中国経済新論:中国の経済改革

ポスト三中全会の財政・税制改革
― 課題となる地方政府の財源確保 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、1994年に実施した「分税制改革」によって確立された現行の財政制度は、経済の安定成長に寄与してきた。しかし、内外の経済情勢の変化を背景に、資源配分と所得分配の改善という機能をもはや十分に発揮できなくなっており、財政収支赤字の拡大と政府債務の増大も加わり、改革を迫られている。

これに対して、習近平政権は、2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(以下「決定」)において、財政・税制改革の方針を示した(付録参照)。その後、それを具体化した「財政・税制体制改革深化総体方案」が中央政治局会議で審議・通過(2014年6月30日)され、また、改正された「中華人民共和国予算法」が公布された(2014年8月31日)。続いて、「国務院の地方政府性債務の管理強化に関する意見」(2014年9月21日)、「国務院の予算管理制度改革の深化に関する決定」(2014年9月26日)も相次いで発表された。

三中全会の「決定」では、「予算管理制度の改善」、「租税制度の整備」、「権限と支出責任が対応した制度の構築」が財政・税制改革の優先課題として挙げられている。それに加えて、ここでは、「予算管理制度の改善」の項目として提示された「財政移転制度の改善」、「地方政府性債務管理の規範化とリスクの予防と解消」についても、詳しく解説する。

予算管理制度の改善

楼継偉・財政部部長が指摘しているように、全面的に規範化された、公開され透明な現代的予算制度を構築していくことは、予算制約を強化し、政府行為を規範化し、監督機能を効率化し、制度によって権力を制約することに向けた重要な改革でもある。その主な内容は次の通りである(楼継偉、「財政・税制体制改革を深化させ、現代的財政制度を構築する」、『求是』、2014年第20号)。

まず、予算の透明性を高める。機密に関わるものを除き、すべての部門に予算と決算の公開を義務付ける。特に、財政資金で手当てされた「三公」(公費海外出張、公用車購入・維持、公費接待)経費はすべて公開しなければならない。さらに、政府の予算と決算の公開内容を細分化し、部門の予算と決算の公開範囲と内容を拡大する。

第二に、政府予算制度を整備する。重点支出項目と年度財政収支の伸びやGDPを原則として連動させないようにする。これは、必要に応じて支出構造を変える裁量の自由度を高めるためである。また、政府収支のすべての項目を予算内に組み入れ、全体の予算を構成する「公共財政予算」、「政府性基金予算」、「国有資本経営予算」、「社会保障基金予算」の収支範囲と機能の位置付けを明確化し、互いの整合性を強化する。ここでいう「公共財政予算」とは、財源として税収が中心で、日本の一般会計に相当する。「政府性基金予算」は、財源として国有地使用権譲渡金(土地譲渡金収入)など、税収以外の収入が中心で、日本の特別会計に相当する。一般的に特定の財源を特定の支出に充てる。「国有資本経営予算」は、国有企業の利潤の上納などによる国有資本経営の財政収入とそれを財源とする支出の配分に関する予算で、「社会保障基金予算」は、社会保障の収入と支出の配分に関する予算である。2013年の各予算規模は、表1の通りである。

表1:全国予算収支の規模(2013年実績)
(単位:億元)
収入支出
公共財政予算129,143139,744
政府性基金予算52,23950,116
国有資本経営予算1,6511,514
社会保障基金予算34,51628,617
(注)中央政府と地方政府の合計。「公共財政予算」の収入には税収(110,531億元)、「政府性基金予算」の収入には国有地使用権譲渡による収入(41,250億元)が含まれている。
(出所)財政部「2013年度中央・地方予算の執行状況と2014年度の中央・地方予算に関する報告」(2014年3月5日第12期全人代第2回会議)より作成

第三に、年度予算管理方式を改善する。予算審査の重点を、現在の収支バランスと赤字規模から支出予算と政策誘導へ広げる。年度を越えた予算の均衡メカニズムを確立し、中期財政計画管理を実施し、毎年更新される中期(三年)財政計画の年度予算に対する制約を強化する。

最後に、予算の執行管理を強化する。予算外の支出は一切認めず、予算の拘束力を強め、国庫の集中収支制度を徹底させ、国庫の現金管理を強化する。

租税制度の整備

現在の税制は、新たな発展段階に入った中国経済には、もはや適さなくなっている。特に、生産能力過剰問題の解決、所得分配の調節、資源節約と環境保護の促進の機能が弱く、多くの税制優遇政策が規範化されないまま実施されている。これらは、公平な競争と統一した市場環境の整備にとってマイナスになる。例えば、税収は増値税や消費税、営業税といった流通段階で課せられる間接税が中心になっており、所得や資産を対象とする直接税のウェイトは低い(表2)(注1)。前者は逆進性、後者は累進性が強いため、直間比率の低い現在の税制は、所得再分配の機能を果たしていない。新しい税制の構築に向けて、政府は、次の分野を中心に税制改革を進めようとしている(楼継偉「現代的財政制度を確立せよ」、『人民日報』、2013年12月16日付)。

表2:全国の税目別税収とその構成(2013年実績)
税収(億元)シェア(%)
国内増値税28,81026.1
国内消費税8,2317.4
輸入貨物増値税・消費税14,00512.7
輸出貨物増値税・消費税の還付-10,519-9.5
営業税17,23315.6
企業所得税22,42720.3
個人所得税6,5325.9
資源税1,0060.9
都市維持建設税3,4203.1
房産税1,5821.4
印紙税1,2441.1
都市土地使用税1,7191.6
土地増値税3,2943.0
車両船舶税4740.4
船舶トン税440.0
車両購入税2,5962.3
関税2,6312.4
耕地占用税1,8081.6
契税3,8443.5
たばこ税1500.1
その他税収10.0
税収計110,531100.0
(出所)財政部「2013年全国財政決算」、2014年7月11日より作成

まず、税収の中立性の原則に則り、営業税から増値税へ切り替える改革を全面的に実行する。産業発展の法則に見合った、規範化された消費型増値税制度を確立し、二重課税の問題を解消する(注2)。市場の役割をよりよく発揮させ、企業の活力を引き出し、産業構造の高度化とビジネスモデルの革新を推し進める。まずは、交通運輸業と一部の現代的サービス業において営業税から増値税へ切り替え、その後、適時にその他のサービス業に改革の範囲を拡大し、「第十二次五ヵ年計画」の「営業税から増値税へ切り替える」という目標を実現する。同時に、税率を適切に簡略化する。

第二に、消費税の調節機能を発揮させる。消費税改革の重点は、経済社会の発展と住民消費水準の変化に合わせて、消費税の徴収範囲を適切に拡大し、一部のエネルギー消費が多く環境汚染のひどい製品と、一部の高級消費財を課税の範囲に組み入れることである。その上で、一部の税目の税率を調整し、消費税の調節機能をいっそう効果的に発揮させる。

第三に、房産税をはじめ、不動産税制の立法を加速し、適時に関連の改革を推し進める。このことは、市場の期待の安定に資するだけでなく、地方政府に持続可能かつ安定的な収入源を提供するのにも役立つ。現在、個人所有の非営利物件については、原則として房産税の徴収が免除されているが、上海と重慶では、一部の物件を対象とする徴収が試行されている。この経験を総括した上で、建設や取引段階の租税と費用負担を適切に軽減し、保有段階の徴税を増やす。

第四に、資源税の改革を加速する。資源税は従量課税方式となっているため、経済発展が進むにつれて、徴税額が低下しがちで、資源節約と環境保護の促進という機能は発揮しにくくなる。それを改めるためには、石炭などの重要な鉱物関連製品の資源税を従量課税から従価課税に改める改革を推し進め、引き続き従量課税方式が適用されるその他の資源関連品目の税率を適切に引き上げる。

第五に、環境保護費の徴収を課税方式へ切り替える。課税による省エネ・廃棄物削減と環境保護の面のプラス効果を発揮させ、資源節約型で、環境にやさしい社会の建設を促進するため、諸外国の政策を参考にし、現行の汚染物質排出料金の徴収から環境保護税に改める。税率の設計に際しては、現行の汚染物質排出料金の徴収基準、実際の環境対策にかかる費用、環境破壊コストと料金徴収の実際の情況などの要因を包括的に考慮する。

第六に、税制優遇政策を整理し規範化する。現在、各種の租税特恵区が林立している。一部の地方政府は、「独自の政策」を打ち出し、税収の還付などを通じて、形を変えた税の減免を行っている。これは、経済構造の最適化と社会の公平の実現にマイナスとなり、公平な競争と統一した市場環境の整備に悪影響を及ぼし、現代的財政制度を確立する趣旨に反する。今後、税収関連の専門法律・法規を除き、その他の法律・法規、発展計画と地域政策を作成する際に、税制優遇政策を盛り込んではならない。国務院の許可がなければ、勝手に企業に対する税制優遇政策を決めることはできない。財政紀律を正し、財政資金の配分と利用への監督と問責を厳格に行い、違法行為を厳しく取り締まる。

権限と支出責任が対応した制度の構築

長年来、中央政府と地方政府の間、各レベル地方政府の間の役割分担が曖昧で、不合理で、規範に合っていなかった。これを改めるためには、各レベルの政府間の収入と、権限と支出責任の区分を見直さなければならない(楼継偉「財政・税制改革を深化する、緊急性の高い三つの任務」、『人民日報』、2014年7月6日付)。

まず、税目の区分について、現在、税収の最大項目である増値税と企業所得税は、いずれも共有税と分類されているが、中央政府に帰属する比率(増値税の場合は75%、企業所得税の場合は60%)が高い。これを反映して、2013年の実績では、中央政府の税収は5兆6,640億元に上っており、地方政府の5兆3,892億元を上回っている(表3)。

表3:各税目による税収の中央政府と地方政府間の配分(2013年実績)
中央政府地方政府地方/全国
金額(億元)シェア(%)金額(億元)シェア(%)(%)
国内増値税共有税20,53436.38,27615.428.7
国内消費税中央税8,23114.500.00.0
輸入貨物増値税・消費税中央税14,00524.700.00.0
輸出貨物増値税・消費税の還付中央税-10,519-18.600.00.0
営業税地方税(注2)780.117,15531.899.5
企業所得税共有税14,44425.57,98314.835.6
個人所得税共有税3,9196.92,6134.840.0
資源税共有税450.19601.895.5
都市維持建設税地方税(注2)1760.33,2446.094.9
房産税地方税00.01,5822.9100.0
印紙税共有税4560.87891.563.4
都市土地使用税地方税00.01,7193.2100.0
土地増値税地方税00.03,2946.1100.0
車両船舶税地方税00.04740.9100.0
船舶トン税中央税440.100.00.0
車両購入税中央税2,5964.600.00.0
関税中央税2,6314.600.00.0
耕地占用税地方税00.01,8083.4100.0
契税地方税00.03,8447.1100.0
たばこ税地方税00.01500.3100.0
その他税収地方00.010.0100.0
税収計56,640100.053,892100.048.8
(注1)全国は中央政府と地方政府の合計。
(注2)営業税と都市維持建設税に関しては、鉄道部、各銀行本店、各保険会社本社などの集中納付分は中央税と区分される。
(出所)財政部「2013年全国財政決算」、2014年7月11日より作成

これに対して政府は、公平性、簡便性、効率性の原則に基づき、中央政府と地方政府間の収入区分を調整する方針である。具体的に、まず、収入の変動が比較的大きく、比較的強い再分配機能を備え、課税ベースの地域的分布が偏っており、課税ベースの地域間の流動性が比較的大きい税目を中央税に区分し、あるいは中央政府の取り分をやや多い共有税とする。また、地方政府の掌握する情報が比較的十分であり、現地の資源配分への影響が比較的大きく、課税ベースが相対的に安定している税目を地方税に区分し、あるいは地方政府の取り分をやや多い共有税とする。さらに、収入区分の調整により生じる地方政府の財源不足は、中央政府が税収返還方式を通じて解決する。

一方、各レベル政府間の権限と支出責任を合理的に区分し、中央政府の権限と支出責任を適切に強化する。具体的に、まず、国防、外交、国家安全、全国統一的な市場ルールと管理に関わる事項は中央政府に集約し、委託事務を減らし、統一管理を通じて全国的公共サービスの水準・効率を高める。また、地域的公共サービスは地方政府の権限とする。さらに、中央政府と地方政府の共同権限を明確化する。その上で、中央政府と地方政府の支出責任をさらに明確化する。最後に、中央は移転支出を計上することによって、一部の権限の支出責任を地方に引き受けさせることができる。

財政移転制度の改善

中央政府と地方政府間の財政関係を調整していくためには、両者の間の収入と支出責任の見直しに加え、財政移転制度の改善が欠かせない。

中央政府から地方政府への財政移転は「一般性移転支出」、「専項移転支出」からなっている。一般性移転支出は、資金の用途が地方政府に委ねられることや、「標準支出」「標準収入」といった算出方式を用いる点で日本の地方交付税交付金と類似している。専項移転支出はインフラ整備や、社会保障、農業、教育といった分野への使途特定の移転である。日本の国庫支出金と同様、資金がプロジェクトごとに配分され、運用についてはそれぞれの管轄官庁の裁量権が大きく、透明性が低い。

財政移転に加え、「税収返還」を通じても、中央政府から地方政府へ財政資金の移転が行われている。税収返還は、主に1994年の分税制の実施と2002年の法人税および所得税の共有化の際に、税が中央政府に移管された地方政府に対して、改革前の税収、さらには一定の増分を保証する仕組みである。これは基本的にもともと税収の多かった地域に税金を返還することで税制改革を円滑に行うために設けられたものであり、近年、その重要性は相対的に低下してきている。

税収返還を含む中央政府から地方政府への財政移転の規模は、2013年に4兆8,038億元に上っている。これは中央政府の公共財政収入の約8割に当たり、地方政府の公共財政支出の約4割を賄っている(図1)。しかし、資金配分の基準が曖昧であるゆえに、期待される地域格差の是正機能を十分発揮していない。これを改めるために、政府は、財政移転制度の改革について次の方針を決めている(「財政・税制体制改革のクライマックス―財政部の責任者が予算改革の深化について語る」、新華社、2014年10月8日)。

まず、一般性移転支出の増加メカニズムの整備を行う。一般性移転支出の規模を徐々に拡大させ、その財政移転に占める割合を60%以上に引き上げる(2013年現在、56.7%、表4参照)。旧革命根拠地、少数民族地域、辺境地域、貧困地域への移転支出を重点的に増やす。中央政府が支出増につながる政策を打ち出したことによる地方政府の財源不足は、原則として一般性移転支出で調節する。

図1 中央政府と地方政府の公共財政収支バランス(2013年実績)
図1 中央政府と地方政府の公共財政収支バランス(2013年実績)
(出所)財政部「2013年度中央・地方予算の執行状況と2014年の中央・地方予算に関する報告」(2014年3月5日第12期全人代第2回会議)より作成
表4:中央政府から地方政府への財政移転の構成
(2013年実績)
金額(億元)シェア(%)
一般性移転支出24,36356.7
専項移転支出18,61043.3
42,973100.0
参考:税収返還5,047-
(出所)財政部「2013年全国財政決算」、2014年7月11日より作成

また、専項移転支出の整理、統合、規範化に注力する。中央政府と地方政府の権限を合理的に定め、政策誘導・救済・緊急対応に関する専項移転支出を厳しく抑制し、地方事業に分類されるものは一般性移転支出に盛り込む。競争分野における専項移転支出に対し、一つずつ選別し、基準を満たしていない項目は断固として廃止する。目標、資金投入の方向、資金管理方式が似ている専項移転支出を統合する。専項移転支出項目の立ち上げを規範化し、新規項目と資金規模を厳しくコントロールし、健全なる専項移転支出の定期審査と廃止のメカニズムを構築する。

さらに、中央政府から地方政府への財政移転に関するルールの改正・整備を加速する。移転支払項目の立ち上げ、資金配分、執行管理、業績評価、情報開示などに対し、ルールを作成する。財政移転支出を農業移動人口の市民化にリンクさせるメカニズムの研究を進める。中央政府と地方政府の支出責任を明確化した上、現行の政策を整理し、中央政府が負担すべき項目は地方政府に関連資金の負担を一切要求してはならない。中央政府と地方政府が共同負担する項目に関しては、両者がそれぞれの負担分に応じて資金を用意する。

最後に、資金の有効利用を目指し、各地方の管轄下に置かれている専項資金の整理・統合・規範化と資金管理のルールの整備が求められる。

地方政府性債務管理の規範化とリスクの予防と解消

近年、財政収入の伸びの低下と支出の下方硬直性との矛盾が激しくなり、財政赤字とリスクは累積している。地方政府が設立する融資プラットフォーム会社の債務の急増に象徴されるように、収支不均衡の問題は、中央政府よりも地方政府のほうが深刻である。審計署によると、2013年6月末における地方政府性債務(「直接債務」と「偶発債務」を合わせたもの)残高は17兆8,908億元(そのうち、融資プラットフォーム会社の債務は6兆9,705億元)に上り、それは、中央政府性債務(12兆3,841億元)を上回っている(表5)。地方政府性債務管理の規範化とリスクの予防と解消に向けて、次の方針が打ち出されている(国務院「国務院の予算管理制度改革に関する決定」、2014年9月26日)。

表5:政府性債務の規模(2013年6月)
(単位:億元)
直接債務偶発債務
中央政府98,12925,712123,841
地方政府108,85970,049178,908
(うち、融資プラットフォーム会社)(40,756)(28,949)(69,705)
合計(全国)206,98895,761302,749
(注)偶発債務には「政府は担保責任・連帯責任を負う債務」と「政府は担保責任を負わないが債務者が返済不能となった場合に一定の責任を負う債務」を含む。
(出所)審計署「全国政府性債務審計結果」、2013年12月30日より作成

まず、法を以て地方政府に負債性資金を調達(借金)する適度な権限を付与し、規範化された地方政府による資金調達のメカニズムを構築する。省、自治区、直轄市レベルの政府は、国務院の許可を得た上で、一定の範囲内において借金することができる。市県レベルの政府は借金が必要な場合、上のレベルの省、自治区、直轄市の政府が代行する。その際、借金できるのはあくまでも政府とその関連部門に限り、企業や事業部門を経由した資金調達は認められない。地方政府による負債性資金の調達は、政府債券の発行という形をとる。政府の代わりに資金を調達するという融資プラットフォーム会社の機能を廃止する。官民パートナーシップ(PPP)方式を推進し、民間企業への業務委託などの方法を活かし、都市インフラなど一定収益のある公共事業への投資と運営を奨励する。

第二に、地方政府性債務に対し、規模をコントロールし、分類管理を実施する。各地方政府の債務は許可された枠の上限を超えてはならない。地方政府性債務は「一般」債務、「専項」債務に分類する。前者は公共財政予算、後者は政府性基金予算の管理対象となる。

第三に、政府による負債性資金の調達プロセスと用途を厳密に定める。地方政府は国務院に許可された限度額内で借金することができる。その際、同レベルの人民代表大会またはその常務委員会の許可を得なければならないと同時に、市場原理にも従わなければらなない。地方政府を対象とする信用格付け制度を構築し、徐々に地方債市場を整備していく。地方債の発行によって調達された資金の用途は、インフラ建設などの公共資本支出と債務返済に限定し、経常支出に充ててはならない。

第四に、債務リスクの予防と解消メカニズムを構築する。財政部は債務比率、新規債務率、返済率、期限超過債務率などの指標に基づき、各地方の債務リスクの現状を把握し、特に、債務リスクの高い地方に対して警戒を強める。債務リスクの高い地方は、リスクの解消に積極的に措置を講じなければならない。選別を経て、予算管理の対象となった地方政府の債務残高について、利子負担の軽減と満期構造の最適化のために、各地方は許可を得て地方債を発行し、それによって調達される資金を以て旧債務の償還に充てることができる。予算制約をハード化し、モラルハザードを防ぐべく、地方政府は債務に対し、返済責任を負い、中央政府は原則的に救済しない。

最後に、問責審査制度を構築する。政府性債務を幹部の業績審査の指標として取り入れる。省、自治区、直轄市政府は管轄地域内の地方政府の債務に責任を負う。各レベルの地方政府は、地方政府性債務の管理強化、財政・金融リスクの予防と解消に対して責任を背負う。そして、地方政府のトップは、政策を確実に実施することの最終責任を負う。

残された課題

地方政府性債務問題をはじめ、中国が直面している多くの財政問題は、現行の分税制の下で、財源の配分が中央政府に傾斜しており、地方政府は恒常的に財源不足に陥っていることを反映したものである。しかし、最近の一連の改革案が、地方政府の税制基盤の強化につながるかについては、まだ疑問が残る。

特に、営業税の増値税への切り替えは、地方政府の税収を増やすどころか、むしろ減らすものである。現行の分税制の区分では、増値税は中央政府と地方政府がシェアする共有税(中央は75%、地方は25%)であるのに対して、営業税は、一部の対象を除けば、100%地方政府の収入となる。地方政府にとって、営業税は最も重要な税目となっており、2013年には税収の31.8%を占めている(表3)。営業税が増値税に切り替えられることは、それに伴う増値税による税収の拡大を考慮しても、地方政府の税収の大幅な減少を意味する。最近の不動産市場の低迷と土地価格の下落に伴う土地譲渡金収入の減少も加わり、今後、地方の財政は一層厳しくなると予想される。地方政府の財源を確保し、財政破たんを未然に防ぐために、中央政府から地方政府への財政移転を増やしながら、税目の区分の見直しを通じて、両者の間の税収の配分比率を抜本的に見直さなければならない。

付録:三中全会で決定された財政・税制改革の内容

財政・税制体制改革を深める

財政は国の統治の基礎で、重要な柱であり、科学的な財政・租税体制は資源配分の最適化、統一した市場の維持、社会的公平の促進、国の長期安定を実現するための制度的保障である。立法を整備し、権限を明確にし、税制を改革し、税負担を安定させ、予算を透明化し、効率を高め、近代的財政制度を確立し、中央と地方双方の積極性を発揮させなければならない。

  • 予算管理制度を改善する。
    全面的で規範化された、公開され透明な予算制度を実施する。予算審査の重点を収支バランスと赤字規模から、支出予算と政策誘導へ広げる。財政収支の伸びやGDPと連動する重点支出項目を整理、規範化し、一般的には連動方式をとらないようにする。年度を越えた予算の均衡メカニズムを確立し、発生主義に基づく政府総合財務報告制度をつくり、中央と地方政府の規範化された、合理的な債務管理とリスク警戒のメカニズムをつくる。
    一般性移転支出増加のメカニズムをより完全にし、旧革命根拠地、少数民族地域、辺境地域、貧困地域への移転支出を重点的に増やす。中央が支出増につながる政策を打ち出したことによる地方の財源不足は、原則として一般性移転支出で調節する。専項移転支出項目を整理、統合、規範化し、競争的分野の専項移転支出と地方の負担金を徐々に廃止する。政策誘導、救済、緊急対応に関する専項移転支出を厳しく抑制し、存続させる専項移転支出も選別をし、地方の問題に属するものは一般性移転支出に組み入れる。
  • 租税制度を整備する。
    租税制度改革を深化させ、地方税の制度を整備し、直接税の割合を徐々に高める。増値税の改革を進め、税率を適度に簡略化する。消費税の課税範囲、段階、税率を見直し、エネルギー消費が多く、環境汚染のひどい製品や一部の高級消費財を課税範囲に組み入れる。総合課税と分離課税を合わせた個人所得税制を徐々に確立する。不動産税立法を加速するとともに適時に改革を進め、資源税の改革を急ぎ、環境保護費の租税化を推進する。
    統一的税制、公平な税負担、公平な競争促進の原則に従って、税制優遇、特に地域的税制優遇政策の規範化された管理を強化する。税制優遇政策を専門の租税法律・法規で統一的に規定し、税制優遇政策を整理し、規範化する。国税、地方税の徴集管理体制をより完全にする。
  • 権限と支出責任が対応した制度を構築する。
    中央の権限と支出責任制度を適度に強化し、国防、外交、国家安全保障および全国的統一市場のルールと管理に関わるものなどは、中央の権限とする。一部の社会保障、複数地域に跨がる大型プロジェクトの建設・保守などは中央と地方の共同権限とし、権限関係を徐々に正常化する。地域的公共サービスは地方の権限とする。中央と地方は権限に従って、相応の支出責任を負担または分担する。中央は移転支出を計上することによって、一部の権限の支出責任を地方に引き受けさせることができる。複数の地域に跨がり、しかも他の地域への影響が大きい公共サービスについては、中央は移転支出を通じて、地方の権限の支出責任を部分的に引き受ける。
    中央と地方の既存の財源分配構造の全体的安定を維持しながら、税制改革に合わせ、税目の属性を考慮して、中央と地方の税収区分を一段と正常化する。

(注)決定は16章60条からなる。「予算管理制度を改善する」「租税制度を整備する」「権限と支出責任が対応した制度をつくる」はそれぞれ第17条、第18条、第19条に当たる。
(出所)「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(第5章)、中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議で採択、2013年11月12日

2014年11月19日掲載

脚注
  1. ^ 中国では、増値税、営業税、消費税は最も重要な流通税である。増値税は、物品の販売、加工・修理などのサービスの提供、貨物の輸入を対象とし、基本税率は17%で、糧食、食用植物油、水道、飼料、化学肥料、農薬、農機道具など一部の商品の税率は13%である。増値税は一種の付加価値税であり、日本の消費税と同じように、納付額は、売上税額から仕入税額を控除した差額となる。営業税は、サービスの提供、無形資産の譲渡、不動産の販売を対象とし、基本税率は3%または5%で、娯楽産業の税率は5%、10%、20%のいずれかである。消費税は、日本の旧物品税に当たり、煙草、酒・アルコール類、化粧品、貴金属アクセサリーなどの高額品、奢侈品などに課税されるものである。課税方式は従量と従価の二種類があり、対象品目によって税率が大きく異なる。
  2. ^ 従来の生産型増値税では、固定資産の仕入税額が控除できないのに対して、消費型増値税では控除できる。企業にとって、その分だけ税負担は軽くなる。
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2014年11月19日掲載