中国経済新論:中国の経済改革

最終段階を迎える金利の自由化
― 預金保険制度の設立も視野に ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国は、2014年11月に利下げとともに預金金利の上限規制の緩和を実施した。その狙いは、低迷している景気を刺激すると同時に、金利の自由化を推し進めることである。金利の自由化の進展により、銀行間の競争が激化し、体力の弱い銀行が倒産に追い込まれることに備えて、預金保険制度を整備することが急務となっている。その一環として、当局は同11月に「預金保険条例(意見徴求稿)」を発表した。金利の自由化と預金保険制度の整備は、銀行の効率と金融システム安定性の向上だけでなく、中小銀行、中でも民営銀行の発展にも寄与すると期待される。

利下げと金利自由化措置の同時実施

中国人民銀行(中央銀行)は2014年11月21日に、2年4ヶ月ぶりに利下げを実施する(翌22日実施)と発表した。ベンチマークとなる一年物定期預金金利の基準レートは25ベーシスポイント引き下げられて2.75%に、一年物貸出金利の基準レートは40ベーシスポイント引き下げられて5.60%になった。それに合わせて、預金金利の上限規制が緩和され、従来の基準レートの1.1倍以内から、1.2倍まで拡大された。これを受けて、利下げが実施されてからも、銀行は一年物定期預金金利の水準をこれまでの上限である3.3%(2.75%×1.2=3.3%)に維持することができる。実際、一部の中小型銀行は従来の3.3%に据え置いている(図1)。

図1 2012年6月以降に実施された「金利の自由化」措置
―基準貸出・預金金利の水準と変動幅―

図1 2012年6月以降に実施された「金利の自由化」措置
[ 図を拡大 ]
(注)2004年10月29日から貸出金利は上限規制が撤廃され、預金金利も基準を下回る金利の設定が認められるようになった。
(出所)中国人民銀行と各大型銀行の発表より作成

今回の措置は、金融緩和に加え、金利の自由化を推し進めるという当局の意図も含まれている。

まず、今回の利下げは、景気が減速し、2014年の政府の成長目標である7.5%が達成困難になったことを背景に行われたものである。第3四半期のGDP成長率は7.3%と、リーマン・ショックを受けた2009年第1四半期以来の低水準となった。特に不動産市場が調整局面に入っていることを反映して、不動産開発投資が伸び悩んでいる。利下げの狙いは、金融緩和を通じて、投資を刺激することである。

また、中国は、金利の自由化を進めており、貸出金利については、2013年7月に下限規制が撤廃されたことで、もはや上限と下限の規制も存在せず、銀行は借手のリスクに合わせて金利を自由に決めることができるようになった。一方、預金金利については、下限規制が2004年10月に撤廃され、上限も2012年6月に基準金利の1.1倍に続き、今回さらに同1.2倍に引き上げられたのである。

金利自由化の前提となる預金保険制度の整備

金利の自由化は、資金の利用効率の改善、資金の銀行部門への還流、銀行の商品・サービスの多様化、金融政策の有効性の向上につながるなど、メリットが多い一方で、銀行の収益の悪化、金利変動リスクと信用リスクの上昇、預金量の変動などを通じて、金融システム全体を不安定化させる恐れがある。特に、金利の自由化をきっかけに、銀行間の競争が激しくなり、一部の銀行が退場を余儀なくされることもありうる。その際、預金者の利益を保護し、個別銀行の破綻が取り付け騒ぎを通じてシステミック・リスクになることを防ぐために、預金保険制度の整備が欠かせない。

中国も預金保険制度の整備を急ぐべきだと、国務院発展研究センター・マクロ研究部の魏加寧・副部長が次のように訴えている(魏加寧編著「預金保険制度を設立し、金融セーフティ・ネットを改善する」『CF40課題報告』、中国金融四十人論壇、2013年9月)。

預金保険制度は明示的と暗黙的、また全額保証と一部保証に分類される。暗黙的全額預金保険制度とは、明文化された規定がないものの、銀行が破綻した場合、政府は財政資金をもって、事実上、全額保護を行うことを指す。一方、明示的預金保険制度とは、事前に明示された規定に基づき、銀行が破綻した場合、預金者に対して限度内の預金と同額の保険金が支払われる。

中国は、これまで暗黙的全額預金保険制度を実施してきたとされてきたが、多くの問題が存在している。まず、預金保険に関する明確な法的根拠がなく、銀行が破綻した場合に預金者が自分の預金が全額保護されるかどうかに確信を持てないため、取り付け騒ぎが起きる恐れがある。また、銀行が破綻すれば、政府が救済の手を差し伸べると期待されるため、銀行には深刻なモラルハザードが存在している。さらに、預金の全額が保証される場合、銀行の破綻処理にかかるコストが巨額に上り、これは最終的に納税者が負担することになり、社会的不公平につながる。

1990年代初期にはすでに、中国では預金保険制度を構築する構想があったが、大型国有銀行からの反対に遭い、いまだ実現できていない。大型国有銀行にとって、新たに明示的預金保険制度を整備するよりも、むしろ国家の信用をバックに保険料を支払う必要性のない既存の暗黙的全額預金保険制度が望ましい。しかし、国有銀行の株式化改革の完了と上場に従って、少なくとも理論上、国家は国有銀行に対し、無限責任を負わなくなっている。特に、2008年9月のリーマン・ショックに端を発した世界的金融危機の勃発をきっかけに、「銀行は絶対破綻しない」という信念が揺らぎ始めた。その上、金利の自由化に伴う銀行破綻に備えるためにも、明示的な預金保険制度を導入する緊急性が増しているという。

明示的預金保険制度の導入に向けた大きい一歩として、2014年11月30日に、中国人民銀行と国務院法制弁公室が共同で、「預金保険条例(意見徴求稿)」を発表した。

それによると、商業銀行(外資独資銀行と中外合資銀行を含む)、農村合作銀行、農村信用合作社等を含む、預金を吸収する金融機関は全て預金保険に加入しなければならない。保険の対象となる預金には、人民元預金・外貨預金が含まれるが、外国銀行の中国における支店及び中国資本銀行の海外支店の預金は、原則として預金保険の対象とはならない。

また、保護される預金の限度額は50万元(日本円で約950万円)である。同一の預金者は、同一の銀行にある預金勘定の元本・利息を合わせた50万元以内は、全額保護されることになる。50万元を超える部分は、当該銀行の清算による配当に応じて支払われることになる。50万元という保護される預金の限度額については、中国人民銀行が2013年末の預金情況に基づき試算したところ、99.63%の預金者の全預金がカバーできる。このように、検討中の預金保険制度は、部分保証にとどまっているが、預金者の大半がその保護の対象となっている。

民営銀行の発展を促す金利の自由化と預金保険制度の整備

金利の自由化と預金保険制度の整備は、銀行の効率と金融システム安定性の向上だけでなく、中小銀行、中でも民営銀行の発展にも寄与すると期待される。預金金利が銀行の規模と関係なく、一律に同じ水準に規制される場合、中小銀行は大手銀行より高めに金利水準を設定することを通じて預金を吸収することができない。預金者も、同じ金利水準であれば、利便性と安全性を考えれば、中小銀行よりも大手銀行を選ぶだろう。しかし、金利の自由化が進めば、中小銀行は、金利設定の裁量権を活かし、競争力を高めることができる。また、預金保険制度も中小銀行の信用力を高める事を通じて、競争力を強化することができる。

2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議において、「条件を満たした民間資本が法に基づいて中小型銀行などの金融機関を設立することを認める」(「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」)という方針が打ち出されている。最近の金利の自由化と預金保険制度の整備に向けた動きは、民営銀行の市場参入に良い条件を与えていると言えよう。

2014年12月19日掲載

関連記事

2014年12月19日掲載