法人税の帰着に関する動学的分析―簡素なモデルによる分析―

執筆者 土居 丈朗  (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2010年6月  10-J-034
研究プロジェクト 社会経済構造の変化と税制改革
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概要

我が国の税制改革論議の中で、消費税増税とともに、法人課税が国際的に見て負担が重いとの議論がある。しかし、消費税の増税と法人税の減税という政策パッケージは政治的に受け入れられないとの見通しもある。この背景には、消費税は主に消費者が負担し、法人税は主に法人(関係者)が負担するとの直感があるが、これは法人税と消費税の転嫁と帰着の問題であり、学術的な研究の裏づけが明確に示されないまま主張が展開されているように思われる。こうした現状から、本稿では法人税負担の転嫁と帰着について、客観的な分析を可能にする動学的一般均衡理論を構築した上で、シミュレーション分析を試みた。本稿で採用したパラメータの値の下では、法人税の負担は、短期的(1年目)には約10~20%が労働所得に帰着し、約80~90%が資本所得に帰着するが、時間が経つにつれて労働所得に帰着する割合が高まり、長期的には100%労働所得に帰着することが示された。また、資本分配率、割引率、資本減耗率などによって、法人税負担の帰着の時間的経過が影響を受けることも示された。