日本企業のソフトウエア選択と生産性
-カスタムソフトウエア対パッケージソフトウエア-

執筆者 田中 辰雄  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年4月  10-J-027
研究プロジェクト ソフトウエア・イノベーションについての実証的研究
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概要

日本のソフトウエア産業の国際競争力が無い理由として、カスタムソフトウエアの偏重があげられる。カスタムソフトウエアはその性質上、世界に売りにくい。また、そもそもアメリカでは20年以上前にカスタムソフトは主流の座から降りているのに対し、日本企業は依然としてカスタムソフトを使い続けている。日本企業はなぜ時代遅れとも思えるカスタムソフトを使い続けているのか。本論文はこの問いにアンケート調査と既存調査データの精査によって答えることを試みた。

結論としては意外なことに日本企業のカスタムソフトウエア偏重にはそれなりの合理性があるという結果が得られた。日本企業がカスタムソフトウエアを採用する理由としてはネットワーク外部性効果や意思決定方法など必ずしも前向きではない要因もあるが、それより企業に特有のノウハウを生かすためという前向きの側面が大きい。本研究の推定によれば生産性の高い企業ほどカスタムソフトウエアを採用する傾向が検出できるからである。カスタムソフトウエアを選択することが不効率な選択であれば、カスタムソフトを利用する企業の生産性は低くなるはずであるが、実際は逆である。この理由は、カスタムソフトはその企業の特有のノウハウを生かすように設計することができ、それが生産性との正の相関を生み出しているためと考えられる。日本企業の競争力は労働を社内に長期雇用して蓄積したノウハウにあり、そうだとするとその強みであるノウハウを生かすためにはカスタムソフトの方が有利である。アメリカ企業の強みは企業特有のノウハウよりも機動的ですばやい資源の企業間・産業間移動であり、そうだとすれば標準化され、リードタイムの短いパッケージソフトが有利である。日米のソフトウエア選択の差はそれぞれの企業の強みを生かそうとする結果であり、それなりに合理性があると思われる。