WTOと環境

執筆者 山下 一仁  (上席研究員)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-026
研究プロジェクト 環境と貿易
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概要

経済成長と環境との関係は、規模効果、構成比効果、技術効果を考慮する必要があり、環境に優しい技術進歩を行ったつもりが、構成比効果により汚染財の生産量を大きく増加させてしまう可能性もある。 貿易自由化と環境の関係については、汚染財の輸入国の場合には“win-win”の関係にあるが、輸出国の場合には適切な環境政策が採用されていなければ、貿易の開始によって経済厚生水準は貿易前よりも低下するかもしれない。環境政策と貿易政策の関係についても、WTOで低税率にコミットしている時は、大国は最適関税が採れないので最適な環境政策はピグー税と一致しなくなる。開放経済の場合だけではなく財価格が変動する場合には、生産要素としての排出権価格が変動する排出権取引に比べ排出税率の変更は議会の議決が必要となり容易ではないという問題がある。

グローバルな環境保全への取り組みを主権国家に働きかける有効な手段として貿易制限措置が用いられている。しかし、これはWTOの最恵国待遇や内外無差別の原則と整合的ではないという問題があるが、WTO設立後の紛争処理手続きにおける柔軟な解釈からすれば、ガット第20条の例外規定を活用することにより、整合性を図ることは可能だろう。