中国経済新論:実事求是

BRICsの主役としての中国
― 世界と日本経済を牽引 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

近年、人口が多く、高成長を続けている中国、インド、ブラジル、ロシアからなるBRICs諸国を中心とする新興国は、先進国に取って代わる世界経済の成長エンジンとして注目されている。日本企業にとっても、これらの国々の活力をどう活かすかは、重要な課題となっている。BRICsの中でも、中国は経済規模がひときわ大きく、成長率も高い。これを反映して、日本と中国との経済関係は他の三ヵ国より遙かに緊密である。

高まる世界経済における存在感

BRICs諸国は、高成長を背景に世界経済における存在感が増しており、その主役となっているのは中国である。2000年から2009年の10年間で、世界GDPに占めるBRICsのシェアは、名目為替換算(ドルベース)では8.0%から15.4%へ、購買力平価(PPP)ベースでは16.4%から23.5%へと拡大している(表1)。これは、主に中国のシェアが、名目為替換算で見ても、PPPベースで見ても大幅に拡大していることを反映している。2009年に中国のGDP規模は4.91兆ドルに達し、日本のレベル(5.07兆ドル)に迫っているが、その一方で、残りの三ヵ国のGDPは合計しても4.04兆ドルと、中国の規模には及ばない。

表1 BRICs諸国の経済規模(2000年と2009年の比較)
表1 BRICs諸国の経済規模
(出所)IMF、World Economic Outlook Database, April 2010より作成

世界GDPに占めるBRICsのシェア拡大は、これらの国の経済成長率が先進国をはじめとする他の国と比べて高いことを反映している(図1)。これまでの10年間(2000年~2009年)、中国の成長率は年平均10.0%に達しており、インド(6.9%)、ブラジル(3.3%)、ロシア(5.4%)を上回っている。特に、世界的金融危機が勃発した2009年において、中国は9.1%の高成長を遂げ、他のBRICs諸国と比べて好調さが一層目立った。

図1 世界を上回るBRICs諸国の経済成長率
図1 世界を上回るBRICs諸国の経済成長率
(出所)2000年から2007年はIMF, World Economic Outlook Database, April 2010, 2008年から2010年はIMF, World Economic Outlook Update, July 2010より作成

今年に入ってから、BRICs諸国の経済成長はいずれも加速しているが、その中で中国は引き続きトップの成長率を維持している。IMFによると、2010年の各国の成長率は、中国が10.5%、インドが9.4%、ブラジルが7.1%、ロシアが4.3%と予想される。それぞれの成長率と世界GDPに占めるシェア(PPPベース)に比例して、BRICs諸国の2010年の世界経済成長率への寄与度は、中国が1.3%、インドが0.5%、ブラジルが0.2%、ロシアが0.1%と、合わせて世界全体(4.6%)の約半分に当たる2.1%に達する見込みである(図2)。このように、世界経済の回復はまさにBRICs、中でも中国に牽引されていると言える。

図2 高まるBRICs諸国の世界経済成長への寄与度
図2 高まるBRICs諸国の世界経済成長への寄与度
(出所)2000年から2007年はIMF, World Economic Outlook Database, April 2010, 2008年から2010年はIMF, World Economic Outlook Update, July 2010より作成

BRICs諸国はGDP規模だけでなく、貿易規模も急拡大している(表2)。2000年から2009年にかけて、世界輸出と輸入に占めるBRICsのシェアはそれぞれ7.1%から14.6%へ、5.7%から12.5%へと拡大している。中でも、中国はすでに世界1位の輸出国と第2位の輸入国となっている。

表2 BRICs諸国の貿易規模の比較
表2 BRICs諸国の貿易規模の比較
(出所)WTOより作成

日本の景気回復に寄与

BRICs諸国の躍進を背景に、日本とこれらの国々との経済関係も、貿易と直接投資を中心に深まってきているが、その中心はやはり中国である。

まず、貿易の面では、2000年から2009年にかけて、日本の輸出入に占めるBRICsのシェアは輸出が7.5%から21.3%へ、輸入が17.2%から25.6%へと拡大している(表3)。その中でも、対中貿易の伸びが目覚しく、2009年には、対中輸出のシェアは18.9%、対中輸入のシェアは22.2%に達している。日本にとって、中国はすでに最大の輸出先と輸入先となっている。これに対して、他のBRICs三カ国の日本の輸出と輸入に占めるシェアは拡大しているとはいえ、その規模はまだ小さい。

一方、BRICs諸国への投資の拡大を反映して、日本企業のこれらの国における生産規模も大きくなってきている。経済産業省がまとめた「第39回海外事業活動基本調査結果概要確報―平成20(2008)年度実績―」(2010年4月公表)によると、2008年度の日本企業のBRICsにおける売り上げ(非製造業を含む)は海外法人の売り上げ全体の16.1%を占めており、中でも中国のシェアは11.4%に達している。日本企業が中国以外のBRICs諸国で行う生産も増えているが、現段階ではそれぞれのシェアはまだそれほど大きくない。

表3 拡大する日本の対BRICs諸国貿易
表3 拡大する日本の対BRICs諸国貿易
(出所)JETRO「貿易・投資・国際収支統計 ドル建て貿易概況」(原資料は財務省「貿易統計」)より作成

このように、日本経済の回復を牽引するとされる「新興国効果」の大半は、「中国効果」だと理解すべきである。それにもかかわらず、一部の日本企業は、リスク分散という観点から対外直接投資を中国から他の新興国にシフトしようとしている。これを反映し、2008年以降の日本のインド、ブラジル、ロシアの三ヵ国への直接投資(フロー)の合計金額は対中を上回るようになった(図3)。しかし、これからも中国市場が他の新興国を上回るペースで拡大し続けると見込まれることから、「中国離れ」に伴う機会費用は極めて高い。

図3 日本の対BRICs諸国の直接投資の推移
図3 日本の対BRICs諸国の直接投資の推移
(出所)JETRO「貿易・投資・国際収支統計 直接投資統計」(原資料は財務省「国際収支概況」)より作成

2010年8月27日掲載

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