBLでは「ニューヨーク・スモール・ビジネス・リソース・センター」というウェブサイトを運営していますが、その特徴は以下のとおりです。

    • 「プログラム・ロケーター」と呼ばれる検索ツールを使って、SCOREなど、データベースにリストアップされている300以上のビジネス支援組織の検索が可能
    • 「ビジネス・オーナーズ・マニュアル」は、ニューヨークで開業・企業経営するためのアドバイスを提示するとともに、規定の確認や所定用紙の入手ができるよう市の関係部局へのリンクを提供
    • 「Ask a Question」サイトで、ニューヨーク公共図書館のスタッフおよびニューヨーク市ビジネス・サービス局のエグゼキュティブ・ボランティア・サービスなどの専門家が利用者からの質問に回答

    このウェブサイトが小企業経営者のみならず市政府当局者からも評価されていることを示す数々の事例があります。つい先ごろ、ニューヨーク市議会の経済開発委員会が「Resource Guide to Doing Business in the Five Boroughs (5地区でビジネスを行うための情報ガイド)」というブックレットを作成する際、SIBLのウェブサイトがそのベースとなりましたが、大変好評で即時売り切れになりました。少しうがった見方をすれば、より最新でいつでもどこからでもアクセスできるウェブサイトの大々的なプロモーションとなったといえます。先月のデータによれば、サイトを繰り返し訪れる特定利用者の数が引き続き増加し、彼らのサイト滞在時間はきわめて健全な11分となっています。

    トレーニング

    情報の検索、評価、利用するための情報技術を一般利用者が使いこなせるように手助けすることは、SIBLの発足当初から専門スタッフが提供してきた主要なサービスの1つです。3年間にわたって支給されたケロッグ補助金の支援により、教育・クラス運営スキルを司書が習得しました。すべての司書の職務分掌に教育指導が含まれ、それぞれ最低週に1度はトレーニング・セッションを受け持つことになっています。学生用のワークステーション13台を備えた最新のトレーニング・ラボの設立について、寄付企業の賛同が得られました。SIBLでは、司書が講師となって、図書館利用の基礎スキル、ワールド・ワイド・ウェブ、専門課題リサーチ(「Using Statistics That Talk or Sell」など)という3部立てのクラスを実施しています。無料・先着順で受講者を受け付けていますが、開設以来5年間で延べ5万5000人近くの利用者が登録・受講しました。新しいクラスの講義内容を習得するため、特定のデータベースや統計分野などの情報群について司書同士で講義しあう「スポットライト」セッションという方法を司書たちが自主的に開発してくれました。一般受講者向けに開講する前に、数週間かけて仲間内で建設的なアドバイスを提供しあい、講義内容の向上に努めています。こうしたプラクティス・セッションのビデオテープの提供も行っています。

    現在のカリキュラムは22のクラスで構成されています。司書による講義とデモンストレーションに続いて、参加者各自が実際に電子情報を使って練習します。ここでも機器の使用法でわからない人がいると、学生技術者が実際にその人のワークステーションに行って手助けします。ビジネス関連のクラスで最も人気があるのは、「マーケット・リサーチ」や「企業とビジネスコンタクト:カスタマイズ仕様のメーリング・リストの作成」および入門編の「スモール・ビジネス・インフォメーション・ネットワーク」です。繊維・アパレル、食品科学、建造建設など地域産業についてSIBLが所蔵する専門文献を簡単に紹介するクラスも最近新たに加わりました。こうしたセッションは、学術的・網羅的なものではなく、あくまでも基本的な疑問に答える情報をどうやって特定するか、また、なぜそういう情報を使うかについて説明するものです。

    こうしたクラスは求職中の人たちにとっても有益です。実際、9.11事件の後、SIBLのクラスは労働局から正式な職業再訓練プログラムとして照会されました。

    SIBLの企業家教育に対する取り組みを具体的にご紹介します。まず、図書館を訪れる利用者に対して日常的に行う訓練に加え、学校、学術研究機関、非営利団体、政府関連団体を対象にそれぞれのカリキュラム、任務、必要に応じた個別トレーニング・セッションを提供しています。単に学生と協力するだけにとどまらず、ボランティアのビジネス・カウンセラー、科学コンペに参加する学生の顧問役やディベート・チームのコーチを務める高校の先生、あるいは、学生に論文指導をしている大学教授といった方々を対象に「トレイン・ザ・トレーナー(訓練者教育)」と呼ばれるプログラムも手がけています。特別な訓練を受けた先生方は、どんな高価なマーケティング・プログラムにも優るプログラムの推進力となります。私が受け持つプログラムでとくに気に入っているのは、近隣のデザイン研究所の製品工学クラス向けのもので、受講者は製品を開発して特許を取得し、さらにその製品を市場に売りださなければなりません。この種のクラスは、指導役を務める司書を大いに興奮させてくれます。

    こうしたクラスはウェブ上および「Alley Events」などのニュースレターで広告しています。

    スモール・ビジネス・コミュニティ向けの公的教育プログラム

    SIBLでは3年前、会議用スペースを有効利用し、さまざまなビジネスに携わる熟練実務家の方々に来てもらって以下のようなワークショップを開くことを決めました。

    • 事業計画の作成
    • 事業のマーケティング
    • 資金調達
    • 自分自身と事業のプロモーション
    • 法律関連の問題
    • 効率的な簿記

    このシリーズのプログラムは、ネットワーク拠点としてのSIBLに多大な効果をもたらしました。講師役を務める人たちは自らの時間を提供し、その見返りとして新たな潜在顧客層に接することができます。彼らは一様に、ニューヨーク公共図書館の所蔵資源やサービスをプロモートしてくれますが、事業に成功している1人の事業家による推薦は、図書館を称賛するパンフレット何千通分もの価値があることは想像に難くありません。

    弁護士やバンカーが事業計画を精査する「あなたの事業はお金になるか?」というプログラムが復活しましたが、この他にも嬉しいほど多くのプログラムが受講者の要望に応えて再講義の運びとなっています。

    パートナーとの連携

    私たちが今やっているような活動を可能とするもう1つの理由は、多くのパートナー・グループとの緊密に協力しているということです。こうした協力関係は、双方にとって得るべきものが多いと考えています。SIBLが資源やサービスを提供するかわり、パートナー・グループは受講者の紹介、専門知識の提供、プロモーションというかたちでSIBLに貢献してくれます。具体例をいくつか紹介しましょう。

    ワークショップ・イン・ビジネス・オポチュニティーズ(WIBO)は、マイノリティに属する40人近くの人たちを対象に、事業所有を通じて持続する本物の経済力を得られるよう支援を行ってきました。WIBOは非営利・非資金・自己完結型の事業です。インストラクターは無料で講師役を務めますが、うち半数以上は自営業者でワークショップ卒業生も大勢います。すべてのサービスや施設は寄贈されたか、教職員や卒業生などからの寄付金で購入されたものです。

    WIBOはビジネス戦略を中心に、16週間の講座を無料で提供しています。受講にあたり学歴その他の資格要件は一切なく、事業経営者またはこれから開業しようとしている人なら誰でも受講登録できます。このコースで受講者は、詳細な事業計画を作成し、その作業を通して成長力・収益力に満ちた事業を経営するにはどうすればいいかを学びます。各セッション3時間ですが、受講者はセッションごとにビジネス戦略の特定の段階に焦点をしぼり、認知された専門家や訓練を受けたワーク・グループのリーダーから指導を受けます。

    WIBOの受講者は、すべてのクラスに出席すること、遅刻しないこと、講義時間以外に毎週6時間から20時間かけて事業計画を練り上げることを約束し、実行しなければなりません。コース終了時には、受講者はそれぞれ200ページにも及ぶ自らの事業経営のためのガイドブックを完成し、正式な卒業証書を手にします。

    このコースの中ほどで取り上げるマーケット・リサーチに関する講座はSIBLの司書が担当していますが、セッションはWIBOのオフィスの近隣で行われます。ある司書は自ら16週間のWIBOコースを受講し、修了証書を取得しました。卒業式では、コースの修了者がブースに陣取り、自ら開発した製品やサービスをプロモートしますが、SIBLもこれに参加しています。こうした関係を通じ、SIBLはユーザーからの確実な支持を得ているのです。そしてWIBOはお返しとして、月に一度、土曜日に、「あなた自身のビジネス:それはあなたのため?」と題する優れたウィークエンド・プログラムを継続的に提供してくれています。

    アメリカン・ウィメンズ・エコノミック・ディベロップメント・コーポレーション(AWED)も非営利組織で、訓練やカウンセリングの提供によって、女性企業家による開業・事業経営を支援しています。事業経験3年以上の女性を対象として行われる7週間21時間の「資金へのアクセス」と題するセミナーがありますが、SIBLのスタッフがその一部を受け持っています。金融商品、信頼度の高い事業計画の書き方、資金ニーズの分析、キャッシュ・フローの計算、見積もりなど、専門的なトピックスについては、地元のバンカー、会計士、その他のエキスパートが担当しているので、このコースへの参加によってSIBLのスモール・ビジネス・チームは、SIBLが有するツールや情報資源が実際のビジネス現場における使い方について継続的に学習することができるのです。

    SIBLの司書は、マーケット・シェアの伸ばし方、製品の多様化、ダイレクト・メール・オプションなどバラエティに富んだ話題について朝食や昼食をとりながら議論する朝食会やブラウン・バッグ・ランチをはじめとするさまざまなAWED主催のイベントにも参加しています。

    この他に私たちが相互交換的に連携しているパートナーは、以下のとおりです。

    • Accion:開業・事業拡大するための融資を従来型金融機関から引き出すことのできない小企業を支援するミクロ融資提供組織。9.11事件のあおりで倒産した非上場のタクシー・リムジン会社は、この組織の支援で再生を果たした。
    • ニューヨーク・インダストリアル・リテンション・ネットワーク:製造業者の競争力維持のための事業戦略開発を支援。SIBLのスモール・ビジネス・チームは、このネットワークの講師陣の一角を成し、ネットワークのメンバーが開発した製品の特許・商標登録の方法を説明するためのセッションづくりを担当。SIBLは、産業デザイナー向けの知的所有権に関するワークショップをミュニシパル・アート・ソサエティなど、ニューヨーク市内のさまざまな場所で開催した。
    • サウス・ブロンクス・オーバーオール・エコノミック・ディベロップメント・コープ(SOBRO):ブロンクス地区に拠点を置き、地元住民を対象に無数の経済開発・職業訓練プログラムを提供。SIBLは、地元のコミュニティ・カレッジによってブロンクス地区のさまざまな場所で開催される技術エキスポやビジネス・フェアなど、SOBROが主催する幅広い活動に積極的に参加。

    政府組織パートナー

    政府および米国特許商標庁(USPTO)の特許保管場所として、SIBLは連邦政府の各関連部局と有益な提携関係を維持してきました。ミッドタウン地域に立地する優れた教育施設で、主な鉄道・バスの駅から徒歩圏内にあることから、SIBLは、特にUSPTOにとって、特許弁護士、発明家、企業の弁護士補佐などターゲットとする利用者にサービス提供する上で理想的な場となっています。その見返りとして、政府機関はSIBLの司書を対象に定期的に集中的な研修を実施してくれています。SIBLはまた、政府機関が提供する電子製品のインターフェースや配布システムのプレビューやベータ・テストの支援を行うとともに、歳入庁(IRS)など各政府内部局が資料配布する際の効率的な窓口にもなっています。その代償としてSIBLは、その主要顧客であるスモール・ビジネス・コミュニティーのための確実かつ実質的なプログラミングを専門家に作成してもらうことができるのです。国勢調査局を含む多くの市・州・連邦レベルの政府機関は、国民意識と教育の向上という任務を背負っていますが、ニューヨーク公共図書館との協力については、新たな電子製品を簡単にデモンストレーションできることから、大変好評をいただいています。

    場としての図書館

    国内の他の図書館同様、SIBLでも実際に図書館に足を運ぶ来館者数は5年前ほど多くありません。しかし、他の図書館がその妥当性、しいては将来性をも心配しているのに対し、SIBLでは、これまで創出してきた場としての図書館に対する需要のすべてに応えるべく、スペースを積極的に広げようとしています。先に挙げたサービス、イベント、パートナーシップを通して、私たちは新たな社会資本を構築してきたのです。自宅やオフィス、学校から情報をアクセスできる人々も、SIBLに実際に足を運ぼうとするのです。

    読書とリラックス  ―― SIBLには、その場所柄もあって、仕事や学校の休憩時間にやってきて、雑誌やさっと読めるビジネス関連のベストセラー、その日のフィナンシャル・タイムズに目を通す利用者がいます。

    バーチュアル・オフィス  ―― SIBLでは高帯域通信設備が整備されており、高速接続が可能です。SIBLのデータ・ソースを使って完成した仕事を高速で送信できることから、多くの人々がビジネスの場として当図書館を利用しています。

    共同学習  ―― 人々はともに学びプロジェクトに取り組むことを好みます。ブルームバーグ・フラット・ターミナルを3人の利用者が取り囲む光景はよく見かけられますが、これは、このターミナルが提供する先進的な特徴をフルに引き出すためには3人のユーザーの知恵を集結する必要があるためです。SIBLのエレクトロニック・トレーニング・センターとロハティン・エレクトロニック・インフォメーション・センターでは、1台のワークステーションを2人以上で使うことができます。グループ利用者向けの学習室をあらかじめ計画する先見性はなかったのですが、マイクロフィルム施設の一部を学習室に改装する予定です。

    ネットワーキング  ―― SIBLのトレーニング・クラスや公開講座では、セッションの終わりに質問のための時間を設けていますが、その後、必ず名刺交換が始まります。SIBLは、利用者にとって中立的で信頼できるスペースとなっているのです。司書が利用者グループに対して何かを売りつけるようなことは一切なく、ひたすら情報を無料で提供するだけです。SIBLは、イニシャティブやベンチャーについてオープンに話し合えるような環境作りを心がけています。

    企業の研修場所

    マンハッタンのミッドタウン地区に位置するSIBLの4つの最新鋭の実習室は、研修を行う場として理想的です。SIBLは研修のためのスペースと講師を競争力ある価格で提供します。同様に、ミッドタウン地区における魅力ある施設を市場価格より有利なレートで利用できるSIBLの会議室は、小規模ビジネスの経営者が製品のデモンストレーションやセミナーを行うのに理想的です。

    企業の会議室

    金融サービス会社のシニア・エグゼキュティブが四半期に一度、以下のような業界リーダーの講演を聞くため、SIBLのヒーリー・ホールに集まります。

    • バークシャー・ハサウェイ社会長 ウォーレン・バフェット氏
    • シティ・グループCEO サンフォード・ワイル氏
    • 元米財務長官 ロバート・ルービン氏
    • 元駐仏大使 フェリックス・ロハティン氏

    企業貢献の展示場所

    先進的な機関と連携し、あらゆる人々がアクセスできるような企業フィランソロピーを目に見えるかたちで行ううえで、SIBLは絶好の場となっています。ブルームバーグは、フィナンシャル・パネル・システムを寄贈してから3度にわたりアップグレードしましたが、SIBLにシステムを設置することが新たな需要を創出することがわかってきました。ペインウェバー・ビジネス・ウォールも企業フィランソロピーによって提供され、幅広く利用されている設備の一例です。

    刺激的なボランティア環境

    SIBLは、図書館学校の学生など、新たな若い専門スタッフをボランティアの中核として招き入れています。貢献しながら学ぶことのできる刺激的な場であると考えるからです。

    企業家インタビュー

    SIBLのスモール・ビジネス支援プログラムの効果についてもっとも雄弁に物語るのは、実際にSIBLの支援で開業し、その支援を高く評価する企業家の生の声です。

    Mosaicoというカフェ・ケイタリング・レストランの創立者兼社長であるステイシー・バス氏は、華々しく開業した際、ケーブル・テレビのインタビューを受けました。その中で彼女は、SIBLでSCOREカウンセラーから計り知れない援助を得たこと、居住地区の人口構成、レストランを開く場所として検討していた数箇所の候補地における小売業の集中度や多様性などについてデータを使いながらビジネス計画作成の手助けをしてくれたことを熱心に語っていました。そして、これは嬉しい偶然なのですが、MosaicoはSIBLからほんの2ブロックのところに開店することとなり、彼女に創業当初の貴重な支援を行った図書館スタッフが今では彼女の忠実な顧客となっています。

    LineTechという会社の創業者兼CEOであるトビー・ジャクソン氏は、何カ月もの間、仮撚と呼ばれる工程について書かれた織物に関する文献を手当たりしだい読みあさった後、織物目視検査システムを開発したそうですが、その文献はすべてSIBLに所蔵されているものでした。SIBLは、そのコレクションが包括的かつ豊富であることを評価され、全米人文学基金(National Endowment for the Humanities: NEH)から、現在所蔵している布地・織物関連のタイトルすべてについてバックナンバーを揃えて保管するための基金として70万ドルの寄付を受けたばかりだったのです。ジャクソン氏もまた、数年間にわたり価格構成について一緒に考えてくれたSCOREのカウンセラーとSIBLが所蔵する織物業に関する文献という組み合わせが勝利の秘訣だったと述べています。ステイシー・バス氏と同じく、ジャクソン氏も機会あるごとに体験談を話すことでSIBLへの恩返しをしてくれています。一番最近では、ニューヨーク市議会との記者発表の場で、彼の事業が公共図書館からどうやって生まれたかについて話しくれました。今でも彼は、少なくとも半年に一度はSCOREやSIBLのリサーチ・コレクションのコーナーに立ち寄り、今まで気づいていなかった問題に対する答えを見つけて帰っていきます。

    Causauriの社長を務めるエミリー・マックヒュー氏は、大学院探しをきっかけに始まったSIBLの蔵書への依存がその後だんだん高まり、最終的にはMBAのためのプロジェクト完成に至るまでになったと回想しています。彼女もまた、SIBLの豊富で充実した内容の紙媒体の蔵書やパワフルなデータベースとSCOREカウンセラーの知恵と激励というSIBLならではの卓越した組み合わせを活用して、耐久性に優れながらもスタイリッシュなラップトップ・ケースの開発のための計画を作成しました。彼女が最終的に提携することになった製造業者は、トーマス・レジスターというオンライン・データベースを検索して見つけました。マックヒュー氏は現在、SIBLが開催するセミナーを定期的に受講し、効率的な経理などの分野の知識を学んでいます。さらに、ブランチ・ライブラリー向けに大学院の選び方についてのセミナーを実施し、図書館でより高い教育やキャリアに関する情報を探している人たちに支援を行っています。

    SIBLは、スタッフとの交流を通して、事業に成功し利益を出している何人かの企業家を特定することができました。SIBLでは、閉架式書庫に保管されているリサーチ資料の利用者にニュー・アクセス・カードを無料配布していますが、将来、このカードによって学術研究面における所属や職業など、より詳細な利用者情報を把握する予定です。その他の利用者については、つい最近配布し始めたインフォーマルな調査票でそれぞれ自主申告してもらうことによって、情報を集めることになっています。このような取り組みによって、私たちがまだ把握していない成功例も出てくると思います。私たちは、利用者の満足げな微笑みに出会うたびに、魅力的で開放的な施設、豊富な蔵書、利用しやすい技術、継続的な訓練、実践的なワークショップ、知識豊富で熱意にあふれた図書館スタッフが一体となったSIBLが一般市民にインパクトを与えているということを実感します。

    ご静聴ありがとうございました。ウェブ上であるいは実際にぜひSIBLにお越しください。