中国鉄鋼産業における過剰生産能力問題と補助金:ソフトな予算制約の存在の検証

執筆者 渡邉 真理子 (学習院大学)
発行日/NO. 2017年10月  17-J-058
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

中国の過剰生産能力問題の背景には、先進国もかつて経験してきた経済発展のプロセスであるという側面と同時に、中国独自の制度上の原因、地方の経済発展を支えるなどのために、補助金などを通じたソフトな予算制約が存在しているため、退出が難しく、赤字での生産・輸出が行われている側面もある。本稿では、補助金と過剰生産能力の関係を検証する。政府による補助金が中国の制度上どのような性質のものなのか、それが競争歪曲的な性質をもっているのか。過剰生産能力を「営業収益(=本業である鉄鋼業からの収益)が赤字であるにも関わらず生産を継続している状況、そうして生まれてくる生産量」ととらえると、それがどのくらいの規模となるのか。こうした問題意識をもとに、1990年から2015年までの上場企業財務報告をもとに、補助金と営業収益の間の因果関係の推定を行った。その結果、補助金などを通じた救済を受けた国有企業は、救済を受けた翌年度も本業での赤字を継続させるという、ソフトな予算制約が起きていた可能性があることが明らかになった。

中国の企業会計準則が定める政府補助は、補助金協定の定める補助金の定義と一致するものである。そして、その補助金がもたらす利益があるゆえに市場からの退出条件が緩くなり、その結果として、競争歪曲的なコスト割れでの競争が起きている可能性がある。