正規社員が管理職になる決定要因およびその男女間の格差―従業員と企業のマッチングデータに基づく実証分析―

執筆者 馬 欣欣 (一橋大学経済研究所)/乾 友彦 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-015
研究プロジェクト ダイバーシティと経済成長・企業業績研究
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概要

本稿では、労働政策研究・研修機構が2012年に実施した「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」における企業調査票、管理職調査票、一般従業員調査票を活用し、企業と雇用者(管理職、一般従業員)のマッチングデータを構築し、管理職になる決定要因およびその男女間の格差に関する実証分析を行った。得られた主な結論は以下の通りである。第1に、女性の課長以上の管理職になる決定要因に関しては、まず、個人属性における人的資本要因(経験年数、学歴、勤続年数)、家族要因(子供あり)、仕事要因(労働時間、昇進意欲、仕事に関する意識)が女性の管理職になることに影響を与えることが確認され、欧米を対象とした先行研究に類似した結果が得られた。次に、日本の特徴としては、企業レベル要因における企業属性要因(業種、組合、社員における女性の割合、正社員における管理職の割合など)、および制度・政策要因(たとえば、PA施策、WLB施策、遅い昇進パターンなど)が女性の課長以上の管理職になることに大きな影響を与えることが判明した。

第2に、課長以上の管理職になることにおける男女間の格差が生じた要因に関して、Oaxaca-Blinder要因分解の結果によると、人的資本要因における量の差異、差別的取扱いの両者が、課長以上の管理職になることにおける男女間の格差が生じた主な原因であることが示された。また係長になることにおける男女間の格差に関しては、企業内部の差別的取扱い(人的資本や家族構成要因に対する評価の違い)、企業の昇進パターン(遅い昇進型)の影響も大きいことが明らかになった。