従業員のポジティブメンタルヘルスと生産性との関係

執筆者 黒田 祥子 (ファカルティフェロー)/山本 勲 (慶應義塾大学)/島津 明人 (慶應義塾大学)/ウィルマー B. シャウフエリ (ユトレヒト大学 / ルーヴァン・カトリック大学)
発行日/NO. 2021年9月  21-J-043
研究プロジェクト 働き方改革と健康経営に関する研究
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概要

本稿は、大手小売業一社が行った従業員調査を利用し、従業員のメンタルヘルスが職場の生産性に及ぼす影響を検証したものである。メンタルヘルスが毀損している労働者の生産性が低い傾向にあることはプレゼンティイズムなどの主観指標を用いた既存研究で明らかにされてきたものの、仕事に関するポジティブなメンタルヘルス(ワークエンゲイジメント)と生産性との関係についての研究の蓄積は多くなく、特に生産性の指標として財務データなどの客観指標を用いた分析は少ない。そこで本稿は、大手小売業一社のデータを用いて、各売り場に所属する従業員のワークエンゲイジメントとその売り場の売上高(生産性)を紐づけ、両者の関係性を検証した。分析では、従業員のワークエンゲイジメントの平均値が高い売り場では、売上高が高くなるとの結果が得られ、客観指標を用いた分析でも、平均的にワークエンゲイジメントが高い職場では生産性が高くなることが明らかとなった。ただし、ワークエンゲイジメントの売り場平均値が高くても、その売り場の従業員間のワークエンゲイジメントのばらつきが大きい場合には、売上高が低くなることも分かった。この結果は、職場のワークエンゲイジメントの平均を高く保つことは高い生産性を実現するために必要ではあるが、十分条件ではなく、職場の一部の従業員が非常に熱意をもっていたとしても残りの従業員のエンゲイジメントが低ければ生産性は低下しうることを意味している。本稿で得られた結果は、チームのパフォーマンスを上げるためには平均値だけでなく、ばらつきにも注目し、職場の従業員全員のエンゲイジメントを底上げする必要があること示唆している。