最低賃金と貧困対策

執筆者 大竹 文雄  (大阪大学社会経済研究所)
発行日/NO. 2013年3月  13-J-014
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本稿では、最低賃金制度が貧困対策として有効か否かを、教科書的な労働市場のモデルと最近の実証分析をもとに議論した。競争的な労働市場を前提とすれば、最低賃金制度は雇用を減らすという悪影響を与えるか、全く影響を与えないかのどちらかであることがよく知られている。労働市場が買い手独占であれば、最低賃金の引き上げは、雇用も賃金も増やす可能性がある。海外での実証研究の多くは、最低賃金引き上げで雇用が減少するという報告が多いが、最低賃金が雇用に影響を与えないという研究結果も存在する。日本では、90年代終わり頃から、最低賃金が日本の労働市場に影響を与え始めたとされている。しかも、その効果は、雇用にマイナスの影響を与えているというものが多い。最低賃金の引き上げは、短期的には財政支出を伴わない政策であるため、貧困対策として政治的に好まれる。しかし、最低賃金水準で働いている労働者の多くは、500万円以上の世帯所得がある世帯における世帯主以外の労働者である。つまり、最低賃金は、貧困対策としては、あまり有効でない政策である。深刻化する子供の貧困に対応するためには、子供にターゲットを絞った、給付付き税額控除や保育・食料・住居などの現物給付の充実が効果的だと考えられる。