中国経済新論:実事求是

景気回復の2年目に入る2010年の中国経済
― 資産バブル化とインフレの懸念も ―

関志雄
経済産業研究所

力強い景気回復

リーマン・ショックの後、中国経済は一時減速を余儀なくされたが、政府が採った拡張的財政・金融政策が功を奏する形で、先進国に先駆けて回復に向かっている。GDP成長率は第1四半期の前年比6.1%を底に、第2四半期には7.9%、第3四半期には8.9%に上昇しており、すでに発表された10月と11月の工業生産(前年比16.1%と19.2%)をはじめとするマクロデータから判断して、第4四半期にはさらに12%前後に加速し、通年では政府が目標としている8%を超えて8.8%に達すると予想される。

景気の力強い回復の背景には、堅調な内需に加え、輸出が持ち直していることもある(図1)。

図1 中国における主要マクロ経済指標の推移
図1 中国における主要マクロ経済指標の推移
(注)2009年Q4は10~11月のデータ、社会消費品小売売上はCPIによって実質化。
(出所)中国国家統計局より作成

まず、内需では、1-11月期の社会消費財小売総額(名目ベース)は前年比15.3%(実質ベースでは16.4%)増で、中でも自動車販売(前年比29.5%)が好調で、消費全体を牽引している。所得と資産価格の上昇や雇用の改善は今後も消費を支えていくだろう。また、2008年11月に発表された4兆元に上る公共投資を中心とする景気対策の実施を受けて、1-11月期の都市部の固定資産投資(名目)の伸びは前年比32.1%と高くなっている。そのうち、鉄道が前年比80.7%と、最も高い伸びを示している。景気回復とともに、投資の担い手は政府部門から民間部門に移っていくと予想される。

外需では、輸出の落ち込み幅が急速に縮小しており、11月には-1.2%にとどまった。その一方で、11月の輸入の伸びは、前年の低水準からの反動もあって、前年比26.7%と2008年10月以来、初めてプラスに転じた。中国では、貿易全体に占める加工貿易のウェイトが高く、輸出を増やすためにはまず部品や原材料などの中間財を海外から輸入しなければならないため、輸入の動向は輸出の先行指標となる。11月の輸入のデータは今後の輸出が力強く回復することを示唆している。人民元がドルとともに主要通貨に対して下落している上、世界経済もようやく上向きはじめていることから、輸出の伸びは12月にもプラスに転じるであろう。

警戒すべき資産バブルの膨張とインフレの高騰

景気回復と金融緩和を背景に、資産価格が急上昇しており、インフレ圧力も現れ始めている。

まず、2008年11月の初めに1700ポイント近辺まで急落した上海株価総合指数はその後急伸し、2009年の11月以降3000ポイントを超える水準で推移している。一時、調整局面に入った不動産市況も持ち直している。70大中都市住宅価格は、2008年8月から7ヵ月連続して前月の水準を割ったが、2009年3月以降、上昇傾向に転じ、前年比で見ても3月の-1.3%を底に、11月には5.7%に加速している。現段階では、資産価格が均衡水準を大きく上回っているとは思わないが、今後、一段と上昇し、バブルが発生するリスクは否定できない。

その上、2009年2月以来マイナスとなっていたインフレ率(CPI、前年比)は11月には0.6%とプラスに転じた。インフレ率は、経済成長率より約3四半期遅れて動くことを鑑みれば、最近の景気の急回復を受けて、今後さらに上昇するだろう。

マクロ経済政策の重点は成長維持から過熱抑制へ

安定成長を持続させるために、これまで採られてきた拡張的財政・金融政策が見直しを迫られている。こうした認識に立って、指導部は、2010年の経済政策の基本方針を決めた中央経済工作会議(12月5~7日に開催)において、引き続き「積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を実施する」としながらも、「インフレ期待を着実に管理(抑制)し」、「内外経済情勢の変化を密接にモニターし、貸出の伸びをしっかりとコントロールしなければならない」と謳っている(BOX)

実際、2009年の夏以降、一部の融資への制限が復活した。これを受けて、貸出の前月比の増加分が縮小してきており、金融緩和策の「出口戦略」への模索がすでに始まっている。もっとも、前年比で見て、貸出の伸びは、ピーク時の6月の34.4%より若干鈍化しているものの、11月には依然として33.8%という高い伸びを見せている。本格的金融引き締め策がいつ採られるかが注目されているが、これまでの経験から判断して、消費者物価(CPI)で見たインフレ率が4%を超えることは、一つの目安となる。その時期は2010年の後半になるだろう(図2)。

図2 中国におけるGDP成長率とインフレ率の推移
図2 中国におけるGDP成長率とインフレ率の推移
(出所)中国国家統計局より作成

経済成長とインフレがともに加速する2010年

このように、中国経済は先進国とは対照的に、景気の失速(いわゆる「二番底」)よりも過熱が懸念される。2010年には、投資と消費が引き続き好調であることに加え、輸出も回復が見込まれることから、成長率は2009年をさらに上回る9.5%程度に加速する一方で、インフレ率も年平均3%程度に上昇するだろう。インフレを抑えるために、金融引き締め政策が2010年後半に採られると予想されるが、これを受けた成長の減速は2011年に持ち越されるだろう。

BOX 中央経済工作会議で決められた2010年の経済政策の基本方針

中央経済工作会議で決められた2010年の経済活動の主要任務は次の通りである。

①マクロコントロールのレベルを高め、経済の平穏で比較的速い発展を維持する。
②経済構造調整を強化し、経済成長の質と効率を高める。
③「三農」(農業・農村・農民)の発展基盤を固め、内需拡大の余地を広げる。
④経済体制改革を深め、経済成長の動力と活力を強化する。
⑤輸出の安定成長を促しながら、国際収支均衡を促進する。
⑥民生の改善に力を入れ、社会の安定を全力で維持する。

その中で、直接マクロ経済政策にかかわる①について、「経済の平穏で比較的速い発展の維持、経済構造調整、インフレ期待の管理(抑制)の関係を着実に処理し」、「積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を引き続き実施し、政策実施の程度・テンポ・重点をしっかりコントロールしなければならない。」と強調している。

2009年12月25日掲載

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2009年12月25日掲載