中国経済新論:実事求是

緩やかに回復に向かう2013年の中国経済

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国経済は、2012年第3四半期に底を打ち、緩やかに回復に向かっている。しかし、労働力の供給に制約されて、潜在成長率が大幅に落ち込んでいると見られ、これを反映して、景気が回復しても、従来のように10%という高成長に戻ることは難しいだろう。

景気の循環的変動

2012年第3四半期の実質GDP成長率は前年比7.4%とリーマン・ショックを受けた2009年第1四半期(同6.6%)以来の低水準となった。成長の鈍化を受けて、インフレ率も2011年第3四半期の6.3%をピークに低下してきており、2012年第3四半期には1.9%となった。

一般論としてインフレ率は経済成長率の遅行指標であり、中国の場合、インフレ率は3四半期前の成長率と最も連動性が高いことが確認されている。これを考慮すれば、景気は、成長率とインフレ率がそれぞれの基準値と比べて高いか低いかによって、①「低成長・低インフレ」の「後退期」、②「高成長・低インフレ」の「回復期」、③「高成長・高インフレ」の「過熱期」、④「低成長・高インフレ」の「スタグフレーション期」という四つの局面に分けることができる(図1)。

図1 リーマン・ショック以降の中国における景気の諸局面
-GDP成長率とインフレ率の推移-

図1 リーマン・ショック以降の中国における景気の諸局面
(注)①は低成長・低インフレ、②は高成長・低インフレ、③は高成長・高インフレ、④は低成長・高インフレ
(出所)CEICデータベースより作成

リーマン・ショック以降(2008年第4四半期~2012年第3四半期)における成長率の平均値(9.1%)とインフレ率の平均値(2.7%)をそれぞれの基準値とすると、中国経済は、①「後退期」(2008年第4四半期~2009年第2四半期)、②「回復期」(2009年第3四半期~2010年第1四半期)、③「過熱期」(2010年第2四半期~2011年第2四半期)、④「スタグフレーション期」(2011年第3四半期~2012年第2四半期)を経て、2012年第3四半期になって、再び①「後退期」に戻ってきた。

このような景気循環は、横軸を成長率、縦軸をインフレ率とする座標平面において、成長率が先行し、インフレ率がついてくることを反映して、反時計回りの円を描いており、この円は、リーマン・ショック以降、ちょうど一周回ったことになる(図2)。

図2 リーマン・ショック以降の中国のGDP成長率とインフレ率の循環的変動
図2 リーマン・ショック以降の中国のGDP成長率とインフレ率の循環的変動
(注)①は低成長・低インフレ、②は高成長・低インフレ、③は高成長・高インフレ、④は低成長・高インフレ。景気は反時計回りで①→②→③→④→①という順で循環する。
(出所)CEICデータベースより作成

成長率の低下とインフレの沈静化を受けて、当局は、2012年の年央以降、経済政策のスタンスを物価安定重視から成長重視へと転換した。それに合わせて、2011年12月から2012年5月にかけての三回にわたる預金準備率の引き下げに続いて、6月と7月に二回にわたって利下げを実施した。それと同時に、インフラや大型投資プロジェクトの着工認可を加速させた。

これらの政策が功を奏し、景気は8月を底に上向き始めた。これを反映して、8月から11月にかけて、工業生産の伸び(前年比、付加価値ベース、一定の規模以上の企業を対象)は8.9%から10.1%に上昇しており、製造業購買担当者指数(PMI)も49.2から50.6に改善している(表1)。これを背景に、同じ時期において、一日当たりの電力消費量の前年比の伸び率は、2.7%から7.9%へ、また、一日当たりの鋼材生産量の前年比の伸び率も、1.4%から16.5%に回復している。

表1 中国の主要マクロ経済指標の推移
表1 中国の主要マクロ経済指標の推移
(注)工業生産は付加価値ベース、一定の規模以上の企業を対象。
(出所)中国国家統計局、CEICデータベースより作成

需要項目別で見ると、まず、社会消費財小売総額の伸びは、8月の前年比13.2%から11月には14.9%に上昇している。固定資産投資の伸びは、1-8月の累計の前年比20.2%から1-11月の累計では同20.7%に上昇している。中でも、政府の需要抑制策を受けて、一時調整に入った不動産市場は、金融緩和を受けて、活気を取り戻しつつある。住宅販売にけん引され、全国不動産販売金額の伸びは、2012年の1-8月の累計の前年比2.2%から1-11月の累計では9.1%に上昇している。70大中都市の新築分譲住宅(低所得者向けの保障性住宅を除く)の価格は2011年10月から8ヵ月連続して低下した後、2012年6月から上昇に転じている。

外需の面では、輸出の伸び鈍化にようやく歯止めがかかった。2012年第3四半期の前年比4.5%を底に、10-11月には6.9%にまで持ち直している(図3)。日米欧への輸出が低迷を続けているが、対ASEANは加速しており、輸出全体の伸びを押し上げている。

図3 中国における地域別輸出の推移
図3 中国における地域別輸出の推移
(注)米ドルベース、2012年第4四半期は10月11月のみ。
(出所)CEICデータベースより作成

これらの数字をベースに予測すると、成長率は第3四半期に底を打った後、上向きはじめ、第4四半期には8%に達するだろう。世界経済が緩やかに回復に向かっていることも加わり、この勢いに乗って、2013年にも8%台の成長は実現されよう。成長率の遅行指標に当たるインフレ率が本格的に上昇に転じるのは、2013年年央以降であろう。それまで預金準備率の更なる引き下げが実施されるなど、金融緩和の基調が維持されると予想される。

しかし、労働力不足に制約され、中国の潜在成長率は大幅に低下していると思われる。こうした中で、景気が上向いても、当面、成長率が基準値の9.1%には届かず、上述の景気循環の各段階の分類に沿って言えば、中国経済は「低成長・低インフレ」の「後退期」にとどまるだろう。

2013年の経済政策の方針

2012年12月15-16日に開かれた中央経済工作会議において、来年の経済政策の方針が決定された。

まず、マクロ経済政策の目標は、前年の「安定的で比較的速い成長」から「持続的で健全な成長」に改められている。それに向けて、穏健な金融政策と積極的な財政政策を維持する。また、「経済発展パターンの転換」という方針に沿って、需要の面では、外需よりも内需、内需の中では特に消費拡大を目指す。その一方で、投資に関しては、民間投資を促進しながら、無駄を省くことを前提に公共投資を拡大する。さらに、2010年以来実施されてきた不動産価格の抑制政策を緩めず、財政と金融面のリスクを警戒する。

マクロ経済の安定のほかに、経済政策の優先課題として、農業の基礎の強化、産業構造の調整と高度化、都市化の推進、国民の生活水準の向上、体制改革と対外開放の推進が挙げられている。

その中で、都市化は、今年の会議で初めて優先課題として取り上げられるようになった。その狙いは、出稼ぎ農民を都市部に定住させることを通じて、新たな消費と投資の需要を掘り起こすことである。

また、体制改革と対外開放の推進では、民間による試行錯誤を尊重しながら、具体的ロードマップとタイムテーブルを含む上層部によるグランド・デザインを作成する必要性も強調されている。新しい改革案の全貌は、2013年の秋に開催される予定の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)において明らかになるだろう。

2012年12月27日掲載

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