執筆者 |
川瀬 剛志 (ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2011年6月 11-J-065 |
研究プロジェクト | WTOに関する総合的研究 |
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概要
2008年秋のリーマンショック以後、低迷する世界経済の刺激策として、莫大な公的資金が投入された。このような措置としては、個別産業対策では各国の金融機関救済(bailout)や米国のビッグ3に代表される自動車産業支援、より包括的なプログラムでは米国の2009年復興再投資法(ARRA)や我が国の産業活力再生法などが挙げられる。また、G20諸国が実施したエコカー購入助成に代表される消費刺激策、更に貿易金融の拡大等を通じた輸出振興策も実施された。
このような国家援助は危機対策として一定の政策的妥当性を有する一方、その貿易阻害性ゆえにWTO協定下の補助金・相殺措置協定およびGATT・GATSの規律に服するので、相殺関税の対象となり、あるいは協定違反を構成する。WTOの補助金規律はその厚生基準が明確ではないため、規律の外延を個別のプログラムを検討することで明らかにし、協定整合的な危機対策のあり方について示唆を得る。
また、WTOはこれらの措置を、その貿易阻害効果ゆえに、委員会や貿易政策監視機関による多国間監視、更には紛争解決手続によって規律する。こうした出口戦略と危機下における補助金投入の適正化においてWTOが果たす役割についても検討する。
本稿は、以上の議論を以て、WTOが「埋め込まれた自由主義」の表象としての補助金規律により適切な政策裁量(policy space)を加盟国に与え、その一方で競争歪曲的な補助金を規律しているか否かにつき、その現状評価と課題を明らかにする。