長期上場企業データから見た日本経済の成長と停滞の源泉

執筆者 深尾 京司 (ファカルティフェロー)/金 榮愨 (専修大学)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2021年5月  21-J-027
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

本研究では、日本政策投資銀行『企業財務データバンク』の上場企業データ(以下DBJデータベースと呼ぶ)を用いて1960年から2015年までの55年間について、ほぼ全上場企業を対象に生産性上昇(労働生産性および全要素生産性TFPで測った)の成長会計分析と生産性動学分析を行った。日本経済が世界で絶賛された1980年代と長期停滞期のうち1995-2010年においてはマクロ経済の生産性動向とは逆に、上場企業では1980年代に生産性上昇が大幅に低下し、1995-2010年に生産性が堅調に上昇した。またアベノミクス下でマクロ経済の生産性上昇が加速した2010-15年には、上場企業の生産性は停滞した。このようなマクロ経済と上場企業の間の生産性動向の違いは、上場企業とそれ以外の主に中堅・中小企業の間で、国際化や有形・無形資産投資、非正規雇用の拡大、リストラ等の速度が異なり、生産性上昇の規模間格差が変動しているためと推測される。日本経済の生産性動向を理解する上で、生産性の規模間格差の研究が今後重要であろう。一方、生産性動学分析によれば、TFPの高い上場企業にそれ以外の上場企業から資源が再配分されることにより上場企業全体のTFPが上昇する効果は小さく、上場企業全体のTFP上昇のほとんどは各企業内のTFP上昇(内部効果)で生み出された。ただし、2010-15年の非製造業では、大きなプラスの再配分効果が観測された。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:21-E-094