企業統治改革と政策保有株の売却:その決定要因と経済的帰結

執筆者 宮島 英昭(ファカルティフェロー)/齋藤 卓爾(慶応義塾大学)
発行日/NO. 2023年4月  23-P-005
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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概要

安倍内閣期の企業統治改革の特徴の一つは政策保有株の売却を上場企業に求めたことである。本稿の目的は、一連の企業統治改革が日本企業の事業法人優位の株式保有構造にどのような影響を与えたのかを明らかにすることである。そのために、2010年から2019年の東証1部上場企業の政策保有株に関する包括的なデータベースを作成し、政策保有株の売却の決定要因ならびに売却が企業行動、業績に与えた影響を分析した。分析結果は、コーポレートガバナンス・コードが施行された2015年以降に、特に持ち合い関係が見られる政策保有株の売却が非連続的に増加したことを示していた。この売却増加の一因はコーポレートガバナンス・コードにより社外取締役の選任が進んだためである。社外取締役の増加は政策保有株の売却確率を統計的に有意に上昇させていた。一方で、売却された銘柄は主に持分の小さい銘柄であり、持分の大きい銘柄は維持される傾向が見られた。政策保有株を売却した企業では、自社株買いが行われる傾向が見られたが、設備投資やR&D投資は増加しておらず、業績が改善する傾向も見られなかった。