中国経済新論:中国の経済改革

ポスト三中全会の国有企業改革
― コーポレート・ガバナンスの向上は可能か ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国は、1970年代末に改革開放に転換してから、市場経済の確立を目指すようになり、その一環として、国有企業改革を進めてきた。1980年代の「放権譲利」(個々の企業の経営権と利潤留保の拡大)や1990年代前半の「現代的企業制度」の導入を試みたが、「所有者の不在」によるコーポレート・ガバナンスの欠如といった根本的な問題を解決できなかった。こうした認識に立って、政府は1990年代後半に、「国有経済の戦略的再編」や「所有権改革」などの名の下で、国有企業の民営化を推進するようになった。しかし、近年、一部の分野では「国進民退」(国有企業のシェア拡大と民営企業のシェア縮小)という動きが見られるように、国有企業改革は停滞期に入っている。

国有企業改革の再出発を目指すべく、習近平政権は2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(以下「決定」)において、「混合所有制経済の推進」、「現代企業制度の整備」、「国有資産の監督管理体制の改善」を中心とする改革案を提示している。

混合所有制経済の推進

中国では、近年、株式制などを通じて非国有資本を国有企業に導入する形で、国有企業の所有権の多様化が進み、ひいては混合所有制経済が形成されつつある(注1)。今回の三中全会の「決定」では、混合所有制経済が「基本的経済制度の重要な実現形式」と位置づけられるようになった。

「決定」では、混合所有制経済の発展について、「国有資本、集団資本、非公有資本が株を持ち合い、相互に融合し合う混合所有制経済は、基本的経済制度の重要な実現形式であり、国有資本の機能拡大、価値の維持・増加、競争力の向上に有利であり、各種所有制の資本が長短相補い、互いに促進し、共に発展するのに有利である。より多くの国有経済とその他の所有制経済が混合所有制経済へと発展することを認める。国有資本の投資プロジェクトへの非国有資本の参加を認める」(第6条)と述べられている。その具体的内容について、国務院国有資産監督管理委員会(国資委)の黄淑和副主任が次のように説明している(黄淑和、「国有企業改革が深まっている」、『求是』2014年03期)。

混合所有制経済を発展させるに当たり、企業の機能によって、異なる政策が適用される。第一に、一部の国家安全に関わる国有企業と国有資本投資会社、国有資本運営会社の場合は、100%国有の形式をとる。第二に、国民経済に深く関わる重要産業と重要分野の国有企業の場合は、国有資本による絶対的な支配権を維持する。第三に、国民経済の柱となる産業およびハイテク・技術革新型産業の重要国有企業の場合、国有資本が相対的支配権を維持する。第四に、その他の国有企業については、国による出資比率を低く抑え、場合によっては、国有資本を完全に撤退させる。さらに、条件の整った国有企業の上場を様々な形で推進する一方、上場の条件がまだ整っていない国有企業には多様な投資家を導入することによって、株主構成の多様化を実現する。また、資金や技術、管理における優れた戦略投資家および全国社会保障基金、一般保険基金、エクィティ投資基金といった機関投資家の国有企業改革への参画を奨励する。

現代企業制度の整備

一方、現代企業制度の整備について、「決定」では「経営意思決定の規範化、資産の価値維持・増大、競争への公平な参加、企業の効率向上、企業の活力増強、社会的責任の引き受けを重点にして、国有企業の改革を一段と深めなければならない」(第7条)と述べられている。その具体的内容として、次の五つの分野での改革が挙げられる(黄淑和、前掲論文)。

第一に、国有企業のコーポレート・ガバナンスを向上させる。株主、取締役、監査役と経営陣がそれぞれの役割を果たし、真のコーポレート・ガバナンスを目指す。さらに長期的に有効なインセンティブ・メカニズムを構築するとともに、経営・投資責任の追及を強化する。

第二に、経営をプロに委ね、企業家の役割を発揮させる。そのために、市場から登用する経営者の数を増やす。

第三に、人事、労働、分配といった企業内部の「三つの制度」改革を進めるなど、市場経済における自由な競争ができるための制度保障を提供する。同時に、情報開示を強化し、経営の透明性を高める。

第四に、企業経営者の俸給水準、職務待遇、交際費、業務費を規範化し、関連規定を整備する。経営者、従業員の報酬を企業の業績と結びつける。

最後に、混合所有制企業における従業員の持ち株の方法を検討する。従業員による持ち株を認め、資本の所有者と労働者の利益共同体を形成させる。

国有資産の監督管理体制の改善

今回の三中全会の「決定」において、国有資産の監督管理体制について、従来の「企業管理」から「資本管理」に転換するという新しい改革の方向性が打ち出されている。

中国の国有企業は、自身に経営主導権がなく、複数の政府部門により経営に行政介入されていた。このような行政介入は、企業経営の妨げとなり、効率低下をもたらしていた。2003年に国資委が設立されたことで、国有企業に対する監督管理体制が大きく変わり、銀行など、一部を除いて国有企業の管理権が国資委に集中され、管理権分散の問題が解決された。しかし、国資委は依然として国有企業の経営に関与することから、次の問題が起きている。まず、国有企業は自身の経営活動以外に、国資委から頼まれる行政的任務をこなさなければならない一方で、国資委が国有企業の経営活動にとって有利な政策を策定するなど両者が癒着しやすい関係にある。また、国資委は、国有企業の資産だけでなく、従業員の配置や職場の安全、環境保護など、本来企業がやるべきことをやってしまう。最後に、国資委は国有企業に関する経営状況の情報の欠如と専門知識の不足から、国有企業の経営実態を把握しきれず、監督が形骸化してしまう恐れがある。

以上の問題を踏まえて、三中全会の「決定」では、「資本の管理を中心に国有資産の監督管理を強化する。国有資本の授権経営体制を改革し、若干の国有資本運営会社を設立し、条件の整った国有企業を国有資本の投資会社に改組することを支持する。」(第6条)という方針が打ち出されている。その実施に際しては、すでに上海などで導入されている「国資委」、「国有資本運営(投資)会社」、「国有企業」からなる三層の構造が参考になるだろう(図)。

図 国有資産の監督管理の三層構造
図 国有資産の監督管理の三層構造
(出所)各種資料より作成

これまで、国資委は、直接「国有企業」の「人事、経営、財務」を管理してきた。また、法律に基づく国有財産権の委託代理関係は構築されておらず、政府が国有企業に対し、過剰に介入する一方で、赤字の補てんもしばしば行われており、モラル・ハザードを助長するソフトな予算制約の問題が依然として深刻である。さらに、国有財産権の流動性が低いため、新しい分野への参入や古い分野からの撤退がうまく進まず、資本効率は極めて低い。今後、国資委は、国有資本運営(投資)会社の監督管理に専念することになる。

これに対して、国有資本運営(投資)会社は、国有企業そのものよりも、資本化と証券化された国有資産、つまり「国有資本」を管理する。その主な機能は、株主として、混合所有制企業の国有株式を保有すること、取締役会を通じて企業へのガバナンスを行うこと、企業の経営業績を考査すること、国有株式の増減を決定すること、新しい投資対象を模索することなどである。既存の全国社会保障基金や、信達、華融などの資産管理会社、外貨準備の運用の一部を任せられている中国投資有限責任公司(CIC)、中央匯金投資公司などは、すでにこのような機能を持っている。

今後、国有企業の扱いは、それぞれの性質によって異なってくる。「決定」では、「国有資本の投資運営は、国の戦略的目標に尽くし、国の安全保障や国民経済の命脈にかかわる重要な業種とカギとなる分野により多く投じるべきである。そして公共サービスを重点的に提供し、重要な先行性、戦略性を持つ産業を発展させ、生態環境を保護し、科学技術の進歩を支援し、国家の安全を保障すべきである。」(第6条)、「国有資本は公益性企業への投入を増やし、公共サービスの提供により大きく貢献できるようにする。国有資本が引き続き株式保有と経営の面において支配する自然独占産業では、政府と企業の分離、政府と資本の分離、特許経営、政府による監督管理を主要な内容とする改革を実施し、各業種の特色に基づき整備部門と運営部門の分離を実施し、競争的業務を自由化し、公共資源配分の市場化を推し進める。各種形式の行政独占を更に打破する」(第7条)と述べられている。

これらの改革により、次の効果が期待される。まず、新設する専門機関が国有資本を運営することで、従来の国資委による国有企業への行政介入が解消される。次に、国有資産を資本化する(国有企業の実物資産や貨幣資産を株主持分に換算する)ことで、国は投資の運用管理がしやすくなる。特に国有資本の流動性が高められ、産業への参入と退出が容易になり、資源がより適正に配置される。さらに、国有資産の資本化によって、ほかの形態の資本の参入が容易になり、このことは、国有企業の資本の多様化につながる。

国有資本のもたらした利益を国民に還元すべく、「決定」では、「一部の国有資本を振替えて社会保障基金を充実させる。国有資本経営予算制度をより完全なものにし、国有資本収益の国庫納付率を高め、2020年には30%に引き上げて、民生の保障と改善により多く充てられるようにする。」(第6条)という方針も打ち出されている(注2)。なお、中央国有資本経営予算編成の対象となる国有企業は、2013年に総額11,690億元に上る純利益(税引き後)を上げたにもかかわらず、その10%にも満たない1,039億元しか国庫に納付していない(財政部、「2014年中央国有資本経営予算に関する説明」、2014年3月)。その上、その大半は、「国有経済構造調整支出」や、「重点項目支出」、「産業高度化と発展支出」という名目で、国有企業に還流されている。

残された課題

国有企業に関わる多くの問題は、コーポレート・ガバナンスの欠如に由来している。発達した資本主義経済においても、企業の所有と経営の分離によって、所有者の利益が経営者に侵害される恐れがあるが、この問題は、所有権が曖昧である中国の国有企業において、特に深刻である。確かに、建前として13億の国民の一人ひとりがすべての国有企業に対して13億分の1の所有権を持っているが、彼らは、数十万単位に上る国有企業を自ら監督する能力もインセンティブも持っていない。また、そのような意欲を持っていたとしても、株主総会に出席できるわけではない。そのため、国民は国有企業の株主の権利を、代理人としての政府機関に委託しなければならないが、政府が国有企業を経営する目的は利潤最大化だけでなく、雇用の創出、社会の安定などさまざまなものがある。また、政策を策定し、実施する政府の役人は、国民や国の利益よりも自らの利益を優先するという誘惑に常に晒されている。この問題の解決は、選挙や議会といった民主主義制度が整っている先進諸国においてもむずかしいが、国民の監督が届きにくい一党統治という政治体制をとる中国ではなおさらである。国有であることが企業経営の問題点の根源である以上、民営化を行わない限り、コーポレート・ガバナンスの確立は不可能であるといえよう。

これに対して、「決定」は、国有企業改革に関して、「混合所有制経済の推進」、「現代企業制度の整備」、「国有資産の監督管理体制の改善」を強調しているものの、「いささかも動揺することなく公有制経済を強固に発展させ、公有制の主体的地位を堅持し、国有経済に主導的役割を発揮させ、国有経済の活力・コントロール力・影響力を不断に増強しなければならない」(「第二章「基本経済制度を堅持し、充実させる」の導入部分)としている。このことは、国有企業改革の妨げとなっているイデオロギーの障壁が依然として取り除かれていないことを意味する。

また、混合所有制経済を発展させることで、国有企業の民営化が促されると期待される一方で、混合所有制が国有資本の支配範囲を拡大させ、公有制の主導的地位を強化する手段として悪用される恐れがある。その場合、行政独占への打破は実現できないだろう。

さらに、国有企業のリーダーを党と政府の幹部から企業の経営者に改めることや、国有企業を競争的分野から撤退させることは、既得権益集団から強い抵抗が予想されるだけに、依然として前途多難である。

最後に、国有資産の監督管理体制についても、市場での競争をスポーツの試合にたとえれば、審判員であるべき国資委が選手も兼ねてしまうため、公平な試合ができるはずはない。また、国資委は業務全体の指導において、戦略的発想が乏しく、国民経済における国有企業の果たすべき役割と位置づけを考えず、もっぱら国有経済の強化を追求している。さらに、誰が監督当局である国資委を監督するかという問題も未解決のままである。

このように、イデオロギーの問題、行政独占の打破、行政と企業経営の分離、競争的分野からの国有企業の撤退、国有資産監督管理体制の改善など、以前から指摘されている国有企業改革における難題について、「決定」が方向性を示しつつも、抜本的対策を打ち出しておらず、所期の効果を上げることができるかは、まだ疑問が残っている。

2014年6月4日掲載

脚注
  1. ^ 「混合所有制」は新しい概念ではない。1999年に行われた中国共産党第15期中央委員会第四回全体会議の「国有企業の改革と発展の若干の重大な問題に関する中共中央の決定」には、すでに「国有資本は株式制を通じ、より多くの社会資本を惹きつけ、組織することができ、また国有資本の機能を拡大させ、国有経済のコントロール力、影響力および牽引力を高めることができる。国有大中型企業、特に優位に立っている企業は株式制の実行に適しており、ルールに則っての上場、外資企業との合弁、相互出資などの形を通じ、株式制企業に切り替え、混合所有制経済を発展させる。重要な企業の場合、国が支配株主となる」と明記されていた。また、2003年の中国共産党第16期中央委員会第三回全体会議の「社会主義市場経済体制の整備の若干の問題に関する中共中央の決定」においても、「国有資本、集団資本と非公有制資本などが共同出資する混合所有制経済を大いに発展させ、投資主体多様化の実現をめざし、株式制を公有制の主要実現形式にする」と書かれていた。
  2. ^ 2013年現在、中央政府直属の国有企業の税引き後利益(純利益から前年度損失と法定積立金を控除)の国庫納付率は以下の五種類となる(財政部、「2013年中央国有資本経営予算に関する説明」、2013年3月)。
    第一類:煙草企業、20%
    第二類:石油石化、電力、電信、石炭など資源独占型産業企業、15%
    第三類:鉄鋼、運輸、電子、貿易、建築など一般競争型産業企業、10%
    第四類:軍需企業、企業に転換した科学研究機関、中国郵政集団公司、2011年と2012年に新たに中央国有資本経営予算の対象となった企業、5%
    第五類:中国備蓄食糧総公司、中国備蓄棉総公司を含む政策性企業、0%
    なお、小型・零細国有企業の内、当該年度の純利益が10万元以下の場合、第五類の政策性企業に照らし、同年度の納付を免除。
    「三中全会」で決定された方針に従い、2014年には、第一類から第五類までの国有企業に適用される税引き後利益の国庫納付率はそれぞれ5ポイント引き上げられる予定である(財政部「中央企業国有資本収益徴収比率のさらなる引き上げに関する通知」、2014年5月)。
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2014年6月4日掲載