労働生産性と男女共同参画―なぜ日本企業はダメなのか、女性人材活用を有効にするために企業は何をすべきか、国は何をすべきか

執筆者 山口 一男  (客員研究員)
発行日/NO. 2011年10月  11-J-069
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概要

本稿はOECD諸国における国民の労働時間1時間当たりのGDPというマクロデータと、RIETIの『仕事と生活の調和(WLB)に関する国際比較調査』のうち日本企業のミクロデータを用いて、男女共同参画の推進や企業のWLBの取り組みが、国民の労働時間1時間当たりのGDPや企業の従業者の週労働時間1時間当たりの売上総利益(粗利)でみる生産性や競争力にどのように影響を与えているかを分析している。時間当たりの粗利の対数を従属変数とする回帰分析モデルには、粗利が負の値をとる場合も含めて扱うためトビット回帰モデルを用いている。これらの分析結果により得られた知見の主なものは以下である。まず男女共同参画度はOECD諸国において1人当たりのGDPとは有意に結びついていないが、1時間当たりのGDPと有意に関連し、これは女性の人材活用には時間当たりの生産性の重視が重要であることを示唆する。WLBの取り組みが進んでおり、かつ女性社員の能力発揮を男性と同様に重視するという特質を持つ日本企業は時間当たりの生産性・競争力が大きいが、未だそのような企業は極めて少ない。男性正社員の場合と異なり企業への女性正社員の生産性・競争力への貢献はその学歴構成に全く依存せず、平均的には日本企業は高学歴女性の人材活用に失敗している。しかし正社員の女性割合を一定とすると管理職の女性割合が大きい企業ほど、つまり女性正社員の管理職昇進機会が大きい企業ほど、時間当たりの生産性・競争力は増加する傾向が見られる。また管理職の女性割合の高い企業ほど、女性正社員の高学歴化が企業の時間当たりの生産性・競争力を生み出す傾向も見られる。しかしわが国で管理職の女性割合は未だ極めて小さい。本稿はこれらの知見による政策インプリケーションも併せて議論している。