生産性・産業構造と日本の成長

執筆者 深尾 京司 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2015年11月  15-P-023
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概要

本稿では、経済産業研究所の「産業・企業生産性プログラム」の活動を簡単に紹介した上で、その代表的な3つの成果について報告した。

第2節では、日本がなぜ情報通信技術(ICT)革命に出遅れたかについて、企業ミクロデータを用いた実証結果に基づいて考察した。その結果、規模の小さい企業や若い企業ほど、ICT投入が最適水準より過小な水準に止まっており、何らかの制約に直面している可能性が高いことが分かった。この原因としては、これら企業では、社内にICT担当部署をフルセットで持つことが困難なため、ICTに関するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の利用機会が重要であると考えられるが、日本ではBPO市場が未成熟な状態にあることが指摘できる。

戦後の日本では地域間の労働生産性格差が大幅に縮小した。第3節前半では、1970年から2008年の時期について、R-JIPデータベースを用いてサプライサイドの視点から、労働生産性格差縮小の原因を調べた。第3節後半では、秋田県、島根県など、他県に先駆けて人口高齢化が進んでいる地域をそれ以外の地域と比較することによって、高齢化県で労働生産性が低いのはなぜかについて分析した。その結果、高齢化県では1950年代から全要素生産性(TFP)が低いために若年人口が流出し、低いTFPが現在も続いているために、現在も労働生産性が低いとの結果を得た。東京など他の都道府県でも今後急速な高齢化が進むが、高齢化がTFP下落をもたらす可能性について、心配する必要は無いと考えられる。

最後に第4節では、「産業・企業生産性プログラム」が日本と中国に関するデータを提供している世界投入産出データベース(WIOD)を使って、中国における最終需要の成長率減速と、最終需要構成の投資から消費への転換が、日米独に与える影響を分析した。その結果、日本とドイツは投資財を主に中国に輸出しているため、中国における最終需要成長率の低下よりも投資から消費への転換の方が、国内雇用の著しい減少を経験すること、これに対して消費財を主に輸出している米国の雇用は、中国における最終需要構成の投資から消費への転換ではあまり減らないことが分かった。