無保証人貸出の導入と企業の資金調達・パフォーマンス

執筆者 植杉 威一郎 (ファカルティフェロー)/内田 浩史 (神戸大学)/岩木 宏道 (一橋大学 / 日本学術振興会)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-023
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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概要

本稿では、日本において重要な役割を果たしてきた政府系金融機関の1つである日本政策金融公庫中小企業事業本部が2004年度に導入した無保証人貸出が、企業の資金調達とパフォーマンスにどのような影響を与えたかを分析した。本稿の主要な結果は以下のとおりである。まず、無保証人貸出の利用は、制度導入後あまり進まなかったが、経営者保証に関するガイドラインの適用(2014年2月)前後から急増した。次に、無保証人貸出利用企業は有保証人貸出利用企業よりも格付が良く負債比率が低く、優良企業が無保証人貸出を利用していることが分かった。また、ガイドライン適用は優良企業による無保証人貸出選択を促進したことも分かった。最後に、無保証人貸出利用企業の事後パフォーマンスは、導入直後の2005年度には財務危機に陥る確率や利益率の面で劣っていたものの、それ以降はむしろ優れていた。以上の結果は、同時期に導入された無担保貸出のケースと好対照である。無担保貸出は、企業の資金制約を緩和する一方で、利用企業の事後パフォーマンス悪化をもたらした(植杉・内田・岩木(2015))。これに対して無保証人貸出は、財務制限条項を含む特約を受け入れることのできる企業に提供されただけでなく、ガイドライン適用に伴って内部格付の良好な企業を優遇する制度変更が行われたため、専ら優良企業が利用することとなり、利用企業の事後パフォーマンスも改善することが多かった。債権保全や経営への規律付けという意味では似通っている保証と担保について、それぞれを求めない貸出制度の導入が借手企業に異なる影響をもたらした、という結果は、無保証人貸出や無担保貸出の制度設計に細心の注意を払うことの重要性を示唆している。