新春特別コラム:2013年の日本経済を読む

2013年、新たな企業競争時代の始まり~日本が先陣を切る余地は大~

中島 厚志 理事長

傷が癒える欧米経済

2012年の世界経済では欧州の債務危機が大きな影響を与えた。世界的にマネーがリスク回避の動きを続け、夏場前後にかけてのユーロ安や世界的な株安にもつながった。

しかし、欧州の債務危機克服の動きは着実に進展している。ギリシャへの第2次追加融資、ESM発足、ECBの国債買い取りプログラム(OMT)、銀行同盟への動きなど、公的債務や金融市場の危機を回避する枠組みがかなり出来てきた。基本的に、2013年は債務危機の懸念は弱まり、欧州経済の底入れも感じられることとなろう。

もっとも、一連の措置で債務危機が終息するとまでは、未だ言えない。大きなマイナス成長の中でギリシャが約束する厳しい財政緊縮が滞る可能性は否定できない。しかも、民間金融機関のギリシャ国債保有額が僅かとなった現状では、今後ドイツやEUなど公的支援分の対ギリシャ政府向け債権がカットされざるを得ない厳しい局面も想定され、今年9月に予定されるドイツ総選挙なども契機に13年秋以降債務危機が再燃する懸念もある。

一方、米国経済は堅調な動きに終始した。失業率は低下し、個人消費も堅調であった。なにより、住宅市場の回復が明白になってきたことは大きい。リーマンショックから4年余りを経て、サブプライムローンなどによる金融バブルの崩壊の悪影響は大きく減じており、家計債務の対可処分所得比でみても持家比率の推移(図表1)でみても、もう一息でバブル以前の水準に戻るところまで調整が進んでいる。

図表1 米国:持ち家比率の推移
図表1 米国:持ち家比率の推移
(注)太線は68年~99年平均で64.6%
(出所)米商務省 Census Bureau

さらに、シェールガス革命も米国経済を押し上げている。米国とEUとの天然ガス価格差から計算される米国の天然ガス消費差額はそのGDPの1.3%に達しており、毎年0.2~0.3%GDPを押し上げる計算ともなる。財政の崖が回避されたこともあり、2014年が近づくにつれ、米国経済は堅調さをさらに増す可能性が強い。

財政健全化と産業競争力強化の併進

2013年の欧米経済からいえることはいくつかある。1つは、欧米経済とも、着実に債務危機やバブルの傷が癒えつつあり、徐々に重点が変化していることである。

欧州では債務危機を通じてEU統合の枠組みは一段と進展したし、米国でも金融バブルの後処理が進んだことで財政の崖問題にみられるように財政健全化に向き合う余地ができるようになったといえる。

その上で、欧州では財政健全化のためにも経済成長が意識されている。また、安くて豊富なエネルギーを手に入れつつある米国では、製造業の回帰など産業競争力強化につながる動きが鮮明になっている。

産業競争力強化がより強く意識されだしたのは欧州も同様である。たとえば、いままで中小企業減税と大企業増税の組み合わせなど所得再配分の域をでるものではなかったフランスの産業政策も変化しており、昨年11月6日に今後3年間合計200億ユーロの企業向け税控除を骨子とする企業支援策を発表している。

200億ユーロのうち100億ユーロ分の原資が消費税引き上げに依存しており、ドイツとのユニット・レーバー・コストの格差拡大度合(図表2)からみてもフランスの企業競争力回復は部分的にとどまる見込みである。しかし、分配政策に力点を置く社会党政権が大企業を含めた全企業の競争力強化に動き出した意味は小さくない。

図表2 主要国のユニット・レーバー・コストの推移
図表2 主要国のユニット・レーバー・コストの推移
(注)2000=1
(出所)OECD

企業の競争力が問われているのは欧州諸国だけではない。日本も同様である。図表2のように、2000年以降の日本企業のユニット・レーバー・コスト改善度合いは主要国中最も大きい。また、貯蓄投資バランスで見た企業部門の資金余剰幅も主要国中では平均的に日本が最も大きく、日本企業が財務体力を蓄積していることもうかがえる(図表3)。それにもかかわらず、日本の輸出や賃金雇用は伸び悩んでいる。企業が支える日本経済でみても、世界でも低位の成長にとどまっており、デフレ脱却もなかなかできていない。

図表3 主要国の企業部門貯蓄投資バランス
図表3 主要国の企業部門貯蓄投資バランス
(注)貯蓄投資バランスはGDPに対する比率
(出所)OECD

この二律背反状態の背景にあるのは、円高、電力制約、高い法人税率、厳しい環境対応、FTA参加の遅れ、硬直的な労働市場に代表される、いわゆる六重苦の存在である。せっかくの企業努力も六重苦で帳消しになっている構図である。

もちろん、個別には意義があるものもあるし、六重苦全てを完全に取り除くことはできない。しかし、グローバルに競争する環境にあって、日本企業だけに負荷がかかる現状は変えていかなければならない。

日本の企業競争力強化先駆の余地は大

ちょうど、新政権はインフレ目標をひとつの軸とする大胆な金融緩和と大型補正予算を組み合わせる意向であり、市場では先取りする形で円安が進んでいる。経済実態や深刻な財政赤字を踏まえた対応を欠いてはならないものの、後はいかにスピード感を以て企業の大きな負担を軽減するかにある。

円安が貿易赤字を拡大する懸念がいわれているが、安全性が確認された原発を再稼働させれば輸入増や円安による電力料金の高騰リスクは抑えることができる。踏み込んだ投資減税や研究開発減税が実行されれば、法人税の実効税率を下げることができる。TPPに参加表明すれば企業の活躍の場が広がることにもなる。これらをパッケージとして実行すれば、企業を取り巻く環境は大きく変わり、日本経済のみならず企業競争力回復にも弾みがつく。

企業の活力を高めるのであれば、賃金雇用の拡大も促す必要がある。日本企業の収益力は主要国企業と比べても低いが、それにもかかわらず労働分配率の低下傾向は日本が最も大きい(図表4)。それだけ、不透明な環境の中で投資や雇用拡大などに慎重な日本企業の姿勢が見えるが、このままでは日本経済の需要不足はなかなか解消せず、個人所得が増えないままデフレ脱却となれば消費にも悪影響がでかねない。しかし、デフレ脱却とともに賃金のベースアップが復活すれば、企業業績の向上が賃金雇用につながる好循環も期待できる。

図表4 主要国の労働分配率の推移
図表4 主要国の労働分配率の推移
(出所)OECD

2013年の世界経済は回復に向かうと見込まれ、日本がこのチャンスを活かさない手はない。くわえて、六重苦の軽減に弾みがつけば、日本の企業だけではなく経済や賃金雇用にも大きな恩恵がもたらされる。可能性は十分あり、2013年は日本がまずは産業競争力強化の先陣を切れるかが問われる年となろう。そして、先陣を切ることが出来れば、財政健全化など他の大きな課題への対応余地が一気に広がることにもなる。

2013年1月7日

2013年1月7日掲載