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中国IT産業の概観

三菱総合研究所 海外開発事業部 主任研究員 李石

1996年から始まった「九・五計画」(第9次五ヶ年計画 1996〜2000年)期において、中国のIT産業部門は他の部門とは一桁異なる驚異的な成長率を達成した。2000年の中国のマクロ経済指標は概ね改善されているが、中でもIT部門は突出しており、今後の経済発展での重要度は高まっている。IT産業では売上高の拡大とともに上位企業への集中度が大きくなり、スケールメリットを通じたトップ企業のさらなる成長が見込まれている。また、国有企業をも含めた各企業が輸出実績やR&Dを重視するなど質的な国際競争力の向上を実現している。さらに90年代後半以降、IT分野での大規模な外資の導入が見られ、競争や技術移転を通じて中国IT企業の質的向上をもたらし、輸出構造の高付加価値化が見られるようになった。

一、「九・五」期の実績と「十・五」期の展望

1.驚異の成長を遂げた「九・五」期

2001年3月16日付『中国電子報』に掲載された信息産業部の曲維枝副部長の寄稿によると、中国のIT産業は去る「九・五計画」期において年平均32.1%の成長率を達成し、IT産業製品の生産高は2000年に初めて1兆元台を突破して、製造業のトップに躍進した。これをもって、IT産業がすでに中国の産業経済における「第1支柱産業」になったという。すなわち、「九・五計画」期に中国の5大支柱産業と目された電子産業(情報通信分野も含めて信息産業部の所管となり、現在IT産業とも呼ばれている)は、近年とりわけその情報通信分野の急速な伸びにより、5大支柱産業からさらに飛躍し、リーディング産業になろうとする勢いを示している。

2.2000年における製造分野の実績

2000年中国のマクロ経済指標が1999年より概ね改善され、GDPと工業生産付加価値の増加率はそれぞれ8.0%、11.4%伸び、前年の増加率よりもそれぞれ0.9ポイント、2.5ポイント増えたが、IT産業の成長率は、さらに桁が一つ違う伸びをみせている。2000年のIT製造分野生産額は5912億元で、前年同期比33.8%増、販売額は5800億元で同34%増、IT製品の輸出は551億ドルで41%増であり、利益額の場合は、前年同期比伸び率が65.6%となった。

IT製造分野を投資類(通信情報機械、パソコン等)、消費類(家電製品等)、部品装置類(電子素子、半導体など)に分けてみると、投資類は前年比50.9%の伸びを示し、引き続きITの成長を牽引するエンジンとしての役割を演じている。部品装置類も35.2%増で産業全体の成長を支えている。これに対して、消費類のデータが現時点では不明ではあるが、1999年にAV機器の値下げ競争が激化したことから、業績はそれほど芳しくないと推測される。

投資類のうち、移動電話機の生産と輸出実績は特に注目に値する。生産台数は前年同期比154%増の5210万台となり、その41.3%に当たる2150万台が輸出され、前年比伸び率が400%に達した。これに次ぐパソコンとディスプレイはそれぞれ82.4%、61.1%の増加を見せている(表1参照)。

表1 2000年中国IT産業の業績
項目
実績
比増加率(%)
IT産業生産額(億元)
5912
33.8
IT産業販売額(億元)
5800
34.0
利潤(億元)
380
65.6
納税(億元)
170
18.3
IT製品輸出(億ドル)
551
41.0
投資類製品生産額(億元)
 
50.9
部品装置類製品生産額(億元)
2709
35.2
局用プログラミング制御交換機(万回線)
4657
 
移動通信交換機(万回線)
3630
 
移動電話機(万台)
5210
154.0
  内、輸出台数(万台)
2150
400.0
パソコン(万台)
860
82.4
ディスプレイ(万台)
3920
61.1
カラーテレビ(万台)
3741
 
IC(億個)
50
 
ソフト・SI(system integration)販売額(億元)
560
 
(出所) 『中国電子報』2001年2月20日、2月27日より作成。


3.重要度さらに向上する「十・五」期

一方、中国の経済発展におけるIT産業の重要度が著しく上昇している。図1にあるように、「八・五計画」(1991〜1995年)期末の1995年におけるIT産業付加価値のGDPに対する比率は2%であったが、「九・五計画」期末の2000年にはこれが4%に上昇した。そして、今年2月の全国信息(情報)産業工作会議で打ち出された「十・五計画」(2001〜2005年)期のIT産業発展目標によると、2005年におけるIT産業のGDPに対する比率はさらに7%に伸びる見通しである。

図1 中国のGDPに占めるIT産業比重の推移

二、 中国IT企業の確実な進化

信息産業部は、2000年の売上業績に基づいて順位が決められた2001年度の「電子信息百強企業」(電子情報トップ100社)を2001年4月6日に発表した。これと15年前から続けられてきた暦年の発表の結果を比較すれば、中国IT企業の量・質両面における確実な進化が明らかになってくる。

1.トップ100社業績変化に見る量的成長

過去15年間で発表されたトップ100社の業績から、IT企業の量的又は規模的成長が窺われる。15年前に115億元であったトップ100社の売上高総額は、現在4442億元へと38.6倍もの拡大を見せるとともに、IT産業全体の売上高に占める割合も当時の48%から現在の76%に上昇した。こうした上位企業への産業集中度が上昇した結果、スケールメリットが発揮される大手企業がしだいに誕生してきた。トップ100社の利益総額も1987年21億元から2000年には164億元、2001年には269億元へと大幅に上昇した(表2参照)。

表2 歴年ITトップ100社の業績比較
(出所)『中国電子報』2001年4月10日

2001年の第15回発表では、首位の中国普天信息産業集団公司と2位の海爾集団公司は業界初の売上高400億元超を実現した。特に首位の普天は、1996年より毎年英国の『電信週刊(Communications Week)』が発表している「世界電信設備製造大手トップ50社」に顔を出しているが、2000年の売上高が前年比50%増の465億元に達し、今年はまた29%増の600億元台を目指している。しかし、同社の視野には、2005年におけるその2倍になる1200億元の売上高の達成や世界トップ500社への仲間入りといった野心的な目標がすでに入っている。

2.トップ100社の特徴に見る質的向上

2001年度の発表の結果から、IT業界の質的又は構造的高度化が見られ、これに関連して以下の3点が特徴的である。

(1)ソフト、IC、PC、通信設備とSI(System Integration)などの分野への傾斜が浮き彫りになっている。トップ100社のうち、これらの分野が75%に近い割合を占める。中国普天、聯想、中国長城、華為、上海貝爾(ベル)などの通信・PC企業が引き続き上位を確保している一方で、四川托普、東方軟件(ソフト)、中国計算機軟件などのソフト開発企業も順位の上昇が見られる。また、TCL、熊猫(パンダ)、四川長虹、康佳など消費類電子製品メーカーも製品構造を積極的に調整し、デジタル化、ネットワーク化や単一製造分野からサービス分野への進出を図っている。

(2)国有企業が主体である所有類型が多様化する局面が維持されている。所有制の類別で見たトップ100社の内訳は、国有企業53社、集団制企業5社、株式制企業27社、中外合弁企業12社、私営企業3社であり、国有企業が依然として半分以上を占めている。IT産業における非国有企業の民営企業がかなり活発な動きを見せているが、中国普天と海爾のような国有企業が技術導入や構造調整などの改革と改造を通じて規模と競争力の拡大を実現した。IT産業の産業構造において国有企業がヘゲモニーを握っているという状況に変わりはないといえよう(図2参照)。

図2 トップ100社の所有制類別構成
(出所)『中国電子報』2001年4月10日

(3)IT企業の輸出実績とR&Dが重要視されるようになった。すなわち、これまでのトップ100社の発表と異なり、2001年の発表には、輸出受渡金額とR&D経費のデータが初めて開示された。とりわけR&D経費の開示は、政府と業界がIT産業の持続的な発展に取り組む姿勢を示すと同時に、トップ100社のR&Dに対する資金投入の拡大も裏付けている。100社のうち、R&Dへの資金投入で他社より断然抜きん出ている4社は、上から順に、華為、海爾、中国普天、上海広電となっている。特に通信設備大手の華為の場合、2000年に投入したR&D経費の比率は国際的に見てもかなり高水準に達している(表3参照)。

表3 IT産業上位4社の2000年におけるR&D経費支出
会社名
R&D経費
(億元)
対売上高
比率(%)
対利益比率
(%)
華為技術有限公司

20.7

13.6
71.4
海爾集団公司
15.7
3.9
114.9
中国普天信息産業集団公司
13.8
3.0
64.0
上海広電(集団)有限公司
11.0
4.8
53.4
(出所)『中国電子報』2001年4月10日より作成

三、 外資の導入に伴う中国ITの技術的進歩

中国のIT産業が急速に国際的競争力をつけてきたのは、外資の導入によるところが大きい。

1.外資の中国IT分野への進出

80年代のIT産業への外資企業の進出は白物家電やラジカセを主とするいわば初級AV機器分野にとどまったが、90年代とりわけ後半に入ると、パソコンや通信設備などの投資類および半導体などの部品装置類への傾斜が目立った。中国が発表した1999年外資系企業トップ500社のうち、上位200社に入っている日系企業32社では、IT分野に属したのは少なくとも23社(71.9%)で7割を占めている。一方の欧米企業も、IBM、モトローラ、Cisco、TI、HP、Intel、Microsoft、Oracle、ノキア、エリクソンなど世界的なIT強豪が近年中国に揃って進出している。その結果、IT製品の売上高と利益額における外資企業の割合はそれぞれ53%、57%で大半を占めることとなった。

最近特に注目を集めているのは台湾IT企業の大陸への進出ブームである。最新統計によると、1979〜2000年における台湾の大陸に対する直接投資の実行ベース累計金額は264億ドルで、香港(1745億ドル)、米国(300億ドル)、日本(281億ドル)に次いで第4位となっている。こうした台湾資本の大陸進出においても、IT分野への傾斜の度合が年々増えてきた。台湾経済部投審会の統計によると、台湾資本の対大陸投資に占めるIT分野の比重は1991年に18.13%に過ぎなかったが、その後しだいに上昇し、1998年には37.3%、99年には42.92%、2000年にはさらに56.18%にまで増大した。

2.中国IT産業の技術的進歩

こうした大規模な外資導入は、外資企業間、外資と地場企業間の激しい競争及び技術移転を通じて、中国IT産業の国産能力と技術水準の向上をもたらした。半導体分野では、上海華虹NECが主担当であった国家重点プロジェクトの「909工程(プロジェクト)」の成果として、中国は現在0.35ミクロン、8インチのシリコン・チップの国内設計と国内加工をようやく実現し、0.25と0.18ミクロンのICの設計も進行中である。

計算機分野では、15年前から実施し始めた「863計画」の一つの重要な成果として、国産サーバーの産業化が実現されたことが指摘されている。これによって、国産サーバーが中国市場でIBM、Compaq、HPなどの世界強豪と一騎討ちすることができるようになった。そのうち、国産サーバーのトップメーカーである浪潮集団は、国内市場でのシェアを14.75%に伸ばし、順位は外資企業に次いで第3位に上がってきた。

一方の通信分野では、中国が自主的に開発したTD−SCDMA第3世代移動通信技術基準はこのほど「第3世代移動通信パートナー計画」(3GPP)という国際業界組織により、国際基準として正式に認められた。これに続き、大唐電信集団は最近シーメンスと提携して同システムのテスト演習を実施し、事業化に向けて一歩前進したという。

国産IT製品の技術的進歩は輸出構造における変化からも窺える。かつては家電製品を中心とした電子・電機業界の輸出構造であったが、2000年になると、家電中心の消費類製品は22%に縮小し、一方でPCおよびその関連製品は31%、通信製品は15%、両者を合計した投資類製品は46%となり、半導体など部品装置類も31%に拡大したことに示されるように、輸出製品の高付加価値化、輸出構造の高度化が見られるようになった(図3参照)。

図3 IT産業の輸出構造
(出所)『中国電子報』2001年2月23日より作成

 

李石  りせき
1982年中国広東省中山大学外卒、1988年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学修士。中国中山大学管理学院副教授、企業管理研究所副所長、アジア経済研究所客員研究員を経て、1994年から株式会社三菱総合研究所、主任研究員。主な著作に『中国情報ハンドブック』(共著、1995〜2002年各年版、蒼々社)、『三菱総研全予測アジア』(共著、1995〜1999年各年版、ダイヤモンド社)、「中国産業ガイド:中国のIT産業」(『日中経協ジャーナル』2002年1〜4月号)など。

 

2002年4月5日掲載