投資家の正当な期待の保護―条約義務と法の一般原則との交錯―

執筆者 濵本 正太郎  (京都大学)
発行日/NO. 2014年1月  14-J-002
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
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概要

投資条約仲裁において、「投資家の正当な期待(the investor's legitimate expectations)」を保護すべし、との判断が示される機会が増えている。とりわけ、投資条約の多くに含まれている公正衡平待遇条項との関連でこの議論がなされ、投資家の正当な期待が保護されなかったのだから公正衡平待遇条項違反が生じる、という判断が多く示されている。投資設立の時点において、投資受入国が何らかの行為をなし、それを信頼して投資を行った投資家の期待を保護する、という判断である。初期には、投資受入国の国内法令を前提に投資がなされ、その国内法令が変更された場合に直ちに投資家の正当な期待の侵害を認める判断も見られたが、現在では、投資受入国がより特定的な投資誘因活動を行った場合にのみ投資家の正当な期待の保護が認められるようになっている。その結論自体は説得的なものであるものの、問題は「公正かつ衡平な待遇を与える」というきわめて抽象的な義務からこのような具体的な義務をどのようにして引き出すか、である。有効と考えられる説明は、Total v. Argentina仲裁(2010年)で見られるような、法の一般原則を用いるものである。「投資家の正当な期待」を保護する法の一般原則があり、条約規定解釈はその法の一般原則を考慮してなさねばならない(条約法条約31条3項(c))との議論は、各国国内法(とりわけ行政法)の比較法研究を行うならば、かなり説得的であると共に、投資条約仲裁に対する正統性批判に対する効果的な応答にもなり得る。もっとも、法の一般原則確定のための比較法研究には困難な理論的・技術的問題もあり、さらなる研究が求められる。