中国経済新論:世界の中の中国

外資頼りの発展戦略の限界

鄭海東
福井県立大学教授

福井県立大学経済・経営学研究科教授。上海市生まれ。上海外国語大学日本語科卒。上海財経大学助手を経て、1985年に来日。京都大学大学院で国際経済学などを学び、京都大学経済学博士号取得。

はじめに

中国は1979年以来の持続的高成長により、今や「世界の工場」と称されるまで世界の注目を集めている。この高成長をもたらした主因の一つは、1979年以来の対外開放路線による大規模な外資導入である。2000年までの22年間、中国が受け入れた外資の総額は5,189.2億ドルに上り、このうち外国直接投資額は全体の66.8%を占める3,466.2億ドルである。直接投資受入の規模では、2000年に中国の受入額は407億ドルで、1993年から連続8年でアメリカに次ぐ世界2位の直接投資受入国となっている。

この凄まじい外資系企業の進出は、加工貿易をはじめ、中国の対外貿易を大きく促進したが、同時に中国経済の対外依存度をも大きく高めた。中国経済の貿易依存度は、1980年に14.4%であったが、2000年には43.9%に上昇している。為替レートの変化などの要因もあるが、対外貿易が中国の経済成長率を大きく左右している事実は動かない。中国の政府系研究者によると、1980年から1999までの20年間、GDPの平均成長率は9.7%であるが、そのうちの2.7ポイントは外資の直接的間接的貢献によるものだという(注1)。1953年から1978年までの26年間、中国のGDP平均成長率はおよそ6.7%である。換言すれば、もし外資の貢献がなければ、改革期の平均成長率は7.0%となり、改革前の成長率とは0.3ポイントの差しかないということになる。

しかし、経済成長の外資依存が深まりつつある一方、中国では①国内産業の外資による支配、②技術開発能力の低下、という中国経済の将来に関わる二つの大きな問題が浮上してきた。以下は、この二つの問題を中心に検討する。

一 中国国内産業は生き残れるか

量の変化は質の変化をもたらす。外国資本の大規模な進出は、製造業を中心に中国への影響を急速に強めつつある。外資系企業による生産は、アパレル、皮革、家具といった労働集約型産業において比較的高い生産シェアを持っているだけでなく、家電やプラスチック・金属製品など、ある程度技術集約度の高い産業で極めて高い地位を占めており、さらに電子・通信設備のような中国経済の将来を大きく規定する基幹産業でも、決定的な優位性を持っていることである。中国の自動車産業の有力メーカーはほぼ全て外資系企業である。

1999年に、外資系企業が中国の全鉱工業企業の総資産、総売上高、利潤総額に占めるシェアは、それぞれ28.6%、50%、75.6%である。このデータでは、年間売上高500万元未満の外資系企業が除外されているが、それでも総資産でのシェアに比べ、外資系企業の総売上高と利潤総額におけるシェアの大きさは、まったく驚くべくものである。ここから、外資系企業が、非外資系企業より高い技術力と経営管理能力を武器に、高い投資収益率を維持している一方、国有企業をはじめとする非外資系企業は如何に無駄の多い生産を行っていることかが窺える。

外資系企業の存在感が急速に強まる中で、誰がその支配権を握るかは、中国にとって大きな意味を持ってくる。外資系企業の登記資本金を見ると、外資側が占めるウエイトは1996年に65.6%であったが、1999年には68.3%となった。緩やかにではあるが、すでに優位に立つ外資側の出資率が少しずつ上昇している傾向が確認できる。100%外資企業の存在を考慮すると、それ以外の外資系企業では、外資側の平均出資率が上の数字より低いだろう。しかし、それでもそのほとんどの場合、外資側はすでに経営支配権を握っているとみられている。

実際には、中国は外資系企業への経営権をすでに諦めている。中国国家計画委員会国際経済研究所の陳炳才がこう分析する。中国側は、技術、資金、商標、販路などの経営資源に優位性を持っていないため、51%以上の出資率を確保・維持するのが極めて困難である。仮に合弁の際、外資側に経営主導権を握られたくない、比較的実力のある中国企業でも、交渉術に長けている多国籍企業の巧みな揺さぶりによって最終的には屈服せざるを得ない。ある中国の自動車メーカー経営者は、「合弁しなければ死を待つことになるが、合弁すれば死に急ぐことになる」と胸中を打ち明けた(注2)。

技術力や資金力の欠乏で、たとえ初期に中国側が51%以上の出資率を確保できたとしても、徐々に経営権が外資側に渡るようになるケースが急増している。中国迅達電梯有限公司は、1980年7月に設立された中国最初の合弁企業である。このエレベーターを製造する著名企業は、中国、スイス、香港の企業からの出資で設立されたもので、当初の出資率はそれぞれ75%、15%と10%であった。合弁期間は20年とされたが、期限満了まであと5年に迫る1995年12月に、外資側は増資によってその出資率を25%から65%に引き上げた。今年の1月、この会社は減資公告を発表し、中国側の当該合弁事業からの撤退を宣告した。

アメリカ企業のP&G は、1988年から3億ドルを投じて広州、北京、上海などで13か所の合弁・100%外資企業を設けた。2000年6月、P&Gは北京にある中国との合弁協定を中止し、北京日用品化学二廠との間でできた合弁会社を自分の100%外資会社にした。広州の合弁企業でも中国側の出資率はかつての50%からたったの1%という象徴的なものとなっている。この1%でさえ、中国側が再三要求したことでやっと実ったP&G側のお情けにすぎない。

ドイツ最大の電気メーカーであるジーメンスは、1990年から中国で59か所も企業を設立した。100%外資12社、合弁45社、BTOプロジェクト2社であるが、豊富な資金力をバックに、ジーメンスは自分の出資率を意欲的に引き上げてきた。現在、100%外資を除く47社のうちの42社に対し、ジーメンスはすでに経営支配権を握っている。

外資側が増資によって合弁企業での支配権を手に入れる傾向は、外資系企業にとって近年の一大特徴である。2000年から、中国が受け入れた直接投資のうち、増資の形式が40%以上を占めている。一方、1990年代に入って独資の形態をより選択する傾向もはっきりと見せ始めた。1986年、独資による投資件数はわずか18で、全直接投資件数の1.2%しかない。その独資件数は、1990年に1,860件、さらに1999年には8,201件となり、それぞれ全体の25.6%と48.5%に増加した。

外国資本の中国製造業での支配権が強まるにつれ、中国企業は国内市場におけるシェアを奪われ、ますます苦境に陥っている。1990年代の後半から、中国で消費者に昔から広く親しまれた消費財の銘柄はその多くが、外資系企業による買収や外国製品の進出で続々と市場から消え始めた。楽凱は、中国唯一のフィルムメーカーであるが、ここ数年、外国製品と外資系企業の製品によって大変な苦戦を強いられている。このままでは、これまである程度コダックや富士フィルムと渡り合えた企業は潰れるか、外国の大手企業の傘下に置かれるかしか道がないといわれている。

外資系企業による価格操作のケースもはっきり現れてきた。イギリス・オランダ系企業UNILEVER(中国名は聯合利華)は、上海のアイスクリーム市場に進出した後、中国の競争企業を吸収合併し、寡占的地位を獲得した。その後、寡占価格で吸収合併の投資を回収した。アメリカとフランスのビール会社は、武漢の中国ビールメーカーを買収した後、現地のビール卸価格は数倍に跳ね上がった。近年、中国の若手音楽家はほぼ全員外資系企業と契約を結ばされた結果、2000年に300社に近い中国のレコード会社は、ほとんど自社企画のレコードが出せなくなり、経営が非常に厳しい状態に陥っている。

大量の外資進出によって、中国における経済活動のかなりの部分は、中国側の意思ではなく、外資側の都合によって決められつつあるのである。

二 国内の技術革新を伴わぬ経済成長

中国の政府関係者や研究者の多くは、大規模な外資導入は、中国の技術水準を大きく向上させ、中国製品の国際競争力を急速に高めたと主張している。近年、中国製品の輸出の急増もあって、日本など海外でも中国の外資政策や技術力を高く評価する論調が高まってきている。しかし昨年、これらの肯定的な見方を真っ向から否定する出来事が大きく波紋を呼んだ。

スイスのローザンヌ国際管理学院(IMD)が出した『2000年世界競争力年鑑』の中で、中国の総合順位は、全47か国の中での31位で、1999年の29位より下がった。これは、1998年の24位から1999年の29位に下がったのに続いた後退である。世界経済フォーラム(WEF)が2000年9月に出した『2000年世界競争力報告書』の中で、長期的競争力を示す経済成長競争力指数において、中国が59のレビュー対象での順位は前年の32位から41位に転落した。これも1998年(28位)からの2年連続後退である。

技術革新力のなさが、中国の順位後退をもたらした主因である。近年、IMDとWEFはより一国の技術革新力を反映すべく指標調整を行った。これによってここ数年の中国の大幅な順位後退が見られたという。注意すべきは、一国の競争力を評価する場合、基本的にその国自身の技術革新力を見るもので、多国籍企業などの外資系企業の多寡やその技術力が進出先の技術レベルを代表できない、ということである。当然ながら、中国は自国の技術革新力が大幅に向上していると主張するなら、外資を除く部分で裏づける必要がある。その裏づけがあるのだろうか。

一国の技術革新力を最も大きく左右するのは、研究開発への投資規模である。中国の研究開発費がGDPに占めるウエイトは、1990年から92年までは0.7%であったが、1993年から97年までは、さらに0.6%に減少した。1998年と1999年、同ウエイトはそれぞれ0.7%と0.8%であった。このウエイトは一般的に、先進国は2%以上、途上国は1%以上という水準にあるといわれている。研究開発費が企業の売上高に占めるウエイトで見ると、1990年代の調査によれば、中国の大企業は0.78%、中型企業は0.34%、小企業は0.37%という水準であった。研究開発費が売上高に占めるウエイトが3%を下回った場合、企業に競争力がないというのは、日本の経験である。日本の大企業は同ウエイトが5%以上であり、10%以上に達している企業も一部にある(注3)。

研究開発投資がこのようなお寒い事情では、中国の技術水準の全面的かつ大幅な向上はあり得ない。高成長を成し遂げながら、企業の将来を規定する研究開発への投資は以前よりも減少したということは、中国のこれまでの企業改革がまったく成功していないことを意味するものである。いわゆる改革期に中国で大きな技術進歩があったという主張は、一種の幻覚にすぎない。この幻覚を現実のように見せかけてくれたのが、外国技術・設備の導入と外資系企業の生産活動にほかならない。短期的効果として、これは中国企業の先進国との技術ギャップを大きく縮小できるが、導入技術を自分のものとして吸収・消化しないかぎり、導入技術の陳腐化と共に技術格差は再び広がるものである。

中国のカラーテレビの生産は好例である。1980年代から中国は、100億ドル以上の外貨を費やして海外から大量のカラーテレビの生産ラインや関連設備を導入した。1996年頃、中国のテレビメーカーは低価格攻勢によって国内市場で外国製品や外資系企業製品を駆逐する寸前にまで圧勝した。ところが、2000年に中国のカラーテレビ業界ではほとんどの企業が赤字化したことが明るみになった。生産過剰が一因であるが、根本的な原因はやはり技術開発力を持っていないことにある。対照的なのは同じ年に、東芝やソニーなどの外資系企業は新技術を売り物に、中国市場でのシェアを10%から30%以上にまで回復した。ソニーの上海テレビ工場は、2000年にわずか2か月で1年の利潤目標を達成したという。

1980年代、カラーテレビが生産するだけ売れる時代に、中国のテレビメーカーは導入設備で売れる商品を作るのに満足し、研究開発のための投資を怠った。四川省の長虹株式有限公司は、かつて中国のカラーテレビ業界の最大手であったが、その研究開発費の売上高に占めるウエイトは2000年で0.92%しかない。技術力不足が主因で、その純利益はピーク時である1997年の26億元から2000年の2.7億元に下落した。2001年1月16日付けの『中国経営報』が指摘したように、「中国の家電メーカは誰もが『技術革新』を標榜しているが、実際は先端技術を何一つ持っていないことを内心でよく分かっている。」

技術・設備の導入に熱心だが、技術の吸収・消化に興味を持たないのは、これまで中国企業の一大特徴である。国際的に見ると、1ドル当たりの技術導入に対し、消化・吸収のため、少なくとも2ドル以上の資金投入が必要になる。1997年、中国の技術導入額は236.5億元であるが、消化・吸収のための支出はわずか13.6億元であった。後者は前者の5.8%しかない。自らの研究開発が実質的にほとんどできないため、改革期における中国のいわゆる技術革新は、海外から技術と設備を買うことだけである。導入した技術・設備が陳腐化すれば、外貨でまた買ってくるという循環である。

導入技術・設備とりわけ外国直接投資が、中国企業の技術力不足を大きく補ったのは事実である。しかし見逃せないのは、それが同時に中国の研究開発体制の弱体化をもたらしているというもう一つの事実である。

まず、あまりにも大量な外資導入及び外国設備の導入によって、中国企業の技術陣は多くの場合、実質的に導入設備のメンテナンス要員に成り果て、技術開発陣の断層と崩壊が生じた。1960年代に資本自由化を迎える際に、日本の産業界が最も恐れたのはまさに導入技術による技術開発陣の断層の出現である。次に、外資系企業と中国企業との給与格差があまりにも大きいため、中国企業は人材確保の面では困難を極めている。最近の調査では、ホワイトカラーの場合、外資系企業の給与は国有企業より4,000元も高いことを示している。2000年、中国清華大学の自動車専攻の卒業生は、ほぼ全員中国の自動車メーカーに行かず、外資系企業に就職した。さらに、ある程度競争力を持っている中国企業は、近年相次ぎ外国資本の傘下に置かれたため、研究開発を行う中国企業という母体そのものが消えつつある。

技術・設備及び直接投資の導入は、諸刃の剣である。自分の努力を放棄して、その場凌ぎ的に利用するだけでは、結局利用される結果になる。外資と外国技術への過度の依存が、中国の自主的研究開発の基盤を大きく弱めていることに対し、中国ではまだ十分な警戒が示されていない。この問題の深刻さが明らかになるのは、そう遠くないだろうと思われる。

結び

外資導入を経済開発に利用すること自身は、特別に問題のある選択ではない。問題はその利用のあり方である。外国資本と技術を導入するだけで、先進国に追いつき、追い越すという近代化目標の実現はあり得ない。そのため、なによりも急務なのは、自分での技術革新力の蓄積であり、先進技術の伝播・波及を効率的に行うことのできるメカニズムの構築である。その基本的な努力を怠って、ただ大量の外資導入によって問題を糊塗するのは、手段と目的との本末転倒になる。中国の外資導入運動は、本質的には一種の「努力代替型工業化」であると言える。

中国における外国資本の影響は、これまで主に製造業と貿易分野にとどまっている。しかしWTO加盟後、現在の政策のままでは、外資の支配力が金融業、流通業など他の主要産業にまで及ぶことは必至である。WTO加盟を控えて、中国政策当局はかつてのように一辺倒の楽観論を流さなくなったが、外資政策を抜本的に見直すことを考えていない。むしろ、外国資本が中国企業をさらに吸収合併できるような新しい外資政策を制定しようとしている。この事実からも中国は実際、自力による近代化目標の達成をほぼ断念していることが窺えよう。

中国の青写真は一体誰によって描くのか。アヘン戦争以来のこの古い問題に、中国人はいま一度正視しなければならないのである。

2001年11月26日掲載

脚注
  1. ^ 国務院発展研究センターマクロ経済研究部課題組「従制度着手――新時期我国利用外資的戦略調整」『国際貿易』2001年第2期、10ページ。
  2. ^ 陳炳才「我們是否要控股」『管理世界』1998年第1期、104~105ページ。
  3. ^ 李以学「中国産業技術進歩的問題和対策」『管理世界』1999年第1期、140~141ページ。
出所

この文章は、筆者が岩波書店『世界』2001年12月号「中国経済 好調の死角」の一部に加筆したものである

2001年11月26日掲載

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