製品開発型中小企業を中心とする産業クラスター形成の可能性を示す実証研究

執筆者 児玉 俊洋  ((株)日本政策金融公庫)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-030
研究プロジェクト 産業クラスターに関する調査研究(京都大学経済研究所との協同研究)
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概要

これまでわが国の強みを形成してきた製造業では、既存の中小企業の中にイノベーティブな存在が多く、このような企業を活用したイノベーションシステムのあり方を検討することは重要な意義を持つ。産業クラスター政策は、新規創業企業だけでなく既存のイノベーティブな地域企業にも注目してイノベーションの促進を図ってきた政策である。本稿では、既存企業を含め市場化できる製品を開発できる中小企業を抽出するために、設計能力と自社製品の売上げ実績に注目して「製品開発型中小企業」を定義し、製品開発型中小企業に注目した産業クラスター形成の可能性を示す。TAMA協会の設立経緯などから、わが国の産業クラスター政策における産業クラスターの概念においては、特定産業だけでなく多様な産業からなる産業集積における産学間および企業間の技術連携が重要である。そして、集積地域内で技術連携が多数発生するためには、TAMA協会のような連携仲介機関に加えて、地域企業自身に外部の技術を活用できるという技術吸収力(absorptive capacity)があることが重要である。TAMAおよび京滋地域における企業アンケート調査によって得られたデータを用いて分析すると、製品開発型中小企業は、特許出願や新製品開発などの研究開発成果が多いとともに、産学連携、対大企業連携、対中小企業連携を研究開発成果に活用する力があることが確認できる。各地の産業集積地域において、このような製品開発型中小企業に注目して連携仲介の仕組みを設け、グローバル市場に展開する大企業の連携先としての認知を高めるとともに、大学・大学院卒業生の就職やポスドク人材を含めた大学若手研究者の製品開発型中小企業等への活用を進めることで産学連携の深化を図り、さらに、広域的視点から産業集積のポテンシャルを見いだしてきた国の機能を活用しつつ、地方自治体の主体的な関与を強めることによって、有効な地域イノベーションシステムとして産業クラスター形成が進展することが期待される。