日本語タイトル:淘汰を通じた産業集積地における生産性向上-20世紀初頭の日本製糸業の経験から-

Agglomeration or Selection? The Case of the Japanese Silk-reeling Industry, 1909-1916

執筆者 有本 寛 (東京大学)/中島 賢太郎 (東北大学)/岡崎 哲二 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年1月  10-E-003
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概要

産業集積地に立地する工場の生産性は、その他の地域に比べて高いことがよく知られている。そのような現象は、これまで産業集積の集積効果として説明されてきた。すなわち、産業の集積は知識波及・技術移転・労働のプーリングなど、正の外部効果を通じてそこに立地する個々の工場の生産性を実際に上昇させるというものである。しかし近年の空間経済学研究の進展は、このような集積地における生産性上昇という現象に新たな観点を与えることとなった。それが淘汰 (selection) 効果である。つまり、産業集積地における工場の密集がその地における競争を激化させるため、低い生産性の工場は集積地において操業が不可能になり、その結果、集積地における生産性の平均値が上昇するというものである。この場合、集積地に立地することによって個々の工場の生産性が上昇するわけではない。

本研究は、20世紀初頭の日本の製糸業を対象に、集積効果と淘汰効果のどちらが実際の生産性向上に寄与していたのかということについて実証的に分析したものである。まず、集積効果と淘汰効果の両方を含んだ理論モデルを製糸業に応用し、それぞれの効果が工場レベルの生産性分布に与える影響について理論的に分析を行った。その理論的帰結を基礎として、推計された工場レベルの生産性分布の形状、およびその経年変化を、実際のデータから実証的に分析することで効果の識別を行った。その結果、当時の日本の製糸業については、集積地における生産性上昇に、淘汰効果が大きく寄与していることが示された。この結果は産業集積による生産性上昇が、集積効果のような、集積地に立地するすべての工場にとって有益な効果のみによって生じているのではなく、集積地における激しい競争による工場の峻別・淘汰もひとつの重要な役割を果たしていることを示唆している。これは、たとえば産業クラスターなど、産業集積を促進するような政策の影響についても重要な知見を与えるものであるといえる。

概要(英語)

Plants in clusters are often more productive than those located in non-clusters. This has been explained by agglomeration effects that improve productivity of all plants in a region. However, recent theoretical development of trade and spatial economic theories with heterogeneous firms has shed light on another channel of productivity improvement in clusters, "plant-selection effects." This paper uses plant-level data on the Japanese silk reeling industry from 1909 to 1916 to distinguish between these two effects based on a nested model of firm-selection and agglomeration. We identify the plant-selection effect by using the fact that the two effects have different implications on the distribution of plant-level productivity. Major findings are as follows. First, we confirmed that plants in clusters were indeed more productive. Second, at the same time, the widths of distribution of plant productivity in clusters were narrower and more severely truncated than those in non-clusters. Finally, productivity distribution did not shift rightwards in clusters. Our findings imply that the plant-selection effect was the source of the higher plant-level productivity in silk-reeling clusters in this period.

Published: Yutaka Arimoto, Kentaro Nakajima, Tetsuji Okazaki, 2014. "Sources of Productivity Improvement in Industrial Clusters: The Case of the Prewar Japanese Silk-Reeling Industry," Regional Science and Urban Economics, Vol. 46, pp. 27-41.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166046214000283