【WTOパネル・上級委員会報告書解説㊲】ロシア-鉄道機材事件(DS499/R、499/AB/R)-TBT協定5条の解釈枠組みの明確化-

執筆者 平家 正博 (西村あさひ法律事務所)
発行日/NO. 2021年7月  21-P-014
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
ダウンロード/関連リンク

概要

本件は、ロシア・ウクライナ間の政治対立に端に発した一連のWTO紛争事例の1つである。ウクライナは、ロシアが、ロシア国内での販売に必要となる認証の取得等を制限し、ウクライナ産の鉄道機器のロシアへの輸出を妨げたとして、ロシアの適合性評価手続(Conformity Assessment Procedure)に関連する措置の協定整合性を争った。

適合性評価手続とは、ある製品が、強制規格や任意規格に適合することを実証するための手続である。そして、適合性評価手続により、強制規格に適合していることが立証されていることが、製品を輸入販売する条件とされる場合がある点で、各国の適合性評価手続の規定や運用は、物品貿易に大きな影響を与える可能性がある。実際、一部の研究では、2010-2014のTBT委員会で示された「特定の貿易上の懸念」(Specific Trade Concerns: STC)の約半数が、適合性評価手続に関連する措置であった。

そのような中で、本件は、適合性評価手続を規律するTBT協定5条の判断枠組みを初めて示す事例として、重要な意義を有する。