新春特別コラム:2016年の日本経済を読む

新たな科学技術イノベーション政策始動の年
~新科学技術基本計画の実施開始

田村 傑 上席研究員

1. 第5期科学技術基本計画の背景

平成27年には、ノーベル賞医学生理学賞が北里大の大村智教授、物理学賞が東京大宇宙線研究所の梶田隆章教授に授与されることとなり、科学技術分野での日本の研究水準の高さが示された結果となりました。また過去5年間の日本人のノーベル賞受賞者は、計8名になっています。一般にはあまり意識されていないかと思いますが、自然科学分野の過去10年程度の日本人のノーベル賞受賞者数は米国の次を占めるほどです。鳥瞰すればノーベル賞受賞の増加は実施された科学技術政策の成果の1つと考えられると思います。また、国民から支持される科学技術政策につながるものと思います。

きたる平成28年は、現在の第4期科学技術基本計画の次期計画となる第5期科学技術基本計画が4月から実施される最初の年となります。第5期科学技術基本計画には平成28年度から5年間の政策課題が示されます。あまり馴染みがないかもしれませんが、この計画はどのようなものなのでしょうか。本計画は科学技術基本法に基づいて、5年間の科学技術政策に関する課題を示す大きなグランドデザインとなります。次期計画は第5期の計画ですので、これまで第1回から第4回の20年に亘り計画が策定されてきました。科学技術基本計画は、政府に設置されている、内閣総理大臣が議長を務める科学技術・イノベーション会議で、策定が行われます。この会議は政府における重要政策に関する決定を行う場と位置づけられており、具体的には、内閣総理大臣のリーダーシップのもと、科学技術政策、イノベーション政策について、総合的な見地から政策を打ち出す役割を担っています。本計画は、その際に政策面での基本的な枠組みを示すものとなるのです。科学技術政策の枠組みは、重要な研究・開発分野の選定といった重点化の視点と、そのような研究・開発を効率よく行う環境をどのように整えていくかといったシステム改革の視点の両方が必要です。いずれかの一方だけでも効果的ではなく、両方を組み合わせて行う必要があります。その為に、予め計画を定めて、加えてある程度の期間に亘って策定をすることとなっているのです。

2. 内容と策定過程

計画案の中では、次のような内容が示されています。
(1)計画最終年度である2020年度に開催される、オリンピック・パラリンピック東京大会での、成果の実証、展示を目指した技術開発の促進、
(2)AI(人工知能)技術などについて、人文社会分野と自然科学分野の連携した研究開発や、その社会影響への理解の推進、
(3)ICTと生産技術の融合を通じた、商品やサービスの消費者や利用者のニーズに対応する、ものづくり技術やビジネスモデル(「コトづくり」)の推進、
これらの点は、新計画で新たな課題として提示された内容であり、今後の日本の競争力の強化を図るうえで重要となる課題が示されていると考えられます。

このような計画は、政府および、一部学術関係者が中心になって策定しており、多くの方々にとって関与する機会がないものと思われるかもしれませんが、計画の案を示してパブリックコメント(日本語では「一般の意見」との意味になります)の募集をおこない、計画の策定に際して意見を受け付ける過程をとりいれています。策定中の計画案についても、平成27年の11月からパブリックコメントの募集が行われました。約500件の意見が寄せられています。科学技術はその成果が社会に受け入れられて、還元されることによりイノベーションとなりますので、国民から支持され、受け入れられるうえで、このプロセスは大変重要であると思います。また、科学技術政策やイノベーション政策といいますと、理科系の分野のみを対象としていると思われるかもしれませんが、人文科学分野についての政策も対象となっています。近年、理科系と文科系といった従来の枠組みに代わる新たな学術体系が模索されているなかで、重要な視点であると考えられます。

3. 結び

本年は第4期基本計画の終了年度でしたが、科学技術の成果として、日本人がノーベル賞を新たに受賞したこともあり、5年間にわたって政策を実施した意義が示されたと思います。第5期基本計画は平成28年4月から5年間実施されることになります。 最終年度は、東京でのオリンピック・パラリンピックの年であり、そのような機会に次期計画の成果が大いに利用されて、日本国民のみならず世界の人たちに夢を与える科学技術・イノベーション政策の成果が、新計画の実施を通じて得られることを期待したいと思います。

注)本内容は平成27年11月に公表された「科学技術基本計画について(答申素案)」に基づいて記述してあります。最終的な計画は平成27年度中に政府決定される予定です。

2015年12月21日掲載

2015年12月21日掲載

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