中国経済新論:実事求是

自動車大国に向かう中国
― 国際競争力の向上が課題 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国の自動車産業を巡って、WTO加盟前の悲観論とは裏腹に、需要が順調な伸びを示し、また、日本を始めとする外国企業の積極的参入により、供給能力も急拡大している。これを背景に、中国は一気に自動車生産大国として浮上してきた。しかし、今のところ、中国企業にとってはもちろんのこと、外資企業にとっても、中国での生産がコストと品質の両面において、国際競争力を持つまでには至っていない。今後、各社は、輸入関税の引き下げに伴う輸入車との競争に備えて、また、将来中国から輸出することを目指して、経営の改善を図らなければならない。

中国の自動車産業の快進撃は留まるところを知らない。WTO加盟初年である2002年の自動車生産量は325万台(うち、乗用車は109万台)と、前年と比べて4割近く上昇した。今年に入ってからも、勢いは衰えることなく、年間生産量が400万台を超えることは確実である。その結果、中国の自動車生産量は、2001年の世界第8位から、2003年にはフランスを抜いて、米国、日本、ドイツに次ぐ世界第4位に躍進すると見込まれ、中国が米国を抜いて世界一の自動車生産大国になる日も視野に入りつつある。

しかし、中国の自動車産業の実力を評価するときに、その発展を支えているのは、世界トップ・メーカーの現地進出であることを忘れてはならない。実際、中国における自動車生産、中でも乗用車の生産の大半は、外資企業と中国企業との合弁によるものである(表)。中国の自動車メーカーの実力は、世界との距離が大きく、外国企業との合弁の際、研究開発から主要部品まで、全面的に相手企業に依存せざるを得ない。外資企業に対して、技術使用料や、利潤、中間財の輸入コストなどを払わなければならないため、自動車産業において、中国の国民総生産(GNP)に計上される付加価値の規模は、売上の規模を大幅に下回ることになる。

外国の自動車企業にとって、中国へ進出する最大の狙いは、生産コストの削減よりも、現地の市場に参入することである。本来、中国市場へのアクセスは、自動車を自国を含む海外で生産し中国に輸出することも考えられるが、輸入関税などの貿易障壁を乗り越えるために、現地生産に踏み切らざるを得ないのである。現段階では、自動車に課せられる輸入関税が下がっているとはいえ、依然として40%程度(乗用車の場合)という高水準になっている。このように、中国の国内市場が関税によって国際市場から分断され、競争が制限されている状況では、現地生産を行っている外資の自動車メーカーが軒並み高い利潤を上げている。

中でも、ホンダの合弁会社である広州ホンダの業績が好調である。同社は中国で現地生産・販売されている新型アコードを、日本の国内価格より6割ほど高い390万円で販売しており、昨年の売上の137億元(1元は約15円)に対して、税引前の利益が約50億元、利益率にして36%にも達していると推定される(広州本田による発表、2002年12月19日)。しかし、これまで、儲けることができたからといって、これからも儲かるという保証にはならない。なぜなら、WTO加盟に際して中国が自動車に対する関税を2006年まで25%まで引き下げると約束しており、今後、「国産車」対「輸入車」という競争が激しくなるためである。その上、各社が増産計画を精力的に進めている中で、生産過剰の状況が生じかねず、価格の下落圧力はさらに高まるであろう。

中国での現地販売に加え、ホンダをはじめ、外国の自動車会社が、中国を輸出のための生産基地として活用しようとする計画を立て始めている。税制面の優遇や、外資の50%以上の出資比率を認めるという好条件に加え、生産規模の拡大と生産性の上昇により、生産コストが大幅に低下しはじめているからである。しかし、中国での現地販売は中国の輸入関税に守られるが、中国から輸出する場合、逆に、相手国の輸入関税にぶつかることになる。その上、中国産の自動車の国際競争力は、中国の賃金水準と人民元の為替レートに依存している。生産と輸出の計画を策定する際、中国の労働生産性が上昇するにつれて、賃金と為替レートがともに上昇するという可能性を十分考慮しなければならない。

中国は「国内の市場を海外の技術と交換する」という産業政策を採ってきたが、自動車産業の場合はその典型であった。しかし、結果から判断して、中国の市場は完全に外資企業に占領されてしまったが、いまだ技術を獲得できていない。しかも、外資企業への依存体質は、WTOに加盟してから一層顕著になってきた。今後、外資企業に対して、独資が認められるようになれば、中国企業の存在意義はさらに薄くなる。たしかに、中国に進出する外資企業にとっても、今後の展開は必ずしも順風満帆とは限らないが、中国企業にとっては、さらに厳しい状況が待ち構えている。中国が世界一の自動車生産国になる前に、中国の自動車メーカーがもはや全部淘汰されてしまうかもしれない。

表 メーカー別乗用車販売台数(2002年)
表 メーカー別乗用車販売台数
(注1)奇瑞と吉利以外はすべて外資との合弁企業である
(出所)各種報道より作成

2003年6月20日掲載

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