日本企業のクラウドサービス導入とその経済効果

執筆者 金 榮愨  (専修大学) /権 赫旭  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2015年6月  15-J-027
研究プロジェクト サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価
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概要

1990年代以降の日本経済の長期低迷の原因の1つとして、情報通信技術(Information and Communication Technology, ICT)革命に乗り遅れたことが指摘される。本論文では、近年ICTの流れの1つとして注目されているクラウド・コンピューティングの導入状況や経済効果を分析している。ICT投資全般と同様、クラウド・コンピューティングにおいても日本は米国に大きく遅れている。また、ICT投資の主軸が、2000年以降、ハードウェアからソフトウェアやICTサービスに移ったことも議論する。クラウド・コンピューティングの経済効果を分析するため、『情報処理実態調査』と『企業活動基本調査』の個票データをマッチングし、クラウド・コンピューティングの付加価値への貢献を分析している。第一歩としてICT全般の生産への寄与を分析した結果、限界生産が非常に高いことがわかり、Fukao, et al.(2015)でも議論されているように、日本企業におけるICT投資は過少であることを示唆する結果が得られた。また、クラウド・コンピューティングの付加価値への貢献を分析した結果、ソフトウェアやICTサービスの貢献とは別に、付加価値への大きな貢献が確認され、その係数が非常に大きいことがわかった。この結果は、クラウド・コンピューティングの導入が企業生産性を大きく上昇させる可能性があることを示している。また、クラウド・コンピューティングの限界生産は他のICT投入よりはるかに大きく、導入および活用が非常に過少である可能性が示唆される。